番外編
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水月くんと付き合い始めて数ヶ月。
まだ、知らないことが、あった。
「連絡先」
私はベットで仰向けになりながら天井を仰ぐ。
イナズマジャパンメンバー専用の連絡ツールがあるからすっかり忘れてた。私、もしかしなくても水月くん個人の連絡先知らなくない?緩慢な動作でLINEを開いてみれば、やっぱりというか案の定というか。彼の名前は無かった。
「今更過ぎる……」
LINEなんてしなくても同じ屋根の下(語弊)にいるわけだし、彼の部屋に乗り込めば大抵伝えたい事は伝えられてたわけだし。そ、そもそも私途中参加だからタイミング逃したってのもあるし。初対面でいきなり連絡先交換はちょっと軽いじゃん……
なんて正当化してみても、曲がりなりにも付き合いを続けてた水月くんの連絡先を知らない事実に段々焦燥感が生まれる。一応、か、彼女なんだけど。
日本に帰国する際に聞けばいいのかな。遅過ぎる?自然な感じで言えるとは思うけどあまりにもそれはまずいかな。……い、いやこのタイミングで聞く方もまずい。ど、どうしよう。誰か水月くんのLINE持ってたりしないかな。いや、でも直接聞いた方が迷惑かからないし、………。
何度か脳内で水月くんにさり気ない感じで連絡先を聞く段取りを立てるものの、羞恥心やら気まずさやらで私はベッドの上で思わずゴロゴロしてしまう。そもそもなんで緊張してるんだろ、ただ聞くだけなのに。
「それが出来たら苦労しないのになぁ……」
付き合い始めてから、どうしても彼と顔を合わせると照れが入ってしまってダメなのだ。片思いしてた時よりもドキドキしてドギマギしてしまう。「恋」を一度自覚してしまうと、どうやら私はとことんポンコツになるようで。自分でもまずいなぁとは思う。練習とかが疎かになってる訳じゃないけど、どこかふわふわしてしまっているのだ。デリカシーのないメンバーからは「太った?」「顔緩んだ?」とか言われたけどあながち間違いじゃない。ほんとにゆるゆるのフニャフニャになってる可能性がある。
けど、両思いになっても水月くんは水月くんだった。メンバーの揶揄い攻撃は何処吹く風の顔でスルーしてるし、センパイ呼びはまた直ってないし。ちょっと寂しく思うくらいに平然と飄々としているのだ。寧ろなんかちょっと出会った頃より素っ気ないというか。
違う、けど。甘さを求めてる訳じゃないけど。
もしかしたら、その……私の対応に困ってたりするかな。そうかもしれない。ぜ、絶対そうだと思う。
そんな事を思ってしまったら膨らみかけてた勇気はすっかり萎んでしまって。もしかしなくてもさっきより凹んでしまった私は髪の毛を乾かすのを忘れて目を閉じてしまった。心の隅に生まれてしまった燻りに気づかないフリをして。
控えめに、けれど一切の躊躇なく叩かれた扉の音で意識が浮上する。今日確か練習も何も無いオフじゃなかったっけ。アイドルでもないのにオフとか、なんかあれだけど。
「大門、寝てます……」
寝惚けてたからぽやぽやの頭のままノックの音にそう返す。数秒後にあれ、と少し意識がまた少し覚醒する。今、喉なんか変じゃなかった?
「………」
自分の喉の異変と妙な気だるさに頭がいっぱいになってたせいで来訪者が暫し沈黙したあと思い切り扉を開けたことに反応が遅れてしまった。まとわりつく倦怠感と戦いながら目を開けると。
「………思い切り風邪引いてんじゃん」
「みずづぎぐ、ゔぇっ」
「うわ」
つくしちゃんか杏奈ちゃんかな、と思い込んでいた私は来訪者に目を剥いて声を上げ、れなかった。盛大に咳き込む。死ぬ、死ぬ。そしてやっぱり喉痛い。
「なんでそんなに簡単に風邪引いてんの、幼稚園児?」
「おきだらごうなっでだ」
「喋らないで喧しい」
慌てて起き上がろうとした私を一瞥した水月くんはキレキレの毒舌で私を遠慮なく刺してきた。普段よりも倍近くキレキレじゃない?なんて事を思ってたら「動くな」と再びベッドに身を沈めさせてくる。目がツンドラのように冷たいし、なんか乱暴だし、こ、怖
「怖いとか思ってる暇あったら早く寝て」
「(また顔でなんか読み取ってるし!)」
額を突如に抑えられて混乱してれば押し付けるように何かを貼られる。冷えピタ。え?
