番外編
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小さく鳴った笛と同時に私は転がり込むようにフィールドに体を滑らせる。
お腹が走りすぎて痛い、足が鉛の如く重い。視界がぐらぐら揺れる。
そのまま横たわっていればゆっくりと1つの足音が近づいてきた。誰よ余裕に息整えて歩いてる人は。……いや、多分彼だよね。
「持久走っつーのに序盤から飛ばす莫迦がどこにいますか」
「飛ばしてないです、……ぜぇ、あ、三途の川」
「流石に目の前で死なないでくんない夢見悪くなる」
やっっぱり水月君……普段あんなに体力ないくせに……体力の配分だけは上手いんだから…
ドリンクと、それを包むようにタオルを目の前に投げられた。く、悔しいけどありがたい。
「水月く、ん、ほとんど最初歩いてたじゃん……」
「コストパフォーマンスの問題でしょ」
私はそんなことを言ってるんじゃないです。
「皇帝、そこでへろっへろになってるセンパイよろしく」
「おつかれ、大河君」
「私は荷物じゃない!……いや、まって野坂君、野坂君もだよなんでそんなに余裕なの」
さっさと行ってしまった無情な後輩を目で恨めしく追いながら、これまた涼しげな顔で現れた野坂君に呻く。くぅ、人外(人でなし)コンビ……
「いや、多分あれ顔に出さないだけで相当きテると思うよ。大河君体力ないから」
「野坂君にまで言われてる水月君どんだけなんだろ……」
「この前1人10分増加で走らされてた時、風呂場で譫言のように折谷さんに呪詛唱えてたからね。『折谷の事いつか過労死させてやる』とか」
「よく困らせてるくせに……」
ようやく立ち上がれるまでに復活した体に鞭打って立ち上がる。
縛っていた髪を解こうと頭上に手をやり紐を緩めながら、軽く天井を仰いでいれば隣の野坂君がガン見している気配がして思わず手を止める。
「?なんかあった、野坂君」
「テレビの見過ぎかもなんだけど、鏡花ちゃんが髪下ろす瞬間ベールが靡く感じだなって」
「……????」
いつから野坂君は詩人になったんだろうか。
サラリと空々しい事を言ってのけた野坂君に言葉が出てこない。
「いや、鏡花ちゃんがそうやって髪下ろしてるところよく見るけど、光具合によって髪の毛がベールに見えるなって。ほら今Juneだし」
「……6月……あ、ああ、なるほどジューンブライド……」
「『素直に6月って言えばいいのに』って顔してるね」
「し、してない」
確かにこの頃芸能人とかの結婚ラッシュがあったりする。少なからずジュンブラが関係してるんだろうな……。私達は学生だしあんまり関係ないけれども。
「まぁ、これ最初に言い出したのは大河君なんだけどね」
「えっ、水月君が!?野坂君じゃなく、あっ、」
意外すぎる人が再び話題に飛び出し思わず階段の段差でつんのめりそうになる。
てっきり野坂君が言い出しっぺかと思ってたのに。
「大河君、話題尽きると大抵FWメンバーの話か鏡花ちゃんの話しかしないよ」
「……え、ええ」
思いがけないカミングアウトにじわじわ頬が熱くなる。いや、いやいや野坂君だし。
最近仲良いな……(悪い意味で)とは思ってたけどそこまでの仲に進展してしまったのか。
「……そう思うと鏡花ちゃんも大河君関連の話ばっかかもね」
「〜〜〜〜、こ、この、」
そういう流れか、いや多分こっちに流れてくるかなと思ったけど!!酷い流れ弾じゃんか!
羞恥で思わず肩を震わせる私に野坂君はにこり、と効果音がつきそうな笑みを浮かべる。
「野坂君の、あ、悪趣味!!」
「同じこと大河君に言われた」
「逐一言わなくていいっ!!」
「…………皇帝???」
真っ赤になってゼーハーしている私の前で地を這うような必死で理性を抑えているドス声を聞く。「大河君遅かったね。はい、忘れ物」とけろりと野坂君はタオルを手渡した。
………危険信号が脳裏で轟く。
「……ほんっっと悪趣味だね、俺より性格悪いんじゃないの」
「まさか、大河君の聴力が蝙蝠並みにいいのかもよ」
(……も、戻ってきたってことは、もしや)
最悪の展開が伺えて私は血の気がサァ……ッと引いていく。
いや、これはもしかしなくても全部聞かれ、
「焦ったいなぁって思ってね。2人とも惚気話しかしないからさ」
「「余計なお世話なんだけど!!」」
ハモってしまった私と水月君が思わず同時に手で顔を覆った仕草を見て野坂君が吹き出した。
とりあえず私は水月君とどうやって野坂君を過労死させようか考えようと思う。
June bride。
家庭の守護神ジュノーの月であることから、6月に結婚した女性は幸せになれるという。
いつか私たちのジュノーは悪趣味な皇帝だったんだな、と振り返る日は来るのだろうか。
……それはまた別の話。