黒鉄のモブマリン
ATTENTION!!!!!
黒鉄の魚影の本編に沿うのでネタバレ注意!!!!!!!!!!!
というか悪いことは言わないので過去3話分読んで大丈夫そうだった人以外は引き返そう!!
「こーんな明るい時間に浮上させる理由、イライラしてるからとはいえタバコ吸う為なのやってられなくね?」
「まぁまぁ、我慢してって言って艦内が血溜まりになるのも嫌じゃん」
命令とはいえ納得できないこともある。しかし納得できないなら納得する理由を探すまでが仕事だ。
大体にして、ジン関連は大体ジンの兄貴は〜?ゼッターイ!で解決出来る。
今回もシェリーらしき子供を攫う、その事自体が今回の計画ない事だったが、何故かそれにより発生したピンガの証拠隠滅による殺人を咎めるような雰囲気だったあたり、ジンの絶対性がよくわかる。
待て待てと言いたいところだがツッコんだらベレッタを頭に突きつけられておしまいだ。幹部でもやばいので構成員である我々なんて黙るに限る。
暫くするとジンとウォッカが戻ってきた。ジンのピリついた雰囲気は落ち着いているようだったので、いい気分転換になったのなら何よりだ。
「あの方からの命令だ。万が一のための最後の手を使う、魚雷の準備をしておけ」
なるほど、クソシステムごと沈められる許可がボスから下された故の機嫌の良さだったか。
おそらく先ほど逃げた2人もパシフィック・ブイへと戻っている頃だろう。そうなると海上自衛隊の出動要請もかかっているか…まぁ、勤務時間の夕方五時はとっくに過ぎているしそこそこ到着までの時間はかかるだろう…。
ジンとウォッカが端末を見ながら会話をしているのを聞くに、どうやらピンガは正体が暴かれてしまったらしかった。しかし脱出は問題無い、後はベルモットが遠隔操作をし、パシフィック・ブイから距離が取れたことを確認したら魚雷を撃ち込めばいいだけだ。
「撃 ィ!!」
ジンが叫ぶ、発射管に装填された2本の魚雷が圧縮空気により打ち出され、標的のパシフィック・ブイに向かい海中を突き進む。
モニターを見つつ、魚雷の進む速度にこれはひとたまりもないだろうなと思うがどうやら今の2本ともデコイにかかってしまったようだ。
「デコイに引っ張られた!」
「構わん。撃ち続けろ」
デコイにかかった魚雷の爆発による振動は凄まじく、潜水艦も揺れる。しかしその程度関係ない、新たに装填した魚雷を再び打ち出す。もう一度撃った魚雷も、デコイで対応されてしまったみたいだ。しかし、これが最後の射出されたデコイである。
どうやら、ピンガがありとあらゆるバックドアを作ってくれていたらしく、ベルモットの遠隔操作によりデコイの発射口が閉じられてしまった様子だ。
しかし、他にも対抗手段はあるだろうと思ったが、その予想を裏切りモニターに映る魚雷は速度を落とさず真っ直ぐと標的目掛けて飛んでゆく。どうやら、防御システムその全てを完封してしまったようだった。
全く、恐ろしい事をするものだ。こういう時ばかりは組織側にいられて良かったと思う。
「着弾まで十、九、八…」
「これでパシフィック・ブイは終いだ」
「六、五…」
ジンがニヤリと微笑みレーダー画面に表示されたアイコンを視線で追う。
「二、一……ゼロ!」
魚雷のアイコンがパシフィック・ブイに到達した。
ドォオオオオオオオォオォン!!
すざましい爆発音と共に、海中が燃えるようだ。爆発はパシフィック・ブイを飲み込むように広がってゆく。それは強烈な衝撃波を放つ。ピンガはこの衝撃波を岩礁帯でうまく避けただろうか。
すると、ウォッカの所持していたスマホが鳴る。ピンガからのようだった。ウォッカはそれをジンに渡す。
「早く合流しろ、お前に見せたいものがある」
ピンガがなにを言ってるかまでは聞き取れなかったが、きっといつものいがみ合いであろう。ジンは会話が終わったようでスマホを切って、ピンガとの合流地点に急げと指示を出す。
ジンはスマホをウォッカに返さず、そのままスマホを持っているようだった。
潜水艦を潜める場所から浮かし、ピンガとの合流地点を目指し進める。今回の潜水艦任務もそろそろ終わるな、しかし今日は変な事ばかりで疲れた、いや、組織にいて変な事がなかったことはないのだが。
と思っていると、当然潜水艦が衝撃を受け揺れた。攻撃か!?!?
