これは悲劇に悲劇が重なった、いたって恣意である非日常。
ただ、俺はこのふと迷路に迷い込んだかの様な『始まり』であることに気付いていなかったのだ。

どこからが“詐り”でどこからが“真実”か。
真相は未だ知り得ない。

⭐︎

「あっははははは！！」
「おい、いつまで笑い転げてんだ蹴飛ばすぞ」
「足癖悪すぎじゃないですか、はー……ふふっ、だめだ笑いが止まらない」

ゲラゲラ笑い続ける俺に瞋恚の炎を滲ませて今大路さんがクッションを蹴飛ばしてきた。
いや、だって。だって、この今大路さんが！！今大路が！！！

「よりによって泉さんにバレるだなんて間抜けにも程がある……ふはっ、」
「うるせー、お前も南米に飛ばしてやろーか。確か英語出来ねーよな、苦労しろ」

今大路さんと不思議な関係が始まってから早2ヶ月。
何故か俺の許可なく合鍵を作りやがって、勝手に俺の部屋を訪れるようになった。
いや、その気になれば訴えれるけど。今大路さんの目が殺すって言ってる。

そしてもうひとつ。今大路さんの職業のことについて。
その美麗さからホストでもやってんのかと思いきや麻薬取締官＿＿＿ 麻薬Gメン、マトリとかなんて言われてる国家公務員だったことだ。
予想外すぎて思わず牛丼を吐きかけた事は内緒だ。誰だよ、医者かな？なんて言った人。
顔よし頭よし公務員？なんだよそのフルコンボ。せめて頭ぐらい譲って欲しかった。

どうやら不定期で金曜に行われる飲み会で素を出さないように飲酒を控えてるらしく、俺の部屋に缶ビールを持って上がり込んだ瞬間盛大に悪酔いし始めるのだ。そして酔った拍子に職場の事をぼろぼろ漏らすようになった。

（『そんなにあの女が大事なんだったらせいぜい企業秘密をぽろっとばらさない事だな』って言った人と同一人物なの信じられないな……）

ちらり、と不貞腐れる今大路さんを見つめると「んだよ」と口を尖らせられる。
職場で装ってる分の跳ね返りがひどい。やめてほしい。

「で、どうするんですか……確かいまおーじさんが好きな人じゃなかったでしたっけ」
「なんで好きになんだよ、あんなやつ」
「はぁ？ただの口止めだけに泉さんの家押しかけたんですか？俺下心があると」
「はっ倒すぞ」

密かに恋心を抱いているらしき職場で唯一の女性に本性が露呈したとのこと。
詳しくは聞いていないが特殊な事情でマトリのメンバーに加わったらしい。
「色気がねぇ、色気が」なんてその女性の事を以前今大路さんが言ってたのを思い出す。
多分色気だけはムンムンにある今大路さんに誰も言われたくないと思う。

「で、泉さんはなんて？」
「……地球がひっくり返ったって堕ちないって啖呵切られた」
「あっははははははははははは！！」

今だけはいい気味だと思うのは悪くないと思う。