勿忘草
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入学式、HRなど初日に必要な行事は全て終わり、午前中で学校は終わりとなった。
明日から本格的に授業が始まるようで、大量の教科書を見て不安に思う。授業についていけるだろうか。それは、もちろん私ではなく、場地がだ。彼は本当に馬鹿だ。ただの馬鹿ではなく驚異的な馬鹿。
かけ算の六の段から雲行きが怪しくなってきて、七の段で必ずつまづく。そんな彼に正の数、負の数って余計なモノが付いたら、混乱するに違いない。
小学校とは違って勉強が一段と難しくなるから、しっかり家で勉強見てあげようと心に決めてから、場地と一緒に帰ろうかと席を立った。
しかし、教室を見渡しても場地の姿は見えなかった。先に帰るなら、一声掛けて行くだろうし、それに鞄は机の上にポツンと寂しそうに残っていた。
「どこに行ったんだろう…」
「誰か探してるの?」
独り言が聞こえたようで、クラスメイトの子に声をかけられたので、場地を探している事を伝えると、その子の口からとんでもない言葉を耳にした。
「場地くんなら、先輩シメに行くって出て行ったよ。気に食わねぇとか言ってたけど」
「はぁ!?入学早々なにしてんの…」
入学式の日くらい大人しく出来ないのかね、あの人は。いや、無理か。自分の言葉に自分で突っ込んで、ため息をつく。
教えてくれたクラスメイトの子にはお礼を言ってから、自分の分と場地の鞄を持って教室を出た。
喧嘩しやすい所と言えば、人目がつかない所に限られてくる。今までの経験上は体育館裏とか校舎裏や中庭だったりしたので、最初に体育館裏へと足を向けたが、そこはハズレだった。
次に校舎裏へと向かってみると、今度は見事に当たりだった。
丁度、喧嘩を終えたらしく、彼の足元には十人ほどの先輩たちが転がっていた。声を掛けても大丈夫だと判断してから場地の名を呼ぶと、彼はクルッと振り返った。
「おー、明日香か」
「派手にやったねぇ。ケガしてない?」
「余裕。コイツら、弱くてつまんねぇ」
心底つまらなそうに転がっている先輩たちを見下ろしていた。
場地は昔から、喧嘩が大好きだ。喧嘩というよりかは、強い人と戦うのが好きらしい。喧嘩は自分がどれだけ強いのかを確かめるのに丁度良いと言っていた。
場地は近所の空手道場に通っていたので、腕っぷしは強い方で黒帯の実力だ。そうなると、そこら辺の不良かぶれの人間では場地に勝てる訳もない。残念だが、ここに転がっている人たちが何人束になっても無理だろう。場地が負けている姿を私は、ほぼ見た事ない。
ほぼというのは、場地にも唯一勝てない人がいるからだ。いつも、喧嘩を挑んではボコボコにされ、返り討ちにあっている。
だけど、そんな場地を見てカッコ悪いなんて思った事は一度もない。
いつも全力で、何度打ちのめされても何度も立ち上がって挑みに行く姿はキラキラしていてカッコイイ。場地の喧嘩する姿を見るのが密かに好きだったりする。
「つーか、オマエ、こんなトコ来んなよ」
「なんで?」
「危ねぇだろーが」
「私だって空手やってたし、そこそこ強いから大丈夫だって」
「オマエになんかあったら、オレが嫌なんだよ」
「あぁ、問答無用で場地がお母さんにドヤされるもんね」
昔、場地の喧嘩を近くで見ていたら巻き込み事故で軽く怪我した事があった。帰りに場地の家に寄ったら、私の怪我を見た瞬間に理由も聞かず、お母さんが場地に激怒していた。変な所に立っていた私も悪かったので、その事を言ったが「明日香ちゃんは黙ってなさい」と私も怒られた。
場地もお母さんには逆らえないようで、黙って二人で怒られていた事を思い出す。正座しながら怒られていた時は怖かったけれど、今ではそれも良い思い出だ。
「違ぇよ。オマエが怪我すんのが嫌なんだっつーの」
呆れたようにため息をついて、額にデコピンをして来た。でも、威力は全くなくて、痛くはなかった。場地は昔から口は悪いし、言葉足らずだし、ぶっきらぼうだから、誤解されやすい性格だけれど、誰よりも優しいのを私は知っている。
「何かある前に場地が助けてくれるでしょ?」
「…まぁな」
「じゃあ、これからもずっと場地の傍にいないとだね」
「明日香が隣に居ねぇのなんて想像出来ねぇな」
「私も。場地が隣に居ないなんて想像もしたくないな」
素直な気持ちを口にすれば、場地は私の頭をわしゃわゃと乱暴に撫でながら、笑った。髪の毛がグシャグシャになるくらい大雑把に撫でる大きな手が大好きだ。
「そろそろ、帰ろーぜ」
「そうだね。お腹空いたし、帰ろうか」
