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料理なんて好きじゃないし、私は美味しいものを食べたいだけ。食べる専門。食べる側。食べ職人である。
それなのに、私が今していることとは。一体なにをさせられているんだか。
やたらと塩っぱい卵焼きを味見しながら、まぁこんなもんか。と箸を置いた。色はやや焦げ気味だけど、「いい日焼け具合だね、どこの日サロ?」なんてふざけていれば、後ろから「へたくそ」と母が呆れた声をあげた。覗き見するなんていい趣味じゃないか。一連の流れまで見られていた事に恥ずかしくなり「あっちいってて!」と母を追い払いながら、もう一度見直した卵焼きにため息をつく。
それもこれも、ぜんぶ宍戸のせいだ!
今日の昼、購買のパンを齧りながら屋上で高い空を見上げていた。隣で同じようにパンを咀嚼する宍戸は、ふと後ろのカップルを見て思いついたように言ったのだ。「お前弁当つくってこいよ」と。
「は?」と突然の思いつきに声を上げ視線を向ければ、「たまにはお前もやってみろよ」となんだか偉そうに言い放つ。簡単に言ってくれる。何が弁当だ。女に幻想を見るな。
「ちょういやなんだけど……私食う専だし。」
「彼女の手作り弁当、食ってみてえなぁ。」
面倒くさいと態度で示しながら、またパンを口に運ぶ。しかし隣から、わざとらしく語尾をのばして宍戸が挑発するものだから、なんだか腹立たしくて肩を肘で小突いた。
大して痛くもないくせに「いてぇな!」と怒る宍戸は肩をさすってまたパンをひとくち齧った。
大袈裟なリアクションを横目で見ながら、そんなに言うならと少しだけ考えて私からも提案をする。
「じゃあ宍戸もつくってきな、交換しよう」
「……はぁ?!」
結局あれやこれやと言い合いながら口論は私の勝ちで、手作り弁当交換ということで話は収まった。宍戸には悪いけれど、私は尽くしたがりのよく出来た女みたいなタイプではないので。あんただけいい思いするのはずるい。いや、私は料理が上手いわけではないので、決していい思いというわけではないのだが。ここは一応訂正してあげよう。
しかし私が作るならあんただって作らなければ、それはフェアじゃないだろう。ね、宍戸くん!
日サロ帰りの卵焼きを半分に切ると、中はそれとない黄色で安心した。お弁当なんて人生で数回しか作ったことはないけれど、なんか見た目は装飾で誤魔化せばいいだろ。
帰りに100円ショップで買ってきた装飾品を適当に手に取り、タコさんウインナーにゾウのピックを刺し込んでいく。完成したものをしばらく見つめながら、タコにゾウはやべーな。とそれをしばらく考えて、私は考えるのをやめた。
「弁当、つくってきたんだろうな」
次の日の昼休み。小さな紺のランチバッグから、隠すように可愛らしいクマの袋を取り出しながら宍戸が振り向いてこちらを睨みつけた。
私はといえば、たった今屋上にきたところでまだベンチにすら腰掛けていないというのに。
恐らくクマちゃんの袋を持参した自分に照れている宍戸を笑って隣に腰を下ろせば「つくってきたよ〜」と、うさぎちゃんのランチートを見せびらかして言った。
「ゲ……うさぎかよ」
「宍戸はクマじゃん」
もう言い切っているから遅すぎるのに、咄嗟に私の口を手で塞ぐ宍戸は焦りながら「うるせえ」と小さく吠える。
それから周りを見渡し誰も見ていないことを確認すると、こっそりクマちゃんを登場させて私の膝に素早くそれを置いた。
「ほらよ」
「そんな恥ずかしいならクマちゃんにしなきゃよかったのに」
「これしか見つからなかったんだよ!」
「そうだと思った」
膝に置かれたクマちゃんを手に取って代わりにうさぎちゃんを差し出せば、入れ替わった動物にやや不服そうな表情を浮かべながら、バッグの中から弁当の入った袋を取り出す。
「うさぎは恥ずかしくないのか」
つまらなそうに問かければ「これはお前のだからな」と話す宍戸に、傍から見ればどっちも同じなんじゃない、と言いかけてそれをやめる。
受け取ったクマちゃん袋から中身を取りだしてみれば、ずっしりとした重量で、ザ・男物 といったお弁当箱が登場した。膝に置かれた時に薄々感じてはいたが、いざ目の当たりにするとその重さと大きさに少し気圧されてしまう。
「こ、これ……デカない?」
思わず驚きで隣を見遣れば「ちっさ……」と呟く声。私とは真反対の感想にも関わらず、きっと同じ顔をしている私たちは、お互いがお互いの食事量を作っていなかったことにここで2人で気づく。
「お前……すくねーよ」
「あんたは多いって……」
言い合ってしばらくの沈黙。互いの持つお弁当を交互に見合い、そして2人で小さく肩を震わせた。
「っくく、おま……これで足りるかよ!」
「宍戸にいわれたくない、女の子のやつじゃない!」
お互いに不慣れなことはするもんじゃないな、なんて笑い合いながら空けたお弁当は、想像よりも整ったもので。宍戸にしてはやるじゃん、とか思っていれば、隣でも、フーン。とそれなりの反応を頂けて私も少し上機嫌である。やれば出来る子だって褒めてもいいからね。
早速お箸を手に取り、日サロ帰りの卵焼きを齧る宍戸は少しだけ眉間に皺を寄せて、少ないお米をかきこんだ。
「ちょっと塩っぱいけど、まぁ……これでコメいけるぜ」
「そうでしょう」
そこは想定外でありつつも、褒められれたのならそれでいい。得意気にしていれば、宍戸の箸が自分の分では足りないお米を私のお弁当箱から攫っていく。
私も彼の用意してくれたおかずを口に運びながら、出来合いの冷食は間違いないと噛み締めた。
手作りの金平やインゲンの胡麻和えはきっと宍戸ママのお手製で、冷蔵庫にあったストックでも勝手に詰めてきたんだろう。美味しいです、お義母さん。なんて、ちょっと気が早いか。
「またやろうよ、お弁当交換」
私のと同じで、きっと宍戸のつくったであろう形の悪い卵焼きを齧りながら笑って話す。「もうやめとく」と懲りたように呟き、頬に米をつけたまま食べることに夢中な彼を眺めては、甘い卵焼きではお米が進まないけれど、この味を忘れたくないなぁ。と卵焼きを噛み締めた。
*
「ていうかよ、タコにゾウはやべーだろ」
「やばいよね」
「……お前らしいぜ」