第七章
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すっかり暗くなってしまっていた。玄関に着き、合鍵を出して鍵穴に挿そうとしたら、内側から開けられた。
「おかえり」
「隊長、帰られてたんですね」
「なつみちゃんが遅いんよ」
「そうですか?」敷居をまたぐ。「ただいまです」
市丸は廊下に上がり、なつみの背で戸が閉まっていく。
「ご飯食べたん?お風呂沸かしてええ?」
パタン…
きゅっ…
「なつみちゃん…?」
なつみは市丸の後ろから抱きついた。
「隊長…、ぼく、すごく幸せです。美沙ちゃんと仲直りできました。良かったぁ…」
安心したように、右のほっぺを背中に押しつけた。嬉しくて、甘えたくなったもよう。
「最初からわかってることやん。キミらがケンカ別れなんてするわけない」
少し冷たい手に、ぽんぽんと触れる。
「隊長、相談したいことがあります。聞いてもらえますか」
「…、ええで。まずは、手洗いうがいしような」
「あと、ご飯まだです」
「わかった。何か作ろか」
「はい!」
元気な返事。トタトタ鳴る足音。ゴロロロロ〜と聞こえるうがい。いただきますの声。おいしい!の笑顔。2人で一緒にいること。
「京楽さんがな、今日来たんよ」
「え…」
「もっと幸せになれるなぁ」
なつみの口からスープがピュルッと溢れた。
「んんっ💦」
口元を自分で拭おうとしたら。
「っ⁉︎///」
市丸に顎をクッと上げられて、これは良からぬ距離になった。近い。
「フッ…」
と思ったが、逆の手の指で拭われてしまった。その指をぺろっと。
「チューかと思った?」
「😣💦💓」
「せぇへん。あん時の思い出だけで、充分やもん」
本日も昨日同様、急いでやる事片付けて、なつみはもう帰るばっかり。
「んー!んー!」
どうしたものかと葛藤中。
場所は隊舎の門を出たところ。あっちに行こうか、それともやめた方が良いか。うろちょろして、ちょっと不審者。
「んー😣」
尾田や市丸からの言葉が思い出される。「あっちが悪い」
「んー😖」
両手を身体の横でギューッと握って唸る。
「ん‼️」
くるっと方向転換した。隊舎に戻ることにしたらしい。
その時。
「なつみちゃん」
呼び止められて、なつみは立ち止まった。くるっと方向転換。
「京楽隊長!…、こんにちは」
「こんにちは。もしかして、ボクのとこに来ようとしてくれてた?そんなことしなくていいのに」
なつみは俯いてモジモジと、つま先で地面に模様を描き、瞬きをたくさんしながら、チラチラと目線は京楽の顔へ向けられた。
「昨日、こちらに来てくださったそうですね。市丸隊長に伺いました。ぼくにご用があったとか。お留守にしてて、すいませんでした」
ぺこっと頭を下げた。
「謝らないでよ、なつみちゃん。それはボクがやるウワッ‼️⁉️」
低い姿勢のなつみの肩に触れようとした時、京楽の目の前に刀身が伸びてきた。
「危ないじゃないか‼️‼️💦」
なつみが頭を上げる頃には、その刀は隊首室の窓に戻っていた。
「〜〜〜‼️‼️〜〜〜‼️‼️」
窓からこちらに向かって何か言っている市丸の姿があった。隊首室よりも斜め下を指差しているのは、かろうじて見える。
「何か言ってるね」
「あ‼️京楽隊長、ぼくのお部屋に移動しましょう。今日もその…、ぼくに会いに来てくださったんですよね」
「うん。そうだよ。連れてってくれるかい?申し訳ないね」
「いえ。こちらへ」
2人は並んで三番隊舎へ入っていった。
「他の方法ありませんでした?木之本くんの頭に当たってたかもしれませんよ💧」
「あんなとこで隊長が頭下げそうやったもん。咄嗟に出てもうたわ〜」
