■■■■さんは良く女物の香水の匂いをさせて遅くに帰ってくる
刹那に生きる人間の少しの現実逃避から醒めてきた目をしている。
■■■■さんはしょっちゅう悪魔の返り血と硝煙の匂いに塗れて遅くに帰ってくる
戦闘後の高揚を押し潰そうとした目をしている。
■■■■さんは時々清潔な石鹸の匂いをさせて僕を待っている 2人でコーヒーを飲む。
言い知れず穏やかな目をしている。この世の全てに肯定されているような。

僕は仲間が死んだ日、適当な女悪魔を仲魔にして抱く。
自分が生きていることに疑問など抱かなくても良くなるまで、欲に塗れ、飽いたら悪魔は捨てる。悪魔相手に与えるほどほど、豊かな情は持ち合わせていない。
僕は命乞いをする悪魔を殺した日、辺りがまっさらになるまで悪魔を殺し続ける。
かつてありとあらゆる天使を殺して回っていた小さな背中の君の感情をなぞろうとして、それはならない。
僕には戦う動機なんてない。なかった。

僕は人を殺した日 この手が汚れた日には 急いで帰ってシャワーを浴びる。清潔な石鹸の香りを纏って、何も知らない君とコーヒーを飲んでいる
。
それだけで十分満ち足りる。例え間違った選択をしていたとしても、君に僕に染み付いた死の香りを気取らせず過ごせるなら、それだけで十分報われる。

「■■■■さん、花の香りがします」
君の言葉に動揺する指先が悟られないよう、カップを持ち上げてコーヒーを啜る。
「花なんてあったかな？」
「戦ってる時にどこかで折っちゃったんじゃないですか？■■■■さん荒っぽいところあるから…」
確信はない、だけど君が嗅ぎ取る花の香りは、きっと僕に纏わり付いた死の香りだろう。
「そう？今後は気をつけるよ」
その花は違わずに散る。いつか、そう遠くないうちに。