第七章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ご飯も食べ終わり、もう花火大会は始まっていた。
「ウェーーーイ‼️‼️😆」
手持ち花火をブンブン振り回し、ご機嫌ななつみ。
「危ねぇから💦」
火の粉が飛んできそう。
「魔法使いの杖みたい🪄」
ちちんぷいぷい、花火が目に映ってキラキラと輝けば、みんなの笑顔も照らされる。
「良いな、花火」
「楽しいよね😁」
「卒業旅行で話してたよな、花火のこと」
「だから、今回はそのリベンジだっつの」
「何?葡萄ジュースリベンジ?(笑)」
なつみは無表情でシャッと花火の火をハルの足にかけてやる。
「バカ‼️燃えるわ‼️」
※良い子はマネしないでください
「るっせぇ💢」
「次は打ち上げ花火な」
「どうして李空は打ち上げ花火にこだわるの?」
「好きだから」
「好きなものを好きな人と見たいから?」
「違え」
「だろうよ。ぼくもわかる。好きなものを好きな人『たち』と見たい、から。良い思い出があるから、ぼくたちとシェアしたいんだろ?お前が知ってる楽しいを」
チャポンと燃え尽きた花火をバケツに入れた。
「見よう!みんなでいっしょに打ち上げ花火!そうだ。男性死神協会主催で、お祭りを企画してもらおう。今度頼んでみるね👍」
「それが叶ったら、この7人と美沙ちゃんとで見るぞ」
「う゛っ😰」
李空からの意地悪なお願いだった。
「そうだ、そうだ!」
「それ、バイプレイヤーズ無人島編?」
「話逸らすな。京楽隊長とのことは驚いたが、だとしてもあの人は放っておいても良い。けどな、美沙ちゃんとはとっとと仲直りしろ。お前が謝んなきゃ、いつまでもこのままだぞ。どうせ、会えなくて寂しがってんだろ。美沙ちゃんだって絶対そうだ。意地張ってねぇで、この旅行終わったらすぐ会いに行け。明後日だ!明後日!」
「家知らねぇーし」
「教えてやっから!」
「はぁ⁉︎何で尾田が知ってんだよ」
「コイツらだって知ってるって!お前がその気になったら、いつでも向かわせられるように、美沙ちゃんが教えてくれたんだ!」
「「「「「え…」」」」」
いやいやと立てた手をふりふりするその他5人。
「教えてもらってねぇの⁉︎俺だけ⁉︎何で⁉︎💦」
「尾田のはやとちりだよ😒」
なつみには美沙の思惑がわかっていたが、尾田がチヤホヤされるのを黙って眺めることにした。
「お前ら、まさかのまさかのまさかなの?😁」
「きゃ〜💓おアツいね〜」
「そうだったのか」
「いつの間にだな」
「否定されたって、もうそういう目で見ちゃうって〜😄」
「うるせぇ!ちげぇーったら、ちげぇー!💦」
次の花火を選びに逃げていったとさ。なのに後に続いたその他5人ときたら、花火を点火して、ハートをたくさん宙に描き、照れる尾田をからかっていた。
なつみはというと、線香花火をやることで、下向きの視線が自然であるのを演出していた。
美沙ちゃん……
と、唇が不意に動いてしまった。
片付けたら温泉へ出かけていく。寒いので、カプセルに乗って移動していった。事前に7人が来ることを知らせていたため、地元の方が明かりをつけて待っていてくれた。
「いらっしゃい。ゆっくりあったまってってちょうだいな」
「ありがとうございます」
脱衣所に入ると、格子状の棚の一角になつみがいち早く陣取った。
「ここぼくのー!」
この旅のメインイベントが、「みんなでお風呂に入ること」だったので、なつみはルンルンになっていた。だが、仲間たちには気掛かりがあった。そんなことは気にもならないため、なつみだけスルスルと脱いでいく。
「ふんふ〜ん♪」
そして、パンツいっちょのところで見せびらかす筋肉。
「どうや!この筋肉!」
かつてはここまで言うと「ぷにぷにやぞ」と口を挟まれたが、もうそうはさせない。
「かっちかちやぞ!😆」
「はいはい」
「お前らも早く脱げってー。ぼくよりヒョロいからって、恥ずかしがっとんな!」
「別にそんなんじゃねーし」
わかっていたことだが、初めて見るなつみの胸はぺったんこ。
「なんだかな〜」
「なんだよ😤」
「別に」
スルッとパンツも脱ぎ、くるくるぽんっで服の上に。タオルを持って、それを巻くことなくすっぽんぽんで浴室の扉へ向かった。
「おっ先ぃ〜😆」
「おい、走んなよー!すっ転ぶぞー!」
「子どもへの注意だな😅」
お湯に浸かる前に全身を綺麗に洗うのが、温泉でのマナーである。シャンプーをしていたら、ぞろぞろと仲間たちが入ってきたのを感じた。ここの温泉の洗い場は、壁沿いに3つと4つ並んでいる。ちょうど図ったように7人が同時に洗えるのだ。
「ねぇねぇ、泡が垂れてきちゃってさ、目ぇ開けたくないから、誰かシャワー出してくんない?」
そのお願いに、誰かが応えてくれた。
音だけがしばらくする。水温を観てくれているのだろう。頃合いになったなら、なつみにシャワーヘッドを渡してくれたら良いのに、そのまま頭にかけてきた。
「うぶぶっ💦ありがと💦」
泡は流れた。止めようと思い、お湯が来る方に手を伸ばす。
「もういいよ💦」
だが、腕をどれだけ伸ばせど届かない。
「おい‼️ぶふッ💦💦💦」
顔を上げたら、顔面に放水をもろに受け、プチキレる。
「もぉッ💦ハルだろッ💦やめろぉ‼️💦」
「あっはははは😄」
もう目は開けられるため、シャワーヘッドは諦めて、栓を閉めることにした。
「ばか‼️」
「ソ〜リ〜」
全然謝ってないので、タオルでベシッとノーマークなハルのオケツに一発入れた。
「タッ💥」
叩きたいのが最優先だったため気付かなかったが、はたと仲間たちの姿を見て、なつみの動きが止まった。
「おい…」
