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真4・真4F

月が満ちつつある。
ここ2、3日睡眠不足で妙に眼は冴えているが、頭痛が酷い。思考回路は砂が詰まっているように淀んでいる。
混血ゆえにマグネタイトを糧とすることが出来るとは言え、人間に準じる肉体の生理機能は、悪魔の本能に引き摺られると其れなりに重大な支障を来たす。
身体の奥底から沸き立つ陽気で、残忍で、酩酊するような衝動を固く唇を引き結んでやり過ごしながら、ハレルヤはまだ月の影響の現れにくい日中に微睡んでいた。

悪趣味な赤い爪が、褐色の締まった腹を伝う眺めが快い。
ナナシはごく楽し気にハレルヤの身体を昂ぶらせる。露わにした腹の下、ベルトに指をかけると、熱を持った掌に手首を掴まれた。

「なんだよ、狸寝入りか。狐憑きなのに。」
「チロはそんなんじゃない…お前どっから入ったんだよ」
ハレルヤの抑えた低い声での問いかけには答えず、腹の上に跨ったナナシは子供のようにケタケタと笑っている。
少女のような可憐な姿とは裏腹に、スカートの中には下着もペチコートもつけていない。
汗ばんだ大腿とくねる腰、性器と、男の味を充分に覚えた場所を、肌触りのよい薄い布で覆っている。

「満月の前後っていつも死にそうにしてるからさ、お見舞い」
「別に死にそうじゃねえよ!っていうかお見舞いならそっとしとけよ!?」
起き上がろうと頭を擡げ、強烈な眩暈に襲われる。ナナシが目敏く頭の後ろに腕を回し、ゆっくりとベッドに横たえる。
「いやー、ハレルヤくん真面目だからね。どうせ仕事、仕事でご無沙汰かなと思って」
ニタニタと笑みを浮かべたまま下世話なことを口にする。軽薄な言葉の下に、確かな欲情を滲ませて。
「おれのこと抱き潰せよ、スッキリしてよく眠れるかもよ?」
ストレスで脳の血管がやられそうだった。

キツいピンク色の薄い唇でハレルヤの口を塞ぐ。柔らかく食みながら、濡れた舌を味わう。黒い爪が耳朶をなぞり、塞ぐ。頭の中に響く水音を味わいながら、ゆっくりとベルトを外す。
布越しに伝わる感覚で、ハレルヤが少し喉を鳴らすのがわかる。微かなリップ音をたてて、唇を離した。
「ちょっと腰浮かせてよ」
スラックスに無造作に手をかけ、表情を変えずに言い放つ。
「いいって!そんくらい自分で脱ぐから…ちょっと退けよ」
「退けよとはなんだよ、突っ込んでやろうか」
「ふざけんなよ」
「あっそ。じゃあ突っ込む気にはなったの」
ナナシはむすっとした表情を作るが、どう見ても眼は笑っている。このやりとり1つさえ、愉しくてしょうがないという様子だ。

シャツとスラックスを脱ぎ、下着一枚に手をかけると、ナナシが股間を爪先で抑えた。
「なんなんだよこの足!?」
「ハレルヤばっかり脱いでるじゃん。おれも脱がせてよ。ほら。」
足先で布越しに性器の形をなぞる。レース素材のニーソックスに包まれた少年の足が性器を慰めている図は、中々に倒錯的で辛いものがある。
「ハレルヤ…あし、気持ちいい…?」
「ンなわけねえだろっ…やめろって…」
身を捩るが、ナナシは足を下ろさない。
「やだよ。おれ、あしマ○コきもちいいもん…♡」
惚けた表情で足先を動かし、感じているかのように身体を小刻みに震わせている。すでに目的はすり替わっているようだ。

爪先から踝へ、脛へ、膝へ、そしてモモへと指を滑らせると、態とらしく嬌声を上げる。ガーターを外し、ニーソックスに指をかけて脱がせる。
「はあっ…やっと脱がせた…足だけ?」
素足を抱えるように座って、誘うように微笑んでいる。蕩けたような眼に媚びはなく、捕食者のギラついた欲を滲ませている。
「脱ぎたいのか?」
「この服結構高いんだよ。汚したくないし」
軽薄な態度で尤もらしいことを言っている。
ハレルヤは少し息をついて下着を脱ぎ去り、裸で横たわった。
「それなら俺に跨って脱げ」
「脱がしてくんないの」
「脱げ」
低い声で命令するように告げると、ナナシの目の色が変わった。静々とハレルヤの腹に跨り、スカートのレースアップを解き始める。
豪奢なエプロンドレスを脱ぎ、フリルのついたブラウスのボタンを外していく。
「まってナナシ、ウィッグ取って」
一心に服を脱いでいたナナシは舌打ちでもしそうな程表情を歪めた。
「おれの今日のコンセプト、可愛い女の子なんだけど」
「可愛い女の子は男襲わないだろ?」
「5点」
「ウィッグ無くても可愛いからさ…」
「20点」
「いつもの格好のナナシとしたいんだよ」
「ふぅん。何を?」
「だから…セックス」
ぼそぼそと小声で呟いた言葉を聞きつけたナナシが、花の綻ぶような表情を見せた。
「60点、及第点だよ。ヤろう。」
ブラウスを脱ぎ捨て、ウィッグを外しながら、ナナシが不相応にあっけらかん言い放った。
「セックス」

