第七章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
荷物を置いたり、野菜を台所に置かせてもらったり、襖を取り外して2部屋をくっつけ、7枚布団を並べられる広い部屋を用意する間に、この神社の役割を説明しよう。
流魂街の中間地点に位置する木之本神社は、霊力を有する者達の休息の地である。彼らは遠方に流れ着いたか産まれ、力をより有効に使う術を知るべく、瀞霊廷を目指していく。旅の最中ここにたどり着き、疲れや傷を癒やした後、再び世界の中心地へ向かっていくのだ。山に宿る主たちのおかげか、この地は瀞霊廷から離れているにも関わらず、比較的平和な環境となっていた。いずれ尸魂界のために務めるだろう逸材達のために、里の住人らは心を込めてもてなしている。見事瀞霊廷にたどり着き、高貴な地位に就いたならば、彼らの大半はお礼にと、木之本神社にいくらか寄付をしてくれる。その巡るご縁のおかげで、更に新しい旅人を迎え入れる準備ができるのだ。優しい絆が広がるこの場所で、なつみは産まれ、育った。
「だから俺ら泊まらせてくれるんだな」
「そ」
「今は泊まってる人いないみたいだけど、7人って、大所帯すぎない?」
「そんなことないよ。ぼくらは遊びに来てるだけだから、自分のことは自分でするし。他にも部屋はあるもん。大丈夫でしょ。もし新しい人が来たら、静かに過ごそう」
「りょーかい」
「あ〜、マジのどかなとこだな〜」
「こういう地域がもっと増えると良いよな」
「破茶滅茶なヌシが隣に住んでっけどな」
「ぼくら大人だから良いけど、あんなトトロ子供にゃ会わせらんねーぞ」
布団を敷き終え、どこに誰が寝るか決めて、ごろごろしていると、戸が開いた。
「なつみちゃん、みんなにここを案内してきたら?主に連れてきてもらったなら良いのかもしれないけど、一応、本殿でご挨拶してきた方が良いと思うんだ。一晩泊まらせてもらいます、お世話になりますって、報告をしてね」
「はーい✋」
むくっと起き上がる。
「じゃあ、お散歩しよー」
手水で気合いのお清めの後、各々お財布からチャリンと取り出し、お賽銭を入れる。
(平和な毎日をありがとうございます。楽しい思い出が作れるように、見守っててください👏)
御神木にもご挨拶する。
「立派な木だなー」
見上げる先には複雑に伸びる枝とサラサラと揺れる葉っぱが。
「本殿の下に水脈があってね、その水で育ってるから、この木も神様と同じくらいの力があるんだよって、お父さんが言ってた」
「これなんだろ?お前がそのマントに力もらったのって」
「そう。お世話になってまーす」
ぎゅーっとなつみは木に抱きついた。
「俺もしよー。木之本がお世話になってまーす」
レンが隣に来てなつみのマネをした。
「何かさぁ、葉っぱの色がなつみの目の色と似てる気がする」
「綺麗な緑色な」
「キザなことをよく言うな」
「李空だって思ってるだろ?」
ちょうど落ちてきた葉をパシッと取り、ハルが李空の目の前で、葉の根本を摘んでクルクルと回してやる。
「フンッ」
「水が流れる音がする。お前らも聴いてみろよ」
「そうそう。パワーもらえるぜ」
みんなが代わりばんこに御神木にくっついていく。
「ぼく、ここで見つかったんだって。詳しくは知らないけど。この木の根元」
「へぇー」
「ここからぼくの冒険が始まったのさ〜」
「冒険ねぇ」
「大冒険だよ。いろいろあったもん。たくさんの人と出会って、お別れしてさ。お前らだって、霊術院に入るまでは、なかなかの生活してたんじゃねーの?」
「まぁな」
「今があって何よりな感じの」
「うぅぅ、寒ぃ。そろそろ戻ろうぜ」
「ヒヒッ、うりゃ!😆」
寒がる尾田に抱きついてあげるなつみ。そのまま歩き出す。
「あったかい?」
「おお。さすが、歩く湯たんぽ」
「俺も寒いー!」
「俺もー!」
ハルとクーちゃんが後ろから訴えてきた。なので、尾田から離れ、ほぼラリアットで2人まとめてあっために行く。
「とーう‼️」
「「グェッ💦」」
なつみの温もりはみんなを幸せにする。
「あははは」
「あったかい?」
「あったか〜い」
ならばとレンはついでにお願いしてくる。
「次こっちー」
「はーい」
むぎゅーっと。
「あったかい?」
「あったけー」
物静かな2人は手を挙げてみるだけ。こっそりと。
「ふふっ」
レンからひょこっと顔を覗かせて、そっちを確認してみたものだから、なつみはあっさりとそちらへ駆けつける。
「えいっ!」
ケイジの左手と李空の右手を握ってあげた。
「仲良しこよし♪」
フンフンと鼻歌を歌いながら4人の後を3人で歩く。腕を大きく振って。
大人になってから友だちになった人たちと自分の地元で遊ぶのと、好きな子の実家にお邪魔しているのとで、彼らの心はむず痒い嬉しさに満たされていた。そう、6人は変わらずなつみに好意を寄せていた。そしてある男には、少しの進歩が。
「あったかい?」