持っていた場地の鞄を手渡して、帰路につく。歩いている途中に場地はずっとお腹の虫を鳴らしながら、ペヤング食いてぇなと何度も呟いていた。
私の家の方が先に着くので、家の前でお別れだ。また明日ね、と手を振るが場地は帰ろうとしなかった。
「どうしたの?お腹空き過ぎてエネルギー切れ?何か家で食べて行く?」
そう聞いても、「いや…」とか「そうじゃねぇ」とか歯切れの悪い返事しか返して来なくて、何事かと首を傾げていると、場地は真っ直ぐに私の瞳を見つめて来た。
「明日、ちゃんと起こしに来いよ」
「え?あぁ、うん。ごめん、明日はちゃんと行くよ」
なんだ、今朝の事を根に持っていたらしい。今日は、気分的にたまたまで、また明日からちゃんと起こしに行くつもりだったので、そんな事かと思ってしまった。
「よくわかんねぇけど、オマエの声聞くと目覚め良いんだよな」
「えっ、何で?」
「知らね。多分、好きなんじゃねーの」
「…そんな美声だったのか、私は。アナウンサーにでもなろうかな」
「似合わねぇ」
腹を抱えてゲラゲラ笑う失礼な男の頭にチョップを落とし、舌を出して「バーカ!」と捨て台詞を吐いて玄関へ逃げ込んだ。
背後から「痛ぇな、馬鹿力」という声を耳にしながら、玄関を勢いよく閉める。閉まったドアにもたれながら、両手で顔を押さえてズルズルとしゃがみ込む。
先程、言われた「好き」の言葉に心臓が馬鹿みたいに早く動く。頬が熱い。
声が好きという意味なのは理解しているが、突然の事に不覚にもドキドキしてしまった。照れ隠しにアナウンサーとか戯けてみたけれど、鼓動は治る事を知らない。今日だけで、何回ドキドキしているだろうか。
こんなにも昔から大好きなのに、私はこの想いを未だに伝えられずにいる。想いを伝えて今の関係が壊れるのが怖いって言うのもあるけれど、今の距離感が心地良くて、楽しいという気持ちが少なからず、告白へのブレーキをかけている。
いつか、この気持ちを伝えられたらいいなとは想うが、出来れば、場地から告白されたいとも夢を描いてしまう。
大きな花束を持ってとか、綺麗な桜の木の下でとか、夜景を見ながらとかロマンチックな告白が理想だが、場地には死ぬ程似合わないなと自己完結してしまう。
本当は、場地に告白されるなら、どこだって良い。ロマンチックからかけ離れていたってきっと嬉しいだろう。
でも、今はまだ、場地の大切な幼馴染でいる事、それだけで十分に幸せなんだ。
明日から本格的に授業が始まるようで、大量の教科書を見て不安に思う。授業についていけるだろうか。それは、もちろん私ではなく、場地がだ。彼は本当に馬鹿だ。ただの馬鹿ではなく驚異的な馬鹿。
かけ算の六の段から雲行きが怪しくなってきて、七の段で必ずつまづく。そんな彼に正の数、負の数って余計なモノが付いたら、混乱するに違いない。
小学校とは違って勉強が一段と難しくなるから、しっかり家で勉強見てあげようと心に決めてから、場地と一緒に帰ろうかと席を立った。
しかし、教室を見渡しても場地の姿は見えなかった。先に帰るなら、一声掛けて行くだろうし、それに鞄は机の上にポツンと寂しそうに残っていた。
「どこに行ったんだろう…」
「誰か探してるの?」
独り言が聞こえたようで、クラスメイトの子に声をかけられたので、場地を探している事を伝えると、その子の口からとんでもない言葉を耳にした。
「場地くんなら、先輩シメに行くって出て行ったよ。気に食わねぇとか言ってたけど」
「はぁ!?入学早々なにしてんの…」
入学式の日くらい大人しく出来ないのかね、あの人は。いや、無理か。自分の言葉に自分で突っ込んで、ため息をつく。
教えてくれたクラスメイトの子にはお礼を言ってから、自分の分と場地の鞄を持って教室を出た。
喧嘩しやすい所と言えば、人目がつかない所に限られてくる。今までの経験上は体育館裏とか校舎裏や中庭だったりしたので、最初に体育館裏へと足を向けたが、そこはハズレだった。
次に校舎裏へと向かってみると、今度は見事に当たりだった。
丁度、喧嘩を終えたらしく、彼の足元には十人ほどの先輩たちが転がっていた。声を掛けても大丈夫だと判断してから場地の名を呼ぶと、彼はクルッと振り返った。
「おー、明日香か」
「派手にやったねぇ。ケガしてない?」
「余裕。コイツら、弱くてつまんねぇ」
心底つまらなそうに転がっている先輩たちを見下ろしていた。
場地は昔から、喧嘩が大好きだ。喧嘩というよりかは、強い人と戦うのが好きらしい。喧嘩は自分がどれだけ強いのかを確かめるのに丁度良いと言っていた。
