真4・真4F
殆どの隊員が歳上である悪魔討伐隊に入ってから、アキラは今までの生活とは無縁だった物に接する機会が多い。
コーヒーもその一つだった。
霞ヶ関の本部には備え付けのコーヒーサーバーがあって、隊員たちが任意のタイミングで淹れたてのコーヒーを飲めるようになっている。
しかしアキラの家では姉が紅茶に凝っていたことがあり、馴染みの無いものだ。そうそう飲もうとは思わなかった。
もっとも隊員達も本部で飲むコーヒーよりは、彼等が外部の協力者達との接触を図ることが多い新宿の喫茶店で飲むコーヒーを楽しみにしている節があるようだ。
比較的アキラと歳の近い、3人の少年達も、例外無くコーヒーを飲んで過ごす暫しの憩いの時間を好んでいた。
特に一際寡黙で、それでいて人好きのする長髪の青年はアキラと行動を共にした後は必ず喫茶フロリダに寄り、コーヒーを飲んでいる。恐らく彼は1人でも此処に来るのだろう。
「報告は概ねスマートフォンを通じて済ませてあるし、僕一人居なくても周るだろう」とのんびり宣ったのが信じられない。
彼はその若さに見合わず間違いなく悪魔討伐隊の要であった。
然しだからこそ、ある程度の「道草」がお目溢しされているのだろう。
そもそもが左程重要で無い任務を主に担うアキラは、ささやかなサボタージュに都合の良い連れであるらしかった。
初めこそ付き合いで、ミルクと砂糖を加えたコーヒーを飲んでいたアキラだが、度々喫茶店を訪れる内にその香りを芳しく思うようになった。
マスターがお試しに、と人の良い笑みを浮かべながら淹れた浅煎りのコーヒーを飲んでからは、すっかりその風味の虜になっていた。
それでも「もう砂糖とミルク入れないのかい?」とシュガーポットを差し出す青年に、律儀に「いりませんよ」と答えるやり取りは、毎回繰り返していた。
天井が出来てからのアキラは、以前の快活さやその他の感情を必要な時に取り出す道具のようにしていた。
兄弟のように慕っていた人間を喪い、日々減っていく隊員と肩を並べて戦い続ける日々は苛酷でしかない。
薄れていたように見えた天使への復讐心をより研ぎ澄まし、行動時には無水カフェインを、仮眠の時間には睡眠導入剤を服用している少年は、誰の眼からみても痛ましかった。
「アキラ、最近はコーヒーを飲まなくなったんだね。以前は時々、フロリダで見かけたけど。」
周囲の哨戒を終えたフジワラが、自分とツギハギ用にインスタントコーヒーを淹れながらアキラに話しかける。
並々と注がれた黒い液体を啜り、ツギハギもぼそり、と呟いた。
「フロリダか、懐かしいな。あいつも良く来ていたもんだ。」今じゃコーヒー豆も貴重品だ、とぼやくツギハギを尻目に、フジワラは微かに表情を強張らせ、アキラの方を盗み見た。
粉末紅茶を溶かしながら、アキラは微笑んでいる。
「僕、苦いのはあんまり好きじゃないんですよ。」
ミルクと砂糖がなければ飲めないな、と溜息を吐いた。
コーヒーもその一つだった。
霞ヶ関の本部には備え付けのコーヒーサーバーがあって、隊員たちが任意のタイミングで淹れたてのコーヒーを飲めるようになっている。
しかしアキラの家では姉が紅茶に凝っていたことがあり、馴染みの無いものだ。そうそう飲もうとは思わなかった。
もっとも隊員達も本部で飲むコーヒーよりは、彼等が外部の協力者達との接触を図ることが多い新宿の喫茶店で飲むコーヒーを楽しみにしている節があるようだ。
比較的アキラと歳の近い、3人の少年達も、例外無くコーヒーを飲んで過ごす暫しの憩いの時間を好んでいた。
特に一際寡黙で、それでいて人好きのする長髪の青年はアキラと行動を共にした後は必ず喫茶フロリダに寄り、コーヒーを飲んでいる。恐らく彼は1人でも此処に来るのだろう。
「報告は概ねスマートフォンを通じて済ませてあるし、僕一人居なくても周るだろう」とのんびり宣ったのが信じられない。
彼はその若さに見合わず間違いなく悪魔討伐隊の要であった。
然しだからこそ、ある程度の「道草」がお目溢しされているのだろう。
そもそもが左程重要で無い任務を主に担うアキラは、ささやかなサボタージュに都合の良い連れであるらしかった。
初めこそ付き合いで、ミルクと砂糖を加えたコーヒーを飲んでいたアキラだが、度々喫茶店を訪れる内にその香りを芳しく思うようになった。
マスターがお試しに、と人の良い笑みを浮かべながら淹れた浅煎りのコーヒーを飲んでからは、すっかりその風味の虜になっていた。
それでも「もう砂糖とミルク入れないのかい?」とシュガーポットを差し出す青年に、律儀に「いりませんよ」と答えるやり取りは、毎回繰り返していた。
天井が出来てからのアキラは、以前の快活さやその他の感情を必要な時に取り出す道具のようにしていた。
兄弟のように慕っていた人間を喪い、日々減っていく隊員と肩を並べて戦い続ける日々は苛酷でしかない。
薄れていたように見えた天使への復讐心をより研ぎ澄まし、行動時には無水カフェインを、仮眠の時間には睡眠導入剤を服用している少年は、誰の眼からみても痛ましかった。
「アキラ、最近はコーヒーを飲まなくなったんだね。以前は時々、フロリダで見かけたけど。」
周囲の哨戒を終えたフジワラが、自分とツギハギ用にインスタントコーヒーを淹れながらアキラに話しかける。
並々と注がれた黒い液体を啜り、ツギハギもぼそり、と呟いた。
「フロリダか、懐かしいな。あいつも良く来ていたもんだ。」今じゃコーヒー豆も貴重品だ、とぼやくツギハギを尻目に、フジワラは微かに表情を強張らせ、アキラの方を盗み見た。
粉末紅茶を溶かしながら、アキラは微笑んでいる。
「僕、苦いのはあんまり好きじゃないんですよ。」
ミルクと砂糖がなければ飲めないな、と溜息を吐いた。