第七章
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市丸は仕事に戻ると言って、部屋を出ていった。今夜いるだけの荷物を持って、終業時間に隊首室に来るように伝えておいて。
藍染は、まだなつみの部屋に残っていた。彼と2人きりで話がしたいそうだ。
なつみは箱の中の物を、この部屋の棚にしまったり、着替えなどの荷物をまとめたりして、持ち物の整理をしている。
「藍染隊長、お話って何ですか?」
お泊まりセットの鞄を机に置く。
隊長2人が座っていた椅子は片付けてしまったため、今藍染は、なつみの机の椅子に座っていた。
「んー。僕が思った感想とか、かな」
そう言われて、なつみは藍染の前に立ち、少し腕を広げて見せた。
「似合ってないですか?」
「そうきかれれば、似合っているとしか言えないよ」
ムスッとして、作業に戻る。
「こんなにかっこよくなったのに。美沙ちゃん、酷いです。こういうタイプ好きって言ってたくせに」
「そういう問題ではないと思うよ。それに、彼女を責めたらいけない」
「じゃあ、ぼくが悪いんですか」
ため息。
「そうとも言ってないよ」
誰も悪くないのに、どうして気分が良くないのか。
「確かに皆、君の変わりように驚くだろうが、皆の気持ちを裏切ったわけじゃないから、君は悪くないと、僕は思うよ。以前から男になりたいと言っていたのを、知っているからね。突然のことで、心の準備ができてなかったのが良くないけど、こうなったからといって、君を嫌うとか、そういうのはないよ」
「美沙ちゃんには、嫌われたみたいですけど」
「人それぞれ感じ方は違うからね。少し考える時間が、お互いに必要なのかもしれないよ」
美沙があんなに怒った理由。なつみには、今は見つけられない。下手に謝って、余計に溝をつくってしまうのは、不本意極まりないため、時間をかけるべきなのだろう。
「藍染隊長は、どっちのぼくが良いですか」
はっきりとした答えは、彼の中にあるのだが、それを素直に出してしまうのははばかられる。だから、少しだけ遠回りをする。
「見慣れてるから、今は以前の君の方が良く思えるよ」
「…、なら、こっちで見慣れてください」
「…、そうだね。努力するよ」
つまりは、そういうことだ。
「木之本君、君は自分の意志を押し進めてしまったようだけど、周りが君の思う通りについてきてくれるかは、わからないものだよ。否定されてこなかったからといって、君に賛同するとは限らない。
涅隊長だって、君に頼まれなければ、こうやって君のために、動いてくれなかったんじゃないかな」
(知らないよ、そんなの…)
と言いたいが、言われて想像すると、そう思えてくる。マユリはなつみに好意を持っているから、頼みを聞いてくれた。なつみが普通ではない刺激的な出来事を引き起こすから、それに興味を持ってくれている。もしも男にしてとお願いしなければ、どうか。
「気にもしなかった……」
ぼそっとなつみは呟いた。
「ん?何か言ったかな」
「いえ。今度会ったときに、涅隊長と話してみます」
「うん。是非、そうしてみて。君に必要なのは、いろんな人の意見を聞くことだからね。君の、この姿について皆がどう思うのか、知った方が良い」背もたれに深く寄りかかる。「賛否…、好ましくない意見の方が多いかもしれないが、目を背けてはいけないよ。僕らは死神だから、嫌なことがあっても、別の世界に逃げるなんてこと、許されないからね。この尸魂界で居場所を見つけなきゃ」
その居場所が、今のところ、市丸のところだけかもしれない。それは狭すぎる。
「君が良いと思う姿で過ごしたいなら、それを受け入れてくれる人を探しに行きなさい」
「…、五番隊には無いですね」