「何だ?タオル巻くか巻かないか話し合ってんじゃねーって?(笑)」
「やっぱな、お前が男になっても気になるもんは気になっちまうんだ」
そんなくだらないことで誤魔化せるものではない。
「タオルじゃねぇよ‼︎その傷だよ‼︎お前ら、傷だらけじゃねぇか‼︎」
仲間たちの身体には、深そうな切り傷の痕や濃い痣があちこちにできていた。服の下、特にこの寒い時期は厚着をするため、余計にそんなものがあるなんて、知る由もなかった。彼らは、股間もそうだが、これらの傷もなつみに見られたくなかったのだ。そんな顔になるから。
「何で治さねぇんだよ……」
「先に洗わせろって。早く浸かりてぇから」
各々身体を洗い始めていく姿勢でわかる。とりあえず待てと。
「タオル使えよ」
「……😑」
「俺は手でいく‼️」
「俺も〜」
「背中洗うぞ」
「遠慮しとく」
「気持ちだけな、受け取っとくよ」
「ふーん。じゃ、俺だけお願いしちゃおっかな!来い、木之本😄」
「うん…」
レンは、なつみの楽しみを奪わずにいてくれた。
レンの背中をゴシゴシしていると、彼が言い出した。
「あ、そうだ。みんなで木之本を洗ってやろう」
「は?」
変な提案に、困惑と笑みが浮かぶ。
「ノッた」
「やろーやろー!」
「腕、腕、背中、前、脚、脚、良いな。6人で分担できる」
「きれーにしてやっか😏」
「なら、背中俺な」
「李空はダメだ」
「人の親切は大人しく受け取るもんだぞ、クソチビ。いや、悪い。お姫様」
「ブッとばーッ💢」
なつみのそのひと言で戦争が始まる。
「やんのか、コノヤロー‼️」
「つるんつるんの、ピッカピカにしてやんぞ、コノヤロー‼️」
「行くぞ、オラーッ‼️」
「かかって来いやァッ、細マッチョ軍団‼️💢」
「黙れ、このクソチビマッチョォッ‼️」
「はぁ。やれやれ」
「戦争じゃ‼️コノヤロー‼️」
なつみの戦略は相手をかわしながら、腰のタオルを取り払うこと。股間が晒されることで、何らかのダメージを与えられると信じて攻め込む。
「取ったんぞ、コノヤロー‼️」
「させるか、コノヤロー‼️」
しかし所詮は多勢に無勢。6人の敵をかわしきることはできなかった。
「放せ、コノヤロー‼️」
「放すもんか、コノヤロー‼️」
「背中流してくれたお礼してやるつってんだ、コノヤロー‼️」
「いつまでやるんだよ、アウトレイジごっこ💧」
「石鹸用ぉ意‼️レッツぅ〜、ゴシゴシぃーっ✊」
脚はパカッと開かれ、腕も掴まれ、前から尾田、背後を李空に取られた。
「やァめろォーッ‼️‼️」
「じゃ、失礼しまぁす。あっと、手が滑った」
明らかにわざと脇の下に手を滑り込ませた李空。こちょこちょこちょ♪
「ギャーハハハハハッ🤣」
「お客さーん、じっとしてくださいよぉ〜」
「ムリぃーヒヒヒヒッ🤣💦💦💦」
そんな感じでゴシゴシタイムに突入したが、なつみとてただで洗われることはない。苦肉の抵抗を見せ、全員からタオルを奪うことに成功した。だが、みんな盗られても「ま、いっか」でスルーしてしまった。なんとか引き分けに持っていったつもりだったのに。無理矢理引き出されるなつみの笑い声が、わんわんと響き渡っていった。
結局浴槽の隅っこでチャポンと浸かるなつみ。
「おーい。こっち来いよ。もういじめたりしないから」
「ぷいっ」
みんなに背中を向ける。
「良い湯だな〜😌」
「あぁ。サイコー。あったまる〜」
「来て良かったよ」
「あれ。なんか、傷が消えそう。薄くなってきた」
「温泉の効能じゃないか?」
「にしてもだよ!」
見ると、治りかけだった傷は無くなり、痣も肌色に戻っていく。血流がよくなったためか、それとも温泉の成分によるものか。いずれにしろ、みんな嬉しそう。
ぷくぷくぷく…
鼻から上しか水面から出さずに、なつみがみんなの輪に近づいてきた。
「ふふっ、来た来た」
「そんな深く浸かってっと、のぼせるぞ」
それもそうだと普通に座ってみても、なつみの座高では水面が顎まで来てしまう。
「ちっちゃいな、お前(笑)」
「むぅ!」
「俺の膝上座るか?」
「しないもん!」
「遠慮すんなって」
「わぁ💦」
断ったにも関わらず、ハルは強引になつみを自分の脚の上に座らせた。おかげで、鎖骨あたりまではお湯から出せた。
「こんで良いだろ?」
「別に頼んでないし!///」
「照れてんじゃねーよ。お前が俺らと風呂入りてぇつったんだろーが」
「照れてないッ‼️‼️ぉ男同士の裸の付き合いってのは、こう、ドンと座って、……、座って…」
男らしく堂々と腕組みをして座ってみるが、そこから先はどうするのか。結論。
「裸の付き合いって何だよ」
「お前が言い出したんだろーが‼️‼️」
「言葉の響きだけで憧れんのやめような〜」
「結局お前は、女子のやり方?考え方ってのをずっと引きずってんだよな」
「ぼくは男だ‼︎‼︎」
「身体はな」
「中身だって女じゃない‼︎」
「否定したいのは、常識的にある『らしさ』なんだろ。それを自分に押し付けられたくないから、女じゃないって思いたい。別に、それならそれで良いんだよ。どんなふうに着飾ろうと、本当にお前を好きになる人は、お前の全部を好きになる人だからな。お前らしさがありゃ良いんだ」
「ケイジの言う通りだ。お前のそれ、マジで無理してると思う。ただ単にお前は、『女でいるのがヤダ』なら『女じゃないのは男』だから『男になりたい!』って思ってるだけにしか見えねーんだよ。お前の『男らしい』言動ってのは、自然と出てるのもあるけど、大半は意識的にやってるもんだろ。だけど、無意識に出てる仕草は、全然ぽくない。『かわいい〜』って感じ?男が憧れてかっこいい男を目指すのと、男じゃないヤツが憧れて男を目指すのとじゃ違うの。お前は後者。全く知らない世界を理想で想定して、自分の都合だけで来ちまった」
