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黒鉄のモブマリン

ATTENTION

黒鉄の魚影のネタバレしかないです。
夢小説です。

大丈夫そうな自信しかない人だけどうぞ。















やれやれ、ケツがぺったんこになりそうだ。もっとあれやこれやの操縦席の椅子は柔らかくして欲しいものだ。まぁ設計安全的には無理な話だが。
若いのにケツへの長時間負担が増えてきたせいで痔になるのでは?の心配をしている八木田はそう思いつつ、ベルモットとバーボンとの合流地点へと潜水艦を動かす。

もうすでに乗り込んでいる幹部のキールは怪我の事もあるので個室で休んでおり、ウォッカは我々の後ろに立ち、偶に画面を覗き込んでくる。本当に仕事熱心な方だ。休まれててもいいのに。

つい先ほどパシフィック・ブイとヨーロッパ中の防犯カメラとの接続が終わった様で、その際に作成したバックドアを元にハッキングし、無事に侵入。スムーズに直美・アルジェントを攫えたようだ。
あれだけ顔が良くても魚雷発射管から出入りさせられると思うと本当にとんでもねえ組織だし、やはり幹部は肝が据わっていると改めて感じる。
圧縮空気を打ち出される場所の操作だからボタンにせず、重めのレバーとして設計されてはいるが、何にせよ危険なことに変わり無い。機械に絶対はない、想定外のエラーだって突然の故障だって有り得るからだ。
アレコレ考えていると「到着されました!」と艦首の方から聞こえた。本当に仕事が早い2人だ。

「じゃ、引き続き頼むぜ」
「「「「はい!」」」」

ウォッカは細かく労いの言葉をかけてくれるので、やはり構成員からの信頼が厚い、こんなやる気に満ち溢れた返事を聞けるのはウォッカさん関連の現場でしか見られないぞ。組織にあるまじき体育会系感を感じられてちょっと楽しい。
幹部が応接室で直美・アルジェントの情報を洗ってる間、パシフィック・ブイから離れ、海底の方へこの巨大な魚影を隠す様に操作する。
ほんと、よくこんなデッカい乗り物使いながら任務をこなそうと思うものだ、我々小市民には想像もつかない仕事を振ってくる。





思ったより早くウォッカが戻ってきた。艦首の方もバタバタしているので、もうベルモットとバーボンは潜水艦を離脱し別の任務に向かう様だ。激務過ぎるだろうと引くのも束の間、ウォッカから構成員に予定になかった追加命令が下される。

「どうやらシェリーがガキの姿になって生きてるらしい、そいつを回収しに行くからピンガからの報告次第でコレを動かす。俺も攫いにいく予定だから簡単な連絡は…シロウ、お前に送る、いいな」
「はい。……もしかしなくても、ジンさん来ます?」
「アニキは自分の目で見たものしか信じねえからな、ま、シェリーを攫ってからになるから今日じゃねえ」
「わかりました」

ジンが乗らないなんて珍しいな!が完全にフラグだったじゃないか!と思いながら潜水艦もおじゃんになるのかな…いや流石に今回の計画でそうはならんやろ…と思いつつ、ピンガの仕事量考えてあげなよジン…とも思った。
シェリー、話でしか聞いたことないが昔いた構成員で、薬の開発をしてた事はウォッカの話から推測できる。それ以外ほぼ全く知らないが、まぁ逃げ出したって聞いたからわざわざ捕まえてジンが確認して殺すんだろうな、と憶測する。頼むから潜水艦内部でベレッタを使わないで欲しい所だ。

夕方にはシェリーの場所が割れたらしく、何と八丈島にいるとの事だった!何と言う幸運、というかシェリーの運の悪さには手を合わさざるをえない。
すぐに使い捨てられる4WDを用意させ、攫う準備を整えてウォッカも魚雷発射管から出て行った。
ピンガとウォッカが攫ったのち、車ごと海に飛び込んで3人とも潜水艦で回収、そこからピンガはパシフィック・ブイに戻り痕跡を消すとのことだった。
ピンガの仕事量だけおかしくない???

