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「おらよ」

目の前に突き出されたのは小さな紙袋。視線だけで早く受け取れ、と私を急かすこの男は、モノの渡し方ってもんを一から勉強し直した方がいい。
けれど、宍戸にしてはちゃんと用意してきたことは偉いじゃないか。と紙袋ごとその手を握ってやれば、「ぅお、」と驚いた声を上げながら私を凝視して、通学路、他の生徒が見てやしないかと首をぶんまわす勢いで周囲を確認している。おもしろ。

一ヶ月前、バレンタインに宍戸にチョコを送った。「ミントチョコじゃねーのか」とつまらなそうに包装紙を開ける彼に「私が食いたいやつ」と返事しながら、プレゼントしたにも関わらず蓋が開いた途端、宍戸より先にチョコレートを奪ってそれを1粒食べてやった。
なんだかんだと文句を垂れながらも、その行為にひどく彼は驚き、私たちはその後見事なチョコ取り合い合戦を繰り広げた。
今日はその、お返しが来たのだ。


「柄じゃねーけどよ、一応」

握られた手を振り解きながら、再び視線を逸らす。一度照れ始めたらなかなか引かない表情を眺めては、我慢することなく笑っていれば、突然彼の香りに視界を奪われる。

「あんまからかうなっつの……つか笑うな」

被っていた帽子を私の顔にかざして、尚も照れくさそうに、少しだけ怒って呟く。「ごめんごめん、」宥めるように言ってから、それを奪い取って宍戸の真似をして頭にかぶせた。私には少し大きいけれど、ポニーテールにひっかかって丁度よくなる帽子の鍔に手をかける。なんだか恋人らしいじゃん。なんてにやにやと頬を緩ませていれば、その姿を見て、軽く舌打ちをしながら彼は先を歩く。

「行くぞ」
「……何買ったの?」
「……勝手に後で見ろ!」

まだ少しだけ冷える朝の時間、1人だけ凍えたように耳まで赤くする宍戸の腕にへばり付いた。鬱陶しそうにそれを振り払われるのすら愛しくて、私の頭の上にある帽子を探して空を切る宍戸の手は、それに気付いて気まずそうに後頭部を掻く。

ホームルーム前にそっと開いた箱には、小さなクマのキーリングが入っていて、もしここに家の鍵でもついてたらプロポーズだったな。なんて先すぎる未来を夢見て、その恥ずかしさに1人で小さく笑った。




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