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真1


生まれ育った渋谷の地で、彼女は神の救いについて説かれ続けてきた。自分にある特別な魔法の力は、神によってもたらされ、人々を救うべきものなのだと。
そのことに疑問は抱かなかった。施すべき人に施し、抗うべく悪魔たちに抗った。メシア教徒としての在り方に抵抗などなかった。
だが自分の精神の奥深くに、蜘蛛の女悪魔---アルケニーが巣食った時、祈り、助けを求めたのは神ではなく、一人の少年だった。

悪魔使いの少年は、部屋の中ほどにうず高く積まれたモニターを見つめていた。
全ての画面に映し出された映像の中で、メシア教徒の少女がひたむきに神の救いと信じる心の重要性を説く。そして、ある少年と少女の行いを伝えている。
「渋谷の人達は、メシア様が居なくなって平気なのかな」
壁に凭れたまま、不意に少年が呟いた。
かつて悪魔に憑かれていた少女は、渋谷にあるビルの一角に幽閉されていた。サイコダイバーの助力を受けた少年と友人が少女の精神世界の奥底でアルケニーを殺した後は、ずっと行動を少年と共にしていた。
「私がいなくてもメシア教を信じる人は信じ続けるでしょうし、そうでない人もいるんじゃないかしら」
こともなげに少女は呟いた。
「私はプロバガンダの中に無数にあるアイコンの1つだっただけ。あれば円滑にことが進む、けれど無くたって支障はないパーツ」
換気の行き届いていない埃っぽい室内に、からりと落ちる声だった。
モニターの中の少女は、悪魔を使役する少年の在り方を憐れんでいる。あるいは、非難している。
「悲しくないの?」
何とは無しにモニターに目をやっていた少年が少女に向き直って問うた。
少女は子供っぽく肩を竦めた。
「まあ、あなたがいるから」
そうして胸元から、鈍く照る銀のロザリオを引き出した。
「祈る先には事欠かないの」
やおら掌に乗せたロザリオを床へと滑り落とし、ホルスターから抜いた銃を向けた。
重厚な輝きを放っていたロザリオが、弾丸に粉砕され、魔法が解けた砂のように砕けて霧散した。
銀の粉塵を爪先で弄びながら、少年はモニターを背にして部屋を出た。
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