「う、海が…」
「海が光ってます!」
水中カメラ専用モニターの方を向けば、信じがたい光景を視界に捉えた。この夜の海で?
水中カメラのコンソールの前にジンが歩み寄り、モニターを確認する。間違いなく、人工的なものだ、無数の眩い光が煌めいている、これは自然現象ではない───────。
…狙われている?
そう思った瞬間、ジンも何かに気付いたのか長い銀髪を乱し、天井をバッと見上げた。
そしてまた爆発による大きな揺れが起こった。地鳴りのような腹に響く爆発音が、艦尾の方から、つまり、遠くからの爆発ではなく確実にこの潜水艦を狙った、兵器による攻撃だ。
あまりに大きく、今までとは違う揺れに咄嗟にあるものに捕まる。
「なんだ!何が起きた!」
艦内の警報機のけたたましい音に、ジンの怒鳴り声。頭が真っ白になりそうだ。
「エンジン出火!」
「発電機から浸水!」
「速力低下!」
「モーター停止!」
乗組員のみんなが次々と異常を叫ぶ。
「サブ電力に切り替えろ!」とウォッカが叫ぶが、首を横に振りながら「繋がりません!」と対処不可を伝える。
スクリューの速度がどんどん落ち、やがて完全に止まる事を見ていることしかできなかった。機体自体がどうにもならなくなったら、俺にできることなんて…。
「仕方ねえ、潜水艇に避難しろ、急げ!」
「せ、潜水艦には…!?」
「動かせねえもんをどうする気だ!?いいからお前も行けシロウ!」
「…ッ、はい!」
──────────
小型潜水艇は、パシフィック・ブイからかなり離れた海中を潜航していた。乗組員が全員乗ったものだから、まぁ、とても狭い。
操縦はもちろん仕事なのでやるが、今回はいつも以上に想定外だったとは思う。魚雷まで撃って、反撃に遭うなんて思いもしなかった。あれ、そういえばピンガの回収って…?
「破壊したんですかい?」
「あの潜水艦には組織の秘密が詰まっているからな…」
「ピンガには伝えたのよね?」
並んだジンとウォッカの会話に、キールが割りこみ尋ねた。そうすればジンは目を伏せ、ニヤリと微笑んだ。
「さぁ、どうだったかな」
それを聞いて八木田は、あぁ、ピンガはもう帰ってこないんだと思った。
ジンにとって都合が悪い人間が、今までも、どれだけ有能でも組織に貢献してきたとしても、消え続けて来たことは知っていたから。
幹部3人と、乗組員全員を乗せた潜水艇は穏やかな海中を進み、帰還する。
━━━━━━━━━━━━
怒涛の1日が終わる。あの後ジンに潜水艇をボスからの指定場所に隠すように指示され、その後は帰れと言われたので近くにある組織の関係施設にある誰が使ってもいいフリーのバイク使って帰る事にした。
パシフィック・ブイはボスの命令だからともかく、…潜水艦沈没させた報告どうするんだろうな、まぁ何度も過去に色々墜落させたりしてるから、何とかなるんじゃないかな…。幹部様は大変だ…。
自分の家…と言う名の組織の用意した、組織の人間しか住んでないアパートの一室に帰ってくるのは久々だ。なんだかんだあっちこっちの国行ったり来たりしてたからな…。
早速作業服を脱ぎ、シャワーを浴びて、冷蔵庫を開けるが調味料とミネラルウォーターしか無かった。仕方ないので冷凍庫を開け、最後の冷凍パスタをチンして夜食にした。流石にお腹が空いてたらしい、もっと欲しいと腹が鳴るが、まともな食料は今さっき腹に収まってしまった。仕方ないので歯を磨き、寝ようと思うが、あんなに疲れたというのになかなか寝付けない。
仕方がないのでスマホでネットニュースを見ればパシフィック・ブイが爆発する様が速報として流れていた。あれだけ派手にやったら速報として載るよな…。と納得しつつ、まだ事故による被害は不明と流れるテロップに載せられないよなあ、どう隠蔽するんだか、と仰向けになる。
…ピンガのことは残念だった。まさか計画がおじゃんになる挙句命まで取られてしまうなんて。自分が組織に入る前から計画し、長い時間をかけていたのに。
しかし自分のせいでおじゃんになった訳ではない事にホッとしてしまう。俺は、まだ生きられるのだ。
