第六章
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海燕が座るその右隣に、ウクレレを抱えたなつみがちょこんと座っていた。
「落ち着いたか?」
頭を撫でてやる海燕。
「はい。すいません。つい嬉しくて、取り乱しました」
「わーってるよ。俺も、なんとかなって、ほっとしてっからよ」
上目遣いのなつみの口元は、にんまりしていた。
「志波副隊長、ぼく、お2人を置いてっちゃいましたけど、大丈夫でしたか?」
「あぁ。お前といるときほど、はちゃめちゃなことは起きなかったぜ」
「すいませんね、トラブルメーカーで」
「そんなこた言ってねぇだろって言うと、嘘になるが」
「はいはい」
「涅隊長が確実に、着実に、俺が生き延びて、お前が悲しまない未来に向かえるよう最善を尽くしてくれた。あの人はすげぇよ。(ちょっとやべぇことに巻き込まれたが。)やっぱ、隊長たちってすげぇんだって。何通りも、何手先も、考えた上で即座に行動している。かっけぇ…。俺もいつか、あんな風になれっかな」
なつみには、海燕がこうして未来を前向きに見てくれているのが、すごく嬉しかった。
「何だよ、ニヤニヤしやがって」
「ひひっ、なれますよ。そしたらクーちゃんが昇進できますし」
「そしたら浮竹隊長はどうなっちまうんだよ」
コツンと優しい拳骨。
「痛っ」
「縁起でもねぇこと言うなっ」
「わっかりましたよ‼️なれない、なれない❗️みんな現状維持‼️」
「あんだと、コノヤロー💪」
それはそれでいただけないので、なつみをとっ捕まえて、頭に拳骨をグリグリ食らわした。
「痛ぁいぃー‼️じゃあ、もぅもぅ、ぼく知らないですぅ‼️」
「よし、それでいい‼️」
解放。
なつみはへなへなとしたわけではないが、身体を倒して寝転がった。
「おい、気を付けろよ。落ちるぞ」
「だいじょうぶですよ〜」
ポロンと自然と添えていたコードで弦を鳴らす。
「志波副隊長は、『バックトゥザフューチャー』を知ってますか?」
「知らねぇな」
「映画なんですけどね。タイムスリップのお話なんです」
「俺らがしたみたいな?」
「1.21ジゴワットで次元転移してないんで、ちょっと違いますけど、過去を改変して、問題が起きちゃうのは似てますね」
「フーン。で、その映画がどうしたってんだよ」
「タイムマシンを作ったのはドクって博士なんですけど、タイムトラベル出発直前にテロリストに撃たれちゃうんです。で、主人公のマーティがタイムマシンに逃げ込んで、そのつもりはないのに、過去に飛んじゃったんです。両親の高校生時代にです。マーティは意図せず両親の出会いを邪魔して、結婚しない未来を作って、自分の存在を消すルートに舵を切っちゃって。おまけに燃料切れで未来に帰れないし。いろいろ大変なんですよ。
でも、なんやかんやあっても、両親はちゃんとカップルになって、タイムマシンも雷で動かせて、ハッピーエンドになったんです。ですが、やりすぎちゃってて。
マーティを育ててくれたお父さんは、乱暴で意地悪なビフって人に負けっぱなしで、弱虫なんですよ。なのに、過去にマーティが戻ったせいで、お父さんに勇気が湧いちゃって、ビフを殴り倒しちゃったんです。それで2人の力関係が逆転したんですよ。
マーティは未来に帰れましたけど、世界は全く変わっていました。
映画を見て、ぼくは2つ思うことがあってですね。1つは、自信がついて、リッチになったお父さんが築いたマクフライ家の思い出がマーティには無くて、みんなと話が合わないの、とっても寂しくないのかなってことです。結婚式とか、思い出を振り返る機会ってあるじゃないですか。そういうとき、自分が幼い頃の出来事を他の人と楽しく話せないの、ひとりぼっちに感じて嫌になるんじゃないかなーって、想像できます。