「世界は広くて、たくさんの心でできてる。無いを探しても仕方がないよ。有るものを信じて、大事にしないと、生きづらくなる一方じゃないかな」
有るものとは。
「これからをどうするかだよね。なってしまったのだから、住みやすい環境を自分で作り出さないと。…なんて、君は過去が変えられるんだから、嫌になったら、戻せば良いだけか」
ふふっ、と藍染は笑った。
「ぼくは、戻りませんよ」
その言葉に、上がった口角から力が抜けた。
「後悔、していないんだね」
「ぼくはずっと、女であることが違うって思ってきました。それは男になれるまで、いつまでも思い続けることです。変わる前に戻って、無かったことにしても、遅かれ早かれ、性転換しますよ。自分のことなんで、わかります。ぼくには、これが正解なんです。変われたことに、後悔はありません。
ぼくは、男です」
そこには、まっすぐな想いがあった。
「そうか…」
膝に手をついて、藍染は椅子から立ち上がった。
「これが君か」
そしてなつみの頭を撫でる。いつもの柔らかさには触れられなかった。
「最後にひとつ、良いかな」
「はい。何ですか」
「鬼道の稽古。しばらくお休みにしよう」
ドキリとしたが、すぐに納得した。
「美沙ちゃんと会うといけないからですか」
「うん。僕としては、仕事に支障をきたすわけにはいかないからね。部下のためだ。わかってくれるかな」
「はい。了解です。そちらには伺いませんが、練習はひとりで継続します」
「よかった。頑張ってね」
「はい」
「じゃあ、僕は帰るよ」
「台車を返すので、ご一緒しても良いですか?」
「もちろんだよ。行こうか」
声のトーンに出ていなかったが、明らかに寂しさを隠す感じが、2人の間にあった。
夜、市丸宅。
「お風呂沸くまで、お話ししよか」
帰宅後、手洗いうがい、歯磨きセットの用意、タオルを出し、夕食は既に済ませているため、浴槽にお湯を入れ始めていた。
「あの、その前に、今夜ぼくどこで寝るんですか?」
居間と浴室は紹介されたが、寝室がまだであった。
「あぁ、こっちや」
手招きされる方へついていく。
「ここ…」
通された部屋は、見た感じ。
「市丸隊長がお使いになってる寝室ですよね」
「そうや」
真っ先に目に入ったのがベッドだ。ふかふかそう。下級隊士が寝るにはもったいない、セミダブルサイズのベッドである。
「ここ、ぼくが使って良いんですか?」
「ええよ。お着替えもしてええで。服、この辺にかけてや。箪笥もどっか空っぽのとこあったと思うで、好きに使い」
「はあ…、でも、隊長はどちらで寝られるおつもりですか?」
「ん?ここ」
「ん?」
「ここ」
「ここ?」
「この部屋」
「この部屋?」
ベッドひとつ。
「でもお布団とか、スペース…」
「それ」
ベッドひとつ。
「ん?」
「ん?」
「いやいや、あの、冗談ですよね」
「冗談ちゃうよ。ウチ、来客用の布団無いもん。一緒にそこで寝るで」
「💦💦💦」
「いじめたりせぇへんから、安心し」
「ですが、ぼく、お、男ですよ」
「なんや。ボクのこと男色やと思てんの?」
「いえ❗️💦」
「寝るだけや。文句言ったらアカン。それとも、今更追い出されたいん?さっき見てたけど、あの子らに連絡しとったやろ。どうやった?」
「…、断られました。隊長の指摘通り、急なのと、遠いのとで」
「せやろ!😤」
「…😔」
大人しく、なつみは持ってきた鞄を寝室に運ぶことにした。
「あの、隊長」
「なに?」
「お布団買いましょうよ」
「イヤや」
そして市丸は隊長羽織を脱いで、リラックスモードに突入。
お風呂が沸きました。
「先どうぞ」
「良いんですか?」
「うん。ボク、まだお茶飲んでるし」
食卓でまったりしていた2人。市丸はお茶を飲みながら、瀞霊廷通信に出している原稿を書いていた。