「まっでみずづぎぐんねづででない」
「病人みたいな顔して何言ってんの、知らねーよ。俺も持ってけ、貼っとけって言われて貼っただけなんだから」
そんなに私やばい顔してるの。
溜息を盛大に吐きながら冷えピタのシートを丸めて手で遊んでる水月くんを薄目で眺める。良く、分からないけど看病しにきて、くれた?
「がごいぢ、であらいがんびょう」
「うるさ」
相変わらず素っ気ないし分かりにくすぎるけど、押し付けられたのかもしれないけどこうしてなんかあった時は来てくれるのだ。手荒すぎるし、雑だし思いやりの欠片もないけど。彼がベッドの脇の方に置いたビニール袋へ目線を移せば栄養ゼリーやらが少しだけ透けて見えた。
「ごめん、ありがと……」
「……………」
毛布を口元まで引き上げながら私は水月くんから目線を逸らす。だ、だめだ。昨日もしかしたら迷惑だと思われてるかも、だなんて思ってしまったせいでありがたい反面めちゃくちゃ申し訳なくなってしまう。負担にもなっちゃうしはやく治さなきゃいけないし、風邪移るから、早くお礼言って出てもらわなきゃ。
「……みずづ、」
「センパイ、その、センパイが何考えてるかよく分からないけど」
言いかけた言葉を完全に遮ってきた。まるで私が言おうとしてたことを見透かしたみたいに。
「絶対俺のせいだと思うから言うけど、その、気を遣わてるのは解ってっから。」
「……………?」
「どう接したらいいか分からなくて莫迦みたいな態度取ってて面倒くさがられてるのは解ってっから」
「?」
ん?私は目を瞬いた。え、?
思わず彼の方へ再度目を移すと両手を握りしめながら目線を合わせようとしない彼の姿。
「えっど、みずづきぐんなんのごど」
「…………俺にストレス溜まって風邪ひいたんじゃないの」
「…………はい?」
なんだそれ。キョトンとする私に痺れを切らしたらしく水月くんは「は?」とややドスの効いた声を上げる。怖い。私は昨日の自分を思い出す。多分、原因は。
「……だぶん、ぎのうがみをがわがさながっだから……」
「………髪」
理由がマジで幼稚園児だよ。顔全体毛布を被る。めちゃくちゃ恥ずかしすぎる。ちょっと髪の毛乾かさないの舐めてた。
黙りこくってしまった水月くんを隣に感じて、湧き上がってきたのはどうしてか嬉しさ、で。それって。言ってくれたことって。全部私に裏目というか、悪い感じで映ってしまったこと、だったのでは。
「………そ、っか。ふふ」
控えめに喉を考慮して私は笑う。私も馬鹿だった。
水月くんが私よりも繊細で優しいのを忘れちゃってた。恋が面倒くさいこともだるいことも、傷つけ合う事やすれ違う事がある事もちゃんと分かっててその上で私を選んでくれてたのに。馬鹿、だなぁ私。
「実は、今更なんだけど水月くんとLINE交換したくて、それで悩んでた」
「………え?LINE?」
スルッとつっかえてた言葉は。あっさりと出た。少しだけ毛布を握る手は震えたけど。思い切って彼と視線を合わせる。その数秒後に彼は長すぎる溜息を吐いた。煙草でも吐いてる?と言いたくなった直後に額に額がぶつかる。
「悩んでるアレが意味わかんない。早く言って」
「ごめん」
きっと私も様子がおかしかったんだと思う。どこか心做しか安堵した彼はスマホを取り出して「ん」と画面を差し出した。
「……え?ロック画面?」
「センパイ……鏡花が一番分かってると思うよ」
「……0213?」
「空気を読んで、なんでこういう時だけ読めないの」
仮に病人なのに遠慮なく頬をつねってくる。い、痛い。
私が?一番?