「ほんと、ぽかぽかしてんな、お前」
「おかしいくらいにな」
李空にキック。
「逆に何で2人の手こんな冷たいの」
「その分心があったかいって言うだろ?」
「何それ。ぼくを冷たいヤツって言いたいわけ?」
「そんなことねぇけど、たまに熱苦しい」
「フンッ」
そんなこと言う李空からは手を放しちゃえ!という考えはお見通しなので、逃げられないようにしっかり握る。
「あ‼️むー」
「それが悪ぃだなんて言ってねぇだろ、バーカ」
「バカじゃないもん‼️」
左手だけブンブン振る。それでも放してくれないから、なつみは身体ごとブンブン揺らした。
「歩きにくい」
「動きが気色悪い」
結局2人とも手を放した。
「お前は言い過ぎなんだよ💢」
背後から李空に飛びついて、腕で首を絞めにいくなつみ。
「歩きにくい」
「そうだ。それなら良いんだ」
悪口から文句に変更されたのを確認できたので、なつみはそのまま李空に掴まっていた。頬を耳に寄せるくらいぎゅっと。落ちないように、李空はなつみの脚を持った。
「あったかい?」
「あぁ」
「よかった」
素直さを本人の前で少し出せるようになっていた。胸の膨らみが関係していたんだろうか。
室内に帰ると、お父さんがお茶とお菓子を用意してくれていた。机の真ん中にはランタンが。
「寒かったでしょ」
「ふい〜、あったかーい🍵」
「恐れ入ります。いただきます」
「あ!毛布持ってこよー」
なつみはお茶をひと口飲んだだけで、部屋を出ていった。
その部屋は畳に座卓、ふかふか座布団が並んでいたが、これでは寒い。ということで、なつみは毛布を2枚持ってきて、みんなが座る膝の上にかけてやった。
「おこた使おうよー、お父さーん」
「あるけど、こんなに大勢には使えないんだよ。ごめんね」
「みんなでくっついてれば、あったかくなるって。文句言うな」
「いてっ。やったな〜」
机の下でレンにコツンと蹴られたため、なつみは蹴り蹴りやり出した。
「やいやいやいやいやい♪ヤッ(ゴツンッ💥)‼️アター😖💦」
「アホか」
調子に乗ったら、膝を机にぶつけてしまった。前のめりに丸まり、ぷるぷるする。
「はいはい。痛いの痛いの飛んでけ〜」
「んなことしなくたって、自分で治すだろ」
「ハルに意地悪言うな!アホ李空!」
なつみはわざわざ立ち上がって李空のほっぺをつねりに行った。李空は黙ってはいるが、気持ちは黙っちゃいない。やり返す。
「ケンカすんなって💧」
「ふふふ、仲が良いんだね、みんな。嬉しいなぁ」
お父さんが優しい眼差しで7人のことを見ていた。
「なつみちゃんに、こんなに良いお友だちがたくさんできるなんて、本当に嬉しいよ。死神になれて、良かったんだね」
言葉の意味を探るように、彼らはお父さんに注目した。だが、話題は少し逸らされてしまった。
「遊びのケンカならいくらでもして良いけど、みんなの仲に亀裂を入れるようなことはしちゃいけないよ。そんな別れは、後悔っていう心の傷をつくって、ただ苦しいだけなんだからね。思いやりを大切にして欲しいな。ね、なつみちゃん」
そう言われて、「むーむー」と口を尖らせる。
「こいつが親友とケンカ中なのご存知なんですか?」
「ん?いや、聞いてないけど、そうなのかなって思ってた。死神になってから初めてここに来てくれた日には、君たちのことと美沙ちゃんのことを楽しそうに話してくれたのに、今回その子のこと全く聞かなかったから。やっぱりケンカしてたんだ。男の子になったから?」
「ぷいっ!」
「目を逸らしても現実は改善されないよ」
「ぷいっ!」
「なつみちゃん、みんながいることを当たり前だって思ってちゃダメだよ。傷は癒せるけど、それは生きている間の話なんだからね」
耳が痛いので、なつみは李空の後ろに隠れて丸まった。
「自分は悪くないって思ってるんで、俺らは放っておくことにしてますよ。美沙ちゃんは怒っちゃってますし。女の子同士のことに、男がヘタに割り込むと、余計こじれそうなんですよね」
「ぼくは男だ‼️」
尾田の言い分が聞き捨てならなくて反論したら、笑顔ではいたが、お父さんは少し残念そうな表情になった。
それが気になったので、クーちゃんは尋ねてみることにした。
「あの、せっかくなつみの実家にお邪魔してるので、なつみのこといろいろ知りたいんですよね。お話聴かせてもらえませんか?できれば最初から」
「…、えっと、みんなに話してないの?」
「部分的ですね」
「そっか。それじゃあ気になっちゃうよね」
「はい。正しく」
「なつみちゃんは?みんなに話して良いの?」
「いーよー」
不貞腐れてなつみは元の席に帰っていく。
「なら、話そうか。あ!そうそう、なつみちゃんが探してた『おじちゃん』!誰だかわかったんだよ。危ない。うっかり忘れるところだった」
「えっ‼️⁉️わかったの⁉️だれだれ⁉️」
「待って待って。慌てないで。順番に話していこう。突然その人の話をしても、みんなついてこられないから」
「んもー!最後になるじゃんかー」
