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真4・真4F

天使みたいですね、と僕に告げる時の彼の顔は青ざめている。嘗てなら褒め言葉だったであろうフレーズで僕を詰る。
今の東京では、天使とは理不尽な殺戮と加護という名の拉致で恐怖と嘆きを振りまく存在だ。まして姉を天使に拐われた少年にしてみれば、その言葉は呪いにも等しいんだろう。

天使みたいですね、■■■■さん、と。

与えられた任務をこなした後に、手近な無人の施設へと立ち入り、休憩室を謹んで勝手に使わせてもらう。備品は古く、清掃も行き届いていない。何年も人の手が入っていないのがわかる。元々空きテナントだったのかもしれない。
戦いで持て余す高揚を、手持ちの悪魔を「有効に活用」して発散する。柔らかな女の肢体に耽る。そうした後に、アキラは低い声で僕の名を呼ぶ。
彼にしてみれば僕は15歳のガキと行動を共にしていても欲望のままに女悪魔と、時に麗しい青少年の姿を取る悪魔と行為に耽る節操のない男だろう。

彼は知らない、僕が彼と組んだ時にだけ仲魔と戯れることを。
彼は知らない、僕が扉の向こうに蹲り、嬌声に耳朶を塞ぎ、唇を噛んで震えて耐える彼の姿を思い描いて興奮していることを。

そうして着衣も整えずに、天井を見つめながら、彼が1人でいることに耐えかねてこちらへ歩いてくる密やかな足音を待つ時間が、どれ程待ち遠しく感じられるかを。

非常灯が点滅している。日はとっくに落ちたようだ。扉を開けた彼が顔を上げて、僕の隣に凭れた妖精を無言のまま一瞥する。そのまま僕に向き直る。
「服くらいちゃんと着てください。風邪引いたら置いて行きますよ。」
視線が交わる度に、そこに憎悪も嫌悪もないことに落胆する。いつだって彼は諦念と、縋るような眼差しだけを向けてくる。

「こっちの方が天使らしいだろ。それにしてもディスポイズンくらい分けてくれないのかい?つれないな。」
気だるい口振りでふざけて応え、身繕いをする。苛立ちを隠し切るには余裕がなかったが、彼は僕以上に硬い顔をしている。この分なら気取られることもないだろう。
「あなたは人間で、悪魔討伐隊で、今日は僕のバディです。規定の休憩時間は超えてますよ。」
淡々とした言葉を繕って彼が告げる。
彼が僕をただの同僚に押し戻そうとする度に、胸の奥が淀む気がした。
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