「わかりました。では、お先にいただきます」
着替えを取りに寝室へ行くなつみ。
(……😏)
さすが隊長の家。住み慣れた宿舎の共同の浴室と違い、品がある。暖房装置のおかげで、脱衣所も浴室も、この寒い季節にも関わらず快適だった。鏡も蛇口もピカピカ。
「すご。一人暮らしとか、もったいないって」
シャンプーをしてみる。
(うわー。市丸隊長と同じ匂いになっちゃう)
ちょっとドキドキする。リンスをすると、余計にそう思えた。
ボディーソープもすると、もう完全に家族っぽく感じた。
(ほんとに兄弟で、家族になった気分😊)
消耗品な日用品を共有して使うと、そんな感覚になるもので、なつみは嬉しかった。
(男になって、良かった。市丸隊長と、こんなにお近づきになれたんだもん。良いことだよね。優しいな、隊長。絶対、良い子にしてよう)
素手でボディーソープを身体につけて洗っていた。すると。
カチャッ…
「一緒に入ろう、なつみちゃん♪」
扉が開いて、裸の市丸が入ってきてしまった。
「ぁわーーーッ‼️‼️💦」
驚くなつみはそのままにして、市丸は扉を閉めて、彼の隣にしゃがむ。
「なつみちゃん、おっぱい無いから」
そのツッコミにハッとする。
「むぅっ💦」
咄嗟に胸を隠していたのだが、その手はとりあえず、股に移した。
「男同士、裸の付き合いしよー。なつみちゃん、前からこうしたい言うてたやん」
「そそ、そうですけど💦」
「背中洗ったろ。なぁ、悪いけど、床座ってや。ボクが椅子座るで」
「はい…」
「新しいの買おかな🤔」
「椅子より、お布団」
「いらん」
市丸の手がなつみの背中を滑る。
「ほんま、男の子やな。筋肉ついてる」
お腹もと言い出す前に、なつみはそそくさと自分でゴシゴシ。
「お尻もゴツいわ」
「わッ⁉️💦」
スルッと触られてしまった。
「変なとこ触んないでくださいッ」
「クスッ、ごーめん。あれ?」
なつみが振り向いて、市丸をぽこぽこ叩こうとしたのを止めたらば、下方に視線がふと落ちた。
「ちっちゃ(笑)」
「むっ‼️」
くるっと向き直る。
「これでもイッタイ思いして大きくしたんです❗️まだおしっこするとき、ちょっと痛いんですよ。でも、そんな言われたら、もうちょっと大っきくした方が良いのかな」
変にいじられないように、前は自分で優しく大事に洗う。
「そうなん?そんな無理せんでもええやんか。なつみちゃんサイズで、かわいらしいで?」
市丸はシャワーを取って、蛇口をひねる。お湯の温度がちょうど良くなるのを、まずは手で確認する。
「かわいいなんかイヤです❗️そう言う隊長は隊長サイズなんですか❓」
フンッと喧嘩腰で市丸のそれをガン見するため、振り返ってやった👀
‼️射殺せ神鎗‼️
「…、今、変なセリフ浮かべたやろ」
「してません」
「そんな見んといて」
「ケッ」
「アホ」
シャワーをなつみの顔面にぶっかけてやった。
「ぶぅーッ💦💦」
「アッハハ!」
それから普通に泡を流してやる。
「楽しいな。また明日も一緒に入ろうや」
「隊長が先に入ってもらって良いですよ」
「アカン。キミが先や」
「ケッ」
「えいっ」
「それ、やめてくださいッ💦💦」
「はーい」
シャワーを止める。
「今度、ぼくが隊長の背中洗います。交代しましょう」
「ありがと」
なつみが立ち上がって、市丸の後ろに回った。ボディーソープを2プッシュ取る。ゴシゴシ。
「隊長、肌白すぎません?」
「そんなことないて」
「きれいです」
「…、女の子口説く練習?」
「クフッ、惚れちゃいました?」
「イケメンやな〜」
「イッヒヒヒ」
「なつみちゃん」
「はい?」
「今、幸せ?」
突然の質問で、一旦動けなくなったが、目の前に彼の優しい笑顔があったから。