なつみの文句がうるさいので、ケイジがお煎餅を1枚取って、なつみの「かー」の口に詰め込んだ。
「んぐぐぐ🍘💦」
「どうぞ」
「わかった…💧」
「すごく昔に遡るよ。あれは、雨が降り頻る夜のことだった。そんな日に人が出歩いてるなんて、思いもしなかったから、僕はこの社務所でゆっくりしていたんだ。だけどその人は来た。大きく、それでいて、慌てず落ち着いた感じで戸を叩く音が聞こえてきた。
出ると、雨合羽を着て、頭巾を目深に被った男性が1人立っていたよ。ここに泊まりに来たと思ったから、中に上がってもらおうとしたんだけど、先を急ぐから構わないで欲しいと言われたんだ。玄関先で濡れたまま、その人は立ち話だよ。頭巾も取らないから、顔もわからない。ひとつ頼みを聞いて欲しいって、それを言いに来ただけらしいんだ。その頼みっていうのが、大変なものだったけどね。
彼は合羽の下から、お包みに包まれた赤ちゃんを出してきたんだ。その子を差し出して、僕に面倒を見るよう頼んできた。自分には無理だからって。もちろん最初は断ったよ。旅の人のお世話は慣れていたけど、子供、それも赤ちゃんのお世話なんてしたことがなかったからね。でも、引き受けるほか無かったから、その一晩だけと思って赤ちゃんを受け取ったんだ。顔を見たら、とってもかわいくてね。気持ち良さそうに眠ってた。
その人が言うには、その子は御神木の根元にいたらしい。雨を凌げるよう、うまく窪みに入っていたって。誰かがそこに置いていったのかもしれない。その人は、赤ちゃんの泣き声で気付いたと言っていたよ。
見つけた経緯を聞いていたら、赤ちゃんが泣き出しちゃってね。どうしたら良いか戸惑っていると、その人が、もしかしたらお腹を空かせているのかもしれないって言ったんだ。そう言われたら、僕もっと困っちゃって。ご近所の方に助けてもらうことにしたんだ。赤ちゃんを抱いて、雨の中傘をなんとかさして出ていったよ。彼はその時に去っていた。
子育てを経験されたことのあるご婦人がその頃いてね。その人を訪ねたんだ。道中やはり濡らしてしまったから、赤ちゃんを着替えさせることにしたら、お包みからはらりと紙切れが落ちたんだ。拾ってみると、『なつみ』と書かれていた。すぐにそれが、その子の名前だと思ったよ。ただ不思議だったのは、その文字。お世辞にも綺麗とは言えない字なんだよ。僕の勝手な印象だけど、まるで何人かで順番に一画ずつ書いていったようだった。
そうしてその子の名前は決まったよ。姓をこの神社から取って木之本、名をなつみ。単純だけど、名前って凄いよね。呼んであげると、その子が本当に大切なものに見えてくるんだもん」
そう言って、お父さんはなつみに向かって、ニコッと笑った。お返しに「ひひー😁」と笑ってあげた。
「赤ちゃんはお乳を飲んで育つものでしょ?だけど、なつみちゃんには用意してあげられなかったんだ。お水とお米しかあげられなかった。この辺で食べ物を揃えられるのは、ここだけだからね。結局、僕がなつみちゃんを育てることにしたんだ。でも正直、栄養が足りてるのか不安だった。
だけどね、なつみちゃんは生きる力が強い子だから、僕の心配を無視するみたいに、すくすく育ってくれた。子供の成長はあっという間だよ。笑ったり、怒ったり、泣いたり、また笑ったり、気付いたらぐっすり眠ってたり、そんな振り回されるような楽しい毎日がずっと続いてた。走り回れるようになったら、もっと大変でね。なかなかじっとしてくれないんだよ。何でも『やだー!』って言って、僕を困らせておもしろがったりして。起きてる間は元気いっぱい。夜、疲れて眠ると大人しくなってくれる。その寝顔のおかげかな。昼間のやんちゃも許せちゃうんだよね」
「お前って、中身は成長してねーんだな。ま、身長もそんなだけど」
「うるへい‼️💢お父さん、話先に進めてよ❗️ぼくが瀞霊廷にたどり着いたとこに❗️」
「まだ早いよ😅」
「今のところ、いろいろあった感じは無いですよ」
「いつも通りのわがまま大暴れだよな」
「…」
「出た。木之本の冷たい目」
「いいから、先‼️‼️」
「はいはい。
そんなこんなでなつみちゃんは、そうだな、現世で言うところの2〜3歳くらいに大きくなった頃から、それまでの丸くて愛らしい顔立ちに、綺麗さも増してきたんだよ。ご近所でも評判になってね。『里1番のべっぴんさんになるぞ』って」
「…」
「冷たい目をすな❗️」
「ぼくは、美人だのべっぴんだの言われるとムカつくの❗️ぼくへの讃美は『イケメン』だ✨」
「続きをどうぞ」
「うん。なんか、ごめんね😅
それで、みんなこう考えるようにもなったんだ。『この子は瀞霊廷で、貴族に嫁入りできる。それがこの子の幸せだ』と。僕にとっては寂しいことだけど、でも、賛成しちゃうよね。なつみちゃんはそれだけのものを授かってるし、この尸魂界では瀞霊廷が一番安全な場所だから、行けるなら行った方が良い。
ということで、『なつみちゃんをお姫様にしよう大作戦❗️』が進められることになったんだ」
