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domain of azure sky

以前、作戦行動を終えて帰室した際に、膝を抱えてベッド上に座るアキラに出くわしたことがある。不測の事態に部屋の入り口で固まっていると、同じく動きを止めていたアキラがのそりと前のめりになって、ショートブレッドの袋をひらひらとかざした。時折物資の中から「調達」してきて、部屋に溜め込んでいたものを引っ張り出して食べていたらしい。

「よくするんですか、こういうの」
食料の私掠のことを指していると気づくのにしばらくかかった。後ろめたいことは多くはないが、少なくもない。アキラが指摘する点は、少なくとも最も掴まれたくない弱みではない。
「まあ、たまにはね。何か用事だった?特に連絡を受けてはないと思うけど」
携行していた武器を下ろしながら問う。
「連絡しないで顔が見たかったから」
「そう。サプライズってとこかい」
本意に触れられないように、意識して少し呆れを滲ませる。アキラは少しの間物思いをするように目を伏せた。
「いや、連絡しようとおもったんだけど、出来なかったから。部屋に来た」
「連絡できない?スマホの不良?」
「違う」
膝を強く抱えて顔を伏せる。くぐもった細い声が返ってきた。
「返事貰っても貰えなくても……なんか、嫌だったから」

この頃は自室の前で中の気配を窺うことが多くなっていた。アキラはこの部屋でとびきり緩慢に、無防備に過ごしている。
 冷え切っているはずの僕のベッドに、涙の跡が残る少年が横たわって微かな寝息を立てていた。また寝付けずに、主がいないことを知りながら、自分の部屋を訪ねたのだろう。
枕元に、空になった菓子の袋がころがっている。

 もともと僕は甘い物が特別好きなわけではなかったが、この頃は物資から黙って菓子を拝借すること、人聞きの悪い言い方をすればピンハネの機会が増えた。今のところフジワラさんはともかくツギさんには何も勘付かれてはいないようだし、仮にバレたとしても充分許されるくらいには働いてるつもりだ。

 横たわるアキラの眦に唇を寄せる。不十分な覚醒による微睡みの中で、アキラはこちらに手を伸ばし、縋るような眼差しを向けた。
しかしすぐに渋面を作り、胡乱な顔を向ける。諦めて身を離す。
「ただいま。よく眠れた?」
疲労の影が濃く落ちた、彼の眦を指でなぞる。
「夜更かしは身体に毒だよ」
揶揄うように囁いてなだめると、アキラが嘲笑う。
「だとしたら■■■■さんの身体は毒で充たされてるんでしょうね」
かもしれないな。
 我ながら腑に落ちる感覚がした。夜通し誰かの熱に耽りながら、身体を蝕む毒を溜め込んでいる。
「眠れないんだ」
「眠らないんでしょう」
「お互い様だよね」
いよいよ拗ねたらしいアキラが、背を向けて身体を丸めた。
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