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自室にいると窓辺から中庭で鍛錬しているメギド達が良く目に入る。その中でも、ロノウェは朝になく夕になく、剣を取って、惜しみなく自己研鑽に励んでいた。窓に凭れて手を振ると、ふとした拍子に顔を上げて微笑みながら手を振り返してくれた。
そんな彼がこのところ、剣を傍に置いて佇んでいることが多くなった。中庭には来ているのだが、アジトでは自室に籠もっていることが多い。
食事の時に声をかけても、どこか上の空な返事が返ってくることが多かった。
(ロノウェにはいつも前線に立って貰ってるから…疲れが溜まってたりするのかもしれない)
その日は珍しくロノウェが中庭に姿を見せなかった。模擬戦をしている面子にも姿が見えない。
ソロモンはアリトンに教えてもらったハーブティーを淹れて、ロノウェの自室を訪れた。
勢いで訪ねたはいいが、肝心のロノウェが寝ているかと迷い、躊躇いがちにドアをノックする。程なくして部屋の主がドアの隙間から顔を見せた。
「ロノウェ、少し話、いいかな?」
「ああ…もちろん構わない。入ってくれ」
驚いた顔をしたロノウェだが、すぐに
気の良い笑みを浮かべてソロモンを部屋に案内した。
ロノウェの自室はそう物が多い訳では無かったが、武具や防具、それらをメンテナンスする物品、鍛錬用の模擬刀や図書館から借りてきたらしい戦術書などがあり、きちんと整えて置かれていた。
文机の上には小さな灯りと開いた本がある。
「戦術書を借りてたらアンドロマリウスに詩集を勧められたんだ。ああいうのもたまにはいいな」
ソロモンの視線の先を見たロノウェが悪戯っぽく笑って、読みかけの本に栞を挟んで閉じた。
「図書館の詩集なら俺も少し読んだことがある。バルバトスが歌にしているようなのの原型があったりして結構面白いよな。難しい内容の奴は読んでる内に寝ちゃったりするけど…」
「ははっ。俺もだよ。掛けてくれ。急だからお茶も出せないけど…」
ロノウェが椅子を引いてソロモンに座るよう促し、自分はベットに腰掛けた。
「ありがとう。実はお茶を淹れてきたんだ。一緒に飲まないか?それと、」
ベッドの空いた端、ロノウェの隣にソロモンは腰掛けた。
「椅子よりここがいいんだけど…ダメかな?」
「っ…ダメじゃない!全然ダメじゃないんだが…その…いや、ありがとう」
ロノウェは隣に腰掛けたソロモンにティーカップを手渡され、ぎこちない動きで受け取った。
「なんとなくだけど、最近ロノウェって疲れてるのかなって思って。疲労回復にいいハーブティーを教えてもらったんだ」
「そうだったのか。心配かけてすまない。おいしいよ」
ロノウェが表情を和らげる。
「ロノウェ、もしも悩みとかあるんなら聞くよ。俺じゃ頼りにならないかもしれないけど」
ロノウェが虚を突かれたように目を見開いて、そっと瞼を伏せた。
「いや、心配してくれてありがとう。だけど君には話すことが出来ない」
「…わかった。話したくないなら話さなくていいんだ。だけどロノウェはいつも力になってくれるし、俺やみんなのことを助けてくれる。だから俺もロノウェの力になりたいんだ。なにか俺に出来ることはないか?」
冷めた茶を飲み干して、カップをしばらく弄ぶ。やがてそのカップを静かに置いて、ロノウェは言葉を落とした。
「衝動を、抑えたいんだ」
身を隠すように背を丸めるロノウェの震える眦を、ソロモンは何も言わずに見つめている。
いつも傍に居る人で、守らなくてはいけないその人を見ているうちに自分の中で芽生えては行けない感情が芽生えてしまったと。
“彼”はみな平等に接してくれているというのに、俺は、特別になりたいと願ってしまう。
ロノウェがぽつり、ぽつりと零すのを黙って聞いていたソロモンが、ロノウェの手を取って口を開く。
「これは俺の考えだけど、それ、思い切ってぶつけてみればいいんじゃないか。その……“彼”も、ロノウェと同じ気持ちかもしれないだろ」
ロノウェの手をぎゅっと握り、ソロモンの頬がみるみるうちに赤くなっていく。
呆気に取られてソロモンの顔を見つめていたロノウェが、その意味を解して自らも顔を赤くする。握った手がどちらともなく熱を持つ。