「何でそんなこと言うんだよ……」
「男になれたと本当に思ってるか?」
「なってるよ…」
「お前の思う『男』って何だ」
「…」
「わかってねぇのに、なれるわけねぇだろ」
「‼︎⁉︎」
レンが辛い言葉をかけてきたため、何かを言い返したくて立ち上がりたかったが、ハルに捕まえられ、阻止されてしまった。立てたとしても、何も言えなかっただろうが。
「逃げんな、木之本。これが裸の付き合いってヤツだろ。言いたいこと、隠し事無しで語り合うこと。俺らが気になってんのは、お前が今、幸せかどうか。お前はきかれりゃ、『夢が叶ったから幸せ』って言うだろ。でもな、嫌な思いもしてんのが気に食わねぇ。どうにかする決心しろよ。もう充分、今の状況が自分にとって正解かどうか判断できるはずだからな」
ハルの腕の中で、なつみは俯いていた。
「なつみ、言い聞かせるなんてダメだよ。なつみにそんなの似合わないもん」
大丈夫、大丈夫と、クーちゃんは背中をさすってくれた。
「木之本が男の身体になったのが、悪いことばっか招いたとも思ってねぇけどな」李空だ。「できるはずもねぇと思ってたこんな楽しいことができてっから」
「そうだな!ここでケンカは困るから、何が楽しかったかは聞かねぇけど、俺もその見方なら賛成だ。木之本の性転換が間違いだったなんて、俺らは言わねぇよ。だから、そんな悩むこと無いぜ。誰を、どう大切にしたいか。それがわかれば」
「じゃあ、言うけどな‼︎」尾田の言葉を遮ってなつみが割り込んだ。「お前らは、自分をもっと大切にしろ‼︎‼︎傷ができたら早く治せ‼︎忙しいとか、めんどくせぇとか言うな‼︎そのうち治るから放っておいても良いとか思うな!四番隊に行く暇が無ぇなら、ぼくを呼べ!ぼくが治してやるから!『部下を守りきれなかった戒め』だとか『治さなかった傷が痛んで、隙を作っちまった』とか、ダセェこと聞きたかねぇんだよ‼︎‼︎無理してんのはお前らだって同じだ!」
ハルから離れてなつみは、尾田の右肩から脇腹へとタスキのように付けられた大きな爪痕に駆け寄った。手を当てて回道の術を発動する。
「もしも逆だったら、もしももっと深かったら」
「『もしも』でしかねぇよ」
「生きて欲しいんだ」
「じゃあ、もっと努力して強くなんねーとな。隊長たちみたいに」
彼らは上位席官である。遠征で班を組めば、自ずと自分がリーダーとなり、部下を守りながら戦わねばならなくなる。自分の身も守りながら。班の中では一番強くとも、隊長格ほどの力はまだ無い。だからどうしてもミスが生じる。しかし仕事は次から次へと用意されるため、大して休む暇も無し。休日があっても、自分を鍛えることに割いてしまう。
「お前が知らねぇ責任ってヤツな」
「美沙ちゃんも、こういう任務やったりしてるのかな…」
「さぁな。前はそう見えなかったけど、今は吹っ切れて志願してるかもな」
「ッ……‼︎」
なつみの喉に感情が込み上げてきた。改めて知らされた、彼ら死神は死と隣り合わせなのだと。
「泣くな、木之本。俺らはそう簡単に死なねぇさ。死んだらお前に会えなくなるだろ。そんなのご免だからな」
「尾田…」
「お前に会えたら、コイツらとも会える。いつもそんな気がしてっから、絶対に勝つんだ!お前は俺らにとって、帰る場所だ。俺らの幸せはお前にあるんだよ。集まりゃ楽しくなるんだから、そういうことなんだと思うぜ。美沙ちゃんにとっても、そうだったはずだ。早くあの子の帰る場所になってやれ。のん気に、みんな居るのが当たり前とか思ってたら、取り返しつかなくなるぞ」
尾田が頭を撫でてくれた。なつみは涙を拭う。そして小さくはっきりと。
「治った」
と言った。
「サンキュ」
「ありがと」
帰り道は、レンのギターに合わせて歌って帰る。
「くーだらねぇと つーぶやいてー!」
「さめたつらーして あるーくぅー」
「いつのひか〜 かがやくだろ〜」
「あふれるあついなぁみだ〜」
お約束のエレファントカシマシ『今宵の月のように』だ。
「俺もまた〜」
「輝くだろう」
「今宵の月のよぉにー‼︎ぃいー‼︎‼︎」
楽しい時間はまだこれからも。
お部屋に戻ると枕投げ大会が自然と始まる。
「とりゃー!」
「やったな〜!」
「ぅいしょーい!」
「どっかーん!」
「ぼんぼーん!」
「よっと」
「おりゃ!」
「せいや‼︎」
大人しめにやっているつもりではいたが。バンッと扉が開いた。
「良い加減、静かに寝なさいッ‼️‼️何時だと思ってるの‼️‼️」
ピシャリと響いたお叱りの言葉に、ピタリと手が止まる7人。
「「「「「「「はい。すいません…💧」」」」」」」
しかし、すぐにお父さんの顔が笑顔に変わった。
「ふふ、こんなふうに叱ってみたかったんだよね。良いね😄」
(((((((え〜…💧)))))))
逆にその笑顔が怖いんですけど。
「明日はお寝坊さんするんだっけ?でもだからって夜更かしはほどほどにしなきゃダメだよ?わかった?」
「はーい✋」
「うん。じゃあ、おやすみ、みんな」
「「「「「「おやすみなさい」」」」」」
「おやすみ、おとーさん😊」
久しぶりになつみに「おやすみ」を言われて、心がほっこりしたようだ。
「おやすみ、なつみちゃん。良い夢を」
目を閉じると、あっという間に朝はやってくる。鳥の声、朝日の差し込み、身体にのしかかる重み。
「ううっ…」
重み?
「うぅぅ…、木之本…」
「やいやい♪」
今朝のターゲットはケイジ。
「金縛りごっこだよ〜😆」
布団の上から馬乗りになって、ハイドーハイドー!