手を震わせながら私はある四桁をおす。自惚れと、緊張と。最後の文字を押す。
「………それしか思いつかなかったんだよね。今度六桁にするから好きな二文字考えといて」
「ず、ずる…………………………いって…………」
数分後、taigaの名前がそっと静かにフレンド欄に踊る。
風邪引いてこんなに幸せな思いしたの、初めてかも。
そっと握られた手はいつまでも、離れることはなく。
「………好きな人の誕生日パスにするとか…はっず」
忘備録として大河くんの誕生日をパスワードに設定した私を彼はなんというだろうか。
まだ、知らないことが、あった。
「連絡先」
私はベットで仰向けになりながら天井を仰ぐ。
イナズマジャパンメンバー専用の連絡ツールがあるからすっかり忘れてた。私、もしかしなくても水月くん個人の連絡先知らなくない?緩慢な動作でLINEを開いてみれば、やっぱりというか案の定というか。彼の名前は無かった。
「今更過ぎる……」
LINEなんてしなくても同じ屋根の下(語弊)にいるわけだし、彼の部屋に乗り込めば大抵伝えたい事は伝えられてたわけだし。そ、そもそも私途中参加だからタイミング逃したってのもあるし。初対面でいきなり連絡先交換はちょっと軽いじゃん……
なんて正当化してみても、曲がりなりにも付き合いを続けてた水月くんの連絡先を知らない事実に段々焦燥感が生まれる。一応、か、彼女なんだけど。
日本に帰国する際に聞けばいいのかな。遅過ぎる?自然な感じで言えるとは思うけどあまりにもそれはまずいかな。……い、いやこのタイミングで聞く方もまずい。ど、どうしよう。誰か水月くんのLINE持ってたりしないかな。いや、でも直接聞いた方が迷惑かからないし、………。
何度か脳内で水月くんにさり気ない感じで連絡先を聞く段取りを立てるものの、羞恥心やら気まずさやらで私はベッドの上で思わずゴロゴロしてしまう。そもそもなんで緊張してるんだろ、ただ聞くだけなのに。
「それが出来たら苦労しないのになぁ……」
付き合い始めてから、どうしても彼と顔を合わせると照れが入ってしまってダメなのだ。片思いしてた時よりもドキドキしてドギマギしてしまう。「恋」を一度自覚してしまうと、どうやら私はとことんポンコツになるようで。自分でもまずいなぁとは思う。練習とかが疎かになってる訳じゃないけど、どこかふわふわしてしまっているのだ。デリカシーのないメンバーからは「太った?」「顔緩んだ?」とか言われたけどあながち間違いじゃない。ほんとにゆるゆるのフニャフニャになってる可能性がある。
けど、両思いになっても水月くんは水月くんだった。メンバーの揶揄い攻撃は何処吹く風の顔でスルーしてるし、センパイ呼びはまた直ってないし。ちょっと寂しく思うくらいに平然と飄々としているのだ。寧ろなんかちょっと出会った頃より素っ気ないというか。
違う、けど。甘さを求めてる訳じゃないけど。
もしかしたら、その……私の対応に困ってたりするかな。そうかもしれない。ぜ、絶対そうだと思う。
そんな事を思ってしまったら膨らみかけてた勇気はすっかり萎んでしまって。もしかしなくてもさっきより凹んでしまった私は髪の毛を乾かすのを忘れて目を閉じてしまった。心の隅に生まれてしまった燻りに気づかないフリをして。
控えめに、けれど一切の躊躇なく叩かれた扉の音で意識が浮上する。今日確か練習も何も無いオフじゃなかったっけ。アイドルでもないのにオフとか、なんかあれだけど。
「大門、寝てます……」
寝惚けてたからぽやぽやの頭のままノックの音にそう返す。数秒後にあれ、と少し意識がまた少し覚醒する。今、喉なんか変じゃなかった?
「………」
自分の喉の異変と妙な気だるさに頭がいっぱいになってたせいで来訪者が暫し沈黙したあと思い切り扉を開けたことに反応が遅れてしまった。まとわりつく倦怠感と戦いながら目を開けると。
「………思い切り風邪引いてんじゃん」
「みずづぎぐ、ゔぇっ」
「うわ」
つくしちゃんか杏奈ちゃんかな、と思い込んでいた私は来訪者に目を剥いて声を上げ、れなかった。盛大に咳き込む。死ぬ、死ぬ。そしてやっぱり喉痛い。
「なんでそんなに簡単に風邪引いてんの、幼稚園児?」
「おきだらごうなっでだ」
「喋らないで喧しい」
慌てて起き上がろうとした私を一瞥した水月くんはキレキレの毒舌で私を遠慮なく刺してきた。普段よりも倍近くキレキレじゃない?なんて事を思ってたら「動くな」と再びベッドに身を沈めさせてくる。目がツンドラのように冷たいし、なんか乱暴だし、こ、怖
「怖いとか思ってる暇あったら早く寝て」
「(また顔でなんか読み取ってるし!)」
額を突如に抑えられて混乱してれば押し付けるように何かを貼られる。冷えピタ。え?
