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第1章 あなたと友人になれたら

________ ただ、奇蹟を祈るしかなかった。


「はぁ……はぁ……」

額を止めどなく流れる汗を拭い私は軽く喘ぐ。心臓が壊れそうなほどはやく脈打つ。
酸素を求め微かに口を開ける。熱い息が溢れる。

(やっぱり、出来ない。魔力が練り上げられる様な感触がないわ……)

何度か魔道具である医学書を掲げ呪文を唱えるが一向に効果が無い。
1回の使用だけでも心身に負担が掛かる治癒魔術を何度も乱発しているせいか後、3回程しか使えないのが直感で判る。しかも、時折苦しげに息をする彼に全く効いている気配もない。

私は焦りを以って頭をゆるゆる振った。

______ 隣で静観する男に向かって。

「オズ、私の魔法が一向に効きません。今は薬草で傷の進行を抑えていますが時間の問題です。きっとこのままだと……彼は……」
「………」

紅色の瞳が濃い闇色の前髪の中で静かに瞬く。微かに唸った彼は数秒のち同じく頭を振った。
彼が発する前にその意図を汲み取ってしまい束の間絶望で胸が詰まる。

「……私も魔力が戻らない。恐らく賢者がいなければ力尽きることになるだろう」
「そん、な賢者様が……」

厄災との戦い中忽然と姿を消してしまった賢者様を思い起こそうとしてはた、と我にかえる。
どくん、と嫌な音を立てて過労働していた心臓が脈打った。

「賢者様……名前は、なんだっけ……なんでしたっけ……!?」

思わず座っていた簡易椅子を倒して立ち上がる。オズが怪訝そうに私を見つめ押し黙った。
何故、何故、何故?

(疲れてるだけ?いや、そんな筈ないわ…なんで思い出せない?)

いつも賢者の書を大事そうに持ち抱えていた事、最初にこの世界に訪れた頃は困惑していた事、……それと、それと……??

「……エイル、恐怖に巣食われるな」

オズの平坦な声に私は咄嗟に背筋を伸ばす。
どうやら下の階にいるらしき北の魔法使い達に現状を報告するつもりなのか、立ち上がったオズに慌てて頭を下げた。

「ごめんなさい、もしかしたらオズなら、と呼んでしまい……」
「……構わない。」

その一言だけでも、救われた気がした。ドアが閉まった事を確認するなり私は床下にへたり込む。

(っ、やばい、魔力使いすぎて、無気力に……)

ぜいぜい荒い息を吐きながら私は必死に奇蹟を願う。
ファウストがいなくなったら、ファウストがいなくなってしまったら。

(なんで、こんなことになったんだろうか……)

人間達から浴びるであろう悪口雑言が浮かび上がり、私は頬を稲妻の様に走る横断傷に指を添え乾いた笑みを浮かべた。厄災から食らった傷ではないことに一層ずきりと痛む。

けれど、それでも、願わずにはいられない。新たな賢者様の景星鳳凰を。
この半壊しかけた世界の、救済を。
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