情のない奴め…と自分に対して思うが、肉親すら割り切ってしまえたので今更だと頭まで布団に潜った。
━━━━━━━━━━━━
昨日までの怒涛の仕事によるダメージから、随分とぐっすり眠っていたみたいで、なんとウォッカからの電話で目が覚めてしまった。目覚ましセットしてない!とか、モーニングコールってやつかな、なんて思う暇もなく、身体が勝手に動き、3コール以内で出る。
「八木田です」
『…お前、さては寝てたな?まぁ無理もねぇか。新しい仕事だ、メールで地図と目的地を送るから車を回せ』
「了解」
用件だけを伝えて直ぐに電話が切れた。歯磨きだけ即に済ませ作業着に着替えて部屋を出る。建物内に常備してある組織の用意した業務用…とは言っても、高級車やスポーツカーもあるし普通の見た目の車だ。目的地は確か高級ホテルだったので、そう言う車のほうがいいだろうと黒塗りの高級車のキーを金庫から拝借し走らせる。
にしてもジンとウォッカはいつ寝てるんだ。今日は寝坊しちゃってる俺だが結構あの2人は昼夜問わず駆り出してくる。上司が休まないと部下も休めないんだぞ。いや、俺はそもそもそんな社員的立場でもないが。
それにしても寝てたのバレたな、怒られるだろうか。どうやら寝起きすぐの時、人より喉が乾燥してるらしく、以前起きる前に突然ジンとウォッカが部屋に来た際、寝起きの状態で2人の話に相槌打ってたらジンにすら「…その声は俺たちの耳までも乾かす、この部屋にはオアシスすらねぇのか」と言われたので途中離席して水を飲むことを許された出来事を思い出した。
そりゃあバレるか…。
「お疲れ様です」
「あぁ…」
ホテル駐車場に入り、3分ほど待つと入り口からジンとウォッカが出てきて、車に乗り込んできた。ウォッカが黒いトランクを持ってるし、若干硝煙臭いのでおそらく昨日の件の後始末をしていたのだろう。
「目的地まで着いたらどうします?」
「俺たちはそのまま仕事だ、お前はこの車戻してワゴンで次はマリア像へ行け」
「お、今回納期早かったですね。承りました」
マリア像、実際マリア像の場所ではなく、有力財閥の建物内のマリア像の絵画がある棟の事だ。どうやら組織が依頼しているここ数ヶ月に一回必ず輸送が必要なブツが出来上がったらしい。組織の隠語は最初ちんぷんかんぷんだったし、なんなら自分の拠点が海外になってしまった為、余計に土地勘もなくて大変だったが慣れてしまえばストレートな言い回しにドキドキするようになった。もっとポエミーに言ってくれなきゃ誰に盗聴されてるかわからないぞという気持ちになる。
現時点で直接的な言い回ししてた幹部なりたがりの人たちが生き残ってるのを見たことがないので、組織における必修科目だろう。
まぁ、ストレートじゃないとすぐに探れないし、本当に身内ネタみたいな感じなので敵対組織が聞いてもわからないだろうから実際役に立ってる。
目的地に到着するまでの間、ジンとウォッカの会話を聞く。ほんと仲良いな。毎回思うけど2人ともそんなに他幹部と喋らないのにキミら2人はよく喋る。ほぼ一緒の任務が多いのに不思議だ。
2人を送り届けたのち、直ぐに来たルートとは違うルートを通って拠点まで戻り、先ほど仰せつかった仕事に向かう。
今日も今日とて、八木田士郎は組織の運転員である。
━━━━━━━━━━
「前から気になってたんですけど」
バーボンは顎に手を当て、考える素振りをする。この場に居るのはバーボンとウォッカだけなのでその言葉に対しウォッカがバーボンの方を向く。
「何故ジンは自分の車を八木田に運転させないのでしょう、まさか、ネズミだと疑ってたりしますか?」
「ハッ!シロウがネズミな訳ないだろ、単純にあいつには愛着がねぇからだ」
いつも別の車で送迎させた後、ポルシェに乗り換えてまた運転するなら、いっそ八木田に最初から運転させていれば手間にならないのでは、と前からバーボンは思っていた。確かに、愛車は信用できる人間にしか任せたくない気持ちはわかるが、ウォッカにも運転はさせているようだし、燃費の問題か?
