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真4・真4F

間断無く銃声が響く。
頭上で冷気と熱とが激しくぶつかり合い、鉄筋コンクリートが砕け、ひしゃげた。
悲鳴と怒号が膨らみ、爆ぜて、鎮まる。蹲って頭部を庇ったアキラの目の前で、牛頭の大男が倒れてきた支柱を受け止め、傍へと放った。
足元から嗚咽と呻吟が漏れ聞こえる。軽やかに瓦礫の海を駆け、アキラは爆心地のように開けた一点を目指す。

粉塵と銀の羽根が舞い上がる中に、捻じ曲がった腕を庇って呻く天使と、弱々しく啜り泣く幼子を見つける。
面を上げた天使に、混乱に乗じて入手した拳銃を向けた。乾いた破裂音から間を開けず、肉質な破裂音と耳障りな悲鳴が響く。憎悪を宿してアキラを睨め付ける天使の視野を、雄叫びを上げて迫り来る牛頭の悪魔が潰した。

事切れた天使の亡骸を漁り、幼子を抱え起こす。呼吸はあるが、気を失っているようだった。
「ミノタウロス」
アキラが背後に控えていた仲魔の名を呼ぶ。声変わりの始まったばかりの少年の声が響いた。
『どこへ連れていく?』
「どこでもいい。多分他の悪魔使いも来てただろうし、これから来るかもしれない。どっか開けたとこに」
『承知した』
ミノタウロスは天使に荒れ狂う打撃を加えていた腕で、幼子を恐々抱える。
『…目を覚ませば、泣かれるだろうな』
「笑ってみればいいんじゃない?にこーって」
『無茶を言うな』
アキラは図体は大きくても性根は真摯な仲魔を揶揄ってクスクスと笑った。

やおら、瓦礫から身を起こす影があった。
黒いボディースーツを身につけた少年の結い上げた髪から、パラパラとコンクリートの残骸が落ちる。
アキラの銃が素早く対象を捉えた。
一瞬、呆けた様に目を見開いた少年が、剣呑に眼を細め、サイドアームに手をかけようとする。

「動くな」
アキラが固い声を出して少年を制する。
少年は動きを止め、アキラを見据えた。
「君は人間か」
少年は訝しむように声を上げる。
「そうだよ。天使にでも見える?」
アキラは顔に笑みを張り付けて肩をすくめたが、その眼差しは鋭く少年を射抜いていた。「…いや、全然。後ろのは君の仲魔か」
『気安く呼び止めるな』
「そう、ミノタウロス」
『主よ』
狼狽えるミノタウロスには構わず、アキラは少年に問うた。
「アンタは天使を殺す?天使の手を取る?」
少年は胡乱げに目を細め、ポツリと答えた。
「僕は、天使を使役する…」
「ふぅん。そこはまあ、いいけど。とにかく僕の邪魔をするなら、敵ですから」

来て、ミノタウロス。あれが敵。
抱えていた子供を物陰に匿ったミノタウロスが、殺気を放ってアキラの傍らに控える。
少年は喉を鳴らして、悪魔召喚プログラムを起動させた。
「悪いけど、僕もここで死ぬつもりはないんだ」
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