今回のぼくらの旅で思いましたけど、マーティは家族に、タイムトラベルのことを正直に打ち明けるんじゃないかなって推測できそうなんですよ。それで理解者が得られて、孤独は感じなくなる。家族愛っていう確かな絆がありますから、ジョージとロレインは絶対、マーティを嘘つき呼ばわりしませんよ。
そうなれば、安心して、白紙の未来に踏み出す勇気が出ます。過去は過去として。自分が作ったルートでの人生を、大切な人たちと生きていけるはずです。自分が普通と違っていても、それをわかってくれる人がいて、その人に愛してもらえるなら、未来はいつでも明るいです。
だったら、大切な人とのお別れの時が来ても、もう語り合える新しい思い出がたくさんできてるでしょうから、繋がりは残り続けますよ。ちゃんと、その世界の一部になれてます。だから、このままで大丈夫って思えます」
「…、お前も、ここにいるんだな」
「…、はい😊」
夜の静かな空気を吸う。
「で?2つ目は何だ?」
「2つ目は、ドクのことです。マーティは未来に帰れるように、次元転移装置のアイデアをひらめいたばかりのドクに助けを求めました。最初ドクは嫌がりましたが、実際にタイムマシンを見て、マーティを信じるようになりました。協力することにするんですよ。で、計画通りに1955年から1985年に送り届けるんです。
そこからですよ。これもまた本編には出てきませんが、気になるんですよね。マーティと過ごした1955年のドクは、未来が変わったことを予測しました。それがマーティにとって良いことだと、思ったかどうかわかりませんが、そう思ったから、タイムマシンを作ると決めたんでしょうね。もちろん自分の好奇心もあるんでしょうけど。
タイムマシンを作りながらドクはきっと、いつも1955年の11月の出来事を思っていたはずです。そして、マーティと再会できる日を、ずっと楽しみに待っていたでしょう。ぼくの勝手な希望ですけど、10才にもなってないチビマーティで会ってほしいです(笑)
すっごい嬉しかったろうな。うぅ、想像しただけでも、ぼく泣けます」
「マジで泣くなよ」
「ははっ」
「まぁ、そんだけ期間空いてりゃ、泣くほど嬉しいだろうよ。それに比べて俺がお前を待ってたのは、たかが1日2日だからな。そこまで……」
「……😠」
「嬉しいぜぇ〜‼️」
両手で顔を覆い、泣いて喜ぶの図。
「うそっ‼️‼️笑ってんじゃないすか‼️」
「バレたか?あっははは‼️」
いないいないばして現れた顔に伝わる涙は、1滴も見あたらない。
「お前が俺の分まで泣いたから、良いじゃねぇか」
「むぅ。あーあ、ぼくの帰りを何年も待ってくれてた人がいてくれたら、もっと感動的で、すっごいことしたんだなーって思えるのになー」
「何だよ、それ」
「あら、あたしは待っていたけど?」
不貞腐れて仰向けで寝転ぶなつみの顔を、間近で見下ろす女性が突然そこに現れた。
「ぁわッ‼️⁉️」「なッ⁉️」
「ふふっ😊」
「あわぁーーーッ‼️‼️オバケェーーーッ‼️‼️」
チーン👼
気絶のなつみ。それを見て、口元に手を当ててクスクス笑う彼女。
「都……、どうして」
「…、あたしには泣いてくれるんだ、海燕」
海燕が抱き寄せる腕は、その身体をすり抜けた。
「都ッ…」
「泣かないでよ。この子が起きたら、ガッカリしちゃうでしょ」
彼女は、遠いあの日に命を落とした、海燕にとっての最愛の人。何故かこのタイミングで、幽霊となって彼の前に現れた。幸せそうに笑っている。
「ご苦労様でした、2人とも」