しかし、帰ってきた答えは「愛着」という、なんとも形容しがたいものだ。しかし、それに心当たりがない、ジンのように冷酷というイメージもないし、組織が車使い捨てるたびに勿体無いと嘆く姿も見ている。
「愛着…、ですか?」
「あいつは組織のドライバーとしては100点やってもいいが、ひとつのものに対する愛着はねえよ。運転できりゃなんでもいい奴だぜアイツは」
「業務車を惜しむ姿を見たことがありますが」
「そういうポーズをとってるだけだ、お前、シロウに一般的な感覚があると思ってんのか?奴は俺らとは違うんだ、あんま期待しないほうがいいぜ」
ウォッカはハッ!と笑うと、こちらの認識がおかしいと言うように肩をすくめた。八木田は気に入りの構成員だから深入りしてほしくないのだろうか?確かに足としては優秀だ、組織内でもほぼウォッカが彼に仕事を投げてる時点でそれは察しがつく。
「…妙なこと考えてそうだから言っておくが、別に奴のことをテメェが使おうがなんとも思わねーよ、ただ愛車だけは使わせない方がいいとはアドバイスしておいてやる」
「ウォッカ、バーボン、いつまで喋ってる」
「アニキ!」
2人で話し込んでるとジンが戻ってきたようだった。ジンはタバコを深く吸い、一度肺を煙で満たしたのち、それを深く吐き出した。それからバーボンに視線を向ける。
「八木田士郎はモノを運転する為だけに生まれてきたと言っても過言じゃねェ、テメェの言う惜しんでる姿は、前の生活の金銭感覚が抜けてねェだけだ」
「そこまで……、そうですか、貴方達のお気に入りに失言をしてしまいましたね」
「ま、ネズミだったらまだかわいいもんだぜ、シロウには給料が出てねえでアレなんだからよ」
「…えっ!?!?!?」
バーボンの顔なのにギョッとしてしまった。給料が出てない!?だとしたら生活は組織が面倒見ているにしても、不満は出るのでは…?と。ジンはクククと笑うし、ウォッカはため息をつく。
「シロウの希望した操縦したい乗り物が組織の使う予定にあれば、それの勉強をきっちりさせて欲しいって事だからなあ、それにヤツの親がやらかした事のせいで奴の金への頓着はほぼ無い。ほっとくと死ぬんで組織で囲ってやってる訳だ」
「特別待遇なんだ、文句はありゃしねェさ」
「そ、そうですか………」
言いながら全員の足は任務に向かう。恐ろしいことを知ってしまった。
その後、八木田本人にバーボンとして確認を取ったが「通りで俺はちゃんと勉強させてくれるんだ。よかった〜」などと言っており、給料についても別にいらない、服も食べ物も支給されるし、とのことだった。そして持たされてる財布には常に万札が入っており、ウォッカに会うたび補充されると言っていた。お小遣い制…?でも使うことはほぼ無いらしい、出先で干からびて死にそうになったりした時だけ使うと言っていた。
また、愛着についても理解した。
組織の構成員の居住地が敵対組織に狙われ、八木田の部屋も、建物ごと全て燃えてしまった事件が起こったが(殆どの構成員は任務で出払っていて無事だった)新しい場所に住む様に言われれば言われるがままで、特に今まで持ってたモノに対する燃えちゃって悲しい、という様な感情は全く感じれれず、執着や愛着が本当に乏しいことが分かった。
…引き続き調査を続ける─────。
──────────
「私、ウォッカさんが上司で本当に嬉しいんです」
「突然何を言い出すかと思えば、ごますりか?」
ウォッカ1人だけの送迎任務だ、ジンとセットじゃない時くらいしか、こんなことは言えない。
「事実ですよ、ホント、命の危険はありますが………、これだけ空から陸から海まで、どこでも運転だけできる仕事もないですから」
「まさに水を得た魚ってワケか、まァ今後もしっかりやれよ、シロウ」
「はい!」
へっ、と笑ってそう言ってくれるウォッカさんは本当に理想の上司だ。適材適所を完璧に振り分けてくれる。
理想の職場かと言われると、まぁ犯罪の少ない場所で普通に育ったからちょっと抵抗感がある時もあるが、ほぼそうだと言っていいだろう。
八木田という一介の構成員を、引き続き、ご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます!
