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真4・真4F

神は思考しない。
唯、在るものだ。

名を持たず絶対的な個であるが故に、
彼は存在として固着せず奔放であった。

神の御座を黄金色の陽光が照らし、銀の雨垂れが伝い、緑の風が撫でるように、彼の宇宙には魂を織り上げて成した現象が現象として美しく巡っていた。
並行する宇宙が収束しようとする時、救世主が彼の座する高次元へ至ることがあった。
彼は創造主としての真摯さで、自らと新宇宙の正当性を賭して救世主達を迎え撃った。
最も彼が敵意を示す前に、彼の剣たる神殺しが露払いを済ませてしまうことが多かったが。

救世主の魂を砕く度に、どこかから東京の女神の嘆きが響くような気がした。
その観測は現象に力強い美しさを与え、創造主に呪いを寄越した。
彼には救世主達の訪れという点を消すことは適わなかったが、その時間軸をある程度任意に置くことが出来た。
人間の観測では毎年のように救世主が死んでいるのかもしれないし、1つの文明が終わる度に1人の救世主が死んでいるのかもしれなかった。
悠久とも言えるような星々の時間と、羽虫の命のような瞬く間の時とは、彼にとっては同一でしかなかった。

ある時、現象は雪の形を現して降り積もっていた。
女神は砕かれた魂の煌めきが、舞う羽のように、散る花のように踊る様を楽しんでいるようだった。

ナナシにとって、雪は雪だった。

玉座の上で閉眼し、身体に積もる雪を払うこともしなかった。
常人の眼には砕かれた骨が、乾いた精が、蛆が、少年の身体を覆っている様に見えたのかも知れない。
だがここに自らの肉体を含め、物質に拘う者などいなかった。

降り積もった雪を踏みしめて歩いていたノゾミが、ふとナナシを振り返った。
「キミが望むなら、天使でも作ろっか」
今までにない楽しい遊びを思いついた子供のように、きらきらと目を輝かせ、笑う。
「そうして何度でも、羽根を毟り取れるようにしようか」
ただ黙して座す神を退屈ではないかと考えたのか、ノゾミは彼女なりの「気晴らし」を提案した。
ナナシはつと瞼を開き、女神に微笑みかけた。
「ノゾミは人間だけ産んでいればいいよ」

そうして再び瞼を閉じ、夢見るような相貌で意識を宇宙に溶け込ませ、戯れていた。
女神は成熟した女性の姿に似つかわしくない、虚を突かれた幼子のような表情を浮かべたが、ナナシが眠り込むのを見て、構わず自らの子供達の様子を伺いに行った。
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