「「「「「「へ…?」」」」」」
「大人の都合だ❗️ちょームカつくー」
「作戦は大失敗したわけだ」
「見ての通りだよ💧
でもね、僕らはそれなりに努力したよ。綺麗で可愛らしい服を着せて、髪も長く伸ばしてあげたんだ。お行儀や学問なんかも習わせて、上品な振る舞いができるようにもしてあげた。それまでのご縁を頼りに、瀞霊廷へ辿り着くまでの道も確保できたし、あとはなつみちゃんを説得して、ここから出発してもらうだけだった」
「それ、難しそー」
「そう。習い事は良い刺激になったみたいで、楽しそうにしていたのに、いざ、『ここを離れてお姫様になるんだよ』って言うと、怒って泣いてヤダヤダって暴れ出すんだ。僕に意地悪してくるから嫌われてるのかと思ってたけど、そんなふうに泣いてくれるほど懐いてくれてたんだって気付いたら、ちょっと嬉しかったな。
けど、それじゃ話は進まないから、僕が憧れていることを話してあげたんだ」
「アプローチを変えたんですね」
頷いた。
「僕が憧れていること。それは、『たくさん友達を作って、その人たちとたくさん笑い合って、それから、この広い世界をうんと楽しむこと』なんだ。ほら、僕はここの勤めがあるから、ここから離れられないんだ。だから、僕の夢をなつみちゃんに託そうと思った。なつみちゃんには、それをして許される自由があるから」
「その想いを伝えて、木之本は納得してくれたんですか?」
「それがね」ぽりぽりと頬を掻いた。「『うるさい。お父さんの夢ならお父さんが叶えれば良い。勝手にしやー』って、言われちゃった。ごもっとも過ぎたよ😅」
「言いくるめられちゃったんすか!💦」
「お手上げになっちゃったね」
「ダメじゃないですか」
「うん。もう説得を諦めて、抱えて無理矢理連れ出してもらうことにしたんだ」
「酷い話だ」
あられを苦虫のごとく噛み締めるなつみ。
「悪いことをしたと思ってるよ。大泣きされちゃったもんね。でも仕方ないよ。全てなつみちゃんの幸せのためだから。
そこから先は、人伝いに聞いた話になる。しばらくは、やっぱり言うことを聞いてくれなかったって。すぐにここに帰りたいって言ってたそうだよ。
小さななつみちゃんの脚で歩ける距離だから、移動するにもたかが知れてるんだよね。集中力と体力がそんなに保たないから。家々を点々としていったんだ。その度に新しいお父さん、お母さん代わりの人たちが迎えに来て、お世話になって、そしてすぐ次の家に連れて行かれる。もちろん終始なつみちゃんは不機嫌だよ。それで、誰かが途中で言ったんだって。『瀞霊廷に着いて、居心地が悪いと感じたら、木之本神社に帰っても良いから、とりあえず自分たちについてきて欲しい』って。そのお願いで、なつみちゃんは大人しくなってくれたそうだ。
いろんな思いを溜め込んで、ようやく瀞霊廷のお家にたどり着いたなつみちゃんは、荷解きもしないで疲れてぐっすり眠ったんだって。そして翌日、大人たちが目を離した隙に、その大きな荷物と一緒に姿を消してしまった。着いて2日目で家出だよ。相当嫌な思いをしていたんだろうね」
「そんな⁉︎コイツ、極度の方向音痴ですよ?絶対迷子に…」
「そうなんだ。流魂街へ戻る門を探して歩き回るうちに、迷子になってしまった。午前中に出かけたのに、気付けばもう夕暮れ時。お家の人たちはあちこち懸命に探したけど、なつみちゃんを見つけられなかった。季節は夏の初め頃だから、風邪の心配は無さそうだけど、お腹を空かせてないかとか、他の心配がね。通りすがりの死神たちに失礼なことをして、斬り捨てられてないか、とか」
「まさか…」
「昔、というか、今も一部の隊士たちには、そういう残忍な人たちがいるんだよ。武器を所持すると、必要以上に強気になってしまう人たちがね。尸魂界を秩序正しく存続させるための死神だけど、権力を恐ろしい方向に使う傾向があの頃には多少あった。今は穏やかになったようだけどね。みんなが優しい子たちなのが、その証だ」
「信じらんねぇ。平気で弱い者を斬るなんて」
「なつみちゃんは正直者だから、自分が貴族ではないことを簡単に言ってしまっただろう。悪い予感がしてならないのに、迷子の情報は一向に入らなかった。
方やなつみちゃんは、そんな騒ぎを露知らず、意に反してどんどん中心部へ進んでしまっていた。そこである人に保護してもらえたんだ。親切な人で本当に良かったよ」
「そのおじちゃんにね、死神になることを勧められたんだ。『かっこいいを目指すなら、死神がイチバンだ❗️』って😆」
「それを吹き込まれたのは、好ましくなかったけど。なつみちゃんを無事に送り届けてくれたんだよね」
「ねぇ、誰なの。ぼく会いたいんだよ、おじちゃんに❗️あの時しか会えてないから、もう顔も声も思い出せなくてさ。名前も聞きそびれたし。教えてー‼️」
毛布の下で、脚をバタつかせた。
「京楽さんだって」
「は……?」
((((((は……?))))))
