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真4・真4F

天井の上から来た、天使と呼ばれていた人々がビルを墓標と言う。蔓延る悪魔がビルを墓標だと言う。
東京は死体の上に栄える街だ。
それは何も地上に悪魔達が溢れ、空を岩の天井が覆う前からのことだ。生きている人間は必ず死ぬ。死んだ先に待っている景色を瞼の裏に思い描きながら、ナナシは行方不明者の報告を済ませた。死体は一時期増えて、また減った。これからも多分一時期増えて、また減るのだと思う。少なくとも多神連合が暗躍していた時よりは増えないだろう。

抜けられなかった改札の構造を思い返しながら、そこにいた形のない亡者の魂と何度でも自分を蘇らせた魔神の事を考えた。あの坂は寂しいところだった。改札の先は、訪れたことも無いのになぜか懐かしく、暖かい光で満ちていた。

共に旧世界を支配していた神を打ち破った、自らと同じく救世主と呼ばれる青年に、死について聞いたことがある。彼は黄泉比良坂を降りたことはなく、代わりに三途の河のほとりに並ばされだのだと言う。
「余りに人が溢れかえり過ぎてて、三途の河の渡し守に賄賂を渡して帰って来たんだよ」などど冗談めいたことを真顔で言っていた。彼の金銭への執着、持ち物を整頓しながら美しい黄金色の細工を大量に売り払っている姿や、執拗に悪魔に金品を要求する姿を見ているとそれも事実なのかもしれないと思えた。

三途の河に溢れていたと言う人々は、多分大半が25年前の神の御業戦争によって命を落とした人なのだろう。天井の外にもおそらくは風化した無数の死体が埋まっている。東京では、死体は良くて集めて火葬、悪くすれば悪魔に対する命乞いの為の贄だ。ナナシとアサヒもそうなっていたかもしれない。ニッカリとマナブとマスターは、既に荼毘に付された。良い方だ。アサヒは泣いていた。自分は泣いたつもりではなかったが、泣かないで、と自分が涙で顔面をぐしゃぐしゃにしたアサヒに抱きすくめられていたから、泣いたらしい。

天井の穴は暗く開いている。岩盤の上は日が暮れているのだろう。未だにミカド国と東京には時間の誤差があり、向こうの正確な時刻はわからない。墓石と許容されるビルを見上げる。いくつかのビルには通電している。スカイの展望台から眺めると、地面に星空が広がっているようなのだという。自分はスカイの展望台はあまり好きではなかったが、その眺めは確かに美しい物なのかもしれない。

スマートフォンに表示される時刻は夕食には少し遅い頃合いだ。アサヒが料理を温め直すか悩んでいるかもしれない。クエストを終えて帰る旨のメッセージを送信して、ナナシは帰路についた。
墓石の底を歩く靴底に、夜空が張り付いてしまわないように、気をつけながら。
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