真1
辺り一面に焼けたタンパク質と微かなアルコールの匂いが漂っていた。少年と少女は辺りをうろついて、異変の原因を探っていた。
辛うじて形を留めている廃墟の影で、体格の良い男が死んでいる。背に一筋の裂傷が走り、頭部だけが炭化して崩れかかっていた。酒に酔ったデビルバスターが背部に不意の一撃をくらい、そのまま頭を焼かれたのだろう。肉体を貪る悪魔ではなかったから、マグネタイトだけを啜られて残骸は遺棄されたらしい。
少年はCOMPから魔獣を召喚する。銀の毛並みを持つ冥界の番犬の紅蓮の炎が、中途半端に残された男の肉体を焼かせた。死体を放置するとタチの悪い悪魔を誘引する。面倒ごとの芽は摘んでおいたほうが良いと、少年は考える。
うつむいて死体を覆う炎を眺めていると、不意に姿を見せていなかった少女が現れた。少年の隣に立つと、掌にそっと握っていた花を炎の中に投げた。痩せた土地で育った貧相な野花の白い花びらが、長細い茎が、薄い葉が、炎のなかで萎れ、燃えていく。
少女が眼を伏せて、しなやかな指を組み、頭を垂れた。見も知らぬ死者への祈りだった。死体と花を燃やす炎に照らされた横顔は、触れることを躊躇うほどに凛然と美しい。
少年は俯いた顔を上げ、ホルスターから銃を取った。弾丸を抜いて、銃口を空に向ける。
誰が聞くこともない空砲が、焦げ臭いビルの隙間に響いた。
辛うじて形を留めている廃墟の影で、体格の良い男が死んでいる。背に一筋の裂傷が走り、頭部だけが炭化して崩れかかっていた。酒に酔ったデビルバスターが背部に不意の一撃をくらい、そのまま頭を焼かれたのだろう。肉体を貪る悪魔ではなかったから、マグネタイトだけを啜られて残骸は遺棄されたらしい。
少年はCOMPから魔獣を召喚する。銀の毛並みを持つ冥界の番犬の紅蓮の炎が、中途半端に残された男の肉体を焼かせた。死体を放置するとタチの悪い悪魔を誘引する。面倒ごとの芽は摘んでおいたほうが良いと、少年は考える。
うつむいて死体を覆う炎を眺めていると、不意に姿を見せていなかった少女が現れた。少年の隣に立つと、掌にそっと握っていた花を炎の中に投げた。痩せた土地で育った貧相な野花の白い花びらが、長細い茎が、薄い葉が、炎のなかで萎れ、燃えていく。
少女が眼を伏せて、しなやかな指を組み、頭を垂れた。見も知らぬ死者への祈りだった。死体と花を燃やす炎に照らされた横顔は、触れることを躊躇うほどに凛然と美しい。
少年は俯いた顔を上げ、ホルスターから銃を取った。弾丸を抜いて、銃口を空に向ける。
誰が聞くこともない空砲が、焦げ臭いビルの隙間に響いた。