「親切にしても手荒すぎです💧」
「そうかぁ?さーて、盗み聞きしてくるわ〜」
「趣味悪いですよー」
言葉少なく、なつみと京楽は第二十席の部屋の戸を開けた。
「あれ?」
「ん?」
知らないうちに、椅子とお茶が用意されていた。
「隊長だな」
なつみはキョロキョロと市丸を探したが。
「とりあえず入ろう。お礼は後で言いに行けば良いからさ」
京楽がそう言ったので、そうすることにする。
「そうですね」
なつみは自分の席に、京楽はその正面に腰掛けた。笠を棚に置いて。
「京楽隊長、先程から気になってました。ぼくのこと、以前と同じ呼び方をされてましたね」
「約束したろ?ボクはキミを絶対に呼び捨てにしない。『なつみちゃん』って呼ぶって、決めたじゃないか」
「でも、あの時、帰り際に…」
『木之本くん』
「どうかしてたよ。キミが叶えた夢に、ボクは勝手に怒っちゃった。ボクはキミに関して全部、自分に都合良くしか考えてこなかったんだよね。まさか本当に男の子になっちゃうなんて、思ってなかったからさ。キミを常識に当てはめるなんて、そもそも間違ってるんだもん。ボクの思い込みが悪かった。キミは何も悪くない。ボクの偏見が、キミを傷付けてしまった。ごめんよ。本当にごめん」
座った姿勢だが、京楽は深々と頭を下げた。
「もう結構です。頭を上げてください」なつみは立ち上がり、駆けつけ、京楽の肩に手を添えた。「その一言で、もう充分です。ありがとうございます」
こんな状況はあってはならない。早く上体を起こしてやらなければ。
「ごめん…。ボク、すごい嫌な奴だよね」
「そんなことありません」
起こそうとするが、京楽は前屈みから動こうとしてくれなかった。
「ボクの気が変わった理由。どうしてか、わかってるんだろ?」
「それなら、ぼくだって同じです。ぼくもついこの間知って、それで、何とかしなきゃって思ったんですから」
「え…」
なつみがそんなことを言ったため、思わず身体を起こしてしまった。
「京楽隊長に散々言われて、京楽隊長から距離を置きたいと思っていましたが、今はもうそんなの嫌です。前と変わらない気持ちで、まっすぐに京楽隊長に憧れたいと思ってます。ぼくが憧れたおじちゃんを追いかけたいから」
素直には喜べない、申し訳なさそうな笑顔を見せる京楽。
「ボクはおじちゃんじゃないよ」
「でも見えます!」
「キミがボクを見ていたのは、ボクのことを好きだったからじゃなく…、兄貴に会いたかったから、だったんだね」
2人の思い出。なつみが入隊したての、あの時の挨拶は、はじめましてではなく、再会であった。
遡ること、なつみが初めて瀞霊廷に入り、2日目にして家出をした遠いあの日。夏の暑い日差しは西の方へ、空は紅く、風は涼しくそよぎ出す頃、その男は街角で鞄が歩いているのを見かけた。
「何だ?」
ものすごく低い位置で、大きな鞄が移動している。
人の好奇心というのは恐ろしいもので、そんな変てこなことが導くのは厄介事だと容易に想像がつくのに、知りたい気持ちに頭が占領され、足がそちらに向いてしまう。
とことことこ
てくてくてく
鞄の歩幅は狭い。
「うーん…」
この男、好奇心は強く、そして短気だった。
「よっと」
瞬歩で鞄の後方から、一瞬で前方に先回りした。
「ぁわっ‼️‼️」
「まぁそうだよな。鞄に足生えるわけないよな」
「な、な、なんでちか‼️‼️きゅーにとびだちたら、ぶつかっちゃうでちよ‼️‼️」
歩く鞄の正体は、大きな鞄を背負った幼女であった。
「わたちにごようでちか❗️」
「いや、ワリぃ、驚かせて。デカい鞄が歩いてるから、何事かと思ったんだよ」
男はしゃがんで、幼女と目線の高さを合わせようとした。
