このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

真4・真4F

眼前に突き付けられた銃には、グリップにいくつも走る小さな傷と、細い指が握り混んだ痕跡がある。
かつて自分が使っていて、いつだったか定かではないが手放したピストルだろう。
悪魔との戦闘では玩具のような威力だ。隙を作るために用いるに過ぎない。

だがこうして人間の身に向けるなら間違いなく凶器だ。
トリガーに這わされた黒い爪が、鈍く部屋の明かりを照り返しているのを見つめながら、息を飲む。
「2代目ともあろうやつがゴミ回収か。飯もマトモに食えないのか?」
ハレルヤは身動ぎもしない。床に這いつくばったナナシに銃を向け、視線を注いでいる。
「ナナシ、何で逃げるんだ」
哀願するように絞り出された声に、腹の底を引き絞られるような感覚を覚える。
「逃げてない。少し外に出て、雨なんだなって思って、それだけだ」
そう、1m先も見渡せないような土砂降りの中に矢も盾もたまらず躍り出た。全て投げ出して駆けて行きたかった。数秒でハレルヤに捕まった。
「ここが不満か」
さっきまで胸ぐらを掴んで怒鳴っていた男が、所在ない子供のように声を震わせて問う。
「まあ狭いし暗いし、最高って訳じゃないけど。別に悪くもない」
靴がずぶ濡れで気持ち悪かった。シャワーを浴びて清潔な服を身に付けたい。

「俺を置いていくな」
祈るように呟くのが気に食わなかった。祈るべき神も縁たる悪魔も、殺したのは自分とハレルヤだった。
そこに打算が全くないと言えば嘘になるから、余計にばつが悪かった。

「今更どこに逃げるんだよ」
向けられた銃ごとハレルヤを抱き込んでキスをした。濡れた服越しに冷え冷えとした銃の形に触れるのが気持ち悪かった。

気持ちが悪かったから、抱き締めて、口付けて、気持ちのいいことをした。
17/37ページ