zzz
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私が好きな宍戸ランキング。照れた顔。照れて目を合わさないところ。照れてどもるところ。
なんて、ほんとはもっとかっこいいところもあるんだけど。
来るバレンタインに向けて、今年は何をプレゼントするか雑誌の特集を眺めていた。以前お弁当交換をした際、自分の調理能力の低さはこれでもかというほど痛感させられている。
世の女子はみんな揃いも揃って、こんな手の込んだものをプレゼントしているのか……と、鮮やかに彩られたページを見るほどため息は大きくなるばかりだった。
「ガトーショコラとか良くない?鉄板じゃん。」
目の前でスナック菓子をつまみながら話す彼女は、「なんか甘いもん食いたくなってきた」と、なおも塩っぱいお菓子を口に運びながら呟く。
「ガトーショコラとかやばいでしょ。どう考えても。」
自分がそれを作ることを想像して、想像のはずなのに既に失敗してしまうことに少しがっかりした。空想の世界くらい報われたい。
目の前のお菓子へ手を伸ばし、勝手にひとつ指先でつまむと、サクサクと軽い音を立てながら咀嚼していく。
「うまくない?これ最近ハマってる」
「なんかいっこ食べると止まんなくなる~」
笑いながら言うと、彼女は手にしていた箱を取りやすいように傾け「一緒に太ろ」と悪魔の囁きをした。
*
「結局つくんないの?」
放課後、下駄箱からローファーを出しながら彼女は問いかける。緩く巻かれた髪を耳にかけながら私へちらりと視線をおくり、それが昼休みしていたバレンタイントークの続きだと理解するのに時間はかからない。
続けて私も下駄箱からローファーを取り出し、もたもたと履き替えながら返事をする。
「ないな。買う。」
「一緒につくろーよ。」
なおも食い下がるのは、手作りに拘りたいせいらしい。けれどどんなに考えても、私がつくるお菓子の成功例が浮かばないのだから仕方がない。案外やってみれば上手くいくのかもしれないが、そもそも昼間見た雑誌にあったレシピのせいか、既にお菓子作りの工程の多さに面倒くささの方が上回ってしまっている自分もいた。
「パス。これから買いに行ってくる。」
「そーですかー。」
つまらなそうに唇を尖らす友人に「またね」と声をかけ、私たちは校門で分岐する。買うと決めたのだから、早々に品を入手しなければ。
少しでも宍戸を喜ばせるため、おしゃれなチョコレートを求め私は足早に駅ビルへと向かう。道中、どんなチョコレートがいいかと思考をめぐらせながら。
*
「……と、いうわけで。ハッピーバレンタイン。」
差し出した小さな包を見つめる宍戸は、なんとも言えない表情を浮かべて静かに唾を飲んだ。こんなにもわかりやすく生唾を飲む人間がいるだろうか。どうにも格好がつかないところが、私の好きな宍戸ランキング上位の姿である。
片手でそっと包を受け取ると嬉しさを噛み締めているようで、けれども決してニヤけたりはしないぜ、といった心意気を感じる。
「……ありがとよ。」
照れくさそうにお礼を言うと、まじまじと手元の箱を見つめて頬を緩ませる。
中身は言うまでもなくチョコレートだというのに、こんなに嬉しそうにする男はそういない気がする。私が宍戸しか男を知らないだけなのかもしれないが。
小綺麗な包装紙をゆっくり開封しながら「食っていいか?」とはにかんだ彼に、私までつられて笑うと「もう開けてるじゃん」と返事をした。
すう、とゆっくり開いた蓋から現れたのはころんとした愛らしいトリュフで。結局、どのチョコレートを宍戸にあげればいいのか悩み抜いた挙句、自分の食べたいものを選んだのだった。
「ミントチョコじゃねーのか」
可愛くて美味しそうで大正解だった、と思ったのも束の間、宍戸が隣で小さく呟いたのを私は聞き逃さなかった。
失言した、ときまずそうな表情を一度浮かべ、それより早く「私が食いたかったやつ」と言いながら私はチョコレートを一粒奪ってやった。
「んなっ……な?!」
想像もしない突然の出来事に見事な二度見をかますと、それを他所目に戦利品をぱくりと口に含む。奥歯でゆっくり噛み締めれば、とろりと甘さが広がって、どうせ文句を言うのならもう一粒奪ってやろうかと箱を覗き見た。
そんな私を察知したのか、慌てて反対に箱を隠し宍戸は背を向けて怒り始める。
「おまっ、な、何食ってんだよ?!まずは俺だろ?!……つーか俺のだろうが!」
「ミントチョコじゃなくて悪かったな」
荒げた声にぼそりと言い返して隠された箱に手を伸ばせば、奪われる前にと宍戸も急いでチョコを口に含む。美味しいかどうかなど聞く暇もなく、その隙にもう一粒をゲットしてやると、とうとう箱の蓋を閉めて宍戸は逃走した。
テニス部で鍛えられた瞬発力は生半可なものではなく、反射的にその背中を追いかけてみるも、きっと追いつくことはできないのだろうと悟った。
それでも彼を追いかける足をとめることはなく、舌先で甘ったるいトリュフを味わいながら来月のホワイトデーを既に楽しみにスキップをした。
*
「お前……3個も食ったな……」
「はんぶんこで仲良しじゃんね!」
「……クソ……」
「そう怒るなよ、かわりにチューしてあげようか?」
「ばっ、おま、な……!!!」
「あかくなりすぎでしょ!」
21/21ページ