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王都から離れた村に幻獣の被害が出たとシバから知らされたソロモンは、アジトにいた穏便なメギド達を連れて討伐の任務に当たっていた。
派遣された村から差し迫った危機が去っていったのを確認して、一行はアジトへ帰還することにした。
さっきまで戦闘に明け暮れていたというのに、大人達は酒とつまみを用意して歓談している。
賑やかな声を聞きながら、ソロモンは夜通し語らうであろうメギド達におやすみと声をかけて回った。
ふと、普段は早寝するロノウェが、鎧を脱いだ寛いだ格好で珍しくアジトの大広間に居るのが見えた。自室に戻って眠ろうとするソロモンを見つけて手を振り、声をかける。

「おつかれさま。ソロモン。今日もキミの采配のおかげでみんなの力になることが出来たよ」
「そんな!ロノウェがみんなのことを惜しみなく守ってくれるおかげだよ。俺一人だったら気負って上手くできなかったと思う。ロノウェのこと、頼りにしてるんだ。だからさ、ロノウェにもし出来ることがあったら言ってほしいんだ」
ロノウェの固い掌を握ってソロモンが言い募る。
「ありがとう。キミは優しいんだな。キミは俺の大切な「友人」だから、これからもずっと側で、絶対に護るよ。だからキミも、俺のことを信じてほしい。必ずキミに応える、約束するよ」
ロノウェの全幅の信頼を寄せた言葉に、ソロモンの表情が一瞬翳った。だけど次の瞬間には何事もなかったようにロノウェの手を握って屈託なくわらう。
「ロノウェが俺達の味方をしてくれて本当に心強いんだ。これからもよろしくな」
「ああもちろん。誠心誠意、キミの力になるよ」
そう言ってロノウェはソロモンの手を取り、その額に微かに触れるキスをした、
「ありがとうロノウェ、おやすみ」
ソロモンはロノウェの唇の温もりが肌の上に留まるのを感じながら、すこしぎこちなくその場を後にした。

自室に戻ったソロモンはボーッと爪の先を眺めながら、先程のロノウェの淡い熱を思い返していた。
ありがとう、と返したけれど、自分の感情がロノウェの持っている感情と同じ類いのものなのか、さっぱり見当がつかない。ロノウェはソロモンを信じて、仲間達の為に誠心誠意戦ってくれる。階下から朧げに聴こえてくる仲間達の声に耳を澄ませても、ロノウェの声は届かない。それがひどく寂しく感じるのだ。

自室から出ようとドアを捻ると、ソロモンの私物を片付けていたアリトンがいた。
「おやソロモン様、お休みになられたのでは?」
「少し出かけてくるよ」
「そうですか。お気をつけて」
だがやっぱり少しの間を置いて、「やっぱり今日は戻らないかも」と告げることにした。
「かしこまりました。お部屋は整えておきますので、いつでもお戻り下さい。お気をつけて」とかけられる声を背中で聴きながら、目的の場所へ足音を潜めて駆けていった。

ソロモンはロノウェの部屋を訪ねた、ノックをすると、「どうぞ」と返事が返る。それだけで緊張が胸の奥に根を張る感覚がした。
「あの、ロノウェ。少しいいかな?用事があって…」というソロモンの言葉の後、一瞬の静寂があり、部屋の奥からドタドタと物音がした。部屋のドアが開けられる。
「どうしたんだい?急に」
「いや、なんていうか話がしたいんだ。いいかな?」
「もちろんだよ。上がってくれ」

部屋に上がると、ロノウェは防具のメンテナンスをしていたらしく、鎧や手入れ道具が雑然と置かれている。
「気の利いたものはないけど…」と水の入ったグラスを手渡され、口を付けると存外に喉が渇いていたことに気づいた。
「その、どうしたんだい?」とロノウェが問う。
「さっきのことなんだけど…ロノウェ…その、ロノウェのこと考えてたら眠れないんだ」
「……」
「だからさ…一発殴らせてくれ」
「…え?」
「殴らせてくれ」
ソロモンの突飛な発言に目を白黒させて慌てながらも、「わ、わかった、キミが言うなら…」とロノウェは目をギュッとつぶって歯を食いしばる。
数拍おいて、あまりに軽い衝撃が頬を張った。恐る恐る目を開いて、ソロモンの方を見ると、その目に涙を浮かべている
「どうしたんだソロモン?!」
ロノウェは必死でハンカチを探してソロモンに渡して、涙を浮かべる姿にひどく動揺して思わず抱きとめた。
「勝手なのかもしれないけど、俺はロノウェのこと、友人とだけ思ってるわけじゃないんだ…!俺じゃロノウェのことを守れなくても、守られるだけなんて嫌だ!ロノウェの力になりたいんだ…!」
絞り出すようにソロモンはロノウェへの想いを吐露した。
その言葉でやっと附に落ちる。自分の思いに蓋をしようとして、友人として共にいれることを願ったのだ。ソロモンの気持ちには、気づけないまま。
「俺も臆病になってしまったけど、キミのことを大切な人だと思って、愛してるよ。だからもしもキミが許してくれるなら、キミの気持ちを受け止めるだけの俺になる時間を許してほしい」
そう言って唇に触れるキスをした。

「こちらこそ、みんなを守るロノウェのことを、守ってあげたいんだ。俺は戦うことは出来ないけど、ロノウェのメギドとして、ヴィータとしての心を守りたい。俺にロノウェを守らせてください」
そう言って屈託なく笑ったソロモンの手の甲に口付けて、ロノウェも笑った。
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