「はいっ。しあわせです😊」
「良かった。ボクも、なんや嬉しいわ」
身体を洗い流したら、次は湯船に浸かる2人。
「あ〜」
「ぐひゃ〜」
ひとりで入るには少し広いこの浴槽も、2人で入るとちょうどいい。お互いに向き合って座っている。
「熱ない?」
「大丈夫ですよ。良い湯加減です」
とろけそうなほど、気持ちよさそうななつみ。
「こっち来て、なつみちゃん」
浴槽の縁に腕と顎を乗せていたなつみは、横目で市丸を見た。
「ヤです」
「来い‼️」
「わーっ‼️‼️」
市丸はなつみに抱きつき、こちょこちょしながら引き寄せ、自分のすぐ前に背を向けて座らせた。
「ギャハハハハッ」
くすぐったくて、なつみはお湯をバシャバシャして暴れている。
「こちょこちょこちょ〜ッ」
なつみの笑い声がたくさん響く。
のぼせられても困るので、この辺りで止めておこう。
「はぁ、はぁ…」
「ふーん。全身ちゃんと感覚あんねんな」
「どんな確かめ方ですか‼️」
「無事に、変身完了してんねや」
「してますよ」
終わったと思って、逃げようとするのに、お腹辺りでロックされている。
「身体変なことなってて、うまく動かれへんってなってたら、困るんよ。仕事できひんくなるから。そういうこと心配してんの」
ロックしている腕を放そうとしていた。
「大丈夫です。涅隊長にしっかり管理してもらってるんで。なんなら、こっから成績グンッ↗︎ですよ」
「あっそ」
「はい‼️」
いよいよ夜も更けて、眠る時間。何故かベッドで正座ななつみ。
(きんちょー…。なんで?)
市丸は執筆作業の片付けをしていて、まだ来ていなかった。
(いいや。先に潜ってよう)
部屋の明かりを消して、なつみはもぞもぞと布団に入っていった。
(ふかふか〜。ここも市丸隊長の匂いする)
頭まですっぽり隠れていたため、市丸が入ってくるのは、音だけで確認した。
(来た)
「よいしょっと」
市丸も布団に潜る。
「なつみちゃん、寝てもうた?」
お風呂でのバカ騒ぎと比べると、とても優しく小さな声。
「いいえ。起きてます」
そう答えて、もそもそと布団から顔を出した。
市丸は片肘をついて、横になっている。その姿勢で、なつみの頭を撫でた。髪が乾いているのか、確かめているようだ。
「なつみちゃん、明日も休みやけど、荷物取りに行ったりするやんな。忘れんように、朝になったら、合鍵渡したるで」
「はい」
しんと夜の静かな音が耳に響く。
「隊長」
「はぁい」
「明日ですが、尾田の家に行ってきます」
「断られたんとちゃうの?」
「みんなはそうですけど、でも尾田だけは、試しに来てみたらって。せっかく誘ってもらったので、行ってみます」
「意地悪やね、彼も」
「そんなことないです。いつかはなることですから」
「嫌なことは、早いとこ済ませたいいうことか」
「はい」
柔らかさが物足りないほっぺを撫でる。
「泣かんといてや」
「泣きませんよ。ぼく、男なんで」
そして身体を仰向けにする市丸。
「そっか。ま、頑張り」
「はい」
なつみも同じ姿勢になる。しかしこれ、幅に少し余裕が無いかもしれない。
「もっとこっち寄ってこんと、落ちるんとちゃう?」
「そんなことないですよ」
「いーや。くっつこ」
「うぅっ///」
ベッドのきしみと布団の擦れる音がする。
「あったか。キミと寝たら、湯たんぽいらんな」
「湯たんぽなんて使ってるんですか?」
「今の時期はな。独りやと寒いんよ」
「ぼく、ひとりでも使ってません」
「そうやろうな」
近すぎる市丸の息がかかる。だが、その先にはちゃんと進まないでいた。
「おやすみ、なつみちゃん」
「おやすみなさい、隊長」
「…お兄ちゃん言うて」
「え…、お兄ちゃん」
「ホンマに言うた。素直やな(笑)」
「む!」