そちらも触れられないが、思わず、都も夫の頬に手を伸ばした。
「ありがとう。生きることを選んでくれて」
「こいつに生かされたんだよ」
「それだけじゃないって。あなたも頑張ってくれたもの」
倒れているなつみ、その左に海燕、その左に都は座った。
「お前は、向こうで寂しくないのか?」
「ふふっ、向こうがどこかも知らないで。大丈夫。この子がとっても面白い子だから、退屈しないわ。あなたの活躍も、しっかり見られたし」
なつみといたということは。
「まさか、ずっと木之本の外套にいたのか?」
「ふふっ。んー、そうね、そうと言えば、そうなんだけど。聞きたい?あたしがどうしてたか」
「ああ」
「じゃあ、話してあげるから、その間に泣き止んでてね」
「うるせぇ。かまうな」
「ふふふっ。あたしが死んだ日のこと、覚えてる?隊舎に帰れたのが上半身だけだったの」
「……」
「泣かないでよ。ごめん。それでね、あたしの核も上だけだったけど、しばらく海燕についていくことができたの。敵討ち、かっこよかった。
あたしね、海燕があの時、朽木に刺されて死ぬところも見ているの。時間をかけて、あの子が、その深い傷を受け入れて、成長していくのも知ってる。そんな運命もあったけど、やっぱり、海燕にはまだ生きていてほしいから、なつみちゃんのいる方に進むことにしたの。
初めは、背中を押されるままこの子についていったんだけど、その後からは、いつも会いに来てくれるのを楽しみに待っていたわ。この子の顔見ると、ほっとするもん。わかるでしょ?
なつみちゃんが、あたしたちみんなを包んでくれたおかげで、自分の身体を取り戻すことができたの。あなたも覚えてるでしょ。あたし1人で残っちゃって。なつみちゃんと一緒に未来へ帰ったんだけど、途中ではぐれちゃったのよね。気付いたら、神社の御神木にいて、ゆっくり過ごしてたわ。安らかに眠るって、よく言うわよ。
どれだけ月日が過ぎたかも数えられなくなった頃、なつみちゃんが糸を持ってやって来たの。虚に優しい方法で昇華できる道具を作りたいから、協力してほしいって。こんな死神、他にいないわ。新しい風をまとった、風変わりなかわいい子。強く、あたしたちを引きつけて、笑顔の未来に導いてくれる。この子の世界は、とっても居心地が良いの。
なつみちゃんと過去に戻って、あたしはまた見てた。運命が変わるあの瞬間を。疲れちゃって、諦めそうになってたから、『もう少し頑張って』って応援しながらね。
一昨日の大作戦も見てた。浮竹隊長と朽木の想いに応えなきゃダメだからね?わかってる?なつみちゃんがここにいてくれる限り、貪欲に生きてよ。死んだって、こっちでできるのはなつみちゃんを驚かせるくらいなんだから、っていうのは冗談だけど。ほんとに、生きなきゃダメ。あなたには、やってほしいことがあるし。今は言えないけどね」
都はそっと海燕の肩にもたれかかった。きゅっと締め付けられる心。海燕はあの頃の感触を見つけ出す思いで、亡き妻に寄り添った。
「ねぇ、なつみちゃんのこと、そろそろ起こしてあげたら?こんなところで寝てたら、風邪ひいちゃう」
白目をむいて気絶中のなつみ。
「そうだな」
海燕が揺すって起こすことにする。
「おい、木之本起きろ。風邪ひくぞ」
これのおかげで目が覚めた。ギャバッ‼️
「ぶわぁッ‼️オバケ‼️オバケ‼️」
キョロキョロと確認。
「あのな、俺の嫁をそんな」
「ふぅー、よかった。いなくなってる」
都の姿は消えていた。
「はっ…、はっ…、ぶえッくしょんッ‼️🤧💦」
「なんつーくしゃみだよ😑」
「ふぃー、さむーい。ちょっと持っててください」
ウクレレを渡すと、マントを肩から外し、腕を伸ばして広げた。