「重くねぇのか?そんなの背負って。どこ行くつもりだ?」
「ちょーどよかったでち。わたち、ルコンガイにかえりたいんでち。モンはどっちでちか?」
「迷子かよー…」
案の定の厄介事を前に、男は頭をガックリした。
「まいごじゃないでち!みちにまよっただけでち!」
「それを迷子っつんだよ。つうか、流魂街に家があんのに、何で瀞霊廷に入れてんだよ。しかもこんな中心部まで来ちまって。親はどうした」
「おとうたんたちとおかあたんたちはいっぱいいて、もうおぼえられないでち!」
「は?」
「わたちのおうちのおとうたんのとこにかえるんでち!ここがイヤだったら、かえっていいって、やくそくちたんでち!」
「んー…、要は、不本意で瀞霊廷に連れてこられたもんだから、自力で家に帰ろうとしてるわけだな。流魂街の」
「そーでち❗️」
男は幼女の身なりをじっくり見て、観察した。
(流魂街から来たにしては、上物の服を着てるな。髪なんて、特に気を遣って伸ばしてる感じか。それにこの態度。どこかに奉公ってわけじゃなさそうだな。…、保護者に返すのが得策か)
「なんでちか!じろじろみて!モンまであんないちてくれるんでちか。ちてくれないなら、そこをどいてくらちゃい!」
「門に連れてってやっても良いが、そこから先どうするつもりだ?俺は瀞霊廷から出るつもりねーぞ」
「そんなの、なんとかなるでちよ。わたちは『ゆうかんなる、だいぼーけんか』なんでちから!」
「冒険家ねぇ」
「いっぱいにちあるいてきたでちから、ぼーけんでち!」
「はぁ…」
何日も歩く冒険に今から出すわけにもいかないため、とりあえず、自分の家にでも連れて行くことにする男。
「おい、ガキんちょ」
「がきんちょじゃないでち!」
「んっ…、ワリぃ。お前の名前何だ?」
「む‼️むぅーーー😠」
「何だよ。スッと言えよ💧」
「じょんちゅみちゅ」
「あ?💧」
「じょん!ちゅみちゅ!でち!」
地面に「ジョンスミス」と指で書いた。
「嘘つくなよ。んなわけねぇだろ」
「ちらないちとに、なまえおちえちゃダメなんでちよ!」
「あーそうかい(そういう教育受けてんのな)」
「じょんちゅみちゅにごようでちか!」
「おう。お前は、いちばん新しいお父さんとお母さんのお家には居たくないんだよな?」
「うん!」大きく頷いた。「そのまえに、そのはなち、ながくなるなら、かばんおきたいでち!」
「…。持ってやろうか💧」
「うん!」
結構キツかったらしい。
鞄を幼女から受け取る。
「ありがとう、おじちゃん!」
「おじちゃんて。まぁいいか、お前も名乗らねぇし」
「おじちゃん、もちや、モンのそとでおとまりできそーなとこちってるでちか!はやくいこー!」
立ち上がったおじちゃんの裾をくいくい引っ張るジョンスミス。
「流魂街には行かねぇよ。もう遅い。今夜はウチに泊まってけ」
「え…」
思ってもいなかった申し出に、ジョンスミスは戸惑いの表情を浮かべながら固まった。
「ゆうかいでちか😟」
「ちげぇよ‼️‼️人聞の悪ぃこと言うな‼️‼️ほら、行くぞ。俺もそろそろ帰りてぇからな」
荷物を取られてるため、そっちのもんである。
「ヤダー‼️おじちゃんコワいちとでちー‼️‼️ちにがみコワいちとおーいっておそわったもーん‼️ちらないちにがみのおーちなんて、いかなーいー‼️‼️」
歩き出すおじちゃんの裾を、後ろから踵でブレーキしながら引きずられていく。ズルズルズル。
「よくわかったな!俺が死神だって!丸腰なのによ!」
鞄が重かったことから推察できたが、このジョンスミス、身長の割に馬鹿力だ。一歩踏み出すのになかなか力が要る。
