勿忘草
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入学式の次の日の朝、場地を起こしに彼の家へと向かう。
向かうと言っても、数軒隣のアパートに行くだけだから、そんなに時間はかからない。
朝、私が起こしに来るからと、お母さんが予め鍵を開けておいてくれいるのだが、一応、来たよと知らせる為に一度、インターホンを鳴らしてから玄関を開けて中に入る。リビングに顔を出して、お母さんに挨拶すれば、「圭介がいつもごめんね」と申し訳なさそうに眉を下げた。
「いいの、いいの。私が好きでやってるだけだから」
笑って返すと、お母さんもまた嬉しそうに笑ってくれた。
そのまま、場地の部屋へと向かい、ドアを開けると薄暗い空間が広がっていて、彼はスヤスヤと未だに夢の中。
真っ先にカーテンを開けて、陽光を差し込む。一気に明るくなった部屋を見渡せば、小さい頃から集めているガチャポンの動物のフィギュアが数体、こっちを向いていて目が合った。
可愛い物もあれば、妙にリアルな物、体は犬なのに顔だけリアルなゴリラの珍妙な物もあったりする。
「やっぱり、いつ見てもコレはキモいと思うんだよなぁ」
顔がゴリラの犬のフィギュアを手に取り、まじまじと眺めてみる。
顔ゴリラというシリーズで、無性に場地が気に入っているシリーズだ。その中でも、アザラシ顔ゴリラが欲しいらしく、何度回しても出ない事にキレてぶん殴ってガチャポンを壊してしまった事もある、曰く付きのフィギュアだ。
懐かしい思い出に浸ってから、フィギュアを棚に戻して場地の眠るベットへ近寄って、肩を揺する。
「場地〜、起きて。朝だよ」
昨日、声が好きとか言われたものだから少し意識して、声がうわずってしまった。一人で変に意識しているのが恥ずかしく感じてしまう。
肩を揺すっても声を掛けても全く目を覚さないので、布団でも剥ぎ取ろうと手を伸ばすと、いきなり右手を掴まれた。
突然、強く握られた手から感じる温かい熱に動きが止まってしまう。
彼は寝惚けているのだろうか。目はしっかりと閉じたままだった。
「明日香…」
掠れた声でいきなり、名前を呼ばれて心臓が跳ねる。
「…なに?」
「餅みてぇ…」
「ふざけんなっ!」
握られていない左手で場地の頬を掴んで、右に回転させて捻りあげる。すると、目をパチリと開いてから「痛ぇ!」と叫んでから、痛みに顔を歪めた。
「テメェ、もっと優しく起こせねぇのかよ!」
「場地が悪いんだからね!」
「はぁ?寝てただけだろーが!」
「場地なんて、餅を喉に詰まらせちゃえ!」
「…オマエ、何で餅の夢見てたの知ってんだ?エスパーか?」
期待に満ちたような輝かしい目で私を見てくる場地に盛大なため息をつく。人の手を勝手に握ってきたと思ったら、餅に連想するなんて最低だ。私の手はそんなにぶよぶよだろうか。餅に連想されるほど肉付きは良くはないと思うんだけどな…。
ショックを受けている間に場地は制服に着替えたようで「メシ食って来る」と一言残し部屋から出て行った。
誰も居なくなった部屋で一人、そっとため息を溢した。
支度を終えた場地と共に家を出て、学校へ向かっていると後ろから場地と私の名前を呼ばれて振り返れば、見知った二人組が手をヒラヒラと振っていた。
「マイキー、ドラケン、おはよ」
「んー」
「口の中の飲み込んでから喋れよ」
マイキーは好物のどら焼きを片手に口をもぐもぐとさせながら、挨拶を返してくれた。それに対して保護者のように叱るドラケン。
マイキーとは小学校も一緒だったが、中学からはドラケンも一緒だ。
マイキーとは幼馴染で彼のおじいちゃんが師範を務める佐野道場でも一緒だった。マイキーは小柄ながらも、喧嘩が強くて場地が唯一勝てない相手だ。
ドラケンとは、小学5年生の時に友達になったとマイキーが紹介してくれた事がきっかけで仲良くなった。
ドラケンは背が大きい上に喧嘩も凄く強い。
面倒見が良いドラケンは破天荒なマイキーのストッパーになっている。破天荒幼馴染コンビの二人の手綱を握る私たちに苦労は尽きない。愚痴やら何やらしているうちにドラケンとは非常に仲良くなれたと思う。
「入学式の次の日ってワクワクすんな」
「今日から給食あんの?」
「オマエ食う事ばっかだなー」
「あ、このどら焼きに餅入ってる」
「いーじゃん。オレ、餅食いたかったんだよなぁ」
