真4・真4F
例えば弱者に差し伸べられたほんの少しの労り。例えば、団結して難敵に立ち向かうハンター達。あるいは、思い出を大切に、前を向いて歩き出す人。
どんな困難にも立ち向かい、強く生きていく人々。
そんな彼らの纏う「空気」は、写真には残らない。
だけど彼らを見て感じた撮影者の「想い」が、必ず写真にこもり、見た人に伝わるのだと、ノゾミは信じていた。
構図を考え、ピントを合わせ、シャッターを切る度に、二度とは訪れないその時の想いが形になる。それは、妖精の女王たるブラックマリア、ダヌーと一体となった今でも揺るがない信念だ。
天井が崩れた後、東京の人々が都市の復旧に精を出すのを商会のクエストをこなすことで手伝いながら、フリンは根無し草のように東京中をふらふらしていた。ある時は親切な地下街の住人の部屋を借りて休み、ある時は商会の片隅でうたた寝し、またある時は地下街や地上の空き部屋を黙って有用に利用させて貰っていた。フジワラとツギハギはフリンの為に上等な一室を用意したが、そこへ帰ることは稀だった。そうして行く先々の情景を、ノゾミに譲られたカメラで写真に納めていた。ノゾミはハンターとしては気さくだが、写真の師匠としては手厳しかった。フリンの写真は、構図やピントにダメ出しを食らうことが多い。それでも最後には「君が何を撮りたかったのかはよく伝わってくるよ」と労いの言葉をかけて貰っていた。
阿修羅会とハンター商会がインフラ整備の面で協力をみて、今まで不通だった箇所が行くつも整備されるようになった。アメノトリフネだけではたどり着けなかった場所にも行けるようになった。フリンは細々とクエストをこなしながら、見知らぬ土地へ出向くことと見慣れないものを写真に収めることを楽しんでいた。
ある日、改修工事が終わったという通路を抜けて小さな街に辿り着いた。バロウズのマップナビは「錦糸町」と表示している。
小さいながらも公園があり、噴水の周りには花が植えられていた。ただ1箇所、花が植えられずに重々しい雰囲気の石碑が建っている場所がある。
「錦糸町合同慰霊碑」
似たような建立物はそこかしこで目にしていた。未だ物資の不足する東京では、死体が残っている者の火葬と慰霊碑での弔いが多い。
幾つかの遺品らしき物と、摘まれた花が添えられている。
ただこの慰霊碑には、何故かクローバーが幾重にも巻き付いていた。ここ数日雨が降った訳でもなく、噴水の水が掛かっている様子もないのに、その葉は瑞々しく濡れていた。
通りかかった婦人に、これは植えられた物なのか尋ねる。
「さあねえ。勝手に生えてきたのよ。それでいて花が全然枯れないの。雑草って強いわよね。そういえば、そこで前にハンターさんと、見習いの男の子と女の子が亡くなったのよ。商会のマスターのとこの子」
一通り聞き終えたフリンは礼を言い、慰霊碑に向き直る。幾つもの細かく刻まれた名前の1つは、四つ葉が覆い被さって読み取ることが出来ない。
フリンは慰霊碑と噴水の写真を撮って、カメラを仕舞うとそっと手を合わせた。
どんな困難にも立ち向かい、強く生きていく人々。
そんな彼らの纏う「空気」は、写真には残らない。
だけど彼らを見て感じた撮影者の「想い」が、必ず写真にこもり、見た人に伝わるのだと、ノゾミは信じていた。
構図を考え、ピントを合わせ、シャッターを切る度に、二度とは訪れないその時の想いが形になる。それは、妖精の女王たるブラックマリア、ダヌーと一体となった今でも揺るがない信念だ。
天井が崩れた後、東京の人々が都市の復旧に精を出すのを商会のクエストをこなすことで手伝いながら、フリンは根無し草のように東京中をふらふらしていた。ある時は親切な地下街の住人の部屋を借りて休み、ある時は商会の片隅でうたた寝し、またある時は地下街や地上の空き部屋を黙って有用に利用させて貰っていた。フジワラとツギハギはフリンの為に上等な一室を用意したが、そこへ帰ることは稀だった。そうして行く先々の情景を、ノゾミに譲られたカメラで写真に納めていた。ノゾミはハンターとしては気さくだが、写真の師匠としては手厳しかった。フリンの写真は、構図やピントにダメ出しを食らうことが多い。それでも最後には「君が何を撮りたかったのかはよく伝わってくるよ」と労いの言葉をかけて貰っていた。
阿修羅会とハンター商会がインフラ整備の面で協力をみて、今まで不通だった箇所が行くつも整備されるようになった。アメノトリフネだけではたどり着けなかった場所にも行けるようになった。フリンは細々とクエストをこなしながら、見知らぬ土地へ出向くことと見慣れないものを写真に収めることを楽しんでいた。
ある日、改修工事が終わったという通路を抜けて小さな街に辿り着いた。バロウズのマップナビは「錦糸町」と表示している。
小さいながらも公園があり、噴水の周りには花が植えられていた。ただ1箇所、花が植えられずに重々しい雰囲気の石碑が建っている場所がある。
「錦糸町合同慰霊碑」
似たような建立物はそこかしこで目にしていた。未だ物資の不足する東京では、死体が残っている者の火葬と慰霊碑での弔いが多い。
幾つかの遺品らしき物と、摘まれた花が添えられている。
ただこの慰霊碑には、何故かクローバーが幾重にも巻き付いていた。ここ数日雨が降った訳でもなく、噴水の水が掛かっている様子もないのに、その葉は瑞々しく濡れていた。
通りかかった婦人に、これは植えられた物なのか尋ねる。
「さあねえ。勝手に生えてきたのよ。それでいて花が全然枯れないの。雑草って強いわよね。そういえば、そこで前にハンターさんと、見習いの男の子と女の子が亡くなったのよ。商会のマスターのとこの子」
一通り聞き終えたフリンは礼を言い、慰霊碑に向き直る。幾つもの細かく刻まれた名前の1つは、四つ葉が覆い被さって読み取ることが出来ない。
フリンは慰霊碑と噴水の写真を撮って、カメラを仕舞うとそっと手を合わせた。
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