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第1章 あなたと友人になれたら

とにかく帰る手立てを探さなければ。
そう思い立っていた最中、1人の兵士がドラモンドに駆け寄る。息が上がって苦しそうだ。

「ドラモンド様!ご報告が……。」
「なに!?魔法使いどもが!?」

ボソボソ交わされる言葉はあまり聞こえない。けれど、ドラモンドの顔色に焦燥が燻る。

「まずいぞ。あいつらがやってくる前に、急いで賢者を丸めこ……。」

……なんか聞こえた気がする。
俺が眉を上げかけようとしたのを目にし、ドラモンドはわざとらしく咳払いした。

「ごほん!賢者様と親しくならないと!賢者様、中央の国の城へ急ぎましょう!」
「待ってください!全然意味がわからないです!」

脅しをかけるように、周りを取り囲まれて、俺は必死に首を振った。
情けないが本当に理解が追いつかない。異質な空気に肌がざわつく。
夢ならはやく醒めてほしい。そう強く願って。俺はドラモンドに造反する。

「俺、あんまり、RPGやらないんで、いいリアクションできないです!連れて行くなら、他の人を……。」

ドラモンドはそこで初めて俺に対して笑顔を剥いだ。そこにあったのは権力者の顔。
眉を釣り上げて俺を下から睨みあげる。

「力づくでも来ていただきますぞ!おまえたち!」
「…………!」

身に危険が迫ってる。本来なら眠っていた筈の第六感が“逃げろ”と叫ぶ。
ドラモンドは話が通じない。誰1人として信頼を預けられる人がいない。信じられるのは自分だけだった。
その場から、逃げ出そうとした途端、兵隊たちが剣を抜き放った。抜刀の音に胃が萎縮する。あまりの容赦のなさに足が震えた。視界が一瞬ブラックアウトする。

「ドラモンド様、やりすぎじゃ……。」
「うるさい!悪いのは魔法使いどもだ!」

やんわりとクックロビンが制止の声をかけるが熱り立ったドラモンドの耳には届かない。
俺は焦慮しながら周囲を見渡した。銀色の剣が、物騒にぎらぎら光る。それは小道具や演出用の玩具みたいな剣ではなかった。

“本物”に身紛う、刃のきらめきに俺は青ざめた。

(やばい!この人たち、ちょっとおかしい!)

剣の切先を心なしか喉笛に充てられてる気がして息が上手く出来ない。
どうしよう、どうしたら。頭の中は目まぐるしく動く現状についていけずどうしようもない。

______ 一際強い風が塔内を吹き抜けた。

この世界でも風は吹くのか……。
こんな瀬戸際でやけになりながら考えつつ俺は塔の外が窺える窓へと視線を向ける。

「 ____________!!!!」

風に煽られながら女性の声を聴いた気がした。
それは決して小さくはなく悲鳴のようであり怒声のようでもあった。
全員が聴こえたらしく一同は怪訝に窓の外を見遣る。顎をしゃくっていたドラモンドさえも。
俺たちが動きを止めて窓の外を見たのを何処かから認識したらしきその声主は更に声を張り上げて。

「ふっざけんじゃないわよ、この老ぼれ!!!!」

痛罵した。
俺はポカンと口を開けて瞬きする。…………声が若い。高校生ぐらいの声の張りだった。

「……この、声は…………!!!」

一瞬俺と同じように瞠目し固まっていたドラモンドが眉を寄せて唸る。どうやら聞き覚えがあるようだった。それにしても、どこから。俺は目を細めて____ 。

その時、窓の向こうの空から、近づいてくる影が見えた。箒にまたがって空を飛ぶ、二人の青年と一人の乙女が。その乙女が前にいる青年の服の裾を掴みながら声高らかに叫んでいた。
遠くからでも分かるくらいその表情を歪ませて。

「もう一度言うわ、賢者様から剣を収めなさい!!!!」

(空を飛んでる……!?)

グングン近づいてくる人影は徐々に髪色や服の色などが分かるくらいのスピードでこちらに接近してくる。驚異的な速さで近づいていくそれに剣を向けられた時とは違った恐怖を覚えた。

(な……。なんだあれ……。窓の外もバーチャル映像……?)

どこかにある仕掛けを探そうと目を凝らした時……。
彼らが窓をすり抜けて、俺の目の前に、ふわりと降り立った。

本物の風を巻き上げながら。

(え……?)

