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宍戸が髪を切ってからしばらく経った。あの時は、なぜあのナルシスト野郎が突然さわやか系へと大幅な舵を切ったのか、一体何があったのか。私には何も話してくれなかったし、私も話したくないならそれでいいとそれ以上は詮索することをやめた。
それでも、丸出しになり照れた表情を見れることが新鮮でやたらにからかってやったし、別に私は宍戸の外見だけで彼を好きになったわけではないので、さほど気にすることでもなかった。まぁ、本音を言えば2人きりの時三つ編みにする練習相手がいなくなってしまって、少しがっかりしたけれど。
私まだ編み込みをモノに出来てない。
その後風のうわさで聞いたところ、宍戸はレギュラー落ちしたらしい。直接言えよ馬鹿野郎。という気持ちはないわけではないものの、きっと彼なりのプライドがあるのだろうし、私にはきっと別の配役があるのだから、何かしら宍戸の気休めになっていればそれで充分だとも思う。
しかしそれからというもの、予想はついていたことだけれど、テニスの練習量が前より増した。当たり前と言えば当たり前の話だが、どんどん宍戸がテニス、というより、後輩に取られていくことに、段々と面白くなさもそれなりに感じ初めてしまっていた。
私ってこんな陰湿系じゃなかったはずなんだけど。
今となっては共にランチをすることすらなくなってしまった昼休み、昨日と同じように友達と学食へ向かう。
「あ、てかそのブランドの新しいリップやばくない?」
「わかるちょーかわい、放課後見にいこーよ」
ガールズトークに花は咲き、宍戸のことなんて少しも考える暇がない。くらい、私は楽しくやってますよ~だ。
と、忘れようとしながらも、鳴らない携帯に悪態をつく。
学食で何を食べようかメニューを吟味していれば、ふと並んだテーブルの向こうにひと際背の高い男子生徒に目が留まる。あの子は、確か……。
思考する前にぱちりと合う視線。私に気が付くと、彼は少し慌てたように足早でこちらへ向かってくる。
「ローストビーフにする?それとも……ん、あんた、あの子って……」
「あー……うん」
「用でもあんの?」
彼に気付いた友達は怪訝そうにこちらを見て、ひそりそ囁く。曖昧な応えをしながら一体何だと身構えていれば、寄ってきた彼は太い眉を少し下げて小さく会釈した。
「あの、宍戸さんの……」
「うん」
「……あの、最近宍戸さん、すごく頑張ってますよ……」
何の事やら。テニスを頑張っているのは前からだし。あんたに言われる筋合いないけど。
黙って彼の話を聞きながら、高すぎるその瞳を見上げれば「すみません……」と話は途切れて謝罪に変わる。
「……俺、いつも先輩と宍戸さんが一緒にいたの、知ってたので……奪っちゃったみたいだな、って……」
「……事実でしょ。」
少し意地が悪かったか。吐き捨てる言葉は思ったより刺々しく、自分でも驚いた。更に困った表情を浮かべる彼は、大きな身体には似つかわしくない仕草で小さく背中を丸める。
「で、でも。……宍戸さん、きっと寂しいと思うんです。連絡してあげて下さい!」
「は?」
きゅ、とわかりやすく胸元で拳を握ると、語気を強めて話す。それからすぐ、来た時と同じように会釈して彼は私に背中を向けて歩いていく。周りから沸き立つ控えめな黄色い声と共に。
……連絡しろですって?何を?というか、連絡しないのはあいつの方だろ。ふつふつと腹の底に不満を溢れさせながら、学食の列をじわりと進んでポケットの携帯を握りしめた。
「連絡しろって、なんだよ。」
帰宅して、ぼんやりと自室の天井を見上げてため息をつく。
せっかく今日はコスメを見に行く予定だったのに、「彼氏と連絡とってないの?早い方がいーよ」と会話を耳にしていた友達に、無駄に気を遣われてこの始末。宍戸の野郎、どこまで私を引っ掻き回すつもりなのか。
悩み抜いた挙げ句、この怒りは宍戸にぶつけるしか他は無い。と、メールなんてまどろっこしいこともする気になれず、通話ボタンを押し込んだ。
最新の履歴は友達と親で埋め尽くされており、少し遡った彼の名前でどれだけ彼と連絡を取っていなかったかを実感させられる。
耳元で響くコール音。何だかんだやっと話ができると思うと、なんだか妙な期待で胸が高鳴る。初恋かよ、と自分に突っ込みをしていればその音は数回鳴って途切れた。留守番電話サービスに接続します。
馬鹿野郎が!握った携帯をベッドに投げつけてから、慌てて壊れていないか拾い上げる。アホらしいと目を瞑り、私は不貞寝を決め込んだ。
すっかり寝過ごしてしまった。暗くなった部屋を見回して、寝ぼけた頭で「なまえ、ごはんたべないの?」といつまでも私がダイニングに来ないことから、自室まで呼びにきた母と交わした会話を思い出す。
伸びをしながらベッドに投げ出されたままの携帯を見ると、通知がきているそれはピカピカと小さく光を瞬かせる。
忘れていた心音を取り戻したように鼓動を早くさせながら、あくまで冷静にそれを開くと「いまおわった」と、待ちわびた相手からメールが入っていた。
時間は10分ほど前で、なんでかけ直さないんだと再びじわりと腸を煮えくり返しながら携帯を握りしめる。
慣れた手つきで「遅すぎ」と返信すると、いつもならここで電話がかかってくるはずなのに。またも来たのはメールの返信。
『もう少し待っててくれ』
一体何なんだ。なんの事なんだ。わからないけれど、思考するよりも、私のことを忘れていたわけではなかったことにひどく安堵した。私って、思ったより宍戸のことが好きだったんだ。
自分の気持ちを確かめながら、そんなこと言われたら、待つしかないじゃないか。と思い出した宍戸の不器用さに小さく笑ってため息をついた。