domain of azure sky
天使みたいですね、と僕に告げる時の彼の顔は青ざめている。かつてなら褒め言葉だったであろうフレーズで僕を詰る。
今の東京では天使とは理不尽な殺戮と加護という名の拉致で恐怖と嘆きを振りまく存在だ。まして姉を天使に拐われた少年にしてみれば、その言葉は呪いにも等しいだろう。
天使みたいですね、■■■■さんと。
与えられた任務をこなした後に、手近な無人の施設へと立ち寄り、休憩室を謹んで勝手に使わせてもらう。備品は古く、清掃も行き届いていない。元々空きテナントだったのかもしれない。
戦いで持て余す高揚を、手持ちの悪魔を「有効に活用」して発散した後に、アキラは低い声で僕の名を呼ぶ。
彼にしてみれば、僕は15歳の子供と行動を共にしていても尚、人気の無い場所で欲望のままに使役する女悪魔、時に麗しい青少年の姿を取る悪魔と行為に耽る節操のない男だ。
彼は知らない、僕が彼と組んだ時にだけ仲魔と戯れることを。
彼は知らない、僕が扉の向こうに蹲り、嬌声に耳朶を塞ぎ、唇を噛んで震えて耐える彼の姿を思い描いて興奮していることを。
そうして着衣も整えずに、天井を見つめながら、彼が1人でいることに耐えかねてこちらへ歩いてくる密やかな足音を待つ時間が、どれ程待ち遠しく感じられるかを。
非常灯が点滅している。日はとっくに落ちたようだ。扉を開けた彼が顔を上げて、僕の隣に凭れた妖精を無言のまま一瞥する。そのまま僕に向き直る。
「服くらいちゃんと着てください。風邪引いたら置いて行きますよ。」
視線が交わる度に、そこに憎悪も嫌悪もないことに落胆する。いつだって彼は諦念と、縋るような眼差しだけを向けてくる。
「こっちの方が『天使』らしいだろ。ディスポイズンくらい分けてくれないのかい?つれないな。」
気だるい口振りでふざけて応え、身繕いをする。苛立ちを隠しきるには余裕がなかったが、彼は僕以上に硬い顔をしている。気取られることもないだろう。
「あなたは人間で、悪魔討伐隊で、今日は僕のバディです。規定の休憩時間は超えてますよ。」
彼が僕をただの同僚に押し戻そうとする度に、胸の奥が淀む気がした。
今の東京では天使とは理不尽な殺戮と加護という名の拉致で恐怖と嘆きを振りまく存在だ。まして姉を天使に拐われた少年にしてみれば、その言葉は呪いにも等しいだろう。
天使みたいですね、■■■■さんと。
与えられた任務をこなした後に、手近な無人の施設へと立ち寄り、休憩室を謹んで勝手に使わせてもらう。備品は古く、清掃も行き届いていない。元々空きテナントだったのかもしれない。
戦いで持て余す高揚を、手持ちの悪魔を「有効に活用」して発散した後に、アキラは低い声で僕の名を呼ぶ。
彼にしてみれば、僕は15歳の子供と行動を共にしていても尚、人気の無い場所で欲望のままに使役する女悪魔、時に麗しい青少年の姿を取る悪魔と行為に耽る節操のない男だ。
彼は知らない、僕が彼と組んだ時にだけ仲魔と戯れることを。
彼は知らない、僕が扉の向こうに蹲り、嬌声に耳朶を塞ぎ、唇を噛んで震えて耐える彼の姿を思い描いて興奮していることを。
そうして着衣も整えずに、天井を見つめながら、彼が1人でいることに耐えかねてこちらへ歩いてくる密やかな足音を待つ時間が、どれ程待ち遠しく感じられるかを。
非常灯が点滅している。日はとっくに落ちたようだ。扉を開けた彼が顔を上げて、僕の隣に凭れた妖精を無言のまま一瞥する。そのまま僕に向き直る。
「服くらいちゃんと着てください。風邪引いたら置いて行きますよ。」
視線が交わる度に、そこに憎悪も嫌悪もないことに落胆する。いつだって彼は諦念と、縋るような眼差しだけを向けてくる。
「こっちの方が『天使』らしいだろ。ディスポイズンくらい分けてくれないのかい?つれないな。」
気だるい口振りでふざけて応え、身繕いをする。苛立ちを隠しきるには余裕がなかったが、彼は僕以上に硬い顔をしている。気取られることもないだろう。
「あなたは人間で、悪魔討伐隊で、今日は僕のバディです。規定の休憩時間は超えてますよ。」
彼が僕をただの同僚に押し戻そうとする度に、胸の奥が淀む気がした。