「どら焼きに餅とか邪道だろ!もういらねー。明日香やる」
シンプルなどら焼きが好きなマイキーは餅入りだった事に機嫌を損ねてしまったようで私に食べかけのどら焼きを渡して来た。
朝ごはんをしっかり食べてきたのでお腹はいっぱいだったので、どら焼きは要らないが反射的に受け取ってしまった。
「明日香」
「ん?」
場地に呼ばれて彼の方を向くと、どら焼きを持っていた方の腕を掴んでそのまま顔を近づけて、どら焼きにかぶり付いた。
突然の出来事にポカンと口を開けて、美味しそうにもぐもぐと口を動かしている場地を見つめてしまう。
「朝からイチャついてんじゃねーよ」
ドラケンにそう指摘され、頬に熱が集中する。
私はしたつもりはないが傍から見たら俗に言う、あーんをしていた訳で、恥ずかしくなる。ドラケンとマイキーにニヤニヤと楽しそうに揶揄うような笑顔を向けられ、居た堪れなくなった。
「もう、餅なんて嫌いだ…」
「「「は?」」」
朝から餅に振り回された私の恨み言に三人は声を揃えて、不思議そうに首を傾げていた。
✳︎
学校に着き、クラスの違うマイキーとドラケンと別れて三組へと入った。一限と二限はHRで自己紹介や委員会決めをしたりした。
三限目からは、普通に授業が開始された。今は、数学の授業だ。
算数から数学へと名称が変わり、小学生の時とは格段に授業のレベルは上がっている。小学生の頃は適当にやっていても、テストの点数はそこそこ取れるし授業について行けなくなるという事はなかった。
しかし、中学校では真面目に授業を聞かなければ、ついて行けなくなりそうだ。
新しい教科書と新しいノートに並べられている数字とひたすら睨めっこ。先生の説明通りの数式を使ってみれば、解けそうな気もしてくる。
あっ、出来たかも。導き出された数字を見て喜びを噛み締めていると、教卓の前に立っていた先生が「いい加減にしろ!」と大声をあげた。その声にクラス中の生徒が肩を震わせた。ただ一人を覗いて。
「場地!初っ端から寝る奴が居るか!起きろ!」
先生が顔を真っ赤にさせながら大声で怒鳴るが、場地はひたすら夢の中。微かな寝息も聞こえるほど、よく眠っている。
こんなに大きな声で怒られても起きないって逆に凄いよ。先生はいつまで経っても起きない場地に呆れたのか、場地の席からスっと離れて行った。そして、何故か私の席の前まで来た。
「藤堂、場地を起こしてくれ」
「え!?なんで、私なんですか!?」
「幼馴染だろう」
「何故それを…」
「入学式初日から喧嘩をしている生徒なんて前代未聞。そんな問題児の情報を集めるのは当たり前だろう」
先生のその言葉に周りはザワザワとし始めた。
問題児は場地だけじゃないのに。この学年には後二人問題児がいるよ、先生。だなんて言える訳はないから黙っておく。
その三人が暴れたら校舎は壊れちゃうだろうし、手に負えなくなってしまうだろう。心の中で先生たちに同情しつつも、私は立ち上がって場地の席まで行き、いつものように声をかける。
「場地!起きて!」
本日、二度目の場地を起こす行為。なぜ、家でも学校でも起こしているんだろうと思いながらも、肩を揺らしながら声をかけるが、「ん…」と声を漏らすだけで起きる気配はない。
「起きてってば!ねぇ、先生怒ってるから!」
「…あ?」
二度目で起こす事に成功し、むくりと起き上がって眠たそうに目を擦っている場地を見て、クラスメイトは「おぉ、起きた」と感嘆の声が上がりザワめいた。
「うっせぇな、なんだよ」
「なんだよじゃなくて、授業中なんだよ」
「授業中に歩き回るなよ。オマエ、不良かぁ?」
「それはアンタでしょ!?」
「どうだっていーから、オレは寝る」
そう言って、また先程と同じように机に伏せて寝始めてしまった。
あぁ、これはダメだ。もう起きないやつだ。
「もう無理です。後は先生がお願いしま〜す」
投げやりに言えば、先生は呆れたようにため息をついて何事も無かったかのように授業を再開した。
私も自席に着いて、何事も無かったかのように授業を受ける。しかし、先生は何事もなかった事にした訳ではなかったようだ。
「藤堂、放課後になったら、場地を連れて職員室へ来い」
「へ?」
「オマエらには罰として雑用をやってもらう」
「私は関係あるのでしょうか?」
「連帯責任だ。頑張れ、幼馴染」
「そんなバカなっ!!」
