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真4・真4F

水浸しの床に転がったまま、視線を彷徨わせる。壁に剥き出しの配線が伝っている。天井に自分達が落下しながら開けた風穴が見える。良い吹き抜けだ。陰気でおどろおどろしい廃ビルが、明るく風通しの良い廃ビルになった。これで外道や悪霊がうじゃうじゃ湧いてくることも無いし、それを餌にする強力な悪魔が住み着いて結界を成すことも無いだろう。
3メートル程離れて、やはり仰向けに伸びた男を見つける。
「なあ死んだ?」
「…生きてるけど」
利き腕が酷く痛む。止血をしないと。どうにか衣嚢から魔石を取り出して握り込む。生暖かい光が微かに傷口を覆う。
虫が這うようにもがきながら立ち上がり、フラフラとハレルヤの元へ歩み寄る。薄紅の細い髪が汚水と悪魔の体液に塗れている。外傷は酷くないが、立ち上がれないようだ。大方魔力の変換が追いつかず、酷いめまいに苛まれているんだろう。意識があるだけでも人間離れしている。
靴で顎を小突こうとしたが、体重を支えるのがやっとだ。仕方が無いので髪を踏みにじる。軽く眉を顰めて嫌そうな顔を見せる。
「なんだ、脳味噌軽く吹き飛ばすつもりで行ったのに」
「バカ、なんで俺ごとアイスエイジ叩き込むんだよ」
「ぼくのこと置いてお熱くなってるから、お灸据えてやろうと思ってさ」
「氷でか」
胡乱な眼差しを寄越す。血のように鮮やかな赤色の眼球が、ぼやけて彩度が落ちている。心臓が冷える。唇を無意識に舐めている。
「頭冷えただろ」
「マグネタイトぐっちゃぐっちゃで気持ち悪りぃ…チャクラドロップくれるか?」
汚水の中に転がったポーチの底を漁る。チャクラドロップを二個、舌に乗せ、軽く転がし、噛み砕く。
ハレルヤに覆い被さり、口の中に飴の破片と、自分のマグネタイトを流し込む。ハレルヤの睫毛が少し震えて、瞳が輝きを取り戻すのを、白い肌に赤みが差すのを見て取る。腕から力が抜けて、姿勢を保てなくなった。
「ナナシ、ホント…嘘つけないよな」
うるさい、どうやってマグネタイトをごまかせってんだよ、ばか。そう叫びたかったが眠気が酷く、口が回らない。
「悪りぃな、心配させて」
泥のように眠り込んだナナシを抱えて、ハレルヤはその場を後にした。
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