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ピリオドを飲み込んだ獏










ありました。

流石にピンガの双子としてまた生まれてくる事はなかったらしく、ひとりっ子だ。今回はなんかの作品とか、そういうことじゃなく、普通の世界っぽいのでありがたい。米花町だけは勘弁である。
前世の記憶を中学あたりで丸々思い出したせいで、パニックになって高熱を出して初めて入院したりしたが大きな出来事といえばそれくらいだろう。
前世バフで成功するのもなんだかなぁ、と思いつつ、でも今生の両親にはちゃんと親孝行したいしなあ、と思い、結構良い大学に入ったりはしちゃったが、まぁこれくらいは許してほしい。

ピンガは今頃どうしてんのかな、宝くじ一等何回当たったかな、めちゃくちゃ表舞台で活躍するように祈ったから最年少で宇宙飛行士!めっちゃ飛び級!くらいはしてそうだ。
日課のピンガ来世想像をしながら中庭の木陰でお昼ご飯を広げようとしたところで、かなり遠目からとんでもない早さで走ってくる、コーンロウの男。え?

「見つけた!!!!!」
「は?ピンガ?」
「な……!んだよ、テメェも記憶あるのか、ちょうど良い、来い」

ピンガの見た目まんまで草。この現実世界では顔が良すぎちゃうのでは?ていうか大学にいたっけ?ていうかなんで私のこと知ってるんだ?ていうかお昼ご飯の包み勝手に持たれたし、片方の腕で私の腕を掴んでどこかへ向かっているようだ。
流石に断れないよなぁ、と思いながら着いていくと、ワゴン車に乗っけられた。

「すいません、誘拐だったりしますか?うちんちそんなお金ないですけど」
「誰が堂々と誘拐するか!話す為だ、おい、適当にここら辺ドライブしろ」
「はい」

運転席の黒服の男はそのまま車を走らせた。わざわざ走らせるの、逃がさない気満々じゃないですか。

「……前世のにいちゃんだろ、オマエ」
「バニシングツインでとっくに死んでる奴を兄だと判断して良いなら」
「そうか…。俺は死んだあと、変なバクに会った。その時にあんたの話を聞いた、そんで豪華特典盛りだくさんになるから覚悟してねという話をされてな」
「は?アイツ現実干渉できんの?私はできなかったのに」
「現実というか一種の夢で、あんたと離れたからより強い力を得たとかなんとか……、違う、そういう話をしたくて呼んだんじゃねえ」

[[rb:あの野郎 > 私]]、獏を謳歌してやがる。獏を謳歌ってなんだ。ていうかいらんこと吹き込むな。わざわざピンガが私の事探してしまったじゃないか。
目の前にバサバサと積まれる雑誌にはファッショナブルな服を着て、メイクをバチバチにキメるピンガの顔、また、別のサイエンス雑誌にはインタビューを受ける白衣を着たピンガ、また、ITの話をするロングインタビュー掲載!の表紙にモデルみたいなピンガ。マジで表舞台大活躍してるな…と、それぞれを手に取って眺める。

「同じ世界に生きてたのに全然知らなかった」
「そんな事だろうと思ったぜ、コレもな」
「宝くじマジで当たってる、はぁ〜、願ってみるもんだなぁ」
「で、だ、俺に幸せになってほしいんだろ?」
「うん」

残念ながら今生はアニオタで、全然ピンガが活躍している分野に興味がなく、アンテナを張ってないせいで全然認知してなかった。申し訳なさすぎる。でもいくらピンガとはいえ素人声優としてアニメに参加されたら…!あっ、全然ありだな。声の仕事うますぎだもんな。
というか、これを見せつけて幸せになってほしいんだろ?とは、まだ足りないということだろうか。
願いはできたが、今生の私が差し出せるものといえばなけなしのバイト代くらいなものだ。

「俺の、にいちゃんになってくれ」
「ファ!?」

意外も意外なお願いが飛び出てきた。驚きすぎてオタク挙動が出てしまう。

「前世の事を気にしてるならいいよ、君に兄らしい事してあげるどころか、悪夢を押し付けちゃってたみたいだし」
「そんな事は気にしてねえ、ほぼ覚えてねえし、終わった話だろ。そもそも今生で兄弟として生まれてくるつもりだったんだよ、俺は、あんたと。だがどうだ?1人でめちゃくちゃ才能があって運が良くて邪魔も入らなくて好きなだけ目立てる状態ってだけだ」
「ウーン、充分!」
「充分じゃねえ、俺は、……あんたのことを知らねえ。だから、知りたい」
「おともだちではダメなのか」
「ダメだ、今度こそ俺のにいちゃんをしろ。別に養子縁組しろとかそういう事じゃねえ。…なぁ、いいだろ」

眉を下げ、瞳が揺れる。それを見て、あっやばい泣く。と、反射でイイヨ!と言ってしまった。
それを聞いた途端、ピンガは目尻を細め、口の端を持ち上げる。やられた。口から出た言葉はもう戻らないが、口元に手を当てる。

「なぁ、今いいよって言ったよな」
「言いましたね」
「ドライバーさん!?」

ドライバーのいる方に向かってピンガがいえば、ドライバーは淡々とそう答えた。

「魂がそのままならと思ったが、本当に泣き落としが男に通用するとは…いや泣いてもねえけど」
「低スペ兄と高スペ弟、キツくね?」
「世間には仲のいい友達にしか見えねえだろうからあんま気にすんな。ま、とりあえず連絡先交換しようぜ」
「ああっ私の携帯」

そうして、前回も前回で奇妙だったが、今回も今回で奇妙なピンガとの兄弟関係が始まった。
まさかこんな事になるとは思っていなかったが、横で笑うピンガの顔は雑誌や、前世で見たような、冷たい笑い方じゃなくて、大口開けて、ちゃんと顔全体で笑っていた。
それを見て、まぁいいか、と思った。
そんなに笑うようになったのか、と嬉しく思っていたら紙袋をガサガサとし始め、中からピアッサーを出した。え!?と逃げの姿勢になるも既に遅く、逃げ場もないため、車の中なのに押さえつけられて左耳に無理やり穴を開けられた。怖…。

「いたい………」
「うるせえ動くな………ヨシ、これでいい」

満足したピンガは、急に肩を抱いて、自撮りをした。自分も入ったらしいのでツーショットか。
スマホの画面に映ったのは、満面の笑みをしたピンガと、ピンガがしていた二つのうち、一つのピアスをつけられて仕方ないなぁという顔をして笑う私だった。

















とある両親の記憶



母親は、ピアスを開けたばかりの我が子の頭を撫で、小さな耳には、まだ不釣り合いなサイズのピアスがひとつ。もう一つの我が子のためのピアスの入った箱はテーブルの上に置いたままだ。


「ピアス、綺麗に開いてよかったわ」
「怖いものや、恐ろしいものから守ってくれるピアスだ、似合うぞ」
「にーちゃんのは?」
「あるけれど…、そうね、ちゃんと無くさないようにしまっておかないと…」

「ほしい」

「え?」
「耳、もう片方ある。つけて」
「えっ、でも…」
「つけて!」
「………つけてあげよう、お兄ちゃんの分まできっと守ってくれるさ」
「…そうね、開けましょうか」


青い目の子供の両耳には、黒いフープのピアスが一つずつ輝いた。











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