「今から魔法をご覧に入れましょう。アブラセアブラ!」
バサッ
「なんだよ、そのこってりな呪文は」
「今のひと振りで、あれまなんと、ビッグサイズなブランケットに早変わりぃ〜」
海燕の肩にかけてあげ、自分も並んでブランケットの内側に入った。
「あったかいですねー。ウクレレ、ありがとうございまーす」
「おう」
探した感触が、そこに、ほのかにあったようだ。海燕は優しく微笑んだ。
そしてふと、ブランケットの端に文字が刺繍されているのに気付いた。
「まもる?」
「🙂❓あー、刺繍のことですか」
「これ、護さんのか」
「違いますー!」
「お前、本当の名前が護さん」
「だっ、😠」
「睨むなよ。冗談だ」
「無地だと寂しいから、飾りで入れただけです。心を込めて、ひと針ずつ。『みんなを護れる力が欲しいです』って縫いました。画数がなかなかだから、意外と大変でしたよ」
「へぇー。いや、上手くできてると思うぞ」
「ふふんっ、ありがとうございます。あのですね、『護』は守る以外に意味があってですね。
ローマ字で”go”じゃないですか。英語読みすると、『ゴー』ですよ。『行く』『進む』って意味です。そう思うと、『守護』の『守』より、『護』の方が、前向きですよね。ゴーゴー✊」
「なら、横棒付けろよ」
「…、それだと『護一』で、余計に人の名前っぽいじゃないですか😑」
「良いじゃねぇーか。護一さん。あ!じゃあ、逆にして一護。かわいいだろ」
「『じゃあ』の意味がわかりませんよ。『じゃあ』の。かわいけりゃ良いって問題でもないですし。良いんです!『護』で!そんなに気に入ったなら、ご自分のお子さんに、その名前付けてあげてください」
「は?俺にそんな予定は無ぇよ。大体、ウチの家の決まりに反する。そうだな、あるとすりゃ、俺の親戚の家系で漢数字の『一』を息子に付ける人たちがいるから、あいつなら『一護』でも良いかもな。ま、どこで何してっか知らねぇが」
「ふーん…。なんかあったんですか?」
「知らねぇか?志波一心って、元十番隊隊長」
「隊長⁉︎結構前ですか」
「そうだな。現世に行ったっきり、帰ってきてねぇんだ」
「只事じゃないですね」
「まぁな。だが、志波家ってのは、自分の正義を最優先にする一族なんだ。たぶん、俺はあいつを責められやしねぇよ。どこであろうが、元気でやってんなら、そんで良い」
「そんなもんですかね。隊長されていたんでしょう?ご隠居だなんて、もったいないです」
「そうだな。んなこたそう無ぇだろうが、こっちがピンチになったら、手を貸してくれんじゃねぇか?そういう奴だ」
「一護くんとですね!」
「一護は今適当に言ってただけだろうが」
「いいえ!もう、一護くんったら、一護くんです!一護くんが助けに来てくれます!」
「お前がそう言うと、本当になっちまうからな……」
「なれば良いじゃないですか」
「まぁ、な」
「一護くんが一護くんって、ひと目でわかるような子だと良いですね。髪の毛真っ赤っかとか」
「真っ赤は阿散井ってのがいるぞ。朽木のダチの」
「ならダメですね。カブっちゃう。…、自然な髪色で変わった色って、何ですか」
「知らねぇよ‼️(笑)」
「ちょっと考えますわ」
「いいか、お前の子じゃねぇぞ」
「ひひひひひッ、ごもっとも❗️」
ブランケットの中は、とてもぽかぽかとして、ふたりの頬を赤く染めるほどだった。ここは彼らだけの世界?いやいや、みんなにも、ふたりの楽しげな笑い声は聞こえていた。明日も良い日になりそうだと、そう思わせてくれるから、今は邪魔しないでおくことにしているのだ。
涙の水面の向こう側に
確かに君の姿を見た
思い出す
それは今は幻
それでも
記憶の中の君は本物だ
この肌を揺すらずとも