「ちにがみなりたいちと、うちによくきてたもん!いっぱいみたもん!そのちとたちとおじちゃん、にてるピリピリちてるもん!わたちのふくかえてー!」
おじちゃんは歩くのをやめた。
「お前、今日のいつ家を出たんだ」
「ん…、あたごはんたべたあと」
「それから何か食ったか?」
ぷるぷると首を振った。そんな話をされたものだから、ジョンスミスはお腹を押さえて、鳴らないようにした。
解放されたおじちゃんは少し屈んで、ジョンスミスの頭に手を置いてやる。
「飯食わせてやるから、大人しくウチに来い。逃げ出してぇなら、その後勝手に出てけば良い。文句あるか?」
お腹を押さえたまま、ジョンスミスは動かなかった。
「そんなこといって、まるまるふとらせて、ペットのライオンにわたちをたべさせるつもりなんでち」
「んなわけねぇーだろ‼️そんなもんいねぇ‼️」
「フゴーはモージューをかいたがりゅ」
「お前の偏見ヤベェな…。あのな、死神が恐ぇなんてのは、一昔前の話だ。誰に吹き込まれたか知らねぇが、お前の情報は古い。今はもう組み分けも完了して、統治が進んでる。土地やら権力を奪い合う争いの時代は終わったんだよ。これからは人を護るために戦う時代にしていくんだって、山本のオッサンって、ブチギレるとおっかねぇ人が言ってた。死神は、強くて優しい英雄になって、世界に平和をもたらす者にならなきゃなんねーんだと」
「えーゆー…?ヒーロー?」
「あぁ、そうだ。カッコイイだろ?」
おじちゃんは胸を張って、ドヤ顔を決めた。ジョンスミスはというと、パァと顔が明るくなった。
「わたち、ヒーローちゅき!かっこいいのかっこいいもん!ちにがみがヒーローって、ちらなかった!おとうたんにおちえてあげなきゃ!」
「おぉ、そうか。だったら、死神の仕事がどんなものか、飯食いながら詳しく教えてやるよ。ついてくる気になったか?」
「うん!いくー!」
「おしっ」
これ以上迷子にならないように、おじちゃんはジョンスミスの手を引いて、自宅への帰路に着いた。
「おかえり」
「隊長、帰られてたんですね」
「なつみちゃんが遅いんよ」
「そうですか?」敷居をまたぐ。「ただいまです」
市丸は廊下に上がり、なつみの背で戸が閉まっていく。
「ご飯食べたん?お風呂沸かしてええ?」
パタン…
きゅっ…
「なつみちゃん…?」
なつみは市丸の後ろから抱きついた。
「隊長…、ぼく、すごく幸せです。美沙ちゃんと仲直りできました。良かったぁ…」
安心したように、右のほっぺを背中に押しつけた。嬉しくて、甘えたくなったもよう。
「最初からわかってることやん。キミらがケンカ別れなんてするわけない」
少し冷たい手に、ぽんぽんと触れる。
「隊長、相談したいことがあります。聞いてもらえますか」
「…、ええで。まずは、手洗いうがいしような」
「あと、ご飯まだです」
「わかった。何か作ろか」
「はい!」
元気な返事。トタトタ鳴る足音。ゴロロロロ〜と聞こえるうがい。いただきますの声。おいしい!の笑顔。2人で一緒にいること。
「京楽さんがな、今日来たんよ」
「え…」
「もっと幸せになれるなぁ」
なつみの口からスープがピュルッと溢れた。
「んんっ💦」
口元を自分で拭おうとしたら。
「っ⁉︎///」
市丸に顎をクッと上げられて、これは良からぬ距離になった。近い。
「フッ…」
と思ったが、逆の手の指で拭われてしまった。その指をぺろっと。
「チューかと思った?」
「😣💦💓」
「せぇへん。あん時の思い出だけで、充分やもん」
本日も昨日同様、急いでやる事片付けて、なつみはもう帰るばっかり。
「んー!んー!」
どうしたものかと葛藤中。
場所は隊舎の門を出たところ。あっちに行こうか、それともやめた方が良いか。うろちょろして、ちょっと不審者。