「エイル、本当に大丈夫?顔色がだいぶ優れないけど……」
「だ、大丈夫……ヒースごめんね箒に乗せて貰っちゃって……」

金髪の青年が同じく金髪の乙女に声をかける。先程の怒声は目の前で目を回しかけている乙女から発せられたのか。そう疑ってしまうぐらい細身の少女だった。よろよろ立ち上がる様子からに相当調子が良くないのか、顔が真っ白だ。

蹲りそうになってる少女の様子を懸念しながら手品のように、一瞬で箒を消して、彼らが俺の両側に立つ。
1人は緋色の髪に蜂蜜色の瞳が良く似合う体格の良い青年だった。騎士のような勇猛さと気品さを兼ねそろえている。所謂目隠れ、片目は隠されているがそれだけでも充分に整った顔立ちの青年だと気付かされた。
そしてもう1人もとんでもない美青年だった。碧眼には知性がちらばめられており隣に並ぶ彼とはまた違った気品さがある。貴族のような華々しささえあった。

圧倒的な顔面の良さに俺は酷く内心で驚愕する。か、かっこよすぎではないか?
そう思いながら金髪の青年の箒に乗っていた乙女を見つめる。
濃紅色の瞳にはどこか疲弊しきった疲労の色が見え隠れしており、何故か頬に擦傷らしきものが走っているが彼女もまた綺麗な顔立ちをしていた。金髪は輪っか結びツインテールになってたらしいが紐が切れたのか片方が垂れ下がっている。

全員所々に擦傷が衣服に出来ており息も上がっていて苦しそうだった。
それでも瞳に宿る精気は失ってはおらずその眼光は俺を囲んでいた兵士とドラモンドに向けられている。

「おまえらの言った通りだな、ヒース、エイル。まさか、魔法管理省のやつらが、賢者をさらいに来るとは。」

金髪の乙女からも赤髪の青年からにもヒースと呼ばれた青年は顔を微かに曇らせて口を開く。

「言っただろ。……人間たちは俺たちを信用しない。」
「まぁ、そうだろうとは思ったけど案の定って感じね……」

エイルと呼ばれた少女は気怠げにかぶりを振って溜息を吐く。
俺はそのやりとりに驚いて、交互に3人を見やった。
背の高い、精悍な青年の方が、俺を振り返る。その瞳は左右の色が違った。
虹彩異色症なんて難しい言葉で言うが要するにオッドアイだ。思わず魅入りそうになる。
そんな俺に精悍な青年は屈託ない笑みを浮かべた。

「あんたが新しい賢者様か?」
「え……?」

まるで朋友のように話しかけられ困惑する俺をよそに、青年はマントをはためかせて名乗りを上げた。

「俺は中央の国の魔法使いカイン。あんたを守る騎士でもある。あんたの名前は?」
「あ……。晶です……。」

名乗ってしまった。まだ名前しか分からない赤の他人に。こんな事絶対しないはずなのに。
ありきたりな名前ではあるけれど立派な一個人情報だ。思わず、名前を答えると、カインと名乗った青年は口端を上げて、笑顔を見せた。そして恭しい仕草で一礼する。

「晶様。よろしくな。まずはこいつらをなんとかしよう。」

そう不敵に笑って、腰に下げていた剣を引き抜く。
他の兵隊たちの剣とは段違いの、見事な装飾と、研ぎ澄まされた刃の、立派そうな剣だった。
その剣構えに至るまでの所作がとても流麗で思わず惚れかけ、俺はその煌びやかさに内包する鋭利さに喉が震える。まるで本当に騎士のようだ。

(こ……、この剣は本物……?)

俺が緊張を覚えると、兵隊たちの間にも動揺が走っていた。内、何人かが御見逸れしたかのような反応をする。

「か、カイン騎士団長様……。」
「カイン騎士団長だ……!」

“騎士団長?”
俺は思わずはくはく口を開く。あまりの事態に酸素不足だった。

「ええい、元・騎士団長だ!もうおまえたちの指揮官ではない!
カイン!大臣である私に剣を向けるなど、反逆罪で処罰するぞ!」

凄む様に口調を荒げながら怒鳴るドラモンドはカインへと怒号の声を上げる。
エイルと呼ばれた少女は眉を吊り上げて襟筋辺りをひっ掴もうとする勢いで一歩踏み出すも、ヒースと呼ばれた青年に止められ、かぶりを振る。そのやりとりが何を意味してるかは判らなかった。ただ、カインはそんな2人をチラリと少し見遣り、平然と言い返した。

「俺だって、老人を脅したくはないさ。だが、俺たちの賢者様に、妙な真似をするというなら、話は別だ。悪いが手加減はしないぜ。」
「…………っ。」

笑顔は潜められ毅然とした態度で切り返すカインの迫力はなかなかだった。何人かの兵士が息を呑む音が聞こえた。そんな兵士達にカインはちょっと眉を下げて優然に笑みを浮かべる。

「おいおい、二の足を踏むな。敵の気迫に飲まれるなと教えただろ?腹を据えて、向かってこい。相手が俺でもだ。

___ ほら、来いよ。」

剣を構え直しながら、目を離せないカリスマを放ちながら、カインはこのよく分からない混沌とした事態に片をつけるための狼煙を上げた。
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