「ピンガ、ラムの側近になってから過労死ラインぎりきりって感じしねえ?」
「それは思う…。ピンガさん、今回の任務終わったら一旦ゆっくりして欲しい…」
プルル「はい八木田です」

ウォッカからの着信だ、瞬間、全員が無駄口を止める。5分後に南原千畳岩海岸付近、と連絡を即頭に叩き込み、電話を切ったのち全員に通達、ゴゴゴゴゴゴと大きな音を立てながら潜水艦が移動した。

「…ウォッカさんのGPS、これもしかして誰かとカーチェイスしてる?…まあ、俺の考えることではないか……」








その後2人とシェリーと思わしき子供を無事回収し、ウォッカは濡れた服を着替え、ピンガはちょっかいかけに発令所にやってきた。

「ちょっ、首!痛そう…」
「の割に操舵席から離れねぇのは流石だな」
「心配してますよ!ちゃんと!こうやって潜水艦に構ってないと困るのピンガさんですからね…!」

ちゃんと心配の姿勢を見せろと言われても一応操舵の役割はちゃんとやらなきゃいけないのだ、ゲンコツを頭にぐりぐりしてくるがそれを甘んじて受け入れるしか八木田に出来ることはない。

「本当に大変だと思うけど、本当に頑張ってください、我々応援してるので」
「…ま、許してやるかァ。マジでそろそろ戻らねーとヤバいし」
「いってらっしゃいませ〜」

じゃあな、また来るぜと手を振って艦首の方へ帰ってった。手を振り返したが一度も振り返らなかったので見えなかっただろう。
その頃、キールは直美・アルジェントとシェリーを同じ部屋に突っ込みシェリーの目覚めを待っていた。





暫くするとシェリーと直美の部屋を確認してきたウォッカが戻ってきた。どうやらキールが子供の姿とは言えシェリーの可能性がある子供を縛らずに部屋に放置していたらしい。
直美から指示されたら動ける状態だよなぁ、でも直美がそんな大胆なこと考える気はしない。うーむ。

「キールのやつ、ちょっと認識が甘ぇ気がするぜ。女だからこそ女子供をナメてんのかもしれねえが…」
「まぁ…疑わしきは罰せよ精神に倣った念には念を精神、ジンさんもそうすると思うのでウォッカさんが縛ったなら結果としてはいいんじゃないですか?」
「アニキならそうするよな、わかってんじゃねぇかシロウ」

へへ…と褒められちったと口元が緩む。ウォッカもここにいないジンを思い出して先程のピリついた雰囲気が緩んだ。
ウォッカはジンほどでは無いにせよ、一応やる事はやっているのだ。ただジンがそれ以上に細かい想定までできて、その所もカバーする手立てを思いつくだけで、我々構成員としてはツメが甘いと感じたことはない。
ジンが「やれやれウォッカはツメが甘いなぁ」みたいな態度でフォローしてたりするのを何度か見たことがあるが、普通の人はそこまで想定しないんですが……とドン引きしてしまう。
今後ジンにずっとついていくであろうウォッカがジンほどの直感をジンの元で培った判断力で手に入れたらこのコンビは組織内で本当に揺るがなくなるだろうなと思う。組織に拾われたこと自体は不運だったのかもしれないが、この2人に拾われて変な派閥争いに巻き込まれないだろう事には幸運を感じた。

それから暫く待機しているとウォッカの携帯が鳴った。どうやら直美を脅すために探していたマリオ・アルジェントを見つけて、現場にコルンが既に向かい、そろそろ到着するようだった。
仕事の時間だというようにウォッカがまた2人の捕えられた部屋へと向かった。

あぁ、可哀想な直美。あの恐ろしい脅しを、何の悪行も成していない善良な親に対して行われるなんて。
正義を語れば語るほどに、いとも簡単にその言葉を言い換えられ、蹴散されるのは心にくるだろう。
それを飲み込んで、理解できた者だけが〈こちら側〉になれるのだ。それでも理解できない者は、表でしか生きていけない人間だ。




「いやあああああああ──────!!!!!!!」




直美の心からの絶叫が、艦内の分厚い鉄に阻まれながらも、薄く耳に届いた。
あぁ、ダメだったか。







━━━━━━━━━━━




「アニキが到着する、潜水艦を浮上させろ!」
「了解」

ジンはヘリコプターで海上に向かっており、そろそろ到着するようだった。潜水艦を浮上させるに伴い、ゴゴゴゴと揺れが広がる。
それからキールが現れた。どうやらこの状況で魚雷発射管と艦橋からの出入りをよくわかってない様子だった。
まぁ少し前までアナウンサーをやってた女だし、潜水艦のアレコレなんて知らないよな…と思っていたが
「バーカ、普段は魚雷を発射してんだぞ。誰かが間違えてあのレバーを引いたら……」
「レバー?」
「ーなッ、そんな事も知らねーで乗ってたのかよ!来い!」
流石にレバーの事まで知らないとは思わず乗組員たちもビックリしてしまった。エッ?流石にヤバくない?という雰囲気だ。

