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あの夜、ひどく安堵しながらため息をついてから、2週間ほどが経とうとしていた。相変わらず宍戸と連絡をとることはなく、けれど「待っててくれ」の一言でこんなにも私は前向きでいられることを知った。
連絡を取らないせいで案の定遅刻が増えているのは事実だが、それはまた、宍戸が再び私の元に戻ってきたら問い詰めてやることにする。そして、お詫びにおしゃれなカフェにでも連れ込んで、照れた顔を堪能させてもらってからおまけに奢らせてやろう。
悪巧みを考えながら、つい無意識に頬を弛ませれば、黒板の前で先生がそれを注意する。
「おーい授業中だぞ、何笑ってんだ」
視線の先を辿るようにクラスメイトに笑われれば、前の席の友達に呆れたように苦笑いをされた。
「あんたさっき、宍戸のこと考えてたんでしょ」
「……は、なにをおっしゃる」
図星に言葉を詰まらせながら返事をすると、お見通しと言わんばかりにバシバシと叩かれた背中が痛かった。
「トイレでもいこ」誘いながら友達は前を歩いて、私もそれに続く。
メイク直しと、なんかアホ毛やばい気がするから確認しとこ~なんて呑気なことを考えていれば、入れ替わりで教室に駆け込んだクラスメイトの女子が、後ろでその友人らとやや興奮気味に話を始める。
「宍戸くん、関東大会でレギュラーだって!」
「え、まじ?復帰?すごいじゃん」
「鳳くんとダブルスらしいよ!」
驚きで足をとめ振り向くと、私が宍戸と付き合っていることを知っているせいか、何か言いたげにちょうど視線が合う。彼女たちは所謂テニス部のおっかけ組で、私とそう仲はよくないものの、クラスメイトとしては一般的な会話を交わしたりもする。
詰め寄るように駆け寄ってきた女子たちはキラキラと瞳を輝かせて、口々に「おめでとう」と私に声をかけた。
「ありがと……って変だけど、まぁ、うん。ありがと。」
釣られて、知ってましたよ、という表情をしながら笑いかけて、彼女たちは早々にその情報を別のクラスへと伝えるべく教室を後にする。
「……聞いてなかったの?」
一連の流れを一歩先で聞いていた友達が声をかけてきて「はは」と私は苦く笑った。
晩ごはんはハンバーグ。母のハンバーグにはにんじんが入っている。そのことを宍戸と話した時に、「餃子みたいだな、」と宍戸が面白そうに話したことを思い出す。ちなみに、私の家の餃子ににんじんは入っていない。彼の家では、私の家のハンバーグのように餃子ににんじんを混ぜ込むタイプなのだろう。
些細な会話を思い返しては、早く宍戸に会いたいと思いを馳せてハンバーグを箸で割った。
食事のあと、自室に戻ると携帯が通知を知らせてピカピカと光るのを目にしてそれを手に取る。
相手は、宍戸で。通知は着信履歴。
私のバカ、なんだって今日にかぎっておかわりなんてしてしまったのか、先程までまごまごとハンバーグに舌鼓を打っていたことを後悔しながら時間を確認すれば、着信はおおよそ30分ほど前のこと。
電話をかけ直すと、ワンコール響く前にそれは宍戸へと繋がった。
「もしもし、」
『……おう』
「……おう、じゃ、ねーよ」
照れくさくなり強がってみれば、向こうもそれは同じなのか、へへ、と受話器越しにかすれた声がした。
「あんた、レギュラーに戻れたんだって」
『…………ちっと出てこれるか』
「……は?」
まさか、と自室の窓を開けると、そこには携帯を耳にしながら、『ヨ』と片手をあげる彼がいた。
こんな時間にそんなところで、何をしているというのか。まさか、最初の着信から、折り返しがくるのを待っていたのか……。慌てて窓を閉めると階段を駆け下りる。
玄関の壁にかけてある小さな鏡で手早く前髪を整えると、ちょっと出る時用のサンダルを下駄箱から投げ出した。慌てすぎてひっくり返ったことにもたつきながら、足をねじ込み玄関扉を押し開く。
「……久しぶりだな」
ガチャリと音を立て正門を抜けると、いつの間にかこちらに回ってきたのか。帽子にクイ、と手をかけて彼が控えめに微笑む。
久しぶりに会う宍戸は、傷まみれで、泥だらけで、少しだけ汗ばんでいて、先程まで練習をしていたことなど聞かずともわかる風貌で。
「ほんといつも自分勝手すぎ」
「悪い」
首の後ろに手を回して少しだけ俯く彼に「もういいよ慣れてるから」と笑いかければ、敷地を抜けて横に並んだ。
何も言わずに歩き出した半歩後ろをついていく。
生暖かい風が通り抜けて、宍戸の香りがした気がした。
「じゃあそのついでに、もういっこ勝手なこと言うけどよ」
短い沈黙を破ると、立ち止まった足はアスファルトを蹴って見つめた瞳が真っ直ぐに私を捉えた。
「関東大会、見に来いよ。……返り咲きだぜ。」
情熱とはこういうことか。特別熱血漢というほどでもないけれど、テニスに対してはそうではない宍戸の熱い眼差し。ゆらりと燃えるような闘志に気圧されながら、逸らせない瞳を見つめ返し小さく頷く。
返事を聞くと、途端に真剣な表情は移り変わり満足そうに歯を見せて笑う。「ま、お前は興味ねぇんだろーけどよ」と付け足すように呟きながら。
「興味ないって言ったことないけど。」
「バァカ、あんだよ。」
「ないし!」
笑いあって肩をこづきあいながら、薄暗い街頭が私たちを照らす。
宍戸の隣は心地よい。じゃれあう私たちは夏の夜に溶け込みあい、すぐその先で関東大会が始まろうとしていた。
*
「そういえば、鳳くんと話したんだけど」
「あ?」
「あんた私に会えなくて寂しがってるって」
「……チッ、あの野郎……どこをどう聞いたらそうなんだか……」
「いやでも間違ってもなくね?」
「ルセー!」