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真4・真4F

各地に神話・伝承上の異形である悪魔が姿を現わすようになり、国際情勢も不穏な気配が漂う中で、あらゆる都市の機能は緩慢に減衰していった。
滞った流通の中で、あくまとうばつたうはどういうルートでか日々の糧に事足りる物資を仕入れていたが、余剰はない。
誰が先陣を切ったのか知る由もないが、マグネタイトを通じてアッシャー界に干渉する肉を得た悪魔を殺し、その肉を喰らう人間が現れたのも道理だった。

僕と友人も散々辺りの悪魔を穫り、その肉を持ち帰っては食べていた。悪魔の中にはその血や肉に毒を溜め込んでいるものもいるし、単純にこの世のものとは思えない酷い味がするものもある。
僕らは3人で、肉を食べる者、異常時にディスポイズンやパトラストーンで処置を行う者、肉の調理と毒性の有無と程度、食用に適すか否かを記録する者という風に役割を振っていた。
まあ、食べるのは何故かいつも僕だったが。

「だからやたらと悪魔の肉に詳しいんですね」
心底呆れています、という表情を浮かべて、アキラは苦々しげに述べた。
「そうそう、神経毒とか溶解毒とか、癖のあるなしとかを目的と用途によって使い分けてね」
「なんの話ですか?」
「嫌な先輩が一日中トイレに篭ってたら痛快じゃないかい?」
「…時効でしょうけどね、」
なんでまたそんな話を、と彼は胡乱げにしている。
「多少の茶目っ気はどんな状況でも大事だってことだよ。」
「■■■■さんのは悪意ですよ。」
「悪魔の肉って、妙な効果があるものがあってね。」

皮肉を当て擦られて露骨に話題をそらすと、うげ、と呻きを洩らす。
「君は今、何の肉を食べたと思う?」
「…フードの肉ではないんでしょうね。鳥のようだった…。」
「カラドリウスだよ。あれを食うとね。」
背中に綺麗な青い羽が生えてくるんだ。


アキラの身体が椅子から転げ落ち、くの字に折れ曲がる。
喉に指を突っ込んで、えづきながら、胃に納めたばかりのものをぶちまけた。
「うえっ、うっく、ぐあ」「アキラ」「は、うう、うあ」「アキラ!」
取り乱して携行用のナイフを腹に突き立てようとする。利き手をブーツで蹴り飛ばして丸腰にさせてから、汚れたままのアキラを抱きすくめた。
自らの背に爪を立てて、嫌、嫌と小さく啜り泣くように溢している。
「アキラ、アキラに羽根が生えても僕が切り落とすよ。君が人間で居られるように尽くすから。」
元より天使になどくれてやるつもりもない。

骨ばった肩から強張る指を外させながら、毒味も無しに知らないものを食べてはいけないよ、と嘯いた。
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