番外編
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「……ねぇ」
「…………?」
「『いかないでほしい』『帰らないで欲しい』って言ったら困る」
返事を聞く前に指先を絡める。そのまま軽く手繰り寄せれば少しの逡巡の後、控えめな微熱がきゅ、と俺の手を包み返した。
彼女は眉を情けないほどに下げて此方を見つめる。何か言いたそうに、でも言えなさそうに。そんな彼女を見て俺は少し目尻を下げた。鏡花はますます眉を下げて今度は強く確かな意思を持って俺の手を握り返す。
「……困る」
目を合わせてくれないのは俺の我儘に呆れてる“フリ”で。
隣に溜息をつきながら腰を下ろした彼女は少し目の縁が赤かった。それを隠しきれてないところ。お世辞にも綺麗とは言えないけれど。
「俺も根性ひん曲がってるとは言え、一応恋してる男なんだよね」
カワイイ。
歪んでいるようで何よりも正直で純情な感情を吐露してしまうにはあまりにも今は迂闊だったから。俺は瞬き少なめにゆっくりと視線を合わせた。
元から感情豊かではあったけど。こんなに弱りきった顔を易々と見せる人ではなかった。いつも追従笑いを薄く浮かべているか、いつもちょっと怒っているか。ちょっと困ってるか。俺もそれなりに自己犠牲精神は強めだと思うけど。彼女も相当だ。
「……今、大河くんの部屋行ったら絶対、泣、泣くからイヤだったのに」
彼女の中の俺がボヤけた。拭おうともしない其れをコワレモノを扱うように俺のもうひとつの手が掬う。俺の手に縋るように彼女の長い睫毛が触れた。強ばったまま寄せられた身体を受け止めれば、酷く肩を震わせて鏡花は小さく泣いた。
「恋まで献身的になると疲れるよ。俺相手なんだから気ぃ抜けばいいのに」
「……それが、わかん、ないんでしょ、莫迦」
「似てない」
彼女の事だから俺の負担にならないようにって。俺の迷惑にならないようにって。きっとそればっかりなのだろう。俺にはちゃんと本音で、ありのままで接して欲しいってあんなに言うのに。それはお互い様。お互い誰かに頼るのが極端に下手で意気地無しなのに。
「私、……後の事全然考えてなかった。傍にいたい。一緒に、いたい。大河くんが心から笑えてるところをみたいって。それ、ばっかりで。これから、明日から離れることがキツいなんて、私……」
あぁもう。とっくに笑えてるのに。俺は無言で彼女を抱き締める。識ってたよ、センパイ。最初に想いを披瀝してきた時。返事、求めてこなかったもんな。今ならソレが鏡花が唯一俺に零した俺にしか許せない我儘だった事も解る。
「……鏡花は予め定められたレールを敷いたような恋がしたかった」
「っちが、…………あっ……」
「2人で、考えるんじゃないの。両思いからのノウハウは」
恋の魔物はとんでもない「初恋」を彼女に振りかざしてきた。
「恋」は人によっては不治の病で。流行病で。完治出来ずにズルズル引き摺ったり、ケロリと完治し愛へと病名を変える人もいる。
……いや、もしかしたら。誰に対しても恋の魔物はそうなのかもしれない。“憧れ”と騙って初恋を奪ったりするぐらいなのだから。
そんなことを考えながら俺は耳朶にそっと口元を寄せる。
恋の魔物に嘲笑われるのが悔しいから。
「鏡花は、俺に好かれてる自覚を持って」
その言葉を聞くのは、貴女だけでいい。
腕の中で泣き崩れた恋人は俺のジャージを強く掴んだ。血管が少し浮かぶその拳はかさついていて小さかった。
……泣かせてばかりで、ごめん。目頭が尋常じゃないほど熱い気がした。静かに俺は睫毛を伏せる。
「……たい、がくんさぁ〜……」
「……なんですか」
「…………好きになってくれて、ありがとう……」
そう言ってくしゃりと笑う。
泣き腫らした鏡花の顔は形容しがたいほどになかなかだった。でも、それが何よりも愛しくてなにに変えても護りたい笑顔だった。
「……泣き顔やっば」
「み、見苦しくてごめん……」
「いや?多分鏡花が思ってるあれじゃないよ」
貴女に。必ず迎えに行くから待ってて欲しい。
なんてそんなあやふやな仮約束は出来ない。
そして彼女は待ち続けてはくれないだろう。