脚ストップ。耳の穴よくかっぽじって、人差し指を立てる。
「もう1回☝️」
「京楽さん」
「きょ?」
「う?」
「ら?」
「く?」
「さ?」
「ん?」
「……😱」
「うん」
「「「「「「「エェーーーーーーーーッ‼️‼️⁉️」」」」」」」
流魂街の中間地点に位置する木之本神社は、霊力を有する者達の休息の地である。彼らは遠方に流れ着いたか産まれ、力をより有効に使う術を知るべく、瀞霊廷を目指していく。旅の最中ここにたどり着き、疲れや傷を癒やした後、再び世界の中心地へ向かっていくのだ。山に宿る主たちのおかげか、この地は瀞霊廷から離れているにも関わらず、比較的平和な環境となっていた。いずれ尸魂界のために務めるだろう逸材達のために、里の住人らは心を込めてもてなしている。見事瀞霊廷にたどり着き、高貴な地位に就いたならば、彼らの大半はお礼にと、木之本神社にいくらか寄付をしてくれる。その巡るご縁のおかげで、更に新しい旅人を迎え入れる準備ができるのだ。優しい絆が広がるこの場所で、なつみは産まれ、育った。
「だから俺ら泊まらせてくれるんだな」
「そ」
「今は泊まってる人いないみたいだけど、7人って、大所帯すぎない?」
「そんなことないよ。ぼくらは遊びに来てるだけだから、自分のことは自分でするし。他にも部屋はあるもん。大丈夫でしょ。もし新しい人が来たら、静かに過ごそう」
「りょーかい」
「あ〜、マジのどかなとこだな〜」
「こういう地域がもっと増えると良いよな」
「破茶滅茶なヌシが隣に住んでっけどな」
「ぼくら大人だから良いけど、あんなトトロ子供にゃ会わせらんねーぞ」
布団を敷き終え、どこに誰が寝るか決めて、ごろごろしていると、戸が開いた。
「なつみちゃん、みんなにここを案内してきたら?主に連れてきてもらったなら良いのかもしれないけど、一応、本殿でご挨拶してきた方が良いと思うんだ。一晩泊まらせてもらいます、お世話になりますって、報告をしてね」
「はーい✋」
むくっと起き上がる。
「じゃあ、お散歩しよー」
手水で気合いのお清めの後、各々お財布からチャリンと取り出し、お賽銭を入れる。
(平和な毎日をありがとうございます。楽しい思い出が作れるように、見守っててください👏)
御神木にもご挨拶する。
「立派な木だなー」
見上げる先には複雑に伸びる枝とサラサラと揺れる葉っぱが。
「本殿の下に水脈があってね、その水で育ってるから、この木も神様と同じくらいの力があるんだよって、お父さんが言ってた」
「これなんだろ?お前がそのマントに力もらったのって」
「そう。お世話になってまーす」
ぎゅーっとなつみは木に抱きついた。
「俺もしよー。木之本がお世話になってまーす」
レンが隣に来てなつみのマネをした。
「何かさぁ、葉っぱの色がなつみの目の色と似てる気がする」
「綺麗な緑色な」
「キザなことをよく言うな」
「李空だって思ってるだろ?」
ちょうど落ちてきた葉をパシッと取り、ハルが李空の目の前で、葉の根本を摘んでクルクルと回してやる。
「フンッ」
「水が流れる音がする。お前らも聴いてみろよ」
「そうそう。パワーもらえるぜ」
みんなが代わりばんこに御神木にくっついていく。
「ぼく、ここで見つかったんだって。詳しくは知らないけど。この木の根元」
「へぇー」
「ここからぼくの冒険が始まったのさ〜」
「冒険ねぇ」
「大冒険だよ。いろいろあったもん。たくさんの人と出会って、お別れしてさ。お前らだって、霊術院に入るまでは、なかなかの生活してたんじゃねーの?」
「まぁな」
「今があって何よりな感じの」
「うぅぅ、寒ぃ。そろそろ戻ろうぜ」
「ヒヒッ、うりゃ!😆」
寒がる尾田に抱きついてあげるなつみ。そのまま歩き出す。
「あったかい?」
「おお。さすが、歩く湯たんぽ」
「俺も寒いー!」
「俺もー!」
ハルとクーちゃんが後ろから訴えてきた。なので、尾田から離れ、ほぼラリアットで2人まとめてあっために行く。
「とーう‼️」
「「グェッ💦」」
なつみの温もりはみんなを幸せにする。
「あははは」
「あったかい?」
「あったか〜い」
ならばとレンはついでにお願いしてくる。
「次こっちー」
「はーい」
むぎゅーっと。
「あったかい?」
「あったけー」
物静かな2人は手を挙げてみるだけ。こっそりと。
「ふふっ」
レンからひょこっと顔を覗かせて、そっちを確認してみたものだから、なつみはあっさりとそちらへ駆けつける。
「えいっ!」
ケイジの左手と李空の右手を握ってあげた。
「仲良しこよし♪」
フンフンと鼻歌を歌いながら4人の後を3人で歩く。腕を大きく振って。
大人になってから友だちになった人たちと自分の地元で遊ぶのと、好きな子の実家にお邪魔しているのとで、彼らの心はむず痒い嬉しさに満たされていた。そう、6人は変わらずなつみに好意を寄せていた。そしてある男には、少しの進歩が。
「あったかい?」
「ほんと、ぽかぽかしてんな、お前」
「おかしいくらいにな」
李空にキック。
「逆に何で2人の手こんな冷たいの」