確かに君の声は響いている
遥かここに
後ろに置いてきた君に会うには
ただ前に進むしかないんだ
「落ち着いたか?」
頭を撫でてやる海燕。
「はい。すいません。つい嬉しくて、取り乱しました」
「わーってるよ。俺も、なんとかなって、ほっとしてっからよ」
上目遣いのなつみの口元は、にんまりしていた。
「志波副隊長、ぼく、お2人を置いてっちゃいましたけど、大丈夫でしたか?」
「あぁ。お前といるときほど、はちゃめちゃなことは起きなかったぜ」
「すいませんね、トラブルメーカーで」
「そんなこた言ってねぇだろって言うと、嘘になるが」
「はいはい」
「涅隊長が確実に、着実に、俺が生き延びて、お前が悲しまない未来に向かえるよう最善を尽くしてくれた。あの人はすげぇよ。(ちょっとやべぇことに巻き込まれたが。)やっぱ、隊長たちってすげぇんだって。何通りも、何手先も、考えた上で即座に行動している。かっけぇ…。俺もいつか、あんな風になれっかな」
なつみには、海燕がこうして未来を前向きに見てくれているのが、すごく嬉しかった。
「何だよ、ニヤニヤしやがって」
「ひひっ、なれますよ。そしたらクーちゃんが昇進できますし」
「そしたら浮竹隊長はどうなっちまうんだよ」
コツンと優しい拳骨。
「痛っ」
「縁起でもねぇこと言うなっ」
「わっかりましたよ‼️なれない、なれない❗️みんな現状維持‼️」
「あんだと、コノヤロー💪」
それはそれでいただけないので、なつみをとっ捕まえて、頭に拳骨をグリグリ食らわした。
「痛ぁいぃー‼️じゃあ、もぅもぅ、ぼく知らないですぅ‼️」
「よし、それでいい‼️」
解放。
なつみはへなへなとしたわけではないが、身体を倒して寝転がった。
「おい、気を付けろよ。落ちるぞ」
「だいじょうぶですよ〜」
ポロンと自然と添えていたコードで弦を鳴らす。
「志波副隊長は、『バックトゥザフューチャー』を知ってますか?」
「知らねぇな」
「映画なんですけどね。タイムスリップのお話なんです」
「俺らがしたみたいな?」
「1.21ジゴワットで次元転移してないんで、ちょっと違いますけど、過去を改変して、問題が起きちゃうのは似てますね」
「フーン。で、その映画がどうしたってんだよ」
「タイムマシンを作ったのはドクって博士なんですけど、タイムトラベル出発直前にテロリストに撃たれちゃうんです。で、主人公のマーティがタイムマシンに逃げ込んで、そのつもりはないのに、過去に飛んじゃったんです。両親の高校生時代にです。マーティは意図せず両親の出会いを邪魔して、結婚しない未来を作って、自分の存在を消すルートに舵を切っちゃって。おまけに燃料切れで未来に帰れないし。いろいろ大変なんですよ。
でも、なんやかんやあっても、両親はちゃんとカップルになって、タイムマシンも雷で動かせて、ハッピーエンドになったんです。ですが、やりすぎちゃってて。
マーティを育ててくれたお父さんは、乱暴で意地悪なビフって人に負けっぱなしで、弱虫なんですよ。なのに、過去にマーティが戻ったせいで、お父さんに勇気が湧いちゃって、ビフを殴り倒しちゃったんです。それで2人の力関係が逆転したんですよ。
マーティは未来に帰れましたけど、世界は全く変わっていました。
映画を見て、ぼくは2つ思うことがあってですね。1つは、自信がついて、リッチになったお父さんが築いたマクフライ家の思い出がマーティには無くて、みんなと話が合わないの、とっても寂しくないのかなってことです。結婚式とか、思い出を振り返る機会ってあるじゃないですか。そういうとき、自分が幼い頃の出来事を他の人と楽しく話せないの、ひとりぼっちに感じて嫌になるんじゃないかなーって、想像できます。
