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真1

大破壊後の東京のバーは、訳の分からない酒をよく分からないカクテルにして提供している。飲むと多少気分が良くなるのは事実だったが、30年前の新宿で店主の冷ややかな目を受けながら、窘めようとする友人と酒にあまり良い思いを抱いてないらしい友人を丸め込み、3人で飲んだ酒の味が恋しいのも事実だった。

二人ぶんの飲み物を注文し、カウンターに着く。
「座りなよ」
背後の少女を振り返えり、声をかける。だが少女は首を横に振って、その場に突っ立って動かない。
「私はいらないわ」
静かに少女が答える。
「なんであなたは戦いの真っ只中でお酒を飲もうなんて思えるのかしら」

少女は咎めるような言葉を溢しながらも、穏やかな眼差しで隣を示し続ける少年に根負けして席に着いた。
「私、水でいいわ」
店主が僅かに眉を顰めたが、直ぐに接客用の表情を貼り付けた。
「もう作っちゃったよー。捨てんの?」
「だってさ。飲んでけば良いじゃん」
少女は大袈裟に溜息をついて、こちらをじとりと見つめた。
視線を外して、爪先を注視しながら
「僕としてはシラフであんなことができる君を尊敬するけど」
と多少の揶揄いを含んだ賞賛を送った。
悪魔達が蔓延る荒野と廃墟となった東京において、血と硝煙の臭いから隔絶された場所など何処にもありはしない。その最中で生きることを由とし、凛と戦う少女の姿は美しい。

カチリ、とグラスが触れる涼やかな音がした。少女がカクテルを一息に呷る。
「何がおいしいのかちっともわからないわ」
店主の前で堂々と所見を述べる少女に苦笑する。
「思い出を飲んでるんだよ」
あまりに短かった日々の、鮮烈な輝きの名残が瞼の奥にこびりついている。
「あなたまだ未成年でしょ。思い出に浸るような歳でもないじゃない」
呆れるように少女は告げ、
「これ、お代ね」
カウンターにマッカを置くと、さっさと外へ出ていった。
その背を追うように、少年も店を後にした。
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