「寝かせろ!ダアホオーッ✊‼️💢」
「わぁー!」
結構なマジギレな押し上げで、なつみは後ろに転がされてしまった。
「お前、それは可哀想だわ」
「えぇー。一番隊だから早起き慣れてると思ったのに」
お布団に戻って、レンとこそこそおしゃべり。
「慣れてても。今日はサボるって決めてんだから、ゆっくりしよう」
「目ぇ覚めちゃったもん」
「起きたきゃ、ひとりで起きろ。お父さんなら、相手してくれるんじゃないか?」
李空はすっぽり頭まで布団を被ったまま、そう言った。
「わかったよ」
トイレに行ってから、なんとなく授与所の扉を開けてみた。色とりどりのお守りが並んでいる。
「どうしたの?」
「あ、お父さん。おはよう」
「おはよう」
なつみの姿を見つけて、こちらに来たらしい。
「どれか欲しいの?」
「ん、うん。おみやげに良いかなって」
「そっか。よし。選ぼう!入って入って」
お父さんがなつみの肩を持って、押し進めていった。
なつみがお守りを眺めていると、お父さんが話しかけてきた。
「みんなはまだ寝てるよね」
「うん。起きたくないって。怒られちゃった」
「毎日それだけ大変なんだね。なつみちゃんは眠くないの?」
「楽しくって、二度寝なんてもったいないね」
「昨日、温泉で悩みも洗い流せたみたいだね。良い顔してるよ」
「ひひー😁」
決まったのか、ひょいひょいとお守りを選び取っていく。
「これにするー!」
「わかった。袋に入れるね」
「あ、この1個だけで良いよ」
「ふふ、彼らにと、それは美沙ちゃんにだね」
「これがぼくの!お財布取ってくるね」
8個のお守りを預けて、授与所を出て行こうとする。
「良いよ、払わなくて。あげるから」
「ダメ‼️ぼくが全部払うの‼️お世話になったお礼を、ぼくもするんだから😤」
「そう?無理してない?」
「してない‼️」
行ってしまった。
ぽんぽんぽんと、購入したお守りをそれぞれの枕元に置いていくなつみ。
「なにー…?🥱」
クーちゃんが1番乗りで、目をしょぼしょぼさせながら手を伸ばした。
「お守りだよ。旅のおみやげ!みんなにあげる。おそろいで付けよう😊」
「わぁ〜、ありがとー😌」
このやり取りが聞こえ、他の者たちもそろそろと配られたお守りを手に取ってみる。すぐに、ご利益が目に入った。
「は…?なんで?」
「ありがたいけど、隊でってことかな?」
「んー、何でだろ。どっちも?」
「え?そんな変?みんなそれぞれ違うの?」
「おい、俺が寂しい奴とでも思ってんのか」
「つかこれ、俺のじゃねぇだろ。お前のだろ‼️💢」
「紫好きって言ったじゃん。紫それしか無かったもん」
「言ったが、そこまで色にこだわるなよ💢」
こんなにケイジが怒るから、何なのか気になる。
「ちょっと見せろよ」
ついでに全員のが見たい。
寝たままの姿勢でパッと見せ合った。尾田、赤で『合格祈願』。
「試験受ける予定無ぇんだけど」
「勝負に勝つ!イコール、合格!」
「無理矢理だな💦」
クーちゃん、橙で『家内安全』。
「一人暮らしなのにさ」
「護廷十三隊で、大っきい家族なの!」
「ふーん」
レン、黄で『商売繁盛』。
「死神で?それとも編集で?」
「黄色って、金運でしかないよね」
「俺のがいちばん良いかも。ラッキー」
なつみ、緑で『交通安全』。
「お前はそれで良いのかよ」
「ぼくらは今旅行中だぞ。交通安全がいちばん大事なの!崇めよ!」
「あぁ、そう」
ハル、青で『無病息災』。
「怪我が減るようにって?」
「元気でいて欲しい!」
「ありがとう」
李空、藍で『良縁成就』。
「今よりもか?」
「ぼくらだけじゃ世界は足りない!友情だけじゃなく、LOVEでもだ!」
「うるせぇ」
そしてオオトリ、ケイジ、紫で『安産祈願』(笑)。
「俺は男だ」
「いや、迸るオカン感強いから、ワンチャン」
「無ぇ💢」
「元気な赤ちゃん産んでください‼️🤣」
「産めるかぁ‼️💢」
「じゃあいらないの?😙」
「そんなこと言ってねぇだろ‼️」
(((((もらうんだ、結局😏)))))
7つ並んでいると。
「虹色だよ」
なつみはお守りを斬魄刀の鞘に括り付けた。
「お前らも付けとけ。良いことあるから🙂」
約1名不満たらたら。
「ケイジがいっちゃんオイシイって🤣」
「ウケとか狙ってねぇ❗️💢」
もう瀞霊廷に帰る時間だ。
「じゃあね、お父さん。また来るね👋」
「うん。待ってるよ。お友だち連れてきてね👋」
「お邪魔しました。うるさくしちゃって、すいませんでした」
「いえいえ。こんなに笑い声がこだましたことないから、賑やかでとっても楽しかったよ。なつみちゃんのこと、これからもよろしくね」
「はい」
「みんなー!気を付けて帰ってねー!👋」
「お父さんも、身体に気を付けてよー❗️バイバーイ❗️」
カプセルが歩き始めた、ら…。
ニッコリ、ニッコリ、ニッコリ
森と境内の境に、モコモコが大中小と横に並んでいるのを見てしまった。
「呼んでないって‼️💦」
「ヤベェぞ!またやられるッ💦」
「アイツら、ヌシなら優しく見守ってくれるだけで良いっての❗️💦」
「木之本!お前、交通安全で何とかしろ‼︎」
「そうだよ!崇めろとか大口叩いてたじゃん‼︎」
「お守りアイツらにかざせ!」
「木之本ならどうにかできるだろ!」
「そそ、ソイヤーッ‼️悪霊タイサァーンッ‼️‼️💦」
悪霊ではないので、関係ございません。ということで、クマたちがソイヤ、ソイヤ。
「アカァアアアアアーーーンッ‼️‼️」
うわぁぁぁぁぁあ〜〜〜〜〜
お父さんにはどうすることもできなかったので、祈りを捧げることにする。