今回のぼくらの旅で思いましたけど、マーティは家族に、タイムトラベルのことを正直に打ち明けるんじゃないかなって推測できそうなんですよ。それで理解者が得られて、孤独は感じなくなる。家族愛っていう確かな絆がありますから、ジョージとロレインは絶対、マーティを嘘つき呼ばわりしませんよ。
そうなれば、安心して、白紙の未来に踏み出す勇気が出ます。過去は過去として。自分が作ったルートでの人生を、大切な人たちと生きていけるはずです。自分が普通と違っていても、それをわかってくれる人がいて、その人に愛してもらえるなら、未来はいつでも明るいです。
だったら、大切な人とのお別れの時が来ても、もう語り合える新しい思い出がたくさんできてるでしょうから、繋がりは残り続けますよ。ちゃんと、その世界の一部になれてます。だから、このままで大丈夫って思えます」
「…、お前も、ここにいるんだな」
「…、はい😊」
夜の静かな空気を吸う。
「で?2つ目は何だ?」
「2つ目は、ドクのことです。マーティは未来に帰れるように、次元転移装置のアイデアをひらめいたばかりのドクに助けを求めました。最初ドクは嫌がりましたが、実際にタイムマシンを見て、マーティを信じるようになりました。協力することにするんですよ。で、計画通りに1955年から1985年に送り届けるんです。
そこからですよ。これもまた本編には出てきませんが、気になるんですよね。マーティと過ごした1955年のドクは、未来が変わったことを予測しました。それがマーティにとって良いことだと、思ったかどうかわかりませんが、そう思ったから、タイムマシンを作ると決めたんでしょうね。もちろん自分の好奇心もあるんでしょうけど。
タイムマシンを作りながらドクはきっと、いつも1955年の11月の出来事を思っていたはずです。そして、マーティと再会できる日を、ずっと楽しみに待っていたでしょう。ぼくの勝手な希望ですけど、10才にもなってないチビマーティで会ってほしいです(笑)
すっごい嬉しかったろうな。うぅ、想像しただけでも、ぼく泣けます」
「マジで泣くなよ」
「ははっ」
「まぁ、そんだけ期間空いてりゃ、泣くほど嬉しいだろうよ。それに比べて俺がお前を待ってたのは、たかが1日2日だからな。そこまで……」
「……😠」
「嬉しいぜぇ〜‼️」
両手で顔を覆い、泣いて喜ぶの図。
「うそっ‼️‼️笑ってんじゃないすか‼️」
「バレたか?あっははは‼️」
いないいないばして現れた顔に伝わる涙は、1滴も見あたらない。
「お前が俺の分まで泣いたから、良いじゃねぇか」
「むぅ。あーあ、ぼくの帰りを何年も待ってくれてた人がいてくれたら、もっと感動的で、すっごいことしたんだなーって思えるのになー」
「何だよ、それ」
「あら、あたしは待っていたけど?」
不貞腐れて仰向けで寝転ぶなつみの顔を、間近で見下ろす女性が突然そこに現れた。
「ぁわッ‼️⁉️」「なッ⁉️」
「ふふっ😊」
「あわぁーーーッ‼️‼️オバケェーーーッ‼️‼️」
チーン👼
気絶のなつみ。それを見て、口元に手を当ててクスクス笑う彼女。
「都……、どうして」
「…、あたしには泣いてくれるんだ、海燕」
海燕が抱き寄せる腕は、その身体をすり抜けた。
「都ッ…」
「泣かないでよ。この子が起きたら、ガッカリしちゃうでしょ」
彼女は、遠いあの日に命を落とした、海燕にとっての最愛の人。何故かこのタイミングで、幽霊となって彼の前に現れた。幸せそうに笑っている。
「ご苦労様でした、2人とも」
そちらも触れられないが、思わず、都も夫の頬に手を伸ばした。
「ありがとう。生きることを選んでくれて」