「かわいい弟くん、ぐっすりお眠り」
「寝ます!」
これ以上いじめられないように、なつみは潜った。
「フフッ、おもろ」
藍染は、まだなつみの部屋に残っていた。彼と2人きりで話がしたいそうだ。
なつみは箱の中の物を、この部屋の棚にしまったり、着替えなどの荷物をまとめたりして、持ち物の整理をしている。
「藍染隊長、お話って何ですか?」
お泊まりセットの鞄を机に置く。
隊長2人が座っていた椅子は片付けてしまったため、今藍染は、なつみの机の椅子に座っていた。
「んー。僕が思った感想とか、かな」
そう言われて、なつみは藍染の前に立ち、少し腕を広げて見せた。
「似合ってないですか?」
「そうきかれれば、似合っているとしか言えないよ」
ムスッとして、作業に戻る。
「こんなにかっこよくなったのに。美沙ちゃん、酷いです。こういうタイプ好きって言ってたくせに」
「そういう問題ではないと思うよ。それに、彼女を責めたらいけない」
「じゃあ、ぼくが悪いんですか」
ため息。
「そうとも言ってないよ」
誰も悪くないのに、どうして気分が良くないのか。
「確かに皆、君の変わりように驚くだろうが、皆の気持ちを裏切ったわけじゃないから、君は悪くないと、僕は思うよ。以前から男になりたいと言っていたのを、知っているからね。突然のことで、心の準備ができてなかったのが良くないけど、こうなったからといって、君を嫌うとか、そういうのはないよ」
「美沙ちゃんには、嫌われたみたいですけど」
「人それぞれ感じ方は違うからね。少し考える時間が、お互いに必要なのかもしれないよ」
美沙があんなに怒った理由。なつみには、今は見つけられない。下手に謝って、余計に溝をつくってしまうのは、不本意極まりないため、時間をかけるべきなのだろう。
「藍染隊長は、どっちのぼくが良いですか」
はっきりとした答えは、彼の中にあるのだが、それを素直に出してしまうのははばかられる。だから、少しだけ遠回りをする。
「見慣れてるから、今は以前の君の方が良く思えるよ」
「…、なら、こっちで見慣れてください」
「…、そうだね。努力するよ」
つまりは、そういうことだ。
「木之本君、君は自分の意志を押し進めてしまったようだけど、周りが君の思う通りについてきてくれるかは、わからないものだよ。否定されてこなかったからといって、君に賛同するとは限らない。
涅隊長だって、君に頼まれなければ、こうやって君のために、動いてくれなかったんじゃないかな」
(知らないよ、そんなの…)
と言いたいが、言われて想像すると、そう思えてくる。マユリはなつみに好意を持っているから、頼みを聞いてくれた。なつみが普通ではない刺激的な出来事を引き起こすから、それに興味を持ってくれている。もしも男にしてとお願いしなければ、どうか。
「気にもしなかった……」
ぼそっとなつみは呟いた。
「ん?何か言ったかな」
「いえ。今度会ったときに、涅隊長と話してみます」
「うん。是非、そうしてみて。君に必要なのは、いろんな人の意見を聞くことだからね。君の、この姿について皆がどう思うのか、知った方が良い」背もたれに深く寄りかかる。「賛否…、好ましくない意見の方が多いかもしれないが、目を背けてはいけないよ。僕らは死神だから、嫌なことがあっても、別の世界に逃げるなんてこと、許されないからね。この尸魂界で居場所を見つけなきゃ」
その居場所が、今のところ、市丸のところだけかもしれない。それは狭すぎる。
「君が良いと思う姿で過ごしたいなら、それを受け入れてくれる人を探しに行きなさい」
「…、五番隊には無いですね」
「世界は広くて、たくさんの心でできてる。無いを探しても仕方がないよ。有るものを信じて、大事にしないと、生きづらくなる一方じゃないかな」