終
黒鉄の魚影の本編に沿うのでネタバレ注意!!!!!!!!!!!
というか悪いことは言わないので過去3話分読んで大丈夫そうだった人以外は引き返そう!!
「こーんな明るい時間に浮上させる理由、イライラしてるからとはいえタバコ吸う為なのやってられなくね?」
「まぁまぁ、我慢してって言って艦内が血溜まりになるのも嫌じゃん」
命令とはいえ納得できないこともある。しかし納得できないなら納得する理由を探すまでが仕事だ。
大体にして、ジン関連は大体ジンの兄貴は〜?ゼッターイ!で解決出来る。
今回もシェリーらしき子供を攫う、その事自体が今回の計画ない事だったが、何故かそれにより発生したピンガの証拠隠滅による殺人を咎めるような雰囲気だったあたり、ジンの絶対性がよくわかる。
待て待てと言いたいところだがツッコんだらベレッタを頭に突きつけられておしまいだ。幹部でもやばいので構成員である我々なんて黙るに限る。
暫くするとジンとウォッカが戻ってきた。ジンのピリついた雰囲気は落ち着いているようだったので、いい気分転換になったのなら何よりだ。
「あの方からの命令だ。万が一のための最後の手を使う、魚雷の準備をしておけ」
なるほど、クソシステムごと沈められる許可がボスから下された故の機嫌の良さだったか。
おそらく先ほど逃げた2人もパシフィック・ブイへと戻っている頃だろう。そうなると海上自衛隊の出動要請もかかっているか…まぁ、勤務時間の夕方五時はとっくに過ぎているしそこそこ到着までの時間はかかるだろう…。
ジンとウォッカが端末を見ながら会話をしているのを聞くに、どうやらピンガは正体が暴かれてしまったらしかった。しかし脱出は問題無い、後はベルモットが遠隔操作をし、パシフィック・ブイから距離が取れたことを確認したら魚雷を撃ち込めばいいだけだ。
「
ジンが叫ぶ、発射管に装填された2本の魚雷が圧縮空気により打ち出され、標的のパシフィック・ブイに向かい海中を突き進む。
モニターを見つつ、魚雷の進む速度にこれはひとたまりもないだろうなと思うがどうやら今の2本ともデコイにかかってしまったようだ。
「デコイに引っ張られた!」
「構わん。撃ち続けろ」
デコイにかかった魚雷の爆発による振動は凄まじく、潜水艦も揺れる。しかしその程度関係ない、新たに装填した魚雷を再び打ち出す。もう一度撃った魚雷も、デコイで対応されてしまったみたいだ。しかし、これが最後の射出されたデコイである。
どうやら、ピンガがありとあらゆるバックドアを作ってくれていたらしく、ベルモットの遠隔操作によりデコイの発射口が閉じられてしまった様子だ。
しかし、他にも対抗手段はあるだろうと思ったが、その予想を裏切りモニターに映る魚雷は速度を落とさず真っ直ぐと標的目掛けて飛んでゆく。どうやら、防御システムその全てを完封してしまったようだった。
全く、恐ろしい事をするものだ。こういう時ばかりは組織側にいられて良かったと思う。
「着弾まで十、九、八…」
「これでパシフィック・ブイは終いだ」
「六、五…」
ジンがニヤリと微笑みレーダー画面に表示されたアイコンを視線で追う。
「二、一……ゼロ!」
魚雷のアイコンがパシフィック・ブイに到達した。
ドォオオオオオオオォオォン!!
すざましい爆発音と共に、海中が燃えるようだ。爆発はパシフィック・ブイを飲み込むように広がってゆく。それは強烈な衝撃波を放つ。ピンガはこの衝撃波を岩礁帯でうまく避けただろうか。
すると、ウォッカの所持していたスマホが鳴る。ピンガからのようだった。ウォッカはそれをジンに渡す。
「早く合流しろ、お前に見せたいものがある」
ピンガがなにを言ってるかまでは聞き取れなかったが、きっといつものいがみ合いであろう。ジンは会話が終わったようでスマホを切って、ピンガとの合流地点に急げと指示を出す。
ジンはスマホをウォッカに返さず、そのままスマホを持っているようだった。
潜水艦を潜める場所から浮かし、ピンガとの合流地点を目指し進める。今回の潜水艦任務もそろそろ終わるな、しかし今日は変な事ばかりで疲れた、いや、組織にいて変な事がなかったことはないのだが。
と思っていると、当然潜水艦が衝撃を受け揺れた。攻撃か!?!?
