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真4・真4F

真っ赤だった視界が黄ばんだ白に、そして黒になる。
全身の痛みは確かにあるが、まるで他人の物のように遠く感じる。まぶたも、四肢も、ただただ重い。心だけが不思議と浮き足立っている。
傾ぐ身体を無理と動かす為に、腕に爪を立て自身へ呪いの言葉を吐く。「動け、このポンコツ…っ!」

戦闘の最中にありながら、痛覚も熱も誰の声も遠ざかっていく。斃すべき眼前の魔神は、手負いでありながら尚雄々しく優美な姿で立ち塞がり、「フン」と鼻を鳴らした。
「オレの選んだ神殺しが、その程度で弱音を吐くとは…見込み違いだったな」
言うが早いが、華麗に、強かに、脚を払い腕を薙ぎ重い拳を顔面に叩きつける。

正体を無くすほどの衝撃の中で、しかし確かに逆上する己を認識する。離しそうになった剣の柄を、蒼さすら越えてどす黒くなった指で握り直し、霞む眼で翠に輝く魔神の双眸を捉え、駈け出す。

耳には誰の声も届かない。眼には誰の姿も移さない。ただこの美しく恐ろしい魔神だけだ。最初から、あの黄泉路の改札からそうだった。今この瞬間も。それだけだ。
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