「んー😣」
尾田や市丸からの言葉が思い出される。「あっちが悪い」
「んー😖」
両手を身体の横でギューッと握って唸る。
「ん‼️」
くるっと方向転換した。隊舎に戻ることにしたらしい。
その時。
「なつみちゃん」
呼び止められて、なつみは立ち止まった。くるっと方向転換。
「京楽隊長!…、こんにちは」
「こんにちは。もしかして、ボクのとこに来ようとしてくれてた?そんなことしなくていいのに」
なつみは俯いてモジモジと、つま先で地面に模様を描き、瞬きをたくさんしながら、チラチラと目線は京楽の顔へ向けられた。
「昨日、こちらに来てくださったそうですね。市丸隊長に伺いました。ぼくにご用があったとか。お留守にしてて、すいませんでした」
ぺこっと頭を下げた。
「謝らないでよ、なつみちゃん。それはボクがやるウワッ‼️⁉️」
低い姿勢のなつみの肩に触れようとした時、京楽の目の前に刀身が伸びてきた。
「危ないじゃないか‼️‼️💦」
なつみが頭を上げる頃には、その刀は隊首室の窓に戻っていた。
「〜〜〜‼️‼️〜〜〜‼️‼️」
窓からこちらに向かって何か言っている市丸の姿があった。隊首室よりも斜め下を指差しているのは、かろうじて見える。
「何か言ってるね」
「あ‼️京楽隊長、ぼくのお部屋に移動しましょう。今日もその…、ぼくに会いに来てくださったんですよね」
「うん。そうだよ。連れてってくれるかい?申し訳ないね」
「いえ。こちらへ」
2人は並んで三番隊舎へ入っていった。
「他の方法ありませんでした?木之本くんの頭に当たってたかもしれませんよ💧」
「あんなとこで隊長が頭下げそうやったもん。咄嗟に出てもうたわ〜」
「親切にしても手荒すぎです💧」
「そうかぁ?さーて、盗み聞きしてくるわ〜」
「趣味悪いですよー」
言葉少なく、なつみと京楽は第二十席の部屋の戸を開けた。
「あれ?」
「ん?」
知らないうちに、椅子とお茶が用意されていた。
「隊長だな」
なつみはキョロキョロと市丸を探したが。
「とりあえず入ろう。お礼は後で言いに行けば良いからさ」
京楽がそう言ったので、そうすることにする。
「そうですね」
なつみは自分の席に、京楽はその正面に腰掛けた。笠を棚に置いて。
「京楽隊長、先程から気になってました。ぼくのこと、以前と同じ呼び方をされてましたね」
「約束したろ?ボクはキミを絶対に呼び捨てにしない。『なつみちゃん』って呼ぶって、決めたじゃないか」
「でも、あの時、帰り際に…」
『木之本くん』
「どうかしてたよ。キミが叶えた夢に、ボクは勝手に怒っちゃった。ボクはキミに関して全部、自分に都合良くしか考えてこなかったんだよね。まさか本当に男の子になっちゃうなんて、思ってなかったからさ。キミを常識に当てはめるなんて、そもそも間違ってるんだもん。ボクの思い込みが悪かった。キミは何も悪くない。ボクの偏見が、キミを傷付けてしまった。ごめんよ。本当にごめん」
座った姿勢だが、京楽は深々と頭を下げた。
「もう結構です。頭を上げてください」なつみは立ち上がり、駆けつけ、京楽の肩に手を添えた。「その一言で、もう充分です。ありがとうございます」
こんな状況はあってはならない。早く上体を起こしてやらなければ。
「ごめん…。ボク、すごい嫌な奴だよね」
「そんなことありません」
起こそうとするが、京楽は前屈みから動こうとしてくれなかった。
「ボクの気が変わった理由。どうしてか、わかってるんだろ?」
「それなら、ぼくだって同じです。ぼくもついこの間知って、それで、何とかしなきゃって思ったんですから」
「え…」
なつみがそんなことを言ったため、思わず身体を起こしてしまった。
