このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

真4・真4F

手の甲には薄く血の管が走っている。青く透けるそれには赤い血が流れている。
僕の手には赤い血が流れている。手だけじゃなく、全身に。
初めて天使を撃った時、赤い血飛沫を上げるのを見て、まるで人間みたいなんだなと思った。固くしなやかな羽根がぼろぼろと崩れながら血に塗れていくのを、美しいと思ったのかもしれない。よく覚えていない。
記憶が塗り潰されている。崩れ落ちようとする天使に駆け寄る影があった。眼を血走らせた小柄な体躯。細身の小太刀を振るって、瀕死の天使にとどめを刺していく。
その姿があまりに鮮烈だった。美しいという言葉さえ烏滸がましかった。周囲の悪魔討伐隊の面々がアキラを止めに入ったけど、全身を押さえつけられてもなおアキラはもがいて、一匹でも多くの天使を殺そうとしていた。

手の甲にはまだ、薄い血の管が通っている。
数日経てばこの肉体は用済みになる。
仮に僕が血の通わない「何か」になったとして、アキラはどんな眼を僕に向けるのだろう。
軽蔑?憐憫?嘲笑?失望?
どれも充分に慣れた類の感情だった。
嫌悪?
いっそその感情にも慣れておけば離れることなんて容易いのだろうけど、僕に出来るのは精々アキラを遠ざけることで、突き放すことなんて出来なかった。そこまで強くなれなかった。

天使に向けたアキラの眼差しを思い出す。
あれほどの感情を向けられたら、正直本望だと思った。
23/37ページ