大門 鏡花は確かに『恋』をした少女だったが、ラベンダーではないのだから。
「…………?」
「『いかないでほしい』『帰らないで欲しい』って言ったら困る」
返事を聞く前に指先を絡める。そのまま軽く手繰り寄せれば少しの逡巡の後、控えめな微熱がきゅ、と俺の手を包み返した。
彼女は眉を情けないほどに下げて此方を見つめる。何か言いたそうに、でも言えなさそうに。そんな彼女を見て俺は少し目尻を下げた。鏡花はますます眉を下げて今度は強く確かな意思を持って俺の手を握り返す。
「……困る」
目を合わせてくれないのは俺の我儘に呆れてる“フリ”で。
隣に溜息をつきながら腰を下ろした彼女は少し目の縁が赤かった。それを隠しきれてないところ。お世辞にも綺麗とは言えないけれど。
「俺も根性ひん曲がってるとは言え、一応恋してる男なんだよね」
カワイイ。
歪んでいるようで何よりも正直で純情な感情を吐露してしまうにはあまりにも今は迂闊だったから。俺は瞬き少なめにゆっくりと視線を合わせた。
元から感情豊かではあったけど。こんなに弱りきった顔を易々と見せる人ではなかった。いつも追従笑いを薄く浮かべているか、いつもちょっと怒っているか。ちょっと困ってるか。俺もそれなりに自己犠牲精神は強めだと思うけど。彼女も相当だ。
「……今、大河くんの部屋行ったら絶対、泣、泣くからイヤだったのに」
彼女の中の俺がボヤけた。拭おうともしない其れをコワレモノを扱うように俺のもうひとつの手が掬う。俺の手に縋るように彼女の長い睫毛が触れた。強ばったまま寄せられた身体を受け止めれば、酷く肩を震わせて鏡花は小さく泣いた。
「恋まで献身的になると疲れるよ。俺相手なんだから気ぃ抜けばいいのに」
「……それが、わかん、ないんでしょ、莫迦」
「似てない」
彼女の事だから俺の負担にならないようにって。俺の迷惑にならないようにって。きっとそればっかりなのだろう。俺にはちゃんと本音で、ありのままで接して欲しいってあんなに言うのに。それはお互い様。お互い誰かに頼るのが極端に下手で意気地無しなのに。
「私、……後の事全然考えてなかった。傍にいたい。一緒に、いたい。大河くんが心から笑えてるところをみたいって。それ、ばっかりで。これから、明日から離れることがキツいなんて、私……」
あぁもう。とっくに笑えてるのに。俺は無言で彼女を抱き締める。識ってたよ、センパイ。最初に想いを披瀝してきた時。返事、求めてこなかったもんな。今ならソレが鏡花が唯一俺に零した俺にしか許せない我儘だった事も解る。
「……鏡花は予め定められたレールを敷いたような恋がしたかった」
「っちが、…………あっ……」
「2人で、考えるんじゃないの。両思いからのノウハウは」
恋の魔物はとんでもない「初恋」を彼女に振りかざしてきた。
「恋」は人によっては不治の病で。流行病で。完治出来ずにズルズル引き摺ったり、ケロリと完治し愛へと病名を変える人もいる。
……いや、もしかしたら。誰に対しても恋の魔物はそうなのかもしれない。“憧れ”と騙って初恋を奪ったりするぐらいなのだから。
そんなことを考えながら俺は耳朶にそっと口元を寄せる。
恋の魔物に嘲笑われるのが悔しいから。
「鏡花は、俺に好かれてる自覚を持って」
その言葉を聞くのは、貴女だけでいい。
腕の中で泣き崩れた恋人は俺のジャージを強く掴んだ。血管が少し浮かぶその拳はかさついていて小さかった。
……泣かせてばかりで、ごめん。目頭が尋常じゃないほど熱い気がした。静かに俺は睫毛を伏せる。
「……たい、がくんさぁ〜……」
「……なんですか」
「…………好きになってくれて、ありがとう……」
そう言ってくしゃりと笑う。
泣き腫らした鏡花の顔は形容しがたいほどになかなかだった。でも、それが何よりも愛しくてなにに変えても護りたい笑顔だった。
「……泣き顔やっば」
「み、見苦しくてごめん……」
「いや?多分鏡花が思ってるあれじゃないよ」
貴女に。必ず迎えに行くから待ってて欲しい。
なんてそんなあやふやな仮約束は出来ない。
そして彼女は待ち続けてはくれないだろう。
大門 鏡花は確かに『恋』をした少女だったが、ラベンダーではないのだから。