「まっでみずづぎぐんねづででない」
「病人みたいな顔して何言ってんの、知らねーよ。俺も持ってけ、貼っとけって言われて貼っただけなんだから」
そんなに私やばい顔してるの。
溜息を盛大に吐きながら冷えピタのシートを丸めて手で遊んでる水月くんを薄目で眺める。良く、分からないけど看病しにきて、くれた?
「がごいぢ、であらいがんびょう」
「うるさ」
相変わらず素っ気ないし分かりにくすぎるけど、押し付けられたのかもしれないけどこうしてなんかあった時は来てくれるのだ。手荒すぎるし、雑だし思いやりの欠片もないけど。彼がベッドの脇の方に置いたビニール袋へ目線を移せば栄養ゼリーやらが少しだけ透けて見えた。
「ごめん、ありがと……」
「……………」
毛布を口元まで引き上げながら私は水月くんから目線を逸らす。だ、だめだ。昨日もしかしたら迷惑だと思われてるかも、だなんて思ってしまったせいでありがたい反面めちゃくちゃ申し訳なくなってしまう。負担にもなっちゃうしはやく治さなきゃいけないし、風邪移るから、早くお礼言って出てもらわなきゃ。
「……みずづ、」
「センパイ、その、センパイが何考えてるかよく分からないけど」
言いかけた言葉を完全に遮ってきた。まるで私が言おうとしてたことを見透かしたみたいに。
「絶対俺のせいだと思うから言うけど、その、気を遣わてるのは解ってっから。」
「……………?」
「どう接したらいいか分からなくて莫迦みたいな態度取ってて面倒くさがられてるのは解ってっから」
「?」
ん?私は目を瞬いた。え、?
思わず彼の方へ再度目を移すと両手を握りしめながら目線を合わせようとしない彼の姿。
「えっど、みずづきぐんなんのごど」
「…………俺にストレス溜まって風邪ひいたんじゃないの」
「…………はい?」
なんだそれ。キョトンとする私に痺れを切らしたらしく水月くんは「は?」とややドスの効いた声を上げる。怖い。私は昨日の自分を思い出す。多分、原因は。
「……だぶん、ぎのうがみをがわがさながっだから……」
「………髪」
理由がマジで幼稚園児だよ。顔全体毛布を被る。めちゃくちゃ恥ずかしすぎる。ちょっと髪の毛乾かさないの舐めてた。
黙りこくってしまった水月くんを隣に感じて、湧き上がってきたのはどうしてか嬉しさ、で。それって。言ってくれたことって。全部私に裏目というか、悪い感じで映ってしまったこと、だったのでは。
「………そ、っか。ふふ」
控えめに喉を考慮して私は笑う。私も馬鹿だった。
水月くんが私よりも繊細で優しいのを忘れちゃってた。恋が面倒くさいこともだるいことも、傷つけ合う事やすれ違う事がある事もちゃんと分かっててその上で私を選んでくれてたのに。馬鹿、だなぁ私。
「実は、今更なんだけど水月くんとLINE交換したくて、それで悩んでた」
「………え?LINE?」
スルッとつっかえてた言葉は。あっさりと出た。少しだけ毛布を握る手は震えたけど。思い切って彼と視線を合わせる。その数秒後に彼は長すぎる溜息を吐いた。煙草でも吐いてる?と言いたくなった直後に額に額がぶつかる。
「悩んでるアレが意味わかんない。早く言って」
「ごめん」
きっと私も様子がおかしかったんだと思う。どこか心做しか安堵した彼はスマホを取り出して「ん」と画面を差し出した。
「……え?ロック画面?」
「センパイ……鏡花が一番分かってると思うよ」
「……0213?」
「空気を読んで、なんでこういう時だけ読めないの」
仮に病人なのに遠慮なく頬をつねってくる。い、痛い。
私が?一番?
手を震わせながら私はある四桁をおす。自惚れと、緊張と。最後の文字を押す。
「………それしか思いつかなかったんだよね。今度六桁にするから好きな二文字考えといて」
「ず、ずる…………………………いって…………」
数分後、taigaの名前がそっと静かにフレンド欄に踊る。
風邪引いてこんなに幸せな思いしたの、初めてかも。
そっと握られた手はいつまでも、離れることはなく。
「………好きな人の誕生日パスにするとか…はっず」
忘備録として大河くんの誕生日をパスワードに設定した私を彼はなんというだろうか。