「う、海が…」
「海が光ってます!」
水中カメラ専用モニターの方を向けば、信じがたい光景を視界に捉えた。この夜の海で?
水中カメラのコンソールの前にジンが歩み寄り、モニターを確認する。間違いなく、人工的なものだ、無数の眩い光が煌めいている、これは自然現象ではない───────。
…狙われている?
そう思った瞬間、ジンも何かに気付いたのか長い銀髪を乱し、天井をバッと見上げた。
そしてまた爆発による大きな揺れが起こった。地鳴りのような腹に響く爆発音が、艦尾の方から、つまり、遠くからの爆発ではなく確実にこの潜水艦を狙った、兵器による攻撃だ。
あまりに大きく、今までとは違う揺れに咄嗟にあるものに捕まる。
「なんだ!何が起きた!」
艦内の警報機のけたたましい音に、ジンの怒鳴り声。頭が真っ白になりそうだ。
「エンジン出火!」
「発電機から浸水!」
「速力低下!」
「モーター停止!」
乗組員のみんなが次々と異常を叫ぶ。
「サブ電力に切り替えろ!」とウォッカが叫ぶが、首を横に振りながら「繋がりません!」と対処不可を伝える。
スクリューの速度がどんどん落ち、やがて完全に止まる事を見ていることしかできなかった。機体自体がどうにもならなくなったら、俺にできることなんて…。
「仕方ねえ、潜水艇に避難しろ、急げ!」
「せ、潜水艦には…!?」
「動かせねえもんをどうする気だ!?いいからお前も行けシロウ!」
「…ッ、はい!」
──────────
小型潜水艇は、パシフィック・ブイからかなり離れた海中を潜航していた。乗組員が全員乗ったものだから、まぁ、とても狭い。
操縦はもちろん仕事なのでやるが、今回はいつも以上に想定外だったとは思う。魚雷まで撃って、反撃に遭うなんて思いもしなかった。あれ、そういえばピンガの回収って…?
「破壊したんですかい?」
「あの潜水艦には組織の秘密が詰まっているからな…」
「ピンガには伝えたのよね?」
並んだジンとウォッカの会話に、キールが割りこみ尋ねた。そうすればジンは目を伏せ、ニヤリと微笑んだ。
「さぁ、どうだったかな」
それを聞いて八木田は、あぁ、ピンガはもう帰ってこないんだと思った。
ジンにとって都合が悪い人間が、今までも、どれだけ有能でも組織に貢献してきたとしても、消え続けて来たことは知っていたから。
幹部3人と、乗組員全員を乗せた潜水艇は穏やかな海中を進み、帰還する。
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怒涛の1日が終わる。あの後ジンに潜水艇をボスからの指定場所に隠すように指示され、その後は帰れと言われたので近くにある組織の関係施設にある誰が使ってもいいフリーのバイク使って帰る事にした。
パシフィック・ブイはボスの命令だからともかく、…潜水艦沈没させた報告どうするんだろうな、まぁ何度も過去に色々墜落させたりしてるから、何とかなるんじゃないかな…。幹部様は大変だ…。
自分の家…と言う名の組織の用意した、組織の人間しか住んでないアパートの一室に帰ってくるのは久々だ。なんだかんだあっちこっちの国行ったり来たりしてたからな…。
早速作業服を脱ぎ、シャワーを浴びて、冷蔵庫を開けるが調味料とミネラルウォーターしか無かった。仕方ないので冷凍庫を開け、最後の冷凍パスタをチンして夜食にした。流石にお腹が空いてたらしい、もっと欲しいと腹が鳴るが、まともな食料は今さっき腹に収まってしまった。仕方ないので歯を磨き、寝ようと思うが、あんなに疲れたというのになかなか寝付けない。
仕方がないのでスマホでネットニュースを見ればパシフィック・ブイが爆発する様が速報として流れていた。あれだけ派手にやったら速報として載るよな…。と納得しつつ、まだ事故による被害は不明と流れるテロップに載せられないよなあ、どう隠蔽するんだか、と仰向けになる。
…ピンガのことは残念だった。まさか計画がおじゃんになる挙句命まで取られてしまうなんて。自分が組織に入る前から計画し、長い時間をかけていたのに。
しかし自分のせいでおじゃんになった訳ではない事にホッとしてしまう。俺は、まだ生きられるのだ。
