優しいことだけで満たして
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あれから1週間が過ぎた。
地域の復興にも少しづつ参加し、ジンベエならどう行動していたか、と彼の影を追ってみたりした。
それでも、ジンベエがここに居ないことに変わりなどなく、私にとって生きる意味とはなんだろう、と何度も考えてしまう。
ホーディたちの一件で命を落としたり傷ついた魚人島の人々には、きっとそんなことで、と言われてしまうだろう。
ジンベエは今もどこかで懸命に生きているというのに。私がその隣に相応しくないばかりに。
どうせこんな死んだような生き方をするくらいなら。思い立ったのは昨日の夜、窓から見える景色を眺めていた時だった。
波打つ砂浜は月明かりに輝いていて、いつかふたりでそこに座って眺めた月は永遠だと信じて止まなかった。
私も、憧れのしらほし姫のように強くなりたい。
飛び出した海は冷たく、深く潜れば潜るほどに暗闇が続く。さようなら、私の想い出たち。
ジンベエが来ないなら、私が会いに行けばいい。どれだけ時間を要したとしても。もう一度だけ会って、大好きだと伝えればいい。
魚人島を出るのは産まれて初めてで、
たった一人で外界へ出ることに少しだけ怖気付いてしまう。けれど、波をわけてゆらりと泳げば、もうそこは誰の目もない、私だけの世界だった。
輝かしい魚人島を見下ろして、弱かった自分へ別れを告げる。いつまでも泣いて待つのは、もう辞めにしたい。
魚人島の外は既に見たことの無い世界が広がっていて、ジンベエはこの海をいつかタイヨウの海賊団のみんなと渡ったのだろうか。と胸がいっぱいになる。
そして彼の跡を辿るように、ゆっくりと私は水面へあがっていく。
キラキラと反射する光に胸を高鳴らせて、あと少し。目の前で揺れる明かりに手を伸ばした。
その時だった。
光に手は届くことなく、いつの間にか背後から忍び寄っていたニンゲンたちが周りを囲う。ジンベエに会うどころか、外の世界を知る前に、重たい鉄格子に押し込まれ、もがいても逃げることのできない絶望で涙が流れる暇もなかった。
「つかまえた、人魚は高く売れるぜ」
嬉しそうに話す声が頭の奥で木霊していた。ニンゲンは危険だということは、魚人島の誰しも、子供でも知っていることだったのに。
「お願いします、何でもします。許ししてください……。」
「あっちの船に運べー!」
ガラガラと鎖を巻き取る鈍い音を立てながら、荒れる海面から檻は地上へと排出される。幾度となく呟いた声は掻き消され、私は私としての権利を失っていく。
こうなってしまってはどうにもならないと、幼い頃から何度も言い聞かせられてきた。
冷たい檻の中で悔しさから拳を握ると、その時初めて自分が泣いていることに気が付いた。
もう一度会いたかっただけなのに、ジンベエに。
私が願ったことは罪だったのか。
あなたを求めて、
愛しい永遠だけを生きたい
ただ、それだけなのに。