「その分心があったかいって言うだろ?」
「何それ。ぼくを冷たいヤツって言いたいわけ?」
「そんなことねぇけど、たまに熱苦しい」
「フンッ」
そんなこと言う李空からは手を放しちゃえ!という考えはお見通しなので、逃げられないようにしっかり握る。
「あ‼️むー」
「それが悪ぃだなんて言ってねぇだろ、バーカ」
「バカじゃないもん‼️」
左手だけブンブン振る。それでも放してくれないから、なつみは身体ごとブンブン揺らした。
「歩きにくい」
「動きが気色悪い」
結局2人とも手を放した。
「お前は言い過ぎなんだよ💢」
背後から李空に飛びついて、腕で首を絞めにいくなつみ。
「歩きにくい」
「そうだ。それなら良いんだ」
悪口から文句に変更されたのを確認できたので、なつみはそのまま李空に掴まっていた。頬を耳に寄せるくらいぎゅっと。落ちないように、李空はなつみの脚を持った。
「あったかい?」
「あぁ」
「よかった」
素直さを本人の前で少し出せるようになっていた。胸の膨らみが関係していたんだろうか。
室内に帰ると、お父さんがお茶とお菓子を用意してくれていた。机の真ん中にはランタンが。
「寒かったでしょ」
「ふい〜、あったかーい🍵」
「恐れ入ります。いただきます」
「あ!毛布持ってこよー」
なつみはお茶をひと口飲んだだけで、部屋を出ていった。
その部屋は畳に座卓、ふかふか座布団が並んでいたが、これでは寒い。ということで、なつみは毛布を2枚持ってきて、みんなが座る膝の上にかけてやった。
「おこた使おうよー、お父さーん」
「あるけど、こんなに大勢には使えないんだよ。ごめんね」
「みんなでくっついてれば、あったかくなるって。文句言うな」
「いてっ。やったな〜」
机の下でレンにコツンと蹴られたため、なつみは蹴り蹴りやり出した。
「やいやいやいやいやい♪ヤッ(ゴツンッ💥)‼️アター😖💦」
「アホか」
調子に乗ったら、膝を机にぶつけてしまった。前のめりに丸まり、ぷるぷるする。
「はいはい。痛いの痛いの飛んでけ〜」
「んなことしなくたって、自分で治すだろ」
「ハルに意地悪言うな!アホ李空!」
なつみはわざわざ立ち上がって李空のほっぺをつねりに行った。李空は黙ってはいるが、気持ちは黙っちゃいない。やり返す。
「ケンカすんなって💧」
「ふふふ、仲が良いんだね、みんな。嬉しいなぁ」
お父さんが優しい眼差しで7人のことを見ていた。
「なつみちゃんに、こんなに良いお友だちがたくさんできるなんて、本当に嬉しいよ。死神になれて、良かったんだね」
言葉の意味を探るように、彼らはお父さんに注目した。だが、話題は少し逸らされてしまった。
「遊びのケンカならいくらでもして良いけど、みんなの仲に亀裂を入れるようなことはしちゃいけないよ。そんな別れは、後悔っていう心の傷をつくって、ただ苦しいだけなんだからね。思いやりを大切にして欲しいな。ね、なつみちゃん」
そう言われて、「むーむー」と口を尖らせる。
「こいつが親友とケンカ中なのご存知なんですか?」
「ん?いや、聞いてないけど、そうなのかなって思ってた。死神になってから初めてここに来てくれた日には、君たちのことと美沙ちゃんのことを楽しそうに話してくれたのに、今回その子のこと全く聞かなかったから。やっぱりケンカしてたんだ。男の子になったから?」
「ぷいっ!」
「目を逸らしても現実は改善されないよ」
「ぷいっ!」
「なつみちゃん、みんながいることを当たり前だって思ってちゃダメだよ。傷は癒せるけど、それは生きている間の話なんだからね」
耳が痛いので、なつみは李空の後ろに隠れて丸まった。
「自分は悪くないって思ってるんで、俺らは放っておくことにしてますよ。美沙ちゃんは怒っちゃってますし。女の子同士のことに、男がヘタに割り込むと、余計こじれそうなんですよね」
「ぼくは男だ‼️」
尾田の言い分が聞き捨てならなくて反論したら、笑顔ではいたが、お父さんは少し残念そうな表情になった。
それが気になったので、クーちゃんは尋ねてみることにした。
「あの、せっかくなつみの実家にお邪魔してるので、なつみのこといろいろ知りたいんですよね。お話聴かせてもらえませんか?できれば最初から」
「…、えっと、みんなに話してないの?」
「部分的ですね」
「そっか。それじゃあ気になっちゃうよね」
「はい。正しく」
「なつみちゃんは?みんなに話して良いの?」
「いーよー」
不貞腐れてなつみは元の席に帰っていく。
「なら、話そうか。あ!そうそう、なつみちゃんが探してた『おじちゃん』!誰だかわかったんだよ。危ない。うっかり忘れるところだった」
「えっ‼️⁉️わかったの⁉️だれだれ⁉️」
「待って待って。慌てないで。順番に話していこう。突然その人の話をしても、みんなついてこられないから」
「んもー!最後になるじゃんかー」
なつみの文句がうるさいので、ケイジがお煎餅を1枚取って、なつみの「かー」の口に詰め込んだ。
「んぐぐぐ🍘💦」
「どうぞ」
「わかった…💧」