「みんなに加護がありますように…💧」
「ウェーーーイ‼️‼️😆」
手持ち花火をブンブン振り回し、ご機嫌ななつみ。
「危ねぇから💦」
火の粉が飛んできそう。
「魔法使いの杖みたい🪄」
ちちんぷいぷい、花火が目に映ってキラキラと輝けば、みんなの笑顔も照らされる。
「良いな、花火」
「楽しいよね😁」
「卒業旅行で話してたよな、花火のこと」
「だから、今回はそのリベンジだっつの」
「何?葡萄ジュースリベンジ?(笑)」
なつみは無表情でシャッと花火の火をハルの足にかけてやる。
「バカ‼️燃えるわ‼️」
※良い子はマネしないでください
「るっせぇ💢」
「次は打ち上げ花火な」
「どうして李空は打ち上げ花火にこだわるの?」
「好きだから」
「好きなものを好きな人と見たいから?」
「違え」
「だろうよ。ぼくもわかる。好きなものを好きな人『たち』と見たい、から。良い思い出があるから、ぼくたちとシェアしたいんだろ?お前が知ってる楽しいを」
チャポンと燃え尽きた花火をバケツに入れた。
「見よう!みんなでいっしょに打ち上げ花火!そうだ。男性死神協会主催で、お祭りを企画してもらおう。今度頼んでみるね👍」
「それが叶ったら、この7人と美沙ちゃんとで見るぞ」
「う゛っ😰」
李空からの意地悪なお願いだった。
「そうだ、そうだ!」
「それ、バイプレイヤーズ無人島編?」
「話逸らすな。京楽隊長とのことは驚いたが、だとしてもあの人は放っておいても良い。けどな、美沙ちゃんとはとっとと仲直りしろ。お前が謝んなきゃ、いつまでもこのままだぞ。どうせ、会えなくて寂しがってんだろ。美沙ちゃんだって絶対そうだ。意地張ってねぇで、この旅行終わったらすぐ会いに行け。明後日だ!明後日!」
「家知らねぇーし」
「教えてやっから!」
「はぁ⁉︎何で尾田が知ってんだよ」
「コイツらだって知ってるって!お前がその気になったら、いつでも向かわせられるように、美沙ちゃんが教えてくれたんだ!」
「「「「「え…」」」」」
いやいやと立てた手をふりふりするその他5人。
「教えてもらってねぇの⁉︎俺だけ⁉︎何で⁉︎💦」
「尾田のはやとちりだよ😒」
なつみには美沙の思惑がわかっていたが、尾田がチヤホヤされるのを黙って眺めることにした。
「お前ら、まさかのまさかのまさかなの?😁」
「きゃ〜💓おアツいね〜」
「そうだったのか」
「いつの間にだな」
「否定されたって、もうそういう目で見ちゃうって〜😄」
「うるせぇ!ちげぇーったら、ちげぇー!💦」
次の花火を選びに逃げていったとさ。なのに後に続いたその他5人ときたら、花火を点火して、ハートをたくさん宙に描き、照れる尾田をからかっていた。
なつみはというと、線香花火をやることで、下向きの視線が自然であるのを演出していた。
美沙ちゃん……
と、唇が不意に動いてしまった。
片付けたら温泉へ出かけていく。寒いので、カプセルに乗って移動していった。事前に7人が来ることを知らせていたため、地元の方が明かりをつけて待っていてくれた。
「いらっしゃい。ゆっくりあったまってってちょうだいな」
「ありがとうございます」
脱衣所に入ると、格子状の棚の一角になつみがいち早く陣取った。
「ここぼくのー!」
この旅のメインイベントが、「みんなでお風呂に入ること」だったので、なつみはルンルンになっていた。だが、仲間たちには気掛かりがあった。そんなことは気にもならないため、なつみだけスルスルと脱いでいく。
「ふんふ〜ん♪」
そして、パンツいっちょのところで見せびらかす筋肉。
「どうや!この筋肉!」
かつてはここまで言うと「ぷにぷにやぞ」と口を挟まれたが、もうそうはさせない。
「かっちかちやぞ!😆」
「はいはい」
「お前らも早く脱げってー。ぼくよりヒョロいからって、恥ずかしがっとんな!」
「別にそんなんじゃねーし」
わかっていたことだが、初めて見るなつみの胸はぺったんこ。
「なんだかな〜」
「なんだよ😤」
「別に」
スルッとパンツも脱ぎ、くるくるぽんっで服の上に。タオルを持って、それを巻くことなくすっぽんぽんで浴室の扉へ向かった。
「おっ先ぃ〜😆」
「おい、走んなよー!すっ転ぶぞー!」
「子どもへの注意だな😅」
お湯に浸かる前に全身を綺麗に洗うのが、温泉でのマナーである。シャンプーをしていたら、ぞろぞろと仲間たちが入ってきたのを感じた。ここの温泉の洗い場は、壁沿いに3つと4つ並んでいる。ちょうど図ったように7人が同時に洗えるのだ。
「ねぇねぇ、泡が垂れてきちゃってさ、目ぇ開けたくないから、誰かシャワー出してくんない?」
そのお願いに、誰かが応えてくれた。
音だけがしばらくする。水温を観てくれているのだろう。頃合いになったなら、なつみにシャワーヘッドを渡してくれたら良いのに、そのまま頭にかけてきた。
「うぶぶっ💦ありがと💦」
泡は流れた。止めようと思い、お湯が来る方に手を伸ばす。
「もういいよ💦」
だが、腕をどれだけ伸ばせど届かない。
「おい‼️ぶふッ💦💦💦」
顔を上げたら、顔面に放水をもろに受け、プチキレる。
「もぉッ💦ハルだろッ💦やめろぉ‼️💦」
「あっはははは😄」
もう目は開けられるため、シャワーヘッドは諦めて、栓を閉めることにした。
「ばか‼️」
「ソ〜リ〜」
全然謝ってないので、タオルでベシッとノーマークなハルのオケツに一発入れた。
「タッ💥」
叩きたいのが最優先だったため気付かなかったが、はたと仲間たちの姿を見て、なつみの動きが止まった。
「おい…」
「何だ?タオル巻くか巻かないか話し合ってんじゃねーって?(笑)」