「こいつに生かされたんだよ」
「それだけじゃないって。あなたも頑張ってくれたもの」
倒れているなつみ、その左に海燕、その左に都は座った。
「お前は、向こうで寂しくないのか?」
「ふふっ、向こうがどこかも知らないで。大丈夫。この子がとっても面白い子だから、退屈しないわ。あなたの活躍も、しっかり見られたし」
なつみといたということは。
「まさか、ずっと木之本の外套にいたのか?」
「ふふっ。んー、そうね、そうと言えば、そうなんだけど。聞きたい?あたしがどうしてたか」
「ああ」
「じゃあ、話してあげるから、その間に泣き止んでてね」
「うるせぇ。かまうな」
「ふふふっ。あたしが死んだ日のこと、覚えてる?隊舎に帰れたのが上半身だけだったの」
「……」
「泣かないでよ。ごめん。それでね、あたしの核も上だけだったけど、しばらく海燕についていくことができたの。敵討ち、かっこよかった。
あたしね、海燕があの時、朽木に刺されて死ぬところも見ているの。時間をかけて、あの子が、その深い傷を受け入れて、成長していくのも知ってる。そんな運命もあったけど、やっぱり、海燕にはまだ生きていてほしいから、なつみちゃんのいる方に進むことにしたの。
初めは、背中を押されるままこの子についていったんだけど、その後からは、いつも会いに来てくれるのを楽しみに待っていたわ。この子の顔見ると、ほっとするもん。わかるでしょ?
なつみちゃんが、あたしたちみんなを包んでくれたおかげで、自分の身体を取り戻すことができたの。あなたも覚えてるでしょ。あたし1人で残っちゃって。なつみちゃんと一緒に未来へ帰ったんだけど、途中ではぐれちゃったのよね。気付いたら、神社の御神木にいて、ゆっくり過ごしてたわ。安らかに眠るって、よく言うわよ。
どれだけ月日が過ぎたかも数えられなくなった頃、なつみちゃんが糸を持ってやって来たの。虚に優しい方法で昇華できる道具を作りたいから、協力してほしいって。こんな死神、他にいないわ。新しい風をまとった、風変わりなかわいい子。強く、あたしたちを引きつけて、笑顔の未来に導いてくれる。この子の世界は、とっても居心地が良いの。
なつみちゃんと過去に戻って、あたしはまた見てた。運命が変わるあの瞬間を。疲れちゃって、諦めそうになってたから、『もう少し頑張って』って応援しながらね。
一昨日の大作戦も見てた。浮竹隊長と朽木の想いに応えなきゃダメだからね?わかってる?なつみちゃんがここにいてくれる限り、貪欲に生きてよ。死んだって、こっちでできるのはなつみちゃんを驚かせるくらいなんだから、っていうのは冗談だけど。ほんとに、生きなきゃダメ。あなたには、やってほしいことがあるし。今は言えないけどね」
都はそっと海燕の肩にもたれかかった。きゅっと締め付けられる心。海燕はあの頃の感触を見つけ出す思いで、亡き妻に寄り添った。
「ねぇ、なつみちゃんのこと、そろそろ起こしてあげたら?こんなところで寝てたら、風邪ひいちゃう」
白目をむいて気絶中のなつみ。
「そうだな」
海燕が揺すって起こすことにする。
「おい、木之本起きろ。風邪ひくぞ」
これのおかげで目が覚めた。ギャバッ‼️
「ぶわぁッ‼️オバケ‼️オバケ‼️」
キョロキョロと確認。
「あのな、俺の嫁をそんな」
「ふぅー、よかった。いなくなってる」
都の姿は消えていた。
「はっ…、はっ…、ぶえッくしょんッ‼️🤧💦」
「なんつーくしゃみだよ😑」
「ふぃー、さむーい。ちょっと持っててください」
ウクレレを渡すと、マントを肩から外し、腕を伸ばして広げた。
「今から魔法をご覧に入れましょう。アブラセアブラ!」
バサッ
「なんだよ、そのこってりな呪文は」
