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STORY 2 出る前に負けること考えるバカがいるかよ

___ 2ヶ月前。

「……は?マトリ?」
「それが俺の本職だ。……お前、自分から聞いといてその阿呆面やめろ」

もしかしたらヤクザかもしれないとか思ってた俺の身にもなってくれ。
口封じでなんなら殺されるかと思った。良かった、駅前でお持ち帰りした牛丼食べられて。
宣言通り、あの夜当たり前の顔をして部屋に上がり込んできた今大路さんは、「寒い」と鼻を鳴らす。今帰ってきたんだから寒いに決まってるんだろ。

「…………あの掴みかかって挙げ句の果てに気絶させてた方は」
「仕事の取締りで締め上げた輩の残党」

(……物騒すぎる……)

胃がキリキリしてきた。ストレスと過労の音がする。エスカップ飲んで寝ないと死ぬて……。
そっと現実と今大路さんから目を逸らした俺に気づいたのか、彼は人の家のソファーでふんぞり返った。

「で?」
「『で?』?」

何の話?俺は牛丼に溶く卵と付け合わせの紅生姜と七味を取り出しながら彼を振り返る。
訝しげに目を細めながら、今大路さんが俺の行動を少しでも見逃すまいと凝視していた。
だから視線グサグサ刺さるんだって……。

「お前はなんなんだよ。人畜無害みたいな顔してるけど警戒心無いわ?マンションは(ほぼ)隣室だわ?なんなんだ、差し詰めストーカーか?」
「ふざけんな不法侵入者、塩撒きますよ」

カウンターに羅列している調味料の中から塩を構えて今大路さんを睨む。なんだよ人畜無害って。その通りですけど??

「仕事柄、色々あんだよ。で?若宮瑞貴。お前は何が目的なんだ?返答次第では締める」
「……牛丼食べさせてください」
「は?その前にこっちの話「あっそうですか、じゃあ……あれ……」……んだよ」

「俺、フルネーム名乗りました?」

鍵を渡した時に苗字は名乗った記憶あるけど名前は無い。
ゾッとして今大路さんを見つめると、薄ら笑いを浮かべて手をヒラヒラ振った。

「調べた」
「え」
「冗談に決まってんだろ」
「え?」
「………」

どっちだよ!思わず牛丼の器を引き寄せて譲るもんかとキープする。哀れみの目で見られた。

「あんたが俺のとこ尋ねたみたいに俺も受付であんたのこと調べただけだ。別に個人情報保護法には反してねぇよ」

(国家公務員に言われると妙な説得力があるな……)

俺は取り敢えずそういうことにしておくことにする。

「……じゃあもう1つ。いや、その、いまおーじさんそれが素なんですよね。普段、疲れないんですか」


……一瞬、今大路さんは狼狽するかのように瞳孔を開かせた。
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