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STORY 1 千里の道を一歩目からすっ転ぶ

「こんばんは、今夜は月が綺麗ですね」

こんばんは、とりあえず死ねと副音声すら聞こえてきそうで引きつった悲鳴が溢れる。

「こ、こ、んばんは……そんなに急いでどうしましたか……」
「若宮さんに大至急問いたい事が出来てしまって」

にこ、と満点をあげたくなるほどの笑顔で距離を縮めてくる今大路さん。
そしてその直後、思い切り俺の頬をつねり上げてきた。音にならない絶叫を漏らす。

「_________一体どこから聞いてたんだよ」
「い、いひゃい」

ギリギリつねり上げて顔を覗き込んできた今大路さんから俺は必死に目を背ける。
第三者から見たらどう捉えるだろう。いい歳した成人男性が戯れあっているように見えるだろうか??いや、見えなくない?どう考えても見えなくない?

表向きの姿_________ だという事にして ________ から一瞬にして素体に戻った今大路さんはあの爽やかな顔立ちも一転、鼻に皺を寄せまくっている。不機嫌オーラが肌に伝わってきて焼け焦げになりそうだった。

「答えろよ、どこから見てた?」
「え……と、自白剤がうんたらかんたら」
「は?最初からじゃねぇか」
「……TPOが最悪なコンディションだったんですよ」

しかめっ面で「阿呆か、お前」と言いたげな顔を浮かべながらようやく彼は手を離してくれた。
何やら色々彼に言いたいけれど色々言いたすぎて優先順位が付けられない。
とりあえずつねられた頬を軽く摩る。

「………ったく、まさかこんな蒟蒻みたいな奴にバレるとはな」
「心の声思い切り漏れてます、悪かったですね蒟蒻で。こちとら過労死の疑いがかかってる何て事ない凡人なんです」

しかも辛辣塩男と来た。
彼に勝手に抱いていた理想像が大きく音を立てて崩壊する。こんなゲームみたいな展開あっていいのかは非常に甲乙つけがたい。勿論悪い意味。

「ってわけで行くぞ」

ぐしゃぐしゃ髪を乱しながら、今大路さんは俺の腕を掴む。パーティ会場なんかでエスコートされるかのように連行されかけて慌てて俺はなけなしの握力で踏みとどまった。
今大路さんから途端に非難に満ちた眼差しが刺さる。眼力で何かを訴えるのやめてほしい。

「ど、どこにですか」
「何ってお前の部屋」
「は、はぁ!?なんでですか」
「別に取って喰いはしねぇよ」
「そーゆー事じゃなくて」

何を考えてるんだ、この人。上がらせるわけないだろ!
そんなの詳しい詳細情報を吐かせるつもりか、はたまた先ほどよりも数割気魄の籠もった脅しをされるかの2択でしかない。そんなバッドエンドごめんだ。

「いまおーじさんの事情なんですからいまおーじさんの部屋に行くべきでは……」
「は?いやだ」

何がいやだ、だ!この二面性王子!!!

「いい歳した大人が何言ってるんですか子供みたいな駄々こねないでください、まじで軽蔑しますよ」
「うるせー、お前の鍵何処だよ」

なんなんだ、このドデカお子様は!!
理想像は無残に砂一粒残さずに崩れていく。残念美男子か……と今更、彼の本性に気づき、思わずその場で頭を抱えそうになった。
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