有るものとは。
「これからをどうするかだよね。なってしまったのだから、住みやすい環境を自分で作り出さないと。…なんて、君は過去が変えられるんだから、嫌になったら、戻せば良いだけか」
ふふっ、と藍染は笑った。
「ぼくは、戻りませんよ」
その言葉に、上がった口角から力が抜けた。
「後悔、していないんだね」
「ぼくはずっと、女であることが違うって思ってきました。それは男になれるまで、いつまでも思い続けることです。変わる前に戻って、無かったことにしても、遅かれ早かれ、性転換しますよ。自分のことなんで、わかります。ぼくには、これが正解なんです。変われたことに、後悔はありません。
ぼくは、男です」
そこには、まっすぐな想いがあった。
「そうか…」
膝に手をついて、藍染は椅子から立ち上がった。
「これが君か」
そしてなつみの頭を撫でる。いつもの柔らかさには触れられなかった。
「最後にひとつ、良いかな」
「はい。何ですか」
「鬼道の稽古。しばらくお休みにしよう」
ドキリとしたが、すぐに納得した。
「美沙ちゃんと会うといけないからですか」
「うん。僕としては、仕事に支障をきたすわけにはいかないからね。部下のためだ。わかってくれるかな」
「はい。了解です。そちらには伺いませんが、練習はひとりで継続します」
「よかった。頑張ってね」
「はい」
「じゃあ、僕は帰るよ」
「台車を返すので、ご一緒しても良いですか?」
「もちろんだよ。行こうか」
声のトーンに出ていなかったが、明らかに寂しさを隠す感じが、2人の間にあった。
夜、市丸宅。
「お風呂沸くまで、お話ししよか」
帰宅後、手洗いうがい、歯磨きセットの用意、タオルを出し、夕食は既に済ませているため、浴槽にお湯を入れ始めていた。
「あの、その前に、今夜ぼくどこで寝るんですか?」
居間と浴室は紹介されたが、寝室がまだであった。
「あぁ、こっちや」
手招きされる方へついていく。
「ここ…」
通された部屋は、見た感じ。
「市丸隊長がお使いになってる寝室ですよね」
「そうや」
真っ先に目に入ったのがベッドだ。ふかふかそう。下級隊士が寝るにはもったいない、セミダブルサイズのベッドである。
「ここ、ぼくが使って良いんですか?」
「ええよ。お着替えもしてええで。服、この辺にかけてや。箪笥もどっか空っぽのとこあったと思うで、好きに使い」
「はあ…、でも、隊長はどちらで寝られるおつもりですか?」
「ん?ここ」
「ん?」
「ここ」
「ここ?」
「この部屋」
「この部屋?」
ベッドひとつ。
「でもお布団とか、スペース…」
「それ」
ベッドひとつ。
「ん?」
「ん?」
「いやいや、あの、冗談ですよね」
「冗談ちゃうよ。ウチ、来客用の布団無いもん。一緒にそこで寝るで」
「💦💦💦」
「いじめたりせぇへんから、安心し」
「ですが、ぼく、お、男ですよ」
「なんや。ボクのこと男色やと思てんの?」
「いえ❗️💦」
「寝るだけや。文句言ったらアカン。それとも、今更追い出されたいん?さっき見てたけど、あの子らに連絡しとったやろ。どうやった?」
「…、断られました。隊長の指摘通り、急なのと、遠いのとで」
「せやろ!😤」
「…😔」
大人しく、なつみは持ってきた鞄を寝室に運ぶことにした。
「あの、隊長」
「なに?」
「お布団買いましょうよ」
「イヤや」
そして市丸は隊長羽織を脱いで、リラックスモードに突入。
お風呂が沸きました。
「先どうぞ」
「良いんですか?」
「うん。ボク、まだお茶飲んでるし」
食卓でまったりしていた2人。市丸はお茶を飲みながら、瀞霊廷通信に出している原稿を書いていた。
「わかりました。では、お先にいただきます」
着替えを取りに寝室へ行くなつみ。
(……😏)