場地は近所の空手道場に通っていたので、腕っぷしは強い方で黒帯の実力だ。そうなると、そこら辺の不良かぶれの人間では場地に勝てる訳もない。残念だが、ここに転がっている人たちが何人束になっても無理だろう。場地が負けている姿を私は、ほぼ見た事ない。
ほぼというのは、場地にも唯一勝てない人がいるからだ。いつも、喧嘩を挑んではボコボコにされ、返り討ちにあっている。
だけど、そんな場地を見てカッコ悪いなんて思った事は一度もない。
いつも全力で、何度打ちのめされても何度も立ち上がって挑みに行く姿はキラキラしていてカッコイイ。場地の喧嘩する姿を見るのが密かに好きだったりする。
「つーか、オマエ、こんなトコ来んなよ」
「なんで?」
「危ねぇだろーが」
「私だって空手やってたし、そこそこ強いから大丈夫だって」
「オマエになんかあったら、オレが嫌なんだよ」
「あぁ、問答無用で場地がお母さんにドヤされるもんね」
昔、場地の喧嘩を近くで見ていたら巻き込み事故で軽く怪我した事があった。帰りに場地の家に寄ったら、私の怪我を見た瞬間に理由も聞かず、お母さんが場地に激怒していた。変な所に立っていた私も悪かったので、その事を言ったが「明日香ちゃんは黙ってなさい」と私も怒られた。
場地もお母さんには逆らえないようで、黙って二人で怒られていた事を思い出す。正座しながら怒られていた時は怖かったけれど、今ではそれも良い思い出だ。
「違ぇよ。オマエが怪我すんのが嫌なんだっつーの」
呆れたようにため息をついて、額にデコピンをして来た。でも、威力は全くなくて、痛くはなかった。場地は昔から口は悪いし、言葉足らずだし、ぶっきらぼうだから、誤解されやすい性格だけれど、誰よりも優しいのを私は知っている。
「何かある前に場地が助けてくれるでしょ?」
「…まぁな」
「じゃあ、これからもずっと場地の傍にいないとだね」
「明日香が隣に居ねぇのなんて想像出来ねぇな」
「私も。場地が隣に居ないなんて想像もしたくないな」
素直な気持ちを口にすれば、場地は私の頭をわしゃわゃと乱暴に撫でながら、笑った。髪の毛がグシャグシャになるくらい大雑把に撫でる大きな手が大好きだ。
「そろそろ、帰ろーぜ」
「そうだね。お腹空いたし、帰ろうか」
持っていた場地の鞄を手渡して、帰路につく。歩いている途中に場地はずっとお腹の虫を鳴らしながら、ペヤング食いてぇなと何度も呟いていた。
私の家の方が先に着くので、家の前でお別れだ。また明日ね、と手を振るが場地は帰ろうとしなかった。
「どうしたの?お腹空き過ぎてエネルギー切れ?何か家で食べて行く?」
そう聞いても、「いや…」とか「そうじゃねぇ」とか歯切れの悪い返事しか返して来なくて、何事かと首を傾げていると、場地は真っ直ぐに私の瞳を見つめて来た。
「明日、ちゃんと起こしに来いよ」
「え?あぁ、うん。ごめん、明日はちゃんと行くよ」
なんだ、今朝の事を根に持っていたらしい。今日は、気分的にたまたまで、また明日からちゃんと起こしに行くつもりだったので、そんな事かと思ってしまった。
「よくわかんねぇけど、オマエの声聞くと目覚め良いんだよな」
「えっ、何で?」
「知らね。多分、好きなんじゃねーの」
「…そんな美声だったのか、私は。アナウンサーにでもなろうかな」
「似合わねぇ」
腹を抱えてゲラゲラ笑う失礼な男の頭にチョップを落とし、舌を出して「バーカ!」と捨て台詞を吐いて玄関へ逃げ込んだ。
背後から「痛ぇな、馬鹿力」という声を耳にしながら、玄関を勢いよく閉める。閉まったドアにもたれながら、両手で顔を押さえてズルズルとしゃがみ込む。
先程、言われた「好き」の言葉に心臓が馬鹿みたいに早く動く。頬が熱い。
声が好きという意味なのは理解しているが、突然の事に不覚にもドキドキしてしまった。照れ隠しにアナウンサーとか戯けてみたけれど、鼓動は治る事を知らない。今日だけで、何回ドキドキしているだろうか。
こんなにも昔から大好きなのに、私はこの想いを未だに伝えられずにいる。想いを伝えて今の関係が壊れるのが怖いって言うのもあるけれど、今の距離感が心地良くて、楽しいという気持ちが少なからず、告白へのブレーキをかけている。
いつか、この気持ちを伝えられたらいいなとは想うが、出来れば、場地から告白されたいとも夢を描いてしまう。
大きな花束を持ってとか、綺麗な桜の木の下でとか、夜景を見ながらとかロマンチックな告白が理想だが、場地には死ぬ程似合わないなと自己完結してしまう。
本当は、場地に告白されるなら、どこだって良い。ロマンチックからかけ離れていたってきっと嬉しいだろう。
でも、今はまだ、場地の大切な幼馴染でいる事、それだけで十分に幸せなんだ。