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何度目かのため息、飽きもせずこの口から漏れる感情に、僅かな苛立ちも募っていく。
数日前のことだった。あの男と禁煙の約束をしたのは。大して煙草などに依存していたわけではなかったし、話の流れでよく考えもせず「わかった」と返事をしてしまった。船に乗ってしまえば煙草が切れようと補充することはそう簡単ではない。買いだめをそこまでしない私は、常にストックを溜め込んでいるわけでもなく、前回吸ったのだって10日ぶりほどだった。それなのに。吸えないと約束してしまえば妙に吸いたくなり、何とも言えない焦燥感に駆られ、ここ数日、気付くとため息をついてしまっていた。
恐らくこの件を察しているサンジくんは、少しでも気が紛れるように、と食後にさっぱりとしたパッションフルーツのソーダを私に差し出して言う。
「……なまえちゃん、無理はしない方がいいぜ」
またため息をついてしまっていたのか、とハッとしつつそれを受け取ると、申し訳なさそうに私は微笑み返す。
「ありがと。でもないものはないもん。」
「……あのクソマリモに賛同するのは癪だが、俺も禁煙には賛成だ。……でも、他人から無理に何かを強要させられるほど、辛いことはないだろ……?」
「そうだけど……」
「どうしても辛くなったら、銘柄は違うが……俺のでよければ。」
この船で唯一の喫煙者仲間である事からか、共感しながら親身に相談に乗ってくれるサンジくんは困った顔で話す。
そんな彼にもう一度お礼を言ってグラスを空にすると、ご馳走様。と声をかけてキッチンを後にした。
せめて、言いつけを守って禁煙していることを褒めてでも貰えれば何か変わっただろうか。
考えることは煙草のことばかりで、いよいよ自分が本格的な喫煙者だということを思い知らされる。
1日に嗜む本数は少なくとも、だからといってそう簡単に辞めれるものでもないらしい。
「1週間超えると楽なんだけどなー……」
ぼんやり呟いた言葉は空に消えて、またひとつ、ため息を吐きそうになった時。
「何がだよ」と背後から声を掛けられ振り向いた。
「……や、べつに」
視線の先にいたのはゾロで、こんなことを話しても怒られるだけだと話を適当に流す。
そしてそれは特に追求されることもなく、「私も釣りしてこよ〜〜」とすぐに背中を向けて、ルフィたちの元へと足を向けた。
*
小さな魚を2匹ほど釣ってから、それぞれ釣りに飽きた私たちは解散する。
波は穏やかで、もう少し自由な時間を持てそうだと、気持ちに余裕が産まれるとつい思い出す恋しい存在。
衝動をかき消すべく、サンジくんにソーダをもらうため私はキッチンへ向かった。
扉をあけると、ふわりと漂う副流煙と煙たい香り。振り向いた彼と目を合わせたまま、ぱちり、とお互いに見つめて固まる。
「……なんだか、気を使っちまうな。悪い。」
「いや、私の勝手だから気にしないで。……ソーダもらえる?」
「もちろん。」
夕食の仕込み中にも関わらず、にこりと笑って手早くドリンクを作ってくれるサンジくんの後ろ姿を見ながら、ひと口だけちょうだい、なんて言葉を飲みこんだ。
赤いベリーが弾けるグラスを差し出して、「どうぞ。」とサンジくんはまたすぐ背を向けようとする。
いつもならここでお礼を言うはずなのに。先に出たのはため息で、それに反応した彼が困ったようにまた笑った。
慌てて「ごめんね、ありがとう」と言ってもそれは遅く、私もつい眉尻を垂らしてしまう。
「……1本吸うかい?」
「……え、でも」
首を振ることのできない誘惑に、自分の意思の弱さを再確認させられる。「ダメだよ、」と口では言いながら、緑頭がいないか、2人きりのキッチンを反射的に見回す。
「…………剣士さん、いないですかね」
「ふたくち吸って、すぐ捨てちまえばいい」
差し出されたDeathLightの箱から、1本抜き出しやすくして突き出されるそれに、おずおずと指先を伸ばす。
摘んだ先を咥えただけで、背徳感と欲望が満たされていくようで。
「へへ、やばいかな?」
咥えながら笑いかければ、「やばいかもな」とサンジくんもまた笑って、その先に火を点ける。
「ありがと。」
「どういたしまして。」
咥え煙草でお互い笑い合えば、誰かが来る前に、と慌ててそれを肺に流していく。自分のものより軽いサンジくんの煙草に少しだけ物足りなさを感じながら、それでもやっと感じていた口寂しさが埋まる感覚に息を長く吐く。
白い煙はすぐにうすくなり、部屋の中へと溶け込んでいく。
その時、ガチャリ、と開く扉に慌てて椅子を立った。用意してくれた灰皿に煙草を押付けながら、それを隠すようにキッチンの中へと運び込む。
背中に汗さえもにじませて、意を決して振り向くと、そこにはナミが怪訝な表情をして立っていた。
「……あんた」
「……はい」
「知らないわよ」
私を見るなり全てを察したようで、じとりと呆れたようにナミは言い放つ。
未だに鼓動を早くさせながら、「すいませんでした」とふたりに謝ってキッチンを後にすれば、その後ろでは「サンジくん冷たいドリンクくれる?」とナミの明るい声がしてからゆっくりとドアが閉まった。
もう一度緑頭を探して周囲を見渡してから、恐らくトレーニングでもしているのだろう。と小さく安堵しながら展望デッキを見上げた。