「やっぱな、お前が男になっても気になるもんは気になっちまうんだ」
そんなくだらないことで誤魔化せるものではない。
「タオルじゃねぇよ‼︎その傷だよ‼︎お前ら、傷だらけじゃねぇか‼︎」
仲間たちの身体には、深そうな切り傷の痕や濃い痣があちこちにできていた。服の下、特にこの寒い時期は厚着をするため、余計にそんなものがあるなんて、知る由もなかった。彼らは、股間もそうだが、これらの傷もなつみに見られたくなかったのだ。そんな顔になるから。
「何で治さねぇんだよ……」
「先に洗わせろって。早く浸かりてぇから」
各々身体を洗い始めていく姿勢でわかる。とりあえず待てと。
「タオル使えよ」
「……😑」
「俺は手でいく‼️」
「俺も〜」
「背中洗うぞ」
「遠慮しとく」
「気持ちだけな、受け取っとくよ」
「ふーん。じゃ、俺だけお願いしちゃおっかな!来い、木之本😄」
「うん…」
レンは、なつみの楽しみを奪わずにいてくれた。
レンの背中をゴシゴシしていると、彼が言い出した。
「あ、そうだ。みんなで木之本を洗ってやろう」
「は?」
変な提案に、困惑と笑みが浮かぶ。
「ノッた」
「やろーやろー!」
「腕、腕、背中、前、脚、脚、良いな。6人で分担できる」
「きれーにしてやっか😏」
「なら、背中俺な」
「李空はダメだ」
「人の親切は大人しく受け取るもんだぞ、クソチビ。いや、悪い。お姫様」
「ブッとばーッ💢」
なつみのそのひと言で戦争が始まる。
「やんのか、コノヤロー‼️」
「つるんつるんの、ピッカピカにしてやんぞ、コノヤロー‼️」
「行くぞ、オラーッ‼️」
「かかって来いやァッ、細マッチョ軍団‼️💢」
「黙れ、このクソチビマッチョォッ‼️」
「はぁ。やれやれ」
「戦争じゃ‼️コノヤロー‼️」
なつみの戦略は相手をかわしながら、腰のタオルを取り払うこと。股間が晒されることで、何らかのダメージを与えられると信じて攻め込む。
「取ったんぞ、コノヤロー‼️」
「させるか、コノヤロー‼️」
しかし所詮は多勢に無勢。6人の敵をかわしきることはできなかった。
「放せ、コノヤロー‼️」
「放すもんか、コノヤロー‼️」
「背中流してくれたお礼してやるつってんだ、コノヤロー‼️」
「いつまでやるんだよ、アウトレイジごっこ💧」
「石鹸用ぉ意‼️レッツぅ〜、ゴシゴシぃーっ✊」
脚はパカッと開かれ、腕も掴まれ、前から尾田、背後を李空に取られた。
「やァめろォーッ‼️‼️」
「じゃ、失礼しまぁす。あっと、手が滑った」
明らかにわざと脇の下に手を滑り込ませた李空。こちょこちょこちょ♪
「ギャーハハハハハッ🤣」
「お客さーん、じっとしてくださいよぉ〜」
「ムリぃーヒヒヒヒッ🤣💦💦💦」
そんな感じでゴシゴシタイムに突入したが、なつみとてただで洗われることはない。苦肉の抵抗を見せ、全員からタオルを奪うことに成功した。だが、みんな盗られても「ま、いっか」でスルーしてしまった。なんとか引き分けに持っていったつもりだったのに。無理矢理引き出されるなつみの笑い声が、わんわんと響き渡っていった。
結局浴槽の隅っこでチャポンと浸かるなつみ。
「おーい。こっち来いよ。もういじめたりしないから」
「ぷいっ」
みんなに背中を向ける。
「良い湯だな〜😌」
「あぁ。サイコー。あったまる〜」
「来て良かったよ」
「あれ。なんか、傷が消えそう。薄くなってきた」
「温泉の効能じゃないか?」
「にしてもだよ!」
見ると、治りかけだった傷は無くなり、痣も肌色に戻っていく。血流がよくなったためか、それとも温泉の成分によるものか。いずれにしろ、みんな嬉しそう。
ぷくぷくぷく…
鼻から上しか水面から出さずに、なつみがみんなの輪に近づいてきた。
「ふふっ、来た来た」
「そんな深く浸かってっと、のぼせるぞ」
それもそうだと普通に座ってみても、なつみの座高では水面が顎まで来てしまう。
「ちっちゃいな、お前(笑)」
「むぅ!」
「俺の膝上座るか?」
「しないもん!」
「遠慮すんなって」
「わぁ💦」
断ったにも関わらず、ハルは強引になつみを自分の脚の上に座らせた。おかげで、鎖骨あたりまではお湯から出せた。
「こんで良いだろ?」
「別に頼んでないし!///」
「照れてんじゃねーよ。お前が俺らと風呂入りてぇつったんだろーが」
「照れてないッ‼️‼️ぉ男同士の裸の付き合いってのは、こう、ドンと座って、……、座って…」
男らしく堂々と腕組みをして座ってみるが、そこから先はどうするのか。結論。
「裸の付き合いって何だよ」
「お前が言い出したんだろーが‼️‼️」
「言葉の響きだけで憧れんのやめような〜」
「結局お前は、女子のやり方?考え方ってのをずっと引きずってんだよな」
「ぼくは男だ‼︎‼︎」
「身体はな」
「中身だって女じゃない‼︎」
「否定したいのは、常識的にある『らしさ』なんだろ。それを自分に押し付けられたくないから、女じゃないって思いたい。別に、それならそれで良いんだよ。どんなふうに着飾ろうと、本当にお前を好きになる人は、お前の全部を好きになる人だからな。お前らしさがありゃ良いんだ」
「ケイジの言う通りだ。お前のそれ、マジで無理してると思う。ただ単にお前は、『女でいるのがヤダ』なら『女じゃないのは男』だから『男になりたい!』って思ってるだけにしか見えねーんだよ。お前の『男らしい』言動ってのは、自然と出てるのもあるけど、大半は意識的にやってるもんだろ。だけど、無意識に出てる仕草は、全然ぽくない。『かわいい〜』って感じ?男が憧れてかっこいい男を目指すのと、男じゃないヤツが憧れて男を目指すのとじゃ違うの。お前は後者。全く知らない世界を理想で想定して、自分の都合だけで来ちまった」