情のない奴め…と自分に対して思うが、肉親すら割り切ってしまえたので今更だと頭まで布団に潜った。
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昨日までの怒涛の仕事によるダメージから、随分とぐっすり眠っていたみたいで、なんとウォッカからの電話で目が覚めてしまった。目覚ましセットしてない!とか、モーニングコールってやつかな、なんて思う暇もなく、身体が勝手に動き、3コール以内で出る。
「八木田です」
『…お前、さては寝てたな?まぁ無理もねぇか。新しい仕事だ、メールで地図と目的地を送るから車を回せ』
「了解」
用件だけを伝えて直ぐに電話が切れた。歯磨きだけ即に済ませ作業着に着替えて部屋を出る。建物内に常備してある組織の用意した業務用…とは言っても、高級車やスポーツカーもあるし普通の見た目の車だ。目的地は確か高級ホテルだったので、そう言う車のほうがいいだろうと黒塗りの高級車のキーを金庫から拝借し走らせる。
にしてもジンとウォッカはいつ寝てるんだ。今日は寝坊しちゃってる俺だが結構あの2人は昼夜問わず駆り出してくる。上司が休まないと部下も休めないんだぞ。いや、俺はそもそもそんな社員的立場でもないが。
それにしても寝てたのバレたな、怒られるだろうか。どうやら寝起きすぐの時、人より喉が乾燥してるらしく、以前起きる前に突然ジンとウォッカが部屋に来た際、寝起きの状態で2人の話に相槌打ってたらジンにすら「…その声は俺たちの耳までも乾かす、この部屋にはオアシスすらねぇのか」と言われたので途中離席して水を飲むことを許された出来事を思い出した。
そりゃあバレるか…。
「お疲れ様です」
「あぁ…」
ホテル駐車場に入り、3分ほど待つと入り口からジンとウォッカが出てきて、車に乗り込んできた。ウォッカが黒いトランクを持ってるし、若干硝煙臭いのでおそらく昨日の件の後始末をしていたのだろう。
「目的地まで着いたらどうします?」
「俺たちはそのまま仕事だ、お前はこの車戻してワゴンで次はマリア像へ行け」
「お、今回納期早かったですね。承りました」
マリア像、実際マリア像の場所ではなく、有力財閥の建物内のマリア像の絵画がある棟の事だ。どうやら組織が依頼しているここ数ヶ月に一回必ず輸送が必要なブツが出来上がったらしい。組織の隠語は最初ちんぷんかんぷんだったし、なんなら自分の拠点が海外になってしまった為、余計に土地勘もなくて大変だったが慣れてしまえばストレートな言い回しにドキドキするようになった。もっとポエミーに言ってくれなきゃ誰に盗聴されてるかわからないぞという気持ちになる。
現時点で直接的な言い回ししてた幹部なりたがりの人たちが生き残ってるのを見たことがないので、組織における必修科目だろう。
まぁ、ストレートじゃないとすぐに探れないし、本当に身内ネタみたいな感じなので敵対組織が聞いてもわからないだろうから実際役に立ってる。
目的地に到着するまでの間、ジンとウォッカの会話を聞く。ほんと仲良いな。毎回思うけど2人ともそんなに他幹部と喋らないのにキミら2人はよく喋る。ほぼ一緒の任務が多いのに不思議だ。
2人を送り届けたのち、直ぐに来たルートとは違うルートを通って拠点まで戻り、先ほど仰せつかった仕事に向かう。
今日も今日とて、八木田士郎は組織の運転員である。
━━━━━━━━━━
「前から気になってたんですけど」
バーボンは顎に手を当て、考える素振りをする。この場に居るのはバーボンとウォッカだけなのでその言葉に対しウォッカがバーボンの方を向く。
「何故ジンは自分の車を八木田に運転させないのでしょう、まさか、ネズミだと疑ってたりしますか?」
「ハッ!シロウがネズミな訳ないだろ、単純にあいつには愛着がねぇからだ」
いつも別の車で送迎させた後、ポルシェに乗り換えてまた運転するなら、いっそ八木田に最初から運転させていれば手間にならないのでは、と前からバーボンは思っていた。確かに、愛車は信用できる人間にしか任せたくない気持ちはわかるが、ウォッカにも運転はさせているようだし、燃費の問題か?