「すごく昔に遡るよ。あれは、雨が降り頻る夜のことだった。そんな日に人が出歩いてるなんて、思いもしなかったから、僕はこの社務所でゆっくりしていたんだ。だけどその人は来た。大きく、それでいて、慌てず落ち着いた感じで戸を叩く音が聞こえてきた。
出ると、雨合羽を着て、頭巾を目深に被った男性が1人立っていたよ。ここに泊まりに来たと思ったから、中に上がってもらおうとしたんだけど、先を急ぐから構わないで欲しいと言われたんだ。玄関先で濡れたまま、その人は立ち話だよ。頭巾も取らないから、顔もわからない。ひとつ頼みを聞いて欲しいって、それを言いに来ただけらしいんだ。その頼みっていうのが、大変なものだったけどね。
彼は合羽の下から、お包みに包まれた赤ちゃんを出してきたんだ。その子を差し出して、僕に面倒を見るよう頼んできた。自分には無理だからって。もちろん最初は断ったよ。旅の人のお世話は慣れていたけど、子供、それも赤ちゃんのお世話なんてしたことがなかったからね。でも、引き受けるほか無かったから、その一晩だけと思って赤ちゃんを受け取ったんだ。顔を見たら、とってもかわいくてね。気持ち良さそうに眠ってた。
その人が言うには、その子は御神木の根元にいたらしい。雨を凌げるよう、うまく窪みに入っていたって。誰かがそこに置いていったのかもしれない。その人は、赤ちゃんの泣き声で気付いたと言っていたよ。
見つけた経緯を聞いていたら、赤ちゃんが泣き出しちゃってね。どうしたら良いか戸惑っていると、その人が、もしかしたらお腹を空かせているのかもしれないって言ったんだ。そう言われたら、僕もっと困っちゃって。ご近所の方に助けてもらうことにしたんだ。赤ちゃんを抱いて、雨の中傘をなんとかさして出ていったよ。彼はその時に去っていた。
子育てを経験されたことのあるご婦人がその頃いてね。その人を訪ねたんだ。道中やはり濡らしてしまったから、赤ちゃんを着替えさせることにしたら、お包みからはらりと紙切れが落ちたんだ。拾ってみると、『なつみ』と書かれていた。すぐにそれが、その子の名前だと思ったよ。ただ不思議だったのは、その文字。お世辞にも綺麗とは言えない字なんだよ。僕の勝手な印象だけど、まるで何人かで順番に一画ずつ書いていったようだった。
そうしてその子の名前は決まったよ。姓をこの神社から取って木之本、名をなつみ。単純だけど、名前って凄いよね。呼んであげると、その子が本当に大切なものに見えてくるんだもん」
そう言って、お父さんはなつみに向かって、ニコッと笑った。お返しに「ひひー😁」と笑ってあげた。
「赤ちゃんはお乳を飲んで育つものでしょ?だけど、なつみちゃんには用意してあげられなかったんだ。お水とお米しかあげられなかった。この辺で食べ物を揃えられるのは、ここだけだからね。結局、僕がなつみちゃんを育てることにしたんだ。でも正直、栄養が足りてるのか不安だった。
だけどね、なつみちゃんは生きる力が強い子だから、僕の心配を無視するみたいに、すくすく育ってくれた。子供の成長はあっという間だよ。笑ったり、怒ったり、泣いたり、また笑ったり、気付いたらぐっすり眠ってたり、そんな振り回されるような楽しい毎日がずっと続いてた。走り回れるようになったら、もっと大変でね。なかなかじっとしてくれないんだよ。何でも『やだー!』って言って、僕を困らせておもしろがったりして。起きてる間は元気いっぱい。夜、疲れて眠ると大人しくなってくれる。その寝顔のおかげかな。昼間のやんちゃも許せちゃうんだよね」
「お前って、中身は成長してねーんだな。ま、身長もそんなだけど」
「うるへい‼️💢お父さん、話先に進めてよ❗️ぼくが瀞霊廷にたどり着いたとこに❗️」
「まだ早いよ😅」
「今のところ、いろいろあった感じは無いですよ」
「いつも通りのわがまま大暴れだよな」
「…」
「出た。木之本の冷たい目」
「いいから、先‼️‼️」
「はいはい。
そんなこんなでなつみちゃんは、そうだな、現世で言うところの2〜3歳くらいに大きくなった頃から、それまでの丸くて愛らしい顔立ちに、綺麗さも増してきたんだよ。ご近所でも評判になってね。『里1番のべっぴんさんになるぞ』って」
「…」
「冷たい目をすな❗️」
「ぼくは、美人だのべっぴんだの言われるとムカつくの❗️ぼくへの讃美は『イケメン』だ✨」
「続きをどうぞ」
「うん。なんか、ごめんね😅
それで、みんなこう考えるようにもなったんだ。『この子は瀞霊廷で、貴族に嫁入りできる。それがこの子の幸せだ』と。僕にとっては寂しいことだけど、でも、賛成しちゃうよね。なつみちゃんはそれだけのものを授かってるし、この尸魂界では瀞霊廷が一番安全な場所だから、行けるなら行った方が良い。
ということで、『なつみちゃんをお姫様にしよう大作戦❗️』が進められることになったんだ」
「「「「「「へ…?」」」」」」
「大人の都合だ❗️ちょームカつくー」
「作戦は大失敗したわけだ」
「見ての通りだよ💧