「君のことが好きになってしまったんだ」
小さな声で呟くと、赤い顔をしたソロモンが満面の笑みを浮かべた。
「俺もだよ、ロノウェ」
そんな彼がこのところ、剣を傍に置いて佇んでいることが多くなった。中庭には来ているのだが、アジトでは自室に籠もっていることが多い。
食事の時に声をかけても、どこか上の空な返事が返ってくることが多かった。
(ロノウェにはいつも前線に立って貰ってるから…疲れが溜まってたりするのかもしれない)
その日は珍しくロノウェが中庭に姿を見せなかった。模擬戦をしている面子にも姿が見えない。
ソロモンはアリトンに教えてもらったハーブティーを淹れて、ロノウェの自室を訪れた。
勢いで訪ねたはいいが、肝心のロノウェが寝ているかと迷い、躊躇いがちにドアをノックする。程なくして部屋の主がドアの隙間から顔を見せた。
「ロノウェ、少し話、いいかな?」
「ああ…もちろん構わない。入ってくれ」
驚いた顔をしたロノウェだが、すぐに
気の良い笑みを浮かべてソロモンを部屋に案内した。
ロノウェの自室はそう物が多い訳では無かったが、武具や防具、それらをメンテナンスする物品、鍛錬用の模擬刀や図書館から借りてきたらしい戦術書などがあり、きちんと整えて置かれていた。
文机の上には小さな灯りと開いた本がある。
「戦術書を借りてたらアンドロマリウスに詩集を勧められたんだ。ああいうのもたまにはいいな」
ソロモンの視線の先を見たロノウェが悪戯っぽく笑って、読みかけの本に栞を挟んで閉じた。
「図書館の詩集なら俺も少し読んだことがある。バルバトスが歌にしているようなのの原型があったりして結構面白いよな。難しい内容の奴は読んでる内に寝ちゃったりするけど…」
「ははっ。俺もだよ。掛けてくれ。急だからお茶も出せないけど…」
ロノウェが椅子を引いてソロモンに座るよう促し、自分はベットに腰掛けた。
「ありがとう。実はお茶を淹れてきたんだ。一緒に飲まないか?それと、」
ベッドの空いた端、ロノウェの隣にソロモンは腰掛けた。
「椅子よりここがいいんだけど…ダメかな?」
「っ…ダメじゃない!全然ダメじゃないんだが…その…いや、ありがとう」
ロノウェは隣に腰掛けたソロモンにティーカップを手渡され、ぎこちない動きで受け取った。
「なんとなくだけど、最近ロノウェって疲れてるのかなって思って。疲労回復にいいハーブティーを教えてもらったんだ」
「そうだったのか。心配かけてすまない。おいしいよ」
ロノウェが表情を和らげる。
「ロノウェ、もしも悩みとかあるんなら聞くよ。俺じゃ頼りにならないかもしれないけど」
ロノウェが虚を突かれたように目を見開いて、そっと瞼を伏せた。
「いや、心配してくれてありがとう。だけど君には話すことが出来ない」
「…わかった。話したくないなら話さなくていいんだ。だけどロノウェはいつも力になってくれるし、俺やみんなのことを助けてくれる。だから俺もロノウェの力になりたいんだ。なにか俺に出来ることはないか?」
冷めた茶を飲み干して、カップをしばらく弄ぶ。やがてそのカップを静かに置いて、ロノウェは言葉を落とした。
「衝動を、抑えたいんだ」
身を隠すように背を丸めるロノウェの震える眦を、ソロモンは何も言わずに見つめている。
いつも傍に居る人で、守らなくてはいけないその人を見ているうちに自分の中で芽生えては行けない感情が芽生えてしまったと。
“彼”はみな平等に接してくれているというのに、俺は、特別になりたいと願ってしまう。
ロノウェがぽつり、ぽつりと零すのを黙って聞いていたソロモンが、ロノウェの手を取って口を開く。
「これは俺の考えだけど、それ、思い切ってぶつけてみればいいんじゃないか。その……“彼”も、ロノウェと同じ気持ちかもしれないだろ」
ロノウェの手をぎゅっと握り、ソロモンの頬がみるみるうちに赤くなっていく。
呆気に取られてソロモンの顔を見つめていたロノウェが、その意味を解して自らも顔を赤くする。握った手がどちらともなく熱を持つ。
「君のことが好きになってしまったんだ」
小さな声で呟くと、赤い顔をしたソロモンが満面の笑みを浮かべた。
「俺もだよ、ロノウェ」