「何でそんなこと言うんだよ……」
「男になれたと本当に思ってるか?」
「なってるよ…」
「お前の思う『男』って何だ」
「…」
「わかってねぇのに、なれるわけねぇだろ」
「‼︎⁉︎」
レンが辛い言葉をかけてきたため、何かを言い返したくて立ち上がりたかったが、ハルに捕まえられ、阻止されてしまった。立てたとしても、何も言えなかっただろうが。
「逃げんな、木之本。これが裸の付き合いってヤツだろ。言いたいこと、隠し事無しで語り合うこと。俺らが気になってんのは、お前が今、幸せかどうか。お前はきかれりゃ、『夢が叶ったから幸せ』って言うだろ。でもな、嫌な思いもしてんのが気に食わねぇ。どうにかする決心しろよ。もう充分、今の状況が自分にとって正解かどうか判断できるはずだからな」
ハルの腕の中で、なつみは俯いていた。
「なつみ、言い聞かせるなんてダメだよ。なつみにそんなの似合わないもん」
大丈夫、大丈夫と、クーちゃんは背中をさすってくれた。
「木之本が男の身体になったのが、悪いことばっか招いたとも思ってねぇけどな」李空だ。「できるはずもねぇと思ってたこんな楽しいことができてっから」
「そうだな!ここでケンカは困るから、何が楽しかったかは聞かねぇけど、俺もその見方なら賛成だ。木之本の性転換が間違いだったなんて、俺らは言わねぇよ。だから、そんな悩むこと無いぜ。誰を、どう大切にしたいか。それがわかれば」
「じゃあ、言うけどな‼︎」尾田の言葉を遮ってなつみが割り込んだ。「お前らは、自分をもっと大切にしろ‼︎‼︎傷ができたら早く治せ‼︎忙しいとか、めんどくせぇとか言うな‼︎そのうち治るから放っておいても良いとか思うな!四番隊に行く暇が無ぇなら、ぼくを呼べ!ぼくが治してやるから!『部下を守りきれなかった戒め』だとか『治さなかった傷が痛んで、隙を作っちまった』とか、ダセェこと聞きたかねぇんだよ‼︎‼︎無理してんのはお前らだって同じだ!」
ハルから離れてなつみは、尾田の右肩から脇腹へとタスキのように付けられた大きな爪痕に駆け寄った。手を当てて回道の術を発動する。
「もしも逆だったら、もしももっと深かったら」
「『もしも』でしかねぇよ」
「生きて欲しいんだ」
「じゃあ、もっと努力して強くなんねーとな。隊長たちみたいに」
彼らは上位席官である。遠征で班を組めば、自ずと自分がリーダーとなり、部下を守りながら戦わねばならなくなる。自分の身も守りながら。班の中では一番強くとも、隊長格ほどの力はまだ無い。だからどうしてもミスが生じる。しかし仕事は次から次へと用意されるため、大して休む暇も無し。休日があっても、自分を鍛えることに割いてしまう。
「お前が知らねぇ責任ってヤツな」
「美沙ちゃんも、こういう任務やったりしてるのかな…」
「さぁな。前はそう見えなかったけど、今は吹っ切れて志願してるかもな」
「ッ……‼︎」
なつみの喉に感情が込み上げてきた。改めて知らされた、彼ら死神は死と隣り合わせなのだと。
「泣くな、木之本。俺らはそう簡単に死なねぇさ。死んだらお前に会えなくなるだろ。そんなのご免だからな」
「尾田…」
「お前に会えたら、コイツらとも会える。いつもそんな気がしてっから、絶対に勝つんだ!お前は俺らにとって、帰る場所だ。俺らの幸せはお前にあるんだよ。集まりゃ楽しくなるんだから、そういうことなんだと思うぜ。美沙ちゃんにとっても、そうだったはずだ。早くあの子の帰る場所になってやれ。のん気に、みんな居るのが当たり前とか思ってたら、取り返しつかなくなるぞ」
尾田が頭を撫でてくれた。なつみは涙を拭う。そして小さくはっきりと。
「治った」
と言った。
「サンキュ」
「ありがと」
帰り道は、レンのギターに合わせて歌って帰る。
「くーだらねぇと つーぶやいてー!」
「さめたつらーして あるーくぅー」
「いつのひか〜 かがやくだろ〜」
「あふれるあついなぁみだ〜」
お約束のエレファントカシマシ『今宵の月のように』だ。
「俺もまた〜」
「輝くだろう」
「今宵の月のよぉにー‼︎ぃいー‼︎‼︎」
楽しい時間はまだこれからも。
お部屋に戻ると枕投げ大会が自然と始まる。
「とりゃー!」
「やったな〜!」
「ぅいしょーい!」
「どっかーん!」
「ぼんぼーん!」
「よっと」
「おりゃ!」
「せいや‼︎」
大人しめにやっているつもりではいたが。バンッと扉が開いた。
「良い加減、静かに寝なさいッ‼️‼️何時だと思ってるの‼️‼️」
ピシャリと響いたお叱りの言葉に、ピタリと手が止まる7人。
「「「「「「「はい。すいません…💧」」」」」」」
しかし、すぐにお父さんの顔が笑顔に変わった。
「ふふ、こんなふうに叱ってみたかったんだよね。良いね😄」
(((((((え〜…💧)))))))
逆にその笑顔が怖いんですけど。
「明日はお寝坊さんするんだっけ?でもだからって夜更かしはほどほどにしなきゃダメだよ?わかった?」
「はーい✋」
「うん。じゃあ、おやすみ、みんな」
「「「「「「おやすみなさい」」」」」」
「おやすみ、おとーさん😊」
久しぶりになつみに「おやすみ」を言われて、心がほっこりしたようだ。
「おやすみ、なつみちゃん。良い夢を」
目を閉じると、あっという間に朝はやってくる。鳥の声、朝日の差し込み、身体にのしかかる重み。
「ううっ…」
重み?
「うぅぅ…、木之本…」
「やいやい♪」
今朝のターゲットはケイジ。
「金縛りごっこだよ〜😆」
布団の上から馬乗りになって、ハイドーハイドー!
