優しいことだけで満たして
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ジンベエ、そして麦わらの一味がこの島を去って数日が経った。島は復興に力をいれ、崩壊した各所では毎日大きな工事が行われている。
今ではどこへいっても、小さな麦わら帽子をかぶる子供たちに溢れていて、微笑ましいはずなのに、それを目にする度、あの日私の肩を抱いたジンベエの体温が忘れられなかった。
誰もが前を向いて生きているのに、私の時間だけいつまでも止まってしまったように、動き出せないでいる。
私にもし、もっと力があれば。ジンベエの役に立てる、何かがあれば。
そんなことは今まで数え切れないほど想像したけれど、所詮私は私であったし、それ以上の何かにはなれない。
あれから開くことの無い部屋の扉をぼんやりと眺めていれば、軽快なノック音と、明るい声がして私は現実へ引き戻される。
「はぁい」
なるべく明るく返事をしながら扉をあけると、ノック音の主は近隣に住む人魚のおばさんだった。心配そうな表情で声をかけると、半身を部屋に入れ中をずい、と見回して話す。
「休んでるとこ悪いね。なまえちゃんのところは何か問題ないかい?みんな家のどっかが壊れちまっててね……」
「大変ですよね。私のところは……多分大丈夫です。」
思ったより普通に会話出来ていることに安堵しながら、ひとり無事だったからと復興に参加しないことを恥ずかしく思った。ジンベエならきっと、自ら進んでみんなを助けたんだろう。あの日のように。
「そうかい!心配したよ。何かあったら言いなよ、若い女ひとりじゃ大変だろ?それじゃあ、またね。」
元気の塊のようにおばさんは笑うと、手をあげて他の家の方へ向かっていく。恐らくこの一体を回っているのだろう。
久しぶりに出た家の外はまぶしく、活気にあふれていた。遠い太陽が陽樹イブの力を借り天の高くから光を届け、深海をも明るく照らす。
この小さな家から見える海岸が綺麗だと、いつか二人で見た時ジンベエは言った。どこかとんがっていて、まだ優しさより不器用さばかり目立っていたあの頃。私の隣にいつもジンベエがいてくれた、あの頃。
あなたの居なくなった世界は鈍色で
出来ることならもう一度、あなたの隣で
美しい色だけを知りたい