「京楽隊長に散々言われて、京楽隊長から距離を置きたいと思っていましたが、今はもうそんなの嫌です。前と変わらない気持ちで、まっすぐに京楽隊長に憧れたいと思ってます。ぼくが憧れたおじちゃんを追いかけたいから」
素直には喜べない、申し訳なさそうな笑顔を見せる京楽。
「ボクはおじちゃんじゃないよ」
「でも見えます!」
「キミがボクを見ていたのは、ボクのことを好きだったからじゃなく…、兄貴に会いたかったから、だったんだね」
2人の思い出。なつみが入隊したての、あの時の挨拶は、はじめましてではなく、再会であった。
遡ること、なつみが初めて瀞霊廷に入り、2日目にして家出をした遠いあの日。夏の暑い日差しは西の方へ、空は紅く、風は涼しくそよぎ出す頃、その男は街角で鞄が歩いているのを見かけた。
「何だ?」
ものすごく低い位置で、大きな鞄が移動している。
人の好奇心というのは恐ろしいもので、そんな変てこなことが導くのは厄介事だと容易に想像がつくのに、知りたい気持ちに頭が占領され、足がそちらに向いてしまう。
とことことこ
てくてくてく
鞄の歩幅は狭い。
「うーん…」
この男、好奇心は強く、そして短気だった。
「よっと」
瞬歩で鞄の後方から、一瞬で前方に先回りした。
「ぁわっ‼️‼️」
「まぁそうだよな。鞄に足生えるわけないよな」
「な、な、なんでちか‼️‼️きゅーにとびだちたら、ぶつかっちゃうでちよ‼️‼️」
歩く鞄の正体は、大きな鞄を背負った幼女であった。
「わたちにごようでちか❗️」
「いや、ワリぃ、驚かせて。デカい鞄が歩いてるから、何事かと思ったんだよ」
男はしゃがんで、幼女と目線の高さを合わせようとした。
「重くねぇのか?そんなの背負って。どこ行くつもりだ?」
「ちょーどよかったでち。わたち、ルコンガイにかえりたいんでち。モンはどっちでちか?」
「迷子かよー…」
案の定の厄介事を前に、男は頭をガックリした。
「まいごじゃないでち!みちにまよっただけでち!」
「それを迷子っつんだよ。つうか、流魂街に家があんのに、何で瀞霊廷に入れてんだよ。しかもこんな中心部まで来ちまって。親はどうした」
「おとうたんたちとおかあたんたちはいっぱいいて、もうおぼえられないでち!」
「は?」
「わたちのおうちのおとうたんのとこにかえるんでち!ここがイヤだったら、かえっていいって、やくそくちたんでち!」
「んー…、要は、不本意で瀞霊廷に連れてこられたもんだから、自力で家に帰ろうとしてるわけだな。流魂街の」
「そーでち❗️」
男は幼女の身なりをじっくり見て、観察した。
(流魂街から来たにしては、上物の服を着てるな。髪なんて、特に気を遣って伸ばしてる感じか。それにこの態度。どこかに奉公ってわけじゃなさそうだな。…、保護者に返すのが得策か)
「なんでちか!じろじろみて!モンまであんないちてくれるんでちか。ちてくれないなら、そこをどいてくらちゃい!」
「門に連れてってやっても良いが、そこから先どうするつもりだ?俺は瀞霊廷から出るつもりねーぞ」
「そんなの、なんとかなるでちよ。わたちは『ゆうかんなる、だいぼーけんか』なんでちから!」
「冒険家ねぇ」
「いっぱいにちあるいてきたでちから、ぼーけんでち!」
「はぁ…」
何日も歩く冒険に今から出すわけにもいかないため、とりあえず、自分の家にでも連れて行くことにする男。
「おい、ガキんちょ」
「がきんちょじゃないでち!」
「んっ…、ワリぃ。お前の名前何だ?」
「む‼️むぅーーー😠」
「何だよ。スッと言えよ💧」
「じょんちゅみちゅ」
「あ?💧」
「じょん!ちゅみちゅ!でち!」
地面に「ジョンスミス」と指で書いた。