「今のひと振りで、あれまなんと、ビッグサイズなブランケットに早変わりぃ〜」
海燕の肩にかけてあげ、自分も並んでブランケットの内側に入った。
「あったかいですねー。ウクレレ、ありがとうございまーす」
「おう」
探した感触が、そこに、ほのかにあったようだ。海燕は優しく微笑んだ。
そしてふと、ブランケットの端に文字が刺繍されているのに気付いた。
「まもる?」
「🙂❓あー、刺繍のことですか」
「これ、護さんのか」
「違いますー!」
「お前、本当の名前が護さん」
「だっ、😠」
「睨むなよ。冗談だ」
「無地だと寂しいから、飾りで入れただけです。心を込めて、ひと針ずつ。『みんなを護れる力が欲しいです』って縫いました。画数がなかなかだから、意外と大変でしたよ」
「へぇー。いや、上手くできてると思うぞ」
「ふふんっ、ありがとうございます。あのですね、『護』は守る以外に意味があってですね。
ローマ字で”go”じゃないですか。英語読みすると、『ゴー』ですよ。『行く』『進む』って意味です。そう思うと、『守護』の『守』より、『護』の方が、前向きですよね。ゴーゴー✊」
「なら、横棒付けろよ」
「…、それだと『護一』で、余計に人の名前っぽいじゃないですか😑」
「良いじゃねぇーか。護一さん。あ!じゃあ、逆にして一護。かわいいだろ」
「『じゃあ』の意味がわかりませんよ。『じゃあ』の。かわいけりゃ良いって問題でもないですし。良いんです!『護』で!そんなに気に入ったなら、ご自分のお子さんに、その名前付けてあげてください」
「は?俺にそんな予定は無ぇよ。大体、ウチの家の決まりに反する。そうだな、あるとすりゃ、俺の親戚の家系で漢数字の『一』を息子に付ける人たちがいるから、あいつなら『一護』でも良いかもな。ま、どこで何してっか知らねぇが」
「ふーん…。なんかあったんですか?」
「知らねぇか?志波一心って、元十番隊隊長」
「隊長⁉︎結構前ですか」
「そうだな。現世に行ったっきり、帰ってきてねぇんだ」
「只事じゃないですね」
「まぁな。だが、志波家ってのは、自分の正義を最優先にする一族なんだ。たぶん、俺はあいつを責められやしねぇよ。どこであろうが、元気でやってんなら、そんで良い」
「そんなもんですかね。隊長されていたんでしょう?ご隠居だなんて、もったいないです」
「そうだな。んなこたそう無ぇだろうが、こっちがピンチになったら、手を貸してくれんじゃねぇか?そういう奴だ」
「一護くんとですね!」
「一護は今適当に言ってただけだろうが」
「いいえ!もう、一護くんったら、一護くんです!一護くんが助けに来てくれます!」
「お前がそう言うと、本当になっちまうからな……」
「なれば良いじゃないですか」
「まぁ、な」
「一護くんが一護くんって、ひと目でわかるような子だと良いですね。髪の毛真っ赤っかとか」
「真っ赤は阿散井ってのがいるぞ。朽木のダチの」
「ならダメですね。カブっちゃう。…、自然な髪色で変わった色って、何ですか」
「知らねぇよ‼️(笑)」
「ちょっと考えますわ」
「いいか、お前の子じゃねぇぞ」
「ひひひひひッ、ごもっとも❗️」
ブランケットの中は、とてもぽかぽかとして、ふたりの頬を赤く染めるほどだった。ここは彼らだけの世界?いやいや、みんなにも、ふたりの楽しげな笑い声は聞こえていた。明日も良い日になりそうだと、そう思わせてくれるから、今は邪魔しないでおくことにしているのだ。
涙の水面の向こう側に
確かに君の姿を見た
思い出す
それは今は幻
それでも
記憶の中の君は本物だ
この肌を揺すらずとも
確かに君の声は響いている
遥かここに
後ろに置いてきた君に会うには
ただ前に進むしかないんだ