しかしこれはジンを迎える為の浮上なので気を緩めずにモニターの様子をチェックする。
ウォッカはズカズカとキールを連れて行ってしまった。そりゃそうだ、幹部達の命にかかわる。
さっきちょっと認識が甘いと言っていたが最低限位は幹部様も覚える必要はあると思う、バーボンやベルモット、ピンガに関してはわざわざ俺のところに来て潜水艦を詳しく把握してたので、こういう所にツメの甘さが現れるのかな、などと思った。

完全に浮上したのち、ヘリコプターが上昇して離れていくのを確認し、潜水艦をゆっくりと前進させ再び潜らせる。
その後ややあって、なぜか魚雷発射管室を操作中のアイコンが光っている。その後直ぐにダイバー排出のアイコンに切り替わった。
先程キールにウォッカが教えた時も光ってなかったし、今は誰も出入りしないし魚雷を打ち出す事もないのでその部屋には誰もいないはずだ。
「ちょ、ダイバー排出操作されてる!誰かウォッカさんに伝えて!大至急!」
「私が行ってきます!」
イヤな予感がする。我々で勝手に対処するわけにもいかず、報告するしかない。まさかあの2人か?

報告しに行った奴が出ていってすぐに艦首の魚雷発射管室の方が騒がしくなった。一応他数名の乗組員をそちらに向かわせたが、どうなるものか。
ここから全く動けないのも中々状況を把握しづらくて困る。と思っていたのも束の間、またソナー専用モニターに新しい情報が舞い込んだ。
「スクリュー音、小さいけど…十時方向、五ノット!多分水中スクーター!報告!」
「ハイっ!」
本当に小さくだけどもスクリュー音をキャッチしたのですぐさま報告に走らせる。

今はどんなに小さい情報も見逃すわけには行かない、冷や汗をかきながらも何も見逃すまいとモニターに齧り付く。
少しでも報連相が遅れてみろ、この艦内にはもうジンがいるのだ。血生臭くなるのは本当にゴメンだ。
報告に走った奴が「追えって!」と言いながら走って帰ってきた。汗だくな様子を見ると本当にジンの機嫌が悪かったことがうかがえる。

その後遅れて発令所にやってきたジンとウォッカが乗組員の後ろに立ち、モニターを覗く。スクーターを追ったが、突然そのスクーターの反応が消えた。ここらで電池切れでも起こしたのだろうか。
即座にダイビングが得意な構成員2人ほどを魚雷発射管から排出し確認させる。
『充電切れで停止中、周りに人影は全くありません』
2人に持たせた防水スマホから送られてきた文章を2人に見せる。ジンはやはりと言った様子だった。
「漁船のスクリュー音もキャッチしています、追いかけますか?」
「待て。行き先はわかってる」
囮かもしれないが、もう片方の行き先もわかってるから囮を追いかけて油断させたという事だろうか。やはりジンの頭は相当キレる。2人を逃して不愉快なはずで頭に血が昇って判断を誤ってもおかしくないのに…。

「兄貴!コレを見て下さい!」
ウォッカがタブレットを渡すと、コレはどういう事だ?とワントーン低くなったジンの声にヤバイ報告か?と震える。どうやらベルモットから送られてきた老若認証の欠陥を表す画像らしく、電話もつながっていたのかベルモットの声がスピーカーから鳴る。
『直美が持っていたシェリーの一致画像はテストってファイル名だったから、念のためにもう一度シェリーの顔を〈老若認証〉で検索してみたの。…そしたらなんとこの有様。どうやらよく似た人間を同一人物と判断しちゃう…欠陥システムみたいね』
あ、ヤバイ、そんな事今の状況で言ったら…乗組員達の顔がみるみる青くなる。
ジンのそばにある潜望鏡の柱が思いっきり殴りつけられる音が響く。
「なァにが老若認証だ!とんだクソシステムじゃねぇか!!」
吐き捨てるように叫んだジンは発令所をさっさと出ていった。

怖すぎ…。ていうかドイツから不確証を見るためにわざわざヘリで飛んできて、例の子供も直美も逃げてて、確認する事もできなかった挙句、長年かけて手に入れようとした老若認証が欠陥品って……、
そんなバカな、前者も到底あの2人がやれそうな気はしないし、後者もあのエンジニア職にして普通に生きていけるだろってくらい有能なピンガがあそこまで潜入して欲しがってたのに?ありえない。
一体何が起こってるんだ。

ウォッカはベルモットとの通話を切ると慌てて発令所を出ていった。ジンを探しにいったのだろう。それから自分の端末が震えたので見ると、ジンからだった。
浮上させろとだけ書いており、ヘリも来ないのに?と思ったが確かにめちゃくちゃ今ストレス溜まってるもんな…と思い即浮上操作を行なった。
「なんで浮上?」
「ジンさんからの命令」
「あっ……、オッケー」







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