授業中、私のそんな叫び声と場地の気持ちよさそうな寝息が聞こえていた。幼馴染というものは時に不憫に思う事もある。
向かうと言っても、数軒隣のアパートに行くだけだから、そんなに時間はかからない。
朝、私が起こしに来るからと、お母さんが予め鍵を開けておいてくれいるのだが、一応、来たよと知らせる為に一度、インターホンを鳴らしてから玄関を開けて中に入る。リビングに顔を出して、お母さんに挨拶すれば、「圭介がいつもごめんね」と申し訳なさそうに眉を下げた。
「いいの、いいの。私が好きでやってるだけだから」
笑って返すと、お母さんもまた嬉しそうに笑ってくれた。
そのまま、場地の部屋へと向かい、ドアを開けると薄暗い空間が広がっていて、彼はスヤスヤと未だに夢の中。
真っ先にカーテンを開けて、陽光を差し込む。一気に明るくなった部屋を見渡せば、小さい頃から集めているガチャポンの動物のフィギュアが数体、こっちを向いていて目が合った。
可愛い物もあれば、妙にリアルな物、体は犬なのに顔だけリアルなゴリラの珍妙な物もあったりする。
「やっぱり、いつ見てもコレはキモいと思うんだよなぁ」
顔がゴリラの犬のフィギュアを手に取り、まじまじと眺めてみる。
顔ゴリラというシリーズで、無性に場地が気に入っているシリーズだ。その中でも、アザラシ顔ゴリラが欲しいらしく、何度回しても出ない事にキレてぶん殴ってガチャポンを壊してしまった事もある、曰く付きのフィギュアだ。
懐かしい思い出に浸ってから、フィギュアを棚に戻して場地の眠るベットへ近寄って、肩を揺する。
「場地〜、起きて。朝だよ」
昨日、声が好きとか言われたものだから少し意識して、声がうわずってしまった。一人で変に意識しているのが恥ずかしく感じてしまう。
肩を揺すっても声を掛けても全く目を覚さないので、布団でも剥ぎ取ろうと手を伸ばすと、いきなり右手を掴まれた。
突然、強く握られた手から感じる温かい熱に動きが止まってしまう。
彼は寝惚けているのだろうか。目はしっかりと閉じたままだった。
「明日香…」
掠れた声でいきなり、名前を呼ばれて心臓が跳ねる。
「…なに?」
「餅みてぇ…」
「ふざけんなっ!」
握られていない左手で場地の頬を掴んで、右に回転させて捻りあげる。すると、目をパチリと開いてから「痛ぇ!」と叫んでから、痛みに顔を歪めた。
「テメェ、もっと優しく起こせねぇのかよ!」
「場地が悪いんだからね!」
「はぁ?寝てただけだろーが!」
「場地なんて、餅を喉に詰まらせちゃえ!」
「…オマエ、何で餅の夢見てたの知ってんだ?エスパーか?」
期待に満ちたような輝かしい目で私を見てくる場地に盛大なため息をつく。人の手を勝手に握ってきたと思ったら、餅に連想するなんて最低だ。私の手はそんなにぶよぶよだろうか。餅に連想されるほど肉付きは良くはないと思うんだけどな…。
ショックを受けている間に場地は制服に着替えたようで「メシ食って来る」と一言残し部屋から出て行った。
誰も居なくなった部屋で一人、そっとため息を溢した。
支度を終えた場地と共に家を出て、学校へ向かっていると後ろから場地と私の名前を呼ばれて振り返れば、見知った二人組が手をヒラヒラと振っていた。
「マイキー、ドラケン、おはよ」
「んー」
「口の中の飲み込んでから喋れよ」
マイキーは好物のどら焼きを片手に口をもぐもぐとさせながら、挨拶を返してくれた。それに対して保護者のように叱るドラケン。
マイキーとは小学校も一緒だったが、中学からはドラケンも一緒だ。
マイキーとは幼馴染で彼のおじいちゃんが師範を務める佐野道場でも一緒だった。マイキーは小柄ながらも、喧嘩が強くて場地が唯一勝てない相手だ。
ドラケンとは、小学5年生の時に友達になったとマイキーが紹介してくれた事がきっかけで仲良くなった。
ドラケンは背が大きい上に喧嘩も凄く強い。
面倒見が良いドラケンは破天荒なマイキーのストッパーになっている。破天荒幼馴染コンビの二人の手綱を握る私たちに苦労は尽きない。愚痴やら何やらしているうちにドラケンとは非常に仲良くなれたと思う。
「入学式の次の日ってワクワクすんな」
「今日から給食あんの?」
「オマエ食う事ばっかだなー」
「あ、このどら焼きに餅入ってる」
「いーじゃん。オレ、餅食いたかったんだよなぁ」
「どら焼きに餅とか邪道だろ!もういらねー。明日香やる」