でもね、僕らはそれなりに努力したよ。綺麗で可愛らしい服を着せて、髪も長く伸ばしてあげたんだ。お行儀や学問なんかも習わせて、上品な振る舞いができるようにもしてあげた。それまでのご縁を頼りに、瀞霊廷へ辿り着くまでの道も確保できたし、あとはなつみちゃんを説得して、ここから出発してもらうだけだった」
「それ、難しそー」
「そう。習い事は良い刺激になったみたいで、楽しそうにしていたのに、いざ、『ここを離れてお姫様になるんだよ』って言うと、怒って泣いてヤダヤダって暴れ出すんだ。僕に意地悪してくるから嫌われてるのかと思ってたけど、そんなふうに泣いてくれるほど懐いてくれてたんだって気付いたら、ちょっと嬉しかったな。
けど、それじゃ話は進まないから、僕が憧れていることを話してあげたんだ」
「アプローチを変えたんですね」
頷いた。
「僕が憧れていること。それは、『たくさん友達を作って、その人たちとたくさん笑い合って、それから、この広い世界をうんと楽しむこと』なんだ。ほら、僕はここの勤めがあるから、ここから離れられないんだ。だから、僕の夢をなつみちゃんに託そうと思った。なつみちゃんには、それをして許される自由があるから」
「その想いを伝えて、木之本は納得してくれたんですか?」
「それがね」ぽりぽりと頬を掻いた。「『うるさい。お父さんの夢ならお父さんが叶えれば良い。勝手にしやー』って、言われちゃった。ごもっとも過ぎたよ😅」
「言いくるめられちゃったんすか!💦」
「お手上げになっちゃったね」
「ダメじゃないですか」
「うん。もう説得を諦めて、抱えて無理矢理連れ出してもらうことにしたんだ」
「酷い話だ」
あられを苦虫のごとく噛み締めるなつみ。
「悪いことをしたと思ってるよ。大泣きされちゃったもんね。でも仕方ないよ。全てなつみちゃんの幸せのためだから。
そこから先は、人伝いに聞いた話になる。しばらくは、やっぱり言うことを聞いてくれなかったって。すぐにここに帰りたいって言ってたそうだよ。
小さななつみちゃんの脚で歩ける距離だから、移動するにもたかが知れてるんだよね。集中力と体力がそんなに保たないから。家々を点々としていったんだ。その度に新しいお父さん、お母さん代わりの人たちが迎えに来て、お世話になって、そしてすぐ次の家に連れて行かれる。もちろん終始なつみちゃんは不機嫌だよ。それで、誰かが途中で言ったんだって。『瀞霊廷に着いて、居心地が悪いと感じたら、木之本神社に帰っても良いから、とりあえず自分たちについてきて欲しい』って。そのお願いで、なつみちゃんは大人しくなってくれたそうだ。
いろんな思いを溜め込んで、ようやく瀞霊廷のお家にたどり着いたなつみちゃんは、荷解きもしないで疲れてぐっすり眠ったんだって。そして翌日、大人たちが目を離した隙に、その大きな荷物と一緒に姿を消してしまった。着いて2日目で家出だよ。相当嫌な思いをしていたんだろうね」
「そんな⁉︎コイツ、極度の方向音痴ですよ?絶対迷子に…」
「そうなんだ。流魂街へ戻る門を探して歩き回るうちに、迷子になってしまった。午前中に出かけたのに、気付けばもう夕暮れ時。お家の人たちはあちこち懸命に探したけど、なつみちゃんを見つけられなかった。季節は夏の初め頃だから、風邪の心配は無さそうだけど、お腹を空かせてないかとか、他の心配がね。通りすがりの死神たちに失礼なことをして、斬り捨てられてないか、とか」
「まさか…」
「昔、というか、今も一部の隊士たちには、そういう残忍な人たちがいるんだよ。武器を所持すると、必要以上に強気になってしまう人たちがね。尸魂界を秩序正しく存続させるための死神だけど、権力を恐ろしい方向に使う傾向があの頃には多少あった。今は穏やかになったようだけどね。みんなが優しい子たちなのが、その証だ」
「信じらんねぇ。平気で弱い者を斬るなんて」
「なつみちゃんは正直者だから、自分が貴族ではないことを簡単に言ってしまっただろう。悪い予感がしてならないのに、迷子の情報は一向に入らなかった。
方やなつみちゃんは、そんな騒ぎを露知らず、意に反してどんどん中心部へ進んでしまっていた。そこである人に保護してもらえたんだ。親切な人で本当に良かったよ」
「そのおじちゃんにね、死神になることを勧められたんだ。『かっこいいを目指すなら、死神がイチバンだ❗️』って😆」
「それを吹き込まれたのは、好ましくなかったけど。なつみちゃんを無事に送り届けてくれたんだよね」
「ねぇ、誰なの。ぼく会いたいんだよ、おじちゃんに❗️あの時しか会えてないから、もう顔も声も思い出せなくてさ。名前も聞きそびれたし。教えてー‼️」
毛布の下で、脚をバタつかせた。
「京楽さんだって」
「は……?」
((((((は……?))))))
脚ストップ。耳の穴よくかっぽじって、人差し指を立てる。
「もう1回☝️」
「京楽さん」
「きょ?」
「う?」
「ら?」
「く?」
「さ?」
「ん?」
「……😱」
「うん」
「「「「「「「エェーーーーーーーーッ‼️‼️⁉️」」」」」」」