「寝かせろ!ダアホオーッ✊‼️💢」
「わぁー!」
結構なマジギレな押し上げで、なつみは後ろに転がされてしまった。
「お前、それは可哀想だわ」
「えぇー。一番隊だから早起き慣れてると思ったのに」
お布団に戻って、レンとこそこそおしゃべり。
「慣れてても。今日はサボるって決めてんだから、ゆっくりしよう」
「目ぇ覚めちゃったもん」
「起きたきゃ、ひとりで起きろ。お父さんなら、相手してくれるんじゃないか?」
李空はすっぽり頭まで布団を被ったまま、そう言った。
「わかったよ」
トイレに行ってから、なんとなく授与所の扉を開けてみた。色とりどりのお守りが並んでいる。
「どうしたの?」
「あ、お父さん。おはよう」
「おはよう」
なつみの姿を見つけて、こちらに来たらしい。
「どれか欲しいの?」
「ん、うん。おみやげに良いかなって」
「そっか。よし。選ぼう!入って入って」
お父さんがなつみの肩を持って、押し進めていった。
なつみがお守りを眺めていると、お父さんが話しかけてきた。
「みんなはまだ寝てるよね」
「うん。起きたくないって。怒られちゃった」
「毎日それだけ大変なんだね。なつみちゃんは眠くないの?」
「楽しくって、二度寝なんてもったいないね」
「昨日、温泉で悩みも洗い流せたみたいだね。良い顔してるよ」
「ひひー😁」
決まったのか、ひょいひょいとお守りを選び取っていく。
「これにするー!」
「わかった。袋に入れるね」
「あ、この1個だけで良いよ」
「ふふ、彼らにと、それは美沙ちゃんにだね」
「これがぼくの!お財布取ってくるね」
8個のお守りを預けて、授与所を出て行こうとする。
「良いよ、払わなくて。あげるから」
「ダメ‼️ぼくが全部払うの‼️お世話になったお礼を、ぼくもするんだから😤」
「そう?無理してない?」
「してない‼️」
行ってしまった。
ぽんぽんぽんと、購入したお守りをそれぞれの枕元に置いていくなつみ。
「なにー…?🥱」
クーちゃんが1番乗りで、目をしょぼしょぼさせながら手を伸ばした。
「お守りだよ。旅のおみやげ!みんなにあげる。おそろいで付けよう😊」
「わぁ〜、ありがとー😌」
このやり取りが聞こえ、他の者たちもそろそろと配られたお守りを手に取ってみる。すぐに、ご利益が目に入った。
「は…?なんで?」
「ありがたいけど、隊でってことかな?」
「んー、何でだろ。どっちも?」
「え?そんな変?みんなそれぞれ違うの?」
「おい、俺が寂しい奴とでも思ってんのか」
「つかこれ、俺のじゃねぇだろ。お前のだろ‼️💢」
「紫好きって言ったじゃん。紫それしか無かったもん」
「言ったが、そこまで色にこだわるなよ💢」
こんなにケイジが怒るから、何なのか気になる。
「ちょっと見せろよ」
ついでに全員のが見たい。
寝たままの姿勢でパッと見せ合った。尾田、赤で『合格祈願』。
「試験受ける予定無ぇんだけど」
「勝負に勝つ!イコール、合格!」
「無理矢理だな💦」
クーちゃん、橙で『家内安全』。
「一人暮らしなのにさ」
「護廷十三隊で、大っきい家族なの!」
「ふーん」
レン、黄で『商売繁盛』。
「死神で?それとも編集で?」
「黄色って、金運でしかないよね」
「俺のがいちばん良いかも。ラッキー」
なつみ、緑で『交通安全』。
「お前はそれで良いのかよ」
「ぼくらは今旅行中だぞ。交通安全がいちばん大事なの!崇めよ!」
「あぁ、そう」
ハル、青で『無病息災』。
「怪我が減るようにって?」
「元気でいて欲しい!」
「ありがとう」
李空、藍で『良縁成就』。
「今よりもか?」
「ぼくらだけじゃ世界は足りない!友情だけじゃなく、LOVEでもだ!」
「うるせぇ」
そしてオオトリ、ケイジ、紫で『安産祈願』(笑)。
「俺は男だ」
「いや、迸るオカン感強いから、ワンチャン」
「無ぇ💢」
「元気な赤ちゃん産んでください‼️🤣」
「産めるかぁ‼️💢」
「じゃあいらないの?😙」
「そんなこと言ってねぇだろ‼️」
(((((もらうんだ、結局😏)))))
7つ並んでいると。
「虹色だよ」
なつみはお守りを斬魄刀の鞘に括り付けた。
「お前らも付けとけ。良いことあるから🙂」
約1名不満たらたら。
「ケイジがいっちゃんオイシイって🤣」
「ウケとか狙ってねぇ❗️💢」
もう瀞霊廷に帰る時間だ。
「じゃあね、お父さん。また来るね👋」
「うん。待ってるよ。お友だち連れてきてね👋」
「お邪魔しました。うるさくしちゃって、すいませんでした」
「いえいえ。こんなに笑い声がこだましたことないから、賑やかでとっても楽しかったよ。なつみちゃんのこと、これからもよろしくね」
「はい」
「みんなー!気を付けて帰ってねー!👋」
「お父さんも、身体に気を付けてよー❗️バイバーイ❗️」
カプセルが歩き始めた、ら…。
ニッコリ、ニッコリ、ニッコリ
森と境内の境に、モコモコが大中小と横に並んでいるのを見てしまった。
「呼んでないって‼️💦」
「ヤベェぞ!またやられるッ💦」
「アイツら、ヌシなら優しく見守ってくれるだけで良いっての❗️💦」
「木之本!お前、交通安全で何とかしろ‼︎」
「そうだよ!崇めろとか大口叩いてたじゃん‼︎」
「お守りアイツらにかざせ!」
「木之本ならどうにかできるだろ!」
「そそ、ソイヤーッ‼️悪霊タイサァーンッ‼️‼️💦」
悪霊ではないので、関係ございません。ということで、クマたちがソイヤ、ソイヤ。
「アカァアアアアアーーーンッ‼️‼️」
うわぁぁぁぁぁあ〜〜〜〜〜
お父さんにはどうすることもできなかったので、祈りを捧げることにする。
「みんなに加護がありますように…💧」