「嘘つくなよ。んなわけねぇだろ」
「ちらないちとに、なまえおちえちゃダメなんでちよ!」
「あーそうかい(そういう教育受けてんのな)」
「じょんちゅみちゅにごようでちか!」
「おう。お前は、いちばん新しいお父さんとお母さんのお家には居たくないんだよな?」
「うん!」大きく頷いた。「そのまえに、そのはなち、ながくなるなら、かばんおきたいでち!」
「…。持ってやろうか💧」
「うん!」
結構キツかったらしい。
鞄を幼女から受け取る。
「ありがとう、おじちゃん!」
「おじちゃんて。まぁいいか、お前も名乗らねぇし」
「おじちゃん、もちや、モンのそとでおとまりできそーなとこちってるでちか!はやくいこー!」
立ち上がったおじちゃんの裾をくいくい引っ張るジョンスミス。
「流魂街には行かねぇよ。もう遅い。今夜はウチに泊まってけ」
「え…」
思ってもいなかった申し出に、ジョンスミスは戸惑いの表情を浮かべながら固まった。
「ゆうかいでちか😟」
「ちげぇよ‼️‼️人聞の悪ぃこと言うな‼️‼️ほら、行くぞ。俺もそろそろ帰りてぇからな」
荷物を取られてるため、そっちのもんである。
「ヤダー‼️おじちゃんコワいちとでちー‼️‼️ちにがみコワいちとおーいっておそわったもーん‼️ちらないちにがみのおーちなんて、いかなーいー‼️‼️」
歩き出すおじちゃんの裾を、後ろから踵でブレーキしながら引きずられていく。ズルズルズル。
「よくわかったな!俺が死神だって!丸腰なのによ!」
鞄が重かったことから推察できたが、このジョンスミス、身長の割に馬鹿力だ。一歩踏み出すのになかなか力が要る。
「ちにがみなりたいちと、うちによくきてたもん!いっぱいみたもん!そのちとたちとおじちゃん、にてるピリピリちてるもん!わたちのふくかえてー!」
おじちゃんは歩くのをやめた。
「お前、今日のいつ家を出たんだ」
「ん…、あたごはんたべたあと」
「それから何か食ったか?」
ぷるぷると首を振った。そんな話をされたものだから、ジョンスミスはお腹を押さえて、鳴らないようにした。
解放されたおじちゃんは少し屈んで、ジョンスミスの頭に手を置いてやる。
「飯食わせてやるから、大人しくウチに来い。逃げ出してぇなら、その後勝手に出てけば良い。文句あるか?」
お腹を押さえたまま、ジョンスミスは動かなかった。
「そんなこといって、まるまるふとらせて、ペットのライオンにわたちをたべさせるつもりなんでち」
「んなわけねぇーだろ‼️そんなもんいねぇ‼️」
「フゴーはモージューをかいたがりゅ」
「お前の偏見ヤベェな…。あのな、死神が恐ぇなんてのは、一昔前の話だ。誰に吹き込まれたか知らねぇが、お前の情報は古い。今はもう組み分けも完了して、統治が進んでる。土地やら権力を奪い合う争いの時代は終わったんだよ。これからは人を護るために戦う時代にしていくんだって、山本のオッサンって、ブチギレるとおっかねぇ人が言ってた。死神は、強くて優しい英雄になって、世界に平和をもたらす者にならなきゃなんねーんだと」
「えーゆー…?ヒーロー?」
「あぁ、そうだ。カッコイイだろ?」
おじちゃんは胸を張って、ドヤ顔を決めた。ジョンスミスはというと、パァと顔が明るくなった。
「わたち、ヒーローちゅき!かっこいいのかっこいいもん!ちにがみがヒーローって、ちらなかった!おとうたんにおちえてあげなきゃ!」
「おぉ、そうか。だったら、死神の仕事がどんなものか、飯食いながら詳しく教えてやるよ。ついてくる気になったか?」
「うん!いくー!」
「おしっ」
これ以上迷子にならないように、おじちゃんはジョンスミスの手を引いて、自宅への帰路に着いた。