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スピンオフ

「あの、すいませんいまおーじさん」
「なんだよ」
「……あの、キャベツとレタスの違いってご存知ですか」

………沈黙。

「知らない」
「帰国子女言い訳になりませんからね、普通に自炊してたら違いわかるから、キャベツとレタスぐらい」
「うるせー」

俺のエプロンの紐をくるくる指先で遊びながら今大路さんは興味なさげに手元を覗き込む。
頭一つ分近い、彼に体重をかけられてぐえ、と悲鳴を溢しそうになった。粉骨砕身してあちこち関節が痛んでる我が体がぐぎり嫌な音を立てる。

「お前が安いやつ買ってこいって言ったんだろ」
「だから値段が安いキャベツ買ってきたんですか!?果たして馬鹿ですか」
「ピーピー騒ぐなよ、処女か」

黙れスケコマシ腹黒男!!俺はお玉で彼の頭を当たらない程度で殴る。
貞操観念をお前はどこに置いてきたんだ。南米の海ですか??

契約外である日曜になんで彼の昼餉を作っているのか。
俺は甚だ自分のお人好しさに呆れながら再び溜息を吐いた。
予定変更となった厚揚げ豚キャベツ炒めががらんどうだったキッチンに、ごみ溜めの部屋中に香ばしい匂いを醸す。

「お前肩ガッチガチじゃん。また仕事押し付けられたのかよ」
「そーですよ、それに誰かの子守」
「ガキじゃねぇよ」
「ムキにならないでください。ほら、そこ味噌溶いて」

はーーー、和食万歳。作った自分が言うのもなんだが、和食の手料理程美味い物はない。
どちらかといえば洋食派の今大路さんが最近リクエストに和食を上げるのは多分俺の影響だろう。素直に美味しいといえばいいのに。割とツッパリである。

「ビール足りねぇな、買ってくる」
「……昼から飲まないでください、片付け誰がやるんですか????」
「だからお前呼んだんだろ」

頭に分厚い手が乗せられそのまま髪をいじられる。……俺は家畜か?

「はーーーー、いつかいまおーじさんのこと熱々のおでんの中に顔毎突っ込んでやる……」
「へー、冬までは契約してくれると」
「絶対いや!!!!!」

キャベツとレタスの違いが分からないような腹黒スケコマシは俺の叫び声にくつくつと笑う。
その顔を見て嫌な気がしない俺は幾分情けない。
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