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優しいことだけで満たして

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あなたの夢を見ない日などなかった。どれだけ恋焦がれただろう、あの日あなたがこの島を去った日から。

半壊した魚人島は混乱と歓声に満ち溢れていた。同族である魚人の反乱、嫌悪していた人間の助け。誰もが憧れたジンベエの、思いがけない行動。
私はそのすべてを、主役ではなく島民のひとりとして、郡勢の奥の奥で震えながら見つめていた。
私たちの関係は誰もが知るものではなく、そして私は臆病だった。英雄である彼等がいる広場の真ん中に飛び出す勇気など、ありはしない。





*





薄暗い部屋、小さな照明だけがぼんやりと室内を照らしていた。幸いなことに、島のはずれにある小さな家は崩壊を逃れ、ぽつりと変わらず佇む。
こんなにも恋焦がれていたというのに、声をかけられなかった自分の情けなさに嫌気が差していた。
ジンベエは、変わらずいつも勇敢だった。

「……いるか」

膝を抱えうずくまっていれば、扉の方から控えめなノック音が響き、落ち着いた声が私の顔をあげさせる。
頬を伝う涙を拭いながら慌てて扉を開けると、そこには涙の原因でもある、ジンベエがいた。

「ジンベエ……!」

どれほどこの日を待ちわびただろうか、と抑えきれない感情を露わに胸に飛び込むと、大粒の涙が彼の着物をじわりと濡らした。
優しく私の肩を抱くジンベエは、そっと部屋に入り後ろ手に扉を閉めた。

「ジンベエ、わたし……」
「……すまんかった、何も言うな。」

すべてを悟ったように話す表情は明るくはなく、変わらず泣き止まない私の額を優しく撫ぜると、そこに小さなキスを落とす。

「……また、行っちゃうの?」
「……すまん。謝ることばかりじゃのう。」

私の問いに仕方なさそうに微笑むと、抱いていた肩を名残惜しそうにもう一度抱きしめて、ジンベエは離れていく。

「まって!……私も、連れて行って欲しい。」

無理な願いであることなどわかりきっているのに。私なんかが彼の側にいて、何が出来るというのだ。
それなのに。それよりも、もう離れたくない気持ちが上回ってしまった。迷惑になるだけだと、自分が何よりわかっているはずなのに。

「せめて何か願いくらい叶えてやりたいが……難しいことを言うなあ、お前さんは。」

優しいジンベエはそう言うと、苦しそうに笑って再び額を撫ぜた。
本来海賊である彼は、この島に留まらない。

「それじゃあ……朝まで、一緒にいてほしいの。お願い。」

せめてもと、ただ一緒にいたくて口にした願い。けれど、それすら叶うことはなく「……すまん。」と小さく残してジンベエは扉を開けて部屋を後にする。あと少し、もう少しだけ一緒にいたいだけなのに。
思わず後を追いかけるけれど、これ以上彼を困らせることも出来ず、いつまでも去りゆく背中を見つめていた。前へと進んでいくジンベエは、ただの一度も振り返ることはなかった。

あなたのいない朝はいつだって光が届かない。
あの日のように、






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