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Anonymous personality

月がギラギラと萌えていた。
息をするのさえ憚れるほど静かな室内で私は思わずへたり込んでいる。

『はじめまして、この体の持ち主。ああ、意識はあるんだ?よかったね』
「……何を、言ってるの」

上半身から下の感覚がスッと抜けてしまった女性は青褪めながら、問い掛けた。
鏡に映った瞳は本来の濃紅色の瞳はどこへ、浅葱色のような青さで光り輝いている。

_____ まるで誰かの瞳を映しているかのように。

月夜に照らされたその個室に映る人影はたった1つ。しかしながら、聞こえる声は2つ。
まだ若い男性の声と同じく若々しい女性の声。少女と言うには大人びており、婦人と言うにはあどけなさが残っている。そして、女性は未だ気づいていないが部屋中に帯びる殺気。

『随分と無粋だなぁ。ちょっと死んで欲しいくらい』
「……答えなさい、あなたは誰!?」

どこか飄々としているような男の声と明らかに切羽詰まった女性の声。
相反する2つの声は今の攻守所を変わる事なく、女性が押されたまま会話が進行していた。
ズキズキする頭を抱えながらも気迫ある声で女性が張り上げれば、つまらなそうに男が手を翳した。刹那、部屋の空気が凍り果てる。殺気がこれでもかと膨張し、窓ガラスに罅が走る。

それと同時に女性の右腕も本人の意思とは裏腹に手が持ち上がる。あ、と息を呑むより早く。
呪文を唱えたと肌で感じるより早く、意識が一瞬で吹き飛ばされる。

「……《 _______ 》」

壁に強く背中を打ち付ける感触。反抗すら出来ずに僅かに空いた唇からは悲鳴が溢れる。
一瞬、賢者の魔法使いの証___ 即ち“紋章”が熱く燃えた気がした。

ゆらりと意識が緩やかに急降下していく中で無音声の呪文を確かに聞いた。
そして、名も知らぬ彼が完全に目を醒したのを理解する。

(……ああ、また入れ替わってしまった……)

力が抜けていくのを感じながら私は深い微睡の中に堕ちていく。
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