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真4・真4F

フリンが卵焼きを食べさせてくれる。

ミカド国の、本物の卵を食べさせてくれるという。オムレツでも作ってくれるのかと期待したら、バロウズに卵焼きの作り方を聞いて日夜練習に励んだという。
8割くらいは殻を入れずに割れるようになったんだ、と笑うから、そこからかよと内心突っ込んだ。内心。食べさせてもらう身なので口には出さない。

フリンがバスケットに卵を入れて、錦糸町のハンター商会にやってくる。マスターとアサヒに断りを入れて、しばしの間キッチンを借りる。周りのハンターが、がんばれよー、とか、怪我すんなよーとか、野次を飛ばしていた。

「墨汁を入れると聞いて驚いたんだけど」
「醤油だな」
「ダシ、というものがよくわからなくて」
「イイイイ、インスタントのなら棚にあるぞ」
「切るように混ぜるんだよね」
「箸の持ち方怖いよ!」
なんとなく人を不安にさせる手つきで、フリンは卵焼きを作っている。
「焼けるの?」
「大丈夫、バロウズに散々叩き込まれたからね」
そう言いながらひっくり返している卵焼きの形は歪だ。
改まってはフリンに告げていないが、卵焼きならナナシにも作れる。ただナナシが作れるのは、悪魔の卵を使ったレプリカだったので、本物の卵の調理に関しては口を挟まないことにした。

「できたよ。マスター、アサヒ、キッチンを貸してくれてありがとう」
「どういたしまして!あたしも食べていい?」
「もちろん、どうぞ」
アサヒが嬉々として形の悪い卵焼きを一切れ摘む。ナナシも続いて、卵焼きを口に含み、咀嚼する。殻は混じっていない。広がる風味は、
「どうだい?」
「これ…甘くない」
アサヒの言葉に、無意識にナナシも頷いていた。
「甘くない?」
『卵焼きの中には甘く味付けしたものもあるのよ、マスター。二人にはそっちの方が好みだったみたいね』
沈黙していたバロウズが喋り出す。
「うーん、でもコレも美味しいよ!」
アサヒが二口目を食べながら、フリンに言う。
「たたたた多分、マスターはアサヒとナナシに甘いものを食べさせてやりたくて、ああああ甘い味付けにしてたんじゃないか」
その言葉に手が止まる。閉鎖した東京では確かに甘い物は貴重だった。卵焼きはそう頻繁に作ってもらっていた訳ではないけど、出された時はいつも甘い味付けだった。それはマスターなりの親心だったのかもしれない。

「美味しかった」
ナナシはアサヒと綺麗に半分ずつ卵焼きを食べた。
「また作ってくれ」
食器を片付けながらナナシは言う。
「わかった。今度は甘い甘い味付けにしてみるよ」
「いや…この味付けでいい。フリンの卵焼き、好きだ」
それは事実だったけど、フリンが作ってもきっとマスターの味とは違うと思ってしまうだろう自分の心を隠した、少し狡いお願いだった。
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