しかし、帰ってきた答えは「愛着」という、なんとも形容しがたいものだ。しかし、それに心当たりがない、ジンのように冷酷というイメージもないし、組織が車使い捨てるたびに勿体無いと嘆く姿も見ている。
「愛着…、ですか?」
「あいつは組織のドライバーとしては100点やってもいいが、ひとつのものに対する愛着はねえよ。運転できりゃなんでもいい奴だぜアイツは」
「業務車を惜しむ姿を見たことがありますが」
「そういうポーズをとってるだけだ、お前、シロウに一般的な感覚があると思ってんのか?奴は俺らとは違うんだ、あんま期待しないほうがいいぜ」
ウォッカはハッ!と笑うと、こちらの認識がおかしいと言うように肩をすくめた。八木田は気に入りの構成員だから深入りしてほしくないのだろうか?確かに足としては優秀だ、組織内でもほぼウォッカが彼に仕事を投げてる時点でそれは察しがつく。
「…妙なこと考えてそうだから言っておくが、別に奴のことをテメェが使おうがなんとも思わねーよ、ただ愛車だけは使わせない方がいいとはアドバイスしておいてやる」
「ウォッカ、バーボン、いつまで喋ってる」
「アニキ!」
2人で話し込んでるとジンが戻ってきたようだった。ジンはタバコを深く吸い、一度肺を煙で満たしたのち、それを深く吐き出した。それからバーボンに視線を向ける。
「八木田士郎はモノを運転する為だけに生まれてきたと言っても過言じゃねェ、テメェの言う惜しんでる姿は、前の生活の金銭感覚が抜けてねェだけだ」
「そこまで……、そうですか、貴方達のお気に入りに失言をしてしまいましたね」
「ま、ネズミだったらまだかわいいもんだぜ、シロウには給料が出てねえでアレなんだからよ」
「…えっ!?!?!?」
バーボンの顔なのにギョッとしてしまった。給料が出てない!?だとしたら生活は組織が面倒見ているにしても、不満は出るのでは…?と。ジンはクククと笑うし、ウォッカはため息をつく。
「シロウの希望した操縦したい乗り物が組織の使う予定にあれば、それの勉強をきっちりさせて欲しいって事だからなあ、それにヤツの親がやらかした事のせいで奴の金への頓着はほぼ無い。ほっとくと死ぬんで組織で囲ってやってる訳だ」
「特別待遇なんだ、文句はありゃしねェさ」
「そ、そうですか………」
言いながら全員の足は任務に向かう。恐ろしいことを知ってしまった。
その後、八木田本人にバーボンとして確認を取ったが「通りで俺はちゃんと勉強させてくれるんだ。よかった〜」などと言っており、給料についても別にいらない、服も食べ物も支給されるし、とのことだった。そして持たされてる財布には常に万札が入っており、ウォッカに会うたび補充されると言っていた。お小遣い制…?でも使うことはほぼ無いらしい、出先で干からびて死にそうになったりした時だけ使うと言っていた。
また、愛着についても理解した。
組織の構成員の居住地が敵対組織に狙われ、八木田の部屋も、建物ごと全て燃えてしまった事件が起こったが(殆どの構成員は任務で出払っていて無事だった)新しい場所に住む様に言われれば言われるがままで、特に今まで持ってたモノに対する燃えちゃって悲しい、という様な感情は全く感じれれず、執着や愛着が本当に乏しいことが分かった。
…引き続き調査を続ける─────。
──────────
「私、ウォッカさんが上司で本当に嬉しいんです」
「突然何を言い出すかと思えば、ごますりか?」
ウォッカ1人だけの送迎任務だ、ジンとセットじゃない時くらいしか、こんなことは言えない。
「事実ですよ、ホント、命の危険はありますが………、これだけ空から陸から海まで、どこでも運転だけできる仕事もないですから」
「まさに水を得た魚ってワケか、まァ今後もしっかりやれよ、シロウ」
「はい!」
へっ、と笑ってそう言ってくれるウォッカさんは本当に理想の上司だ。適材適所を完璧に振り分けてくれる。
理想の職場かと言われると、まぁ犯罪の少ない場所で普通に育ったからちょっと抵抗感がある時もあるが、ほぼそうだと言っていいだろう。
八木田という一介の構成員を、引き続き、ご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます!
終
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