シンプルなどら焼きが好きなマイキーは餅入りだった事に機嫌を損ねてしまったようで私に食べかけのどら焼きを渡して来た。
朝ごはんをしっかり食べてきたのでお腹はいっぱいだったので、どら焼きは要らないが反射的に受け取ってしまった。
「明日香」
「ん?」
場地に呼ばれて彼の方を向くと、どら焼きを持っていた方の腕を掴んでそのまま顔を近づけて、どら焼きにかぶり付いた。
突然の出来事にポカンと口を開けて、美味しそうにもぐもぐと口を動かしている場地を見つめてしまう。
「朝からイチャついてんじゃねーよ」
ドラケンにそう指摘され、頬に熱が集中する。
私はしたつもりはないが傍から見たら俗に言う、あーんをしていた訳で、恥ずかしくなる。ドラケンとマイキーにニヤニヤと楽しそうに揶揄うような笑顔を向けられ、居た堪れなくなった。
「もう、餅なんて嫌いだ…」
「「「は?」」」
朝から餅に振り回された私の恨み言に三人は声を揃えて、不思議そうに首を傾げていた。
✳︎
学校に着き、クラスの違うマイキーとドラケンと別れて三組へと入った。一限と二限はHRで自己紹介や委員会決めをしたりした。
三限目からは、普通に授業が開始された。今は、数学の授業だ。
算数から数学へと名称が変わり、小学生の時とは格段に授業のレベルは上がっている。小学生の頃は適当にやっていても、テストの点数はそこそこ取れるし授業について行けなくなるという事はなかった。
しかし、中学校では真面目に授業を聞かなければ、ついて行けなくなりそうだ。
新しい教科書と新しいノートに並べられている数字とひたすら睨めっこ。先生の説明通りの数式を使ってみれば、解けそうな気もしてくる。
あっ、出来たかも。導き出された数字を見て喜びを噛み締めていると、教卓の前に立っていた先生が「いい加減にしろ!」と大声をあげた。その声にクラス中の生徒が肩を震わせた。ただ一人を覗いて。
「場地!初っ端から寝る奴が居るか!起きろ!」
先生が顔を真っ赤にさせながら大声で怒鳴るが、場地はひたすら夢の中。微かな寝息も聞こえるほど、よく眠っている。
こんなに大きな声で怒られても起きないって逆に凄いよ。先生はいつまで経っても起きない場地に呆れたのか、場地の席からスっと離れて行った。そして、何故か私の席の前まで来た。
「藤堂、場地を起こしてくれ」
「え!?なんで、私なんですか!?」
「幼馴染だろう」
「何故それを…」
「入学式初日から喧嘩をしている生徒なんて前代未聞。そんな問題児の情報を集めるのは当たり前だろう」
先生のその言葉に周りはザワザワとし始めた。
問題児は場地だけじゃないのに。この学年には後二人問題児がいるよ、先生。だなんて言える訳はないから黙っておく。
その三人が暴れたら校舎は壊れちゃうだろうし、手に負えなくなってしまうだろう。心の中で先生たちに同情しつつも、私は立ち上がって場地の席まで行き、いつものように声をかける。
「場地!起きて!」
本日、二度目の場地を起こす行為。なぜ、家でも学校でも起こしているんだろうと思いながらも、肩を揺らしながら声をかけるが、「ん…」と声を漏らすだけで起きる気配はない。
「起きてってば!ねぇ、先生怒ってるから!」
「…あ?」
二度目で起こす事に成功し、むくりと起き上がって眠たそうに目を擦っている場地を見て、クラスメイトは「おぉ、起きた」と感嘆の声が上がりザワめいた。
「うっせぇな、なんだよ」
「なんだよじゃなくて、授業中なんだよ」
「授業中に歩き回るなよ。オマエ、不良かぁ?」
「それはアンタでしょ!?」
「どうだっていーから、オレは寝る」
そう言って、また先程と同じように机に伏せて寝始めてしまった。
あぁ、これはダメだ。もう起きないやつだ。
「もう無理です。後は先生がお願いしま〜す」
投げやりに言えば、先生は呆れたようにため息をついて何事も無かったかのように授業を再開した。
私も自席に着いて、何事も無かったかのように授業を受ける。しかし、先生は何事もなかった事にした訳ではなかったようだ。
「藤堂、放課後になったら、場地を連れて職員室へ来い」
「へ?」
「オマエらには罰として雑用をやってもらう」
「私は関係あるのでしょうか?」
「連帯責任だ。頑張れ、幼馴染」
「そんなバカなっ!!」
授業中、私のそんな叫び声と場地の気持ちよさそうな寝息が聞こえていた。幼馴染というものは時に不憫に思う事もある。