汗による湿りとは明らかに異質な滑らかさでハレルヤの指はナナシの秘部に飲み込まれた。動かす度に粘着質な音を立て、熱い粘膜が絡みついてくる。
「ゴムつけたい?『準備』はしてきたんだけど」
ナナシは乱れた髪を片耳にかけながら、ハレルヤに問いかけた。
「準備って…いや、やっぱいいわ。ナナシはどうしたいんだよ」
膝をついて浮かせた腰は、指の動きを追ってゆっくりと揺れている。
ナナシの性器も緩く勃ち上がっていた。
「出してくれるなら…出してほしい。精子、くれよ。」
「お願い?」
「ん、お願い…おれの、おまんこにいっぱいはめて、精液いっぱいだして…」

ナナシはハレルヤの性器を弄ぶのを止めて、その上に腰を下ろした。
温かな肉壁を、先端が押し広げていく。
時々小さく嬌声をあげ、ハレルヤの陰茎を収めたナナシは、荒く息を吐きながら結合部に指を這わせた。
「んっ…ちゃんと入ったな…」
愛おしげに目元をゆるめ、息を整えている。

ひたひたと満ちつつある月の魔力で、たくさんの虫が湧いたように纏まりを欠く思考の中を、震える程の肉の快楽が突き抜けた。息を吐き、嗜虐心を収める。
「あー…ナナシ…ヤバい…」
「ハレルヤ…あったかい…中すっごいい…」
ナナシは瞼を下ろして腰をゆるゆると動かしながら、ハレルヤを味わっていた。ハレルヤは細い腰をつかみ、自らを押し付けた。背をしならせて悲鳴のような嬌声をあげ、ナナシの身体が震えた。
「あ、ハレルヤっ、おくっ、来てる、ああああああっ」
「ナナシ、かわいいな…ナナシん中キツい、エロい」
身悶えながら悦ぶナナシの中は、ひんやりとした指先とは違い、柔らかく、熱い。性器としてハレルヤを受け入れ、蠢いている。腰を引くと、蕩けた眼をしたナナシが胸にしなだれかかってくる。抱きとめて、口付ける。おずおずと出された舌先を食む。

瞼の奥で新緑が弾けるイメージが広がった。ナナシの感情がマグネタイトを喚起している。奔放で爽やかな快楽の奥に、焦げ付く哀願がこずんでいる。舌の奥が痺れた。

ナナシに顔を上げさせ、その胸の突起を舌で転がす。そのまま律動を始める。
「ん、あっおっぱいだめっ変になるっ…ハレルヤの、いっぱい、奥当たって、気持ちいいよ」
ナナシはハレルヤの首に縋って、奥を抉られる度、掠れた嬌声をあげた。
その汗ばむ肢体をそっと押し除け、楔を抜く。名残惜しげに肉壁が絡み付いてくる。そのまま抱え込むように、
仰向けに横たわらせる。
上から覆いかぶさり、露わになっているナナシの秘所へと再び入っていった。
ナナシは切なく甘い声を洩らして、ハレルヤの指に自分のそれを添わせる。
ハレルヤは指を絡めて、汗ばんだ頬にキスを落とした。耳元で唸るように囁く。
「ナナシ、中でイッていいのか?」
確認ではなく懇願だった。ナナシは雌の悦びに身を捩りながら、不敵に微笑んだ。
「最初から寄越せっていってるだろ、ばか」
ハレルヤは貪るようにナナシの中で律動し、果てた。

「あー、喉乾いたな」
「リーダー、余韻とか…」
「おー、色々あんな。炭酸水?」
「…水でいい」
達した後の気怠さなどお構い無しに、ナナシは勝手知ったるハレルヤの部屋を漁っていた。そういえば流れで抱いてしまったがこいつはそもそも不法進入なのになんでこんな面の皮が厚いんだ。つーか警備どうなってんだよ。

ハレルヤは、ある満月の日にナナシが六本木ヒルズに正面堂々やってきて、「悪魔の本能マシマシのおたくの会長とセックスしに来たんだけど」と衒いなくぶちまけて以来、察しの良い部下達の気遣いでナナシが顔パスになっていることは知らない。
勿論、喉を潤した後気絶するように眠り込んだ自分の顔を、ナナシが心底愛おしいと眺めていることも知らない。
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