さすが隊長の家。住み慣れた宿舎の共同の浴室と違い、品がある。暖房装置のおかげで、脱衣所も浴室も、この寒い季節にも関わらず快適だった。鏡も蛇口もピカピカ。
「すご。一人暮らしとか、もったいないって」
シャンプーをしてみる。
(うわー。市丸隊長と同じ匂いになっちゃう)
ちょっとドキドキする。リンスをすると、余計にそう思えた。
ボディーソープもすると、もう完全に家族っぽく感じた。
(ほんとに兄弟で、家族になった気分😊)
消耗品な日用品を共有して使うと、そんな感覚になるもので、なつみは嬉しかった。
(男になって、良かった。市丸隊長と、こんなにお近づきになれたんだもん。良いことだよね。優しいな、隊長。絶対、良い子にしてよう)
素手でボディーソープを身体につけて洗っていた。すると。
カチャッ…
「一緒に入ろう、なつみちゃん♪」
扉が開いて、裸の市丸が入ってきてしまった。
「ぁわーーーッ‼️‼️💦」
驚くなつみはそのままにして、市丸は扉を閉めて、彼の隣にしゃがむ。
「なつみちゃん、おっぱい無いから」
そのツッコミにハッとする。
「むぅっ💦」
咄嗟に胸を隠していたのだが、その手はとりあえず、股に移した。
「男同士、裸の付き合いしよー。なつみちゃん、前からこうしたい言うてたやん」
「そそ、そうですけど💦」
「背中洗ったろ。なぁ、悪いけど、床座ってや。ボクが椅子座るで」
「はい…」
「新しいの買おかな🤔」
「椅子より、お布団」
「いらん」
市丸の手がなつみの背中を滑る。
「ほんま、男の子やな。筋肉ついてる」
お腹もと言い出す前に、なつみはそそくさと自分でゴシゴシ。
「お尻もゴツいわ」
「わッ⁉️💦」
スルッと触られてしまった。
「変なとこ触んないでくださいッ」
「クスッ、ごーめん。あれ?」
なつみが振り向いて、市丸をぽこぽこ叩こうとしたのを止めたらば、下方に視線がふと落ちた。
「ちっちゃ(笑)」
「むっ‼️」
くるっと向き直る。
「これでもイッタイ思いして大きくしたんです❗️まだおしっこするとき、ちょっと痛いんですよ。でも、そんな言われたら、もうちょっと大っきくした方が良いのかな」
変にいじられないように、前は自分で優しく大事に洗う。
「そうなん?そんな無理せんでもええやんか。なつみちゃんサイズで、かわいらしいで?」
市丸はシャワーを取って、蛇口をひねる。お湯の温度がちょうど良くなるのを、まずは手で確認する。
「かわいいなんかイヤです❗️そう言う隊長は隊長サイズなんですか❓」
フンッと喧嘩腰で市丸のそれをガン見するため、振り返ってやった👀
‼️射殺せ神鎗‼️
「…、今、変なセリフ浮かべたやろ」
「してません」
「そんな見んといて」
「ケッ」
「アホ」
シャワーをなつみの顔面にぶっかけてやった。
「ぶぅーッ💦💦」
「アッハハ!」
それから普通に泡を流してやる。
「楽しいな。また明日も一緒に入ろうや」
「隊長が先に入ってもらって良いですよ」
「アカン。キミが先や」
「ケッ」
「えいっ」
「それ、やめてくださいッ💦💦」
「はーい」
シャワーを止める。
「今度、ぼくが隊長の背中洗います。交代しましょう」
「ありがと」
なつみが立ち上がって、市丸の後ろに回った。ボディーソープを2プッシュ取る。ゴシゴシ。
「隊長、肌白すぎません?」
「そんなことないて」
「きれいです」
「…、女の子口説く練習?」
「クフッ、惚れちゃいました?」
「イケメンやな〜」
「イッヒヒヒ」
「なつみちゃん」
「はい?」
「今、幸せ?」
突然の質問で、一旦動けなくなったが、目の前に彼の優しい笑顔があったから。
「はいっ。しあわせです😊」
「良かった。ボクも、なんや嬉しいわ」
身体を洗い流したら、次は湯船に浸かる2人。
「あ〜」
「ぐひゃ〜」
ひとりで入るには少し広いこの浴槽も、2人で入るとちょうどいい。お互いに向き合って座っている。
「熱ない?」
「大丈夫ですよ。良い湯加減です」
とろけそうなほど、気持ちよさそうななつみ。
「こっち来て、なつみちゃん」
浴槽の縁に腕と顎を乗せていたなつみは、横目で市丸を見た。
「ヤです」
「来い‼️」
「わーっ‼️‼️」
市丸はなつみに抱きつき、こちょこちょしながら引き寄せ、自分のすぐ前に背を向けて座らせた。
「ギャハハハハッ」
くすぐったくて、なつみはお湯をバシャバシャして暴れている。
「こちょこちょこちょ〜ッ」
なつみの笑い声がたくさん響く。
のぼせられても困るので、この辺りで止めておこう。
「はぁ、はぁ…」
「ふーん。全身ちゃんと感覚あんねんな」
「どんな確かめ方ですか‼️」
「無事に、変身完了してんねや」
「してますよ」
終わったと思って、逃げようとするのに、お腹辺りでロックされている。
「身体変なことなってて、うまく動かれへんってなってたら、困るんよ。仕事できひんくなるから。そういうこと心配してんの」
ロックしている腕を放そうとしていた。
「大丈夫です。涅隊長にしっかり管理してもらってるんで。なんなら、こっから成績グンッ↗︎ですよ」
「あっそ」
「はい‼️」
いよいよ夜も更けて、眠る時間。何故かベッドで正座ななつみ。
(きんちょー…。なんで?)
市丸は執筆作業の片付けをしていて、まだ来ていなかった。
(いいや。先に潜ってよう)
部屋の明かりを消して、なつみはもぞもぞと布団に入っていった。
(ふかふか〜。ここも市丸隊長の匂いする)
頭まですっぽり隠れていたため、市丸が入ってくるのは、音だけで確認した。
(来た)
「よいしょっと」
市丸も布団に潜る。
「なつみちゃん、寝てもうた?」
お風呂でのバカ騒ぎと比べると、とても優しく小さな声。
「いいえ。起きてます」
そう答えて、もそもそと布団から顔を出した。
市丸は片肘をついて、横になっている。その姿勢で、なつみの頭を撫でた。髪が乾いているのか、確かめているようだ。
「なつみちゃん、明日も休みやけど、荷物取りに行ったりするやんな。忘れんように、朝になったら、合鍵渡したるで」
「はい」
しんと夜の静かな音が耳に響く。
「隊長」
「はぁい」
「明日ですが、尾田の家に行ってきます」
「断られたんとちゃうの?」
「みんなはそうですけど、でも尾田だけは、試しに来てみたらって。せっかく誘ってもらったので、行ってみます」
「意地悪やね、彼も」
「そんなことないです。いつかはなることですから」
「嫌なことは、早いとこ済ませたいいうことか」
「はい」
柔らかさが物足りないほっぺを撫でる。
「泣かんといてや」
「泣きませんよ。ぼく、男なんで」
そして身体を仰向けにする市丸。
「そっか。ま、頑張り」
「はい」
なつみも同じ姿勢になる。しかしこれ、幅に少し余裕が無いかもしれない。
「もっとこっち寄ってこんと、落ちるんとちゃう?」
「そんなことないですよ」
「いーや。くっつこ」
「うぅっ///」
ベッドのきしみと布団の擦れる音がする。
「あったか。キミと寝たら、湯たんぽいらんな」
「湯たんぽなんて使ってるんですか?」
「今の時期はな。独りやと寒いんよ」
「ぼく、ひとりでも使ってません」
「そうやろうな」
近すぎる市丸の息がかかる。だが、その先にはちゃんと進まないでいた。
「おやすみ、なつみちゃん」
「おやすみなさい、隊長」
「…お兄ちゃん言うて」
「え…、お兄ちゃん」
「ホンマに言うた。素直やな(笑)」
「む!」
「かわいい弟くん、ぐっすりお眠り」
「寝ます!」
これ以